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マッキントッシュよ、安らかに眠れ

2010-06-11 | clipping
ニューズウィーク日本版|マッキントッシュよ、安らかに眠れRIP,Macintosh|ジョブズCEOは世界開発者会議でパソコン「マック」の話題にまったく触れなかった。もはやアップルの未来にとって必要ないのだ 2010年06月10日(木)16時12分 ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)
http://newsweekjapan.jp/stories/business/2010/06/post-1353.php?page=1


 親愛なるマック様

 こんな話をするのは辛いが、君自身ももう気づいているのではないだろうか。気の利いた言い方が思いつかないから単刀直入に言おう。君はもうおしまいだ。

 ごめんよ。こんなことを言えば君が傷つくのは分かっている。それでも真実には正面から向き合うべきなんだ。アップルのスティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)は君との関係に終止符を打った。それも6月7日のアップル世界開発者会議(WWDC)の席で。

 スティーブが何を言ったか知りたい? 彼はタブレット型端末iPadや電子書籍アプリiBooksやゲームソフトについて語った。それから新型の iPhone4のことを。

 新しい携帯電話向けOS(基本ソフト)についても延々と語った。これまでiPhone OSと呼ばれてきたものだが名前を変え、今後は「iOS4」と呼ぶんだそうだ。

 だがただ一つ、スティーブが多くを語らなかったことがある。君のことだ。実を言うと、彼は君についてまったく触れなかった。こんなことは初めてだ。

 WWDCでマックの話題が全く出なかったことなどどうでもいいという人も、いまだにマックをネタにした商売(マック専門誌とかマック専門の展示会とか)をやろうとしている人も、そのどちらでもない人も、みんな聞いてくれ。

 マックはもはや、アップルの未来の中心にはない。マックで商売をしている人々よ、君たちはお払い箱になったんだ。

■マックを上回るiPadの売れ行き

 アップルにとっての未来とはiPhoneやiPadであり、それらを機能させるためのOS――つまり魅力的なiOS4だ。最近のスティーブの関心のほとんどもこちらに向いている。

 スティーブ自身、あるソフトウエア開発者の問い合わせに対してメールでこう答えている。

私たちは今年、主に(それだけというわけではないが)iPhone OSに集中している。来年はもしかするとマックに集中するかもしれない。これは通常のサイクルだ。隠された意味なんてない。


 ちょっとしたヒントがここにある。スティーブが「隠された意味なんてない」と言ったのは、つまり「おいおい負け犬君、そんなの分かりきってることだろう?」ということなのだ。

 確かにアップルはマックを切ったりはしないだろう。だが、iPadや未来の携帯端末がマックに取って代わる存在になれるよう、iOS4の機能向上に力を入れていくだろう。

 アップルはこれまでも、あえて既存のiPodの売り上げを犠牲にしてまで安くて高機能な新型を市場に投入するといったことを繰り返してきた。同じことがここでも起きている。iOSを搭載した安価な携帯端末が、マックの市場を蹂躙しようとしているのだ。

 実際、一部のアナリストからはiPadの売れ行きは既にマックを上回っているという見方も出ている。

■iOSが持つ2つの利点

 かわいそうなマック。かつての恋人スティーブは君の元を去った。

 君が自分にどう言って聞かせているかは分かっている。スティーブは今、ちょっとおかしくなっているだけ。中年の危機を迎えているんだと。

 これは一時の気の迷いに過ぎず、しばらく新しくてステキな玩具で遊んだら、スティーブはあわてて戻ってくるはずだと君は思っている。UNIXスベースの強力なカーネルと、無駄のない直感的なユーザーインタフェースを備えた、使い勝手のいい昔なじみの自分のところに――。

 だがそうはならない。気の毒だが、古きを捨て去り新しきを取り入れることは昔からスティーブの得意技だ。たとえそれが残酷で無情な行為であり、他人を傷つけることになるとしてもだ。

 マック、君だってそんなことは分かってるだろう? それがスティーブの魅力だと昔は思っていたんじゃないか?

「自分にはiOSにはできないいろんなことができるのに」と君は嘆いているね。iOSなんて、これまでマルチタスクさえできなかったくせに。フン、私にないどんな機能があるって言うの? と。

 見方によってはiOSにあってMacにない機能はそれほどない。ある意味、iOS4はマックOSのサブセットに過ぎないと言えるだろう。だがスティーブの見方では、iOSはマックにはない大きな2つの利点を持っている。

■昔のジョブズはもういない

 まず1つ目は、iOS4上でどのアプリケーションソフトを走らせるかを、アップルが文字通り選別することができるという点だ。同社のアップストアで公開するための審査を通して、アップルは完全な支配権を手に入れた。スティーブの支配欲は君も知っての通りだ。

 iPhone向けアプリはアップストアでしか販売できない。売り上げの30%はアップルの懐に入る。

 2つ目は、iOS4を搭載した携帯端末向けに始まる広告配信事業だ。マック、君は広告とは無縁だった。その点こそ、君の一番ステキなところだとスティーブも常々言っていたのにね。

 スティーブは昔、パソコンに趣味の悪い広告がごちゃごちゃ表示されることなど誰も望んでいないと説いていた。だが心変わりをしたらしい。iOS4 はまるで節操がないから、広告がうじゃうじゃ表示されること請け合いだ。

 それで? スティーブはこれが素晴らしいことだと思っている。実際、彼は仕掛け人の1人だ。自分自身で広告も作っている。おまけに売り上げの 40%はアップルのものになるという。

 そうだマック、君の言うとおりだ。スティーブは変わった。もう昔のスティーブではない。昔から彼はこうだったのに、私たちが気づいていなかっただけかもしれないが。

 マック、君のことは本当に気の毒だと思っている。だが君とスティーブは一世を風靡したじゃないか。君はたくさんの人々にひらめきを与えた。そう、私にも。

 ありがとうマック。本当に君は素晴らしかった。