ロシアの北都 サンクトペテルブルク紀行

2005年秋から留学する、ロシアのサンクトペテルブルク(旧レニングラード)での毎日を記します。

生きている言葉

2006-02-18 23:02:19 | Weblog
2006年02月17日
ロシア滞在通算159日目
【今日の写真:5000ルーブル札発行を報じる記事。17日付の"metro"より。(本文最後の【ペテルブルク時事単語ノート 3】を参照。)】

今日の主な動き
09:15 出かける
09:20 マヤコフスカヤ駅
  メトロ マヤコフスカヤ(09:27)→バシレオストラフスカヤ(09:35)
09:49 学校
13:15頃 オリヤ先生の家
15:04 1番通りのバス停
  147番のバス 1番通り(15:04)→カザン聖堂前(15:22)
15:25頃 日本センター
18:10 ネフスキー通り駅
  メトロ ガスティニードヴォル(18:17)→マヤコフスカヤ(18:20)
18:20 帰宅

 オリヤ先生との個人レッスン、今日はいろいろな数字、単位の言い方などを教えてもらった。面積や人口などの数字は新聞や図表などによく出てくるが、これまではなんとなく適当に読んでいた。例えば32,444㎡という数字が新聞に出てきた場合、読み方が分からなくても意味は分かる。しかし読み方が分からないと会話で話すことができないうえ、テレビやラジオで聞き取れない。
 英語のように単位の表現を1つ覚えればあとは単数形か複数形の2通りしか変化がない言語と違い、ロシア語は数字によって形容詞、名詞の数、格が変化するから、覚える際にはその辺りのことにも十分気をつけなければならない。今回大きな数字や、面積、体積などの単位をまとめて教えてもらえたことは、かなり役に立ちそうだ。ちなみに、例に挙げた32,444㎡は、”тридцать две тысячи четыреста сорок четыре квадрадных метра”と読む。

 面積や体積は分かったが、コンピューター関係の用語、例えばMBやピクセルはどのように表現するのだろうか。そのことを質問してみると、B(バイト)という単位は1の後はбайт、2、3、4の後はбайтаになるとのこと。ここまでは原則通りだが、5以上の個数詞と結びつく場合は複数生格のбайтовではなくなぜか単数主格のбайтになるのだという。
 さらに、画素数の単位であるピクセルは、1メガピクセルならば”1 мегапиксель”、2,3,4メガピクセルならば”2,3,4 мегапиксели”、5以上ならば”5 мегапикселей”と変化し、本来単数生格になるはずの2,3,4の後ろに続くのが複数主格なのだそうだ。先生によると、コンピューター関連の単語は外来語で、まだロシア語になって日が浅いため、名詞の変化が正確に定められていない。そのため、今日先生が紹介してくれた「バイト」や「メガピクセル」といった名詞の変化は、あくまで通常使われている形なのだという。1と単数主格、2,3,4と単数生格、5以上と複数生格が結合するという原則は、特に新しい単語に関しては必ずしも貫徹されていないようで、学習者にとっては大変頭が痛いことである。

 実際に使われているロシア語が文法の原則に反する例は他にもあるそうで、そのうちいくつかを先生は紹介してくれた。例えばコーヒー”кофе”という単語はかつて男性名詞だったが、口語で中性名詞として使われることが多くなり、2,3年前に中性名詞としての使用が公式に認められるようになったのだそうだ。「公式に」ということは、学校のテストで中性名詞として用いても可ということ。ロシア語の文法を定める機関があり、その機関が各地で使われているロシア語の実態を調査し、10年ごとに文法を見直すのだという。この機関が認めたことが「公式な」文法となる。
 他に文法上誤って使われているロシア語としては、男性名詞であるカーテン用の網布(チュール)”тюль”が多くの人に女性名詞と思われている例があるらしい。先生に、ホストファミリーに聞いてみたら良いと言われた。 

 帰り際、今行われているトリノオリンピックの話になった。中国のフィギュアスケートやカナダのホッケーが強い理由について、オリヤ先生は、「ロシア人のコーチを高い金で雇って指導を受けているからだ」と指摘。中国のフィギュアスケートがあれだけ上位に入賞できた理由はロシアの真似をしたからで、彼らは人の真似をする能力しか持っていないと嘆いていた。そのことを私は知らなかったが、先生の話が間違っていなければフィギュアスケートの上位5位はロシアが独占したも同然というわけだ。
 賃金が安いためロシアから優秀な人材が流出するのは残念だが、それをいいことに高い金で釣り上げるというのも、悪とまでは言わないが何ともえげつないやり方だ。それでもロシアは16日現在で金4つ、銀3つ、銅2つの計9個のメダルを獲得している。メダルの数だけでは全体の活躍を評価できないことは十分承知しているが、一つの判断材料とするならば、やはりロシアの活躍には目を見張るものがある。金で人を釣るようなせこい国は、真の実力を持つ国にはかなわないはず。ロシアには、是非そのことを見せつけて欲しいものだと大いに期待している。

 夕食の際、早速ナジェージュダに、今日先生から聞いたことを話してみた。するとやはりコーヒー”кофе”は”оно”すなわち中性名詞、チュール”тюль”は”она”すなわち女性名詞だという。「多くの人が使っている」と先生が指摘したとおりの答えが返ってきた。
 文法上”тюль”は男性名詞だということを話したが、彼女は「いや、”тюль”は”она”だ」と言って頑として譲らない。ロシア人に「辞書には男性名詞と書いてあるから、それは間違いだ」などと説教するつもりは毛頭なかったが、ここまで”тюль”を女性名詞だと信じていることに、正直驚いた。
 彼女はこう続けた。「何が男性名詞、中性名詞、女性名詞かなんていちいち気にしていないが、話す時苦労することはない。でも間違ったロシア語を使われればそれが間違いだと言うことは分かる。例えば(”и”にアクセントがある)звонитьという動詞を”о”にアクセントをつけて発音する人がいるが、そんな言葉はないわけで、これは間違いだ。」
 ネイティブスピーカーが文法を気にしないで話せるというのはもっともなことだ。時々文法上おかしな言葉を使う人がいれば、それを不自然に思うという気持ちも大変良く分かる。日本語で言えばいわゆる「ら抜き言葉」なんかがこれに該当する。ら抜き言葉を使う人はかなりいるが、これを不自然に思う人とそうでない人の両方いることを思えば理解に難くない。
 
 文法はあくまで文法。今日先生やナジェージュダの話を聞いて、使われているうちに、かえって文法の原則のほうが不自然にみえるという言葉や語法があるということを知った。言葉は生き物で、常に変化しているのだということを感じた。そういった変化は、今日オリヤ先生が話していた、文法を定める機関によってやがては公式に認められていくものなのだろう。
 思えば、あらゆる場面で矛盾や、およそ理解不能なことが発生するこのロシアにあって、言葉だけが文法通りきっちり使われているなどと考える方がおかしい。私達外国人は、文法はもちろんのこと、実際に話されている言葉も念頭に置いてロシア語を学ばなければならない。文法的に誤っている言葉に出くわせば非常に困惑するに違いないが、それもロシア語の面白いところだと思えば良い。

 ナジェージュダから、コーヒーは中性名詞として使っていると聞いたことは既に述べたが、実はこの話には続きがある。「ブラックコーヒー」と言う際は形容詞を中性形の”чёрное”にせず男性形の”чёрный”を使うというのだ。そのことを大まじめに説明するので、その矛盾に思わず笑ってしまった。ロシア語は実に楽しい言語だ。 
 
【ペテルブルク時事単語ノート 3】
今日は17日付の新聞"metro"から。

”На купюре в 5000 будет Хабаровск”
「5000ルーブル紙幣にハバロフスク」

◎単語
9 купюра〔ж〕紙幣の表記価格

 ロシアの紙幣はこれまで1000ルーブル札が最高額だったが、今年中に、新たに5000ルーブル札が発行されるそうで、その紙幣にはハバロフスクが登場する。日本の紙幣に人物が載るのと同じように、ロシアの紙幣には両面に主な都市の図柄が掲載される。10ルーブル札にはクラスノヤルスク、50ルーブル札にはペテルブルク、100ルーブル札にはモスクワ、500ルーブル札にはアルハンゲリスクのデザインがあるが、極東の都市が紙幣に載るのはハバロフスクが初めて。これを機にペテルブルクからはるか遠い極東への関心が高まるか。それにしても、5000ルーブルとなるとかなりの高額。庶民がそう頻繁にやりとりする紙幣にはならないことであろう。


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