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新興ネットメディア 「フールー」「ハフィントン・ポスト」「グラム・メディア」

2010-06-18 | clipping
asahi.com|【ネット】伝統メディアの魅力を継承する新興ネットメディア 2009年2月10日 筆者 萩原雅之
http://www.asahi.com/digital/mediareport/TKY200902090130.html


 ネット業界では今年、斬新なサイト設計と高品質コンテンツで成功を収めている米国の新興メディアに注目が集まろう。特に米4大ネットワークのNBCとFOXが共同運営する動画配信サイト「フールー(Hulu)」、政治ブログから新聞社サイトに匹敵する存在になった「ハフィントン・ポスト(The Huffington Post)」、女性向けコンテンツを束ねた「グラム・メディア(Glam Media)」はぜひ知っておくべきだ。

 フールーは昨年3月に開設されたばかりだが、米国で最も成功した動画配信サイトとされる。視聴は無料、広告収入による運営だ。ネットによる動画視聴時間は増え続けており、テレビ番組や映画などプレミアム・コンテンツ配信は、日米ともに市場拡大が期待できる分野である。

 ケーブル局や映画配給会社をパートナーとし、ヤフーやMSNなどのポータルにも開放するなどオープン化が最大の特徴だ。番組をブログやSNSで引用できる機能も実装するなどテレビ局配信サイトとしては思い切った手法で視聴者を集めた。テレビCMの素材を利用できる上、テレビに比べ注目率も高いので広告主の評判も高い。昨年末のフィナンシャル・タイムズの記事によれば、フールーの広告収入は今年、ユーチューブ(YouTube)を抜くと予測されている。

 日本の番組配信サービスは有料が多く、配信番組も一部に限られる。本誌昨年12月号の特集でも取り上げられた日本特有の権利処理の複雑さに加え、CM収入依存への懐疑やテレビ視聴離れへの懸念がある。ただ「第2日本テレビ」が無料化に踏み切ったように、民放局はいずれ広告収入モデルを模索することになろう。フールーはそのお手本となる。

 ハフィントン・ポストは、自らも「セレブ」として知られるアリアナ・ハフィントンさんが、その人脈を活用して著名人によるオピニオンを集めた政治ブログとして05年にスタート。その後、経済、ライフスタイル、ゴシップまでテーマを拡大し、新聞社サイトを上回る人気と影響力を持つようになった。事実記事は他のニュースサイトからアグリゲートしているが、米ニールセン・オンラインの視聴率データでも「新聞」カテゴリーに分類されている。

 虚実を書かれっぱなしだった著名人にとって、意見を表明する場ができたこと、それが従来メディアに引用され注目されるようになったことも、多くの寄稿が集まる理由だ。

 日本でもタレント・著名人がブログを書いているが、多くは身辺雑記的なものに留まる。社会問題に対する彼らの意見や感想がまとめて読めれば魅力的なメディアになると思う。ハフィントン・ポストの成功は、ニュース・サイトにおける意見(view)の力に改めて気づかされる。もっとも、多くの読者は何が書かれたかより、誰が書いたかに関心があるのかもしれない。

 グラム・メディアは06年に開設。自社で運営する「Glam」という女性サイトを中心に、垂直統合型と呼ばれる広告ネットワークを構築することで、数千万人にリーチする力を持つ。ファッションやビューティ、ライフスタイル、エンターテインメントなどの女性向けコンテンツを持つウェブサイトやブログをつなぎ、各広告枠に対して最適な広告が配信される。

 女性誌にあれほど広告を出しているラグジュアリーブランドがネット広告を出さないのは、ブランドイメージを維持できる高品質の媒体、コンテンツが少なく、単独サイトではリーチが十分でないからだ。グラム・メディアは高いクオリティのコンテンツを束ね、女性誌に広告を出す場合の手法をネットに持ち込んだものといえる。

 日本でのサービスも昨年11月に始まった。すでに人気女性誌を中心に多くのパートナーがネットワークへの参加を決めている。12月には小学館と日経BPの資本参加も受けた。低迷する雑誌広告を補完するため、出版社や既存の女性サイトが一緒になって新しい価値を生み出したいという時流にもうまくマッチしたようだ。

◆既存メディアは資産と技術を生かせ

 これらの新興メディアに共通するのは、美しくインパクトのあるサイトデザイン(写真)と、既存メディアとネットメディアとの「境界」に生まれたという点だ。新聞、テレビ、雑誌などには、長い年月にわたって維持されてきたコンテンツの見せ方に関するそれぞれの「かたち」があり、我々はそこに安心感や親しみを感じている。今回取り上げた3サイトはその魅力をうまく生かすことで人気を獲得したといえそうだ。

 新聞社や放送局、出版社にこそ、コンテンツ資産や高い編集技術を駆使した新しい挑戦を期待したい。(「ジャーナリズム」09年2月号掲載)

【記事に関連するサイト】

動画配信サイト「フールー(Hulu)」

http://www.hulu.com/

インターネット新聞「ハフィントン・ポスト(The Huffington Post)」

http://www.huffingtonpost.com/

女性向け広告メディア「グラム(Glam)」

http://www.glam.com/

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萩原雅之 はぎはら・まさし

ネットレイティングス株式会社代表取締役 社長。1961年宮崎県生まれ。84年東京大学教育学部卒業。 日経リサーチ、日本経済新聞ヨーロッパ 社(英国)、リクルートリサーチを経て、99年 10月より現職。

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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版|アメリカの急成長ニュースサイト「ハフィントン・ポスト」が成り立つ理由  公開日:2009/10/14 00:00
http://maglog.jp/utada/Article788453.html

 
7月に書いた原稿ですが、アップしていなかったので、公開します。

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注目株のニュースサイト「ハフィントン・ポスト」は、
そのサイトの性格も、また経済的にも、
創立者で編集主幹の女性に拠っている部分が大きいようだ。

●「私は新聞を殺さなかった、いいわね?」

 今回は、アメリカで急成長しているニュースサイト「ハフィン・ポスト」について取り上げることにしよう。

 調査会社のコンピートのデータによれば、ハフィントン・ポストの7月のユニーク・ユーザ数は660万人。
 CNNやニューヨークタイムズ、ヤフーなど大手メディアやポータルサイトを除いた単独の政治関係サイトのなかではハフィントン・ポストはトップだ。クリントン・スキャンダルをすっぱ抜いたことで有名なドラッジ・レポートは270万人なので、倍以上の開きでリードしている。大手テレビのCBSも上まわり、ワシントンポストの利用者数に近づいている。

 大統領選挙が終わると、アクセス数がガタッと減るのが政治サイトの宿命だ。
 昨年夏前には250万人の利用者だったが、選挙が近づいた9月、10月に一挙に530万人にまで増えた。しかし、選挙後の12月には466万に落ちた。けれども1月には648万人と、選挙終盤戦のピーク時よりも利用者数を増やしている。

 ハフィントン・ポストはいまや政治ニュースのサイトではないというのが、創立者で編集主幹のアリアナ・ハフィントンの見解だ。
 画面上部のメニューではトップページの次が政治ページだが、メディア、ビジネス、エンターテインメント、生活といったぐあいに並び、総合ニュースサイトのラインナップをそろえている。
 昨年には、シカゴのニュース・ページも作った。こうした地方のニュースページは今後増やしていくという。アメリカの新聞はほとんど地方紙であり、地方ページを作ればアメリカの新聞ビジネスともろに衝突する。

 ハフィントン・ポストは昨年、ロゴの下に「インターネット新聞」という文字を入れた。
 新聞が購読者数と広告の両面で急落し苦しんでいるさなか、新聞陣営に挑戦状をたたきつけたようにも見える。前年5月のインタヴューでは、自分たちはインターネット新聞をめざしているものの今のところまだそこまでには到っていないと謙虚に述べていた。しかし、ページもコンテンツも増やし、わずかの期間にそう名乗れる自信が出てきたのだろう。
 ハフィントン・ポストはベスト政治サイトとベストブログサイトということでウェブ大賞を受賞し、6月に授賞式があった。式で受賞者たちは、それぞれ5語のごく短いスピーチをすることになっている。新聞界の警戒感を感じとっているアリアナは、「私は新聞を殺さなかった、いいわね?」と言ったそうだ。殺さないという意味にも、まだ殺していないという意味にもとれそうだ。

●ハフィントン・ポストは金持ちの道楽?

「アリアナは少なくとも9つの人生を過ごしてきた」オンライン・マガジン「スレート」の創立者はそう言った。
 たしかにハフィントンのこの女性創立者は、次回詳しく書くように、ギリシャを16歳で出たのち、イギリスからアメリカへ渡り、師と仰ぐジャーナリストの恋人から石油会社の御曹司の妻へと転身、セレブの仲間入りを果たして幅広い交友関係を築いてきた。
 共和党保守派の夫がいたときにはその政治傾向にあわせ、離婚後はリベラル派に転じるという具合で政治的にも転身し、「コウモリ」とも見られかねない変遷をたどった。こうした遍歴が彼女の独特の政治スタンスを形作りもしている。

 2000年の大統領選挙は、ブッシュがゴアを破って政権に就いた。この年アリアナは、「影の党大会」を両党の党大会にぶつけて開いている。民主・共和両党を含めた政治家や市民活動家、俳優、その他有名人を組織し、大政党が正面から取り組んでいない問題があると、選挙資金改革、貧富の格差、麻薬の三つの問題に焦点をあてた。左右対立を超えたアメリカ政治の再編成を助けるのが自分とハフィントン・ポストの役割だと考えているようで、一昨年のインタヴューでも彼女はそう語っている。

 アリアナは、2003年にはカリフォルニア州知事選に出馬しようとした。
 しかし、支持が集まらず、最後まで闘えば、民主党候補者の足を引っ張るだけ、ということで降りた。このとき彼女が勝たせまいとした共和党候補者は、巨額の財政赤字に悩む現在の知事シュワルツネッガーである。

 アリアナは、マイケルとの結婚によってそうとうの資産を得たようだ。
 05年5月のハフィントン・ポスト設立も、「金持ちの社交界名士の道楽」と見る向きがあった。
 しかし、わずか数年で大手メディアのニュースサイトと肩を並べるまでの利用者数を獲得することに成功した。いまではそんなことを言う人はいないだろう。

●ハフィントン・ポストの値段は200億円?

 ニューヨークタイムズは昨年の春、ハフィントン・ポストは売りに出せば2億ドルになるという意見があると記事に書いた。
 金持ちのアリアナは、もともとカネがほしくてハフィントン・ポストを始めたわけではないので売る気はないようだが、2億ドルというのはそうとうに高い。「アドバータイジング・エイジ」誌のサイトは今年の始め、この数字は高すぎる、100分の1の200万ドルがいいところだろうと批判した。もっともこの記事では昨年1月から8月までの広告収入が30万2000ドルと見積もられていて、これはおそらく実際よりも一桁少ない。

 今年6月半ばのダウジョーンズ社のサイトの記事でアリアナは、自分たちの収入はほとんど広告収入だが、09年は昨年の倍の800万ドルになるだろうと言っている。この経済環境にもかかわらず、広告収入が倍になるというのはすごいが、まだ恒常的に黒字というわけではないともアリアナは付け加えている。

 ハフィントン・ポストは、もともとお金がかかる構造にはなっていない。
 一回しか投稿していない人も含めてブロガーはおそらく1000人ほどいると思うが、ほとんどのブロガーにはお金を払っていない。そのほかの記事も、ほかのニュースサイトのリンクが多い。こういったやり方には、新聞社ばかりか、ブログ・メディアの「ゴーカー」なども、これはぶったくりだと批判する記事を載せている。

 スタッフの数も、おそらく大手メディアより一桁は少ない。
 ウィキペディアには60人と書かれている。4月に見たときには43人となっていたのでだいぶん増えたようだが、記事を自前ですべてそろえるとなれば、とてもこの人数では無理だろう。
 しかし、一人あたり平均の諸経費と給料あわせて10万ドルとすると、60人で600万ドルが消えてしまう。800万ドルの収入があっても、膨大なアクセスを支える回線やサーバーなどそのほかの費用を考えれば十分な収入とはいえないだろう。
 少なくとも昨年春には彼女の家がロサンジェルスのオフィス(と寮?)になっていたようで、6人のスタッフがそこから仕事に出ていったとニューヨークタイムズは書いている。「金持ちマダム」の持ち出しがあってようやくここまでやってこれたというのが実情かもしれない。.
afterword
アリアナは6月に、わずか18か月しか経っていないCEOの首をすげ替えた。ソフトバンク・グループの投資会社のメンバーが新CEOになった。さらなる飛躍のためには、お金も新たなCEOも必要ということらしい。次回はアリアナの私生活について。.
関連サイト
●アリアナは、ハフィントン・ポストを立ち上げる以前、外国の石油に依存しないクルマをデトロイトの自動車会社に作らせる「デトロイト・プロジェクト」なる運動をやっている。サイトのトップページには、彼女の写真とコメントが載っている。(http://www.detroitproject.com/)。
●Competeによる5月までの1年間のワシントン・ポスト、ハフィントン・ポスト、ドラッジ・レポートのユニーク・ユーザー数の推移(上から)。(http://siteanalytics.compete.com/huffingtonpost.com+drudgereport.com+washingtonpost.com/).
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.590)