memorandum

web clipping+

郵政民営化と官僚の反動(おさらい)

2009-06-11 | clipping
News Spiral|西川追放で日本郵政は官僚勢力の食い物に?――鳩山邦夫“暴走”の背景 高野孟  2009年06月09日 14:16
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2009/06/


・・・
鳩山にかんぽの宿問題や中央郵便局の建て替え問題を吹き込んで、さらに西川再任反対で突っ張るよう促しているのは、そもそも郵政民営化に反感を持ち、しかしこうなってしまった以上は出来るだけ徹底的な改革を阻んで、日本郵政とその傘下の事業を支配下に置いて天下りや利権漁りの場として残しておきたいと思う旧郵政官僚の勢力である。その筆頭は、日本郵政の代表執行役副社長=團宏明である。

 彼は小泉が郵政大臣を務めた時の秘書課長で、小泉やその参謀=飯島勲秘書官に引き立てられてここまで上り詰めてきた人物だが、日本郵政内では反西川の急先鋒で、同社内では彼がポスト西川の社長の座を狙って様々な策謀をこらしていることはよく知られている。その背景には、現職の総務省官僚だけでなく、例えば旧「郵政互助会」(05年に郵政弘済会、郵政福祉協会と統合され現在は「(財)郵政福祉」)あたりに巣くっている官僚や労組のOBたちの、日本郵政を思い通りにしたいという思惑もうごめいていると言われている。

 ここ数日、永田町ではポスト西川の社長候補としてNTTの元役員の名前が取り沙汰されているが、事情通の解説によると、「西川の後にいきなり團では余りに露骨で、『官僚勢力の西川追い落とし』と言われるに決まっているから、旧郵政官僚にとって御しやすいNTT出身者を持ってきて、團を次の次に据えようというシナリオだろう」という。だとすればなおさら、鳩山邦夫は官僚勢力に踊らされて郵政民営化の骨抜きに協力しているだけということになる。もちろん彼には、このようによろず派手にパフォーマンスを演じることで、麻生首相との近すぎる距離を少し修正しつつ、ポスト麻生の有力候補として目立ちたいという政局思惑もあるに違いないが。・・・

====

INSIDER|No.479鳩山邦夫は旧郵政官僚の操り人形ではないのか?──「かんぽの宿」売却問題の怪しい背景 高野孟 2009年02月17日 22:07
http://www.the-journal.jp/contents/insider/2009/02/
insider_no479kanpo.html


・・・田中良紹がTHE JOURNAL2月7日付「かんぽの宿のイヤな感じ」で「鳩山総務大臣の個人の正義感だと思うほどおめでたい人間は政治の世界にはいないだろう。その意図が何かを突き止める事が先決である。総務省と日本郵政の内部にシナリオを書く者がいる。鳩山大臣はそれに振り付けられて躍っているだけだ」と述べている。実際に誰がシナリオを書いたのかについて証拠はないものの、旧郵政省の総務省官僚や旧郵便局の職員の中に、民営化そのものに激しい反感を抱き続ける者がいて、自民党内に昨秋発足した民営化反対=造反組を中心とする議員連盟「郵政研究会」とも連動してこの騒動を仕掛けたという推測は大いに成り立ちうる。

 昨年10月10日の郵政研究会の初会合では、最高顧問に就任した川崎二郎が「郵便局会社と郵便事業会社を本当に分ける必要があったのか。いつの間にか4つの会社に分かれたが、見直していいんじゃないか。株の持ち合いをきちんとしないと持たなくなるという議論もあった。合わせて検証していきたい」と挨拶、郵便局会社と郵便事業会社の一体的な経営の確保、日本郵政・ゆうちょ銀行・かんぽ生保の株式上場の“弾力化”(つまり政府が100%保有する株式を 2010年を目途に上場・売却する方針の凍結)と相互株式持ち合いによる連携強化などを求めていくことを決議した。彼らとて、今更郵便事業を国営に戻すことが出来るとは考えていないだろうが、4分社化を中心とする民営化スキームを大幅に修正して組織を再々編し事実上の官営事業として存続を図ろうとしているに違いない。

 これを受けて11月には自民党政務調査会が正式の党機関として「郵政民営化推進に関する検討・検証プロジェクトチーム」(座長=中谷元・元防衛庁長官)を発足させた。正式機関だけに、民営化推進派にも配慮してあくまで「民営化推進」の立場からの検討という形を採っているが、そこでの議論も4分社化の再検討を中心とする揺り戻し路線であることに変わりはない。

 実際に見直し内容を決定し首相に意見を述べるのは、郵政民営化法に定められた「郵政民営化委員会」(委員長=田中直毅・国際公共政策研究センター理事長)であり、田中はじめ5人の委員は言うまでもなく小泉・竹中が任命した人たちであって、自民党や総務省が何を言おうと受け付けない公算が大きい。そこで、かんぽの宿問題をスキャンダルに仕立てて西川善文日本郵政社長を叩き、あわよくば首を取る一方で、鳩山総務相と麻生首相を巻き込んで民営化推進の流れに歯止めをかけようとする陰謀シナリオが描かれたのだろう。

鳩山の主張の第1は「オリックスの宮内会長は規制改革会議の議長をやり、郵政民営化の議論もそこでなされた。そこに一括譲渡となると、国民が出来レースではないかと受け取る可能性がある」というにある。

 確かに宮内は規制緩和の急先鋒であり、その関連の政府審議会の長を10年以上にわたり歴任している。小泉・竹中時代には「総合規制改革会議」の議長だったが、オリックスの1月7日付プレスリリースによると、同会議でも、その04年3月廃止後に設けられ引き続き宮内が06年9月まで議長を務めた「規制改革・民間開放推進会議」でも、答申中に「郵政民営化」のテーマは出て来ていない。また竹中平蔵も1月19日付産経の「ポリシー・ウォッチ」で、「郵政民営化のプロセスに規制改革会議が関係したことはない。基本方針を決めたのは経済財政諮問会議であり、制度設計は内閣官房の準備室が行った。その際にいくつかの委員会も作られたが、宮内氏がそのメンバーになったことはなかった。同氏が郵政民営化にかかわったというのは、ほとんど言いがかりのようなものである」と述べている。

 竹中はさらに次のようにも言う。「より重要なのは、民間人が政策過程にかかわったからその資産売却などにかかわれない、という論理そのものに重大な問題があることだ。今や政策決定における民間人の役割は極めて大きなものになっている。経済財政諮問会議や各省の審議会・委員会にも民間人が関与する。しかし、いったん政策が決められたとして、それに関係する経済活動がその後できないとなると、民間人はだれも政府の委員会メンバーになどならなくなる。郵政民営化の枠組みを決めた諮問会議の民間議員は、郵政の株が売却される際、それを購入してはいけないのか…。これは、政策決定における民間人排除の論理に等しい」

 その通りで、宮内は広い意味の小泉・竹中人脈の一角には違いないが、直接に郵政民営化の議論に加わったわけではないし、仮に議論に加わっていたとしても事後的にこのような契約の当事者となるのは、公正な手続きを経てさえいれば何の問題もない。これがダメだと言うなら、例えば医師の診療報酬などを決める厚生労働省の審議会に初めから利害当事者である医師会代表が加わっているのはもってのほかだということになる。

 鳩山の言い分が罷り通れば、竹中が多用して成果を上げた、民間有識者を審議会等に入れてバンバンと提言ペーパーを繰り出して官僚の保守・保身を押さえ込むという手法が、最終的に息の根を止められる。官僚の思うつぼである。

 鳩山の主張の第2は「なぜ一括売却しなければならないのか」ということである。 一括については、そうするより仕方がなかったのではあるまいか。70施設のうち黒字なのは10程度と言われており、他はトントンか赤字で、07年度の日本郵政の赤字負担は40億円に上る。2012年9月末までに売却すると法で決められている中で、1件ずつ買い手を探しているのでは到底時間的に間に合わないし、しかも事業の継続と雇用の維持を条件にしている以上、黒字施設はすぐに売れても赤字施設には買い手が付かず、売却が難航することが予想される。だからこそ比較的優良な施設とそうでないものを抱き合わせにしてパッケージにし、一括して引き受けて貰う以外に方法がなかったのではないか。事業を廃止し雇用も放棄するのであれば、残った土地・建物を単なる不動産として売却するのだから、109億円よりだいぶ高く売れるかもしれないが、それでは、元々簡保加入者の保養・福祉施設だった時代からの愛用者の利益も従業員の生活も守ることが出来ない。鳩山は、これが事業譲渡であって不動産売却ではないということを理解していないように見える。

 鳩山の主張の第3は「土地取得代・建設費2400億円の70施設がなぜ109億円で売られるのか。少しでも高く売却出来るようにするのが私たちの務めだ」ということである。「2400億円で作ったものをたった100億円で?」という言い方も粗雑に過ぎていて、まさにこれを不動産売却と混同していることを示唆している。事業譲渡である以上、赤字施設の価値はゼロであって、それを作った積算費用がいくらであるかは関係ない。野党議員の中にも、「簡保は加入者はじめ国民の財産であり、それをこんな値段で…」などという者がいるが、それを言うなら、そもそも旧簡保がその国民の財産を2400億円も費消してほとんどが赤字の施設を100近くも作って簡保幹部の天下り先にしてきた、そのデタラメ経営の責任こそ改めて問うべきだろう。

 他方、109億円が高いか安いかというのはそれだけで計ることが出来ず、オリックスにせよどこにせよ引き受けた企業は、当分の間、年間40~50 億円の赤字の補填の他に恐らく数百億円を注ぎ込んで赤字施設の黒字転換を図らなければならないはずで、そこまで含めて是非を評価すべきである。・・・

 さて、このかんぽの宿問題は実のところ瑣末な話であって、郵政民営化を巡って今問い直さなければならない最大の問題は、日本最大の銀行(ギガバンク)となろうとしているゆうちょ銀行を日本の21世紀金融戦略の中でどう位置づけるのかということである。

 元々郵貯民営化の本質は、日本国民が明治から100年かかって築き上げてきた郵貯・簡保350兆円という世界最大の国営銀行にして日本最大の銀行を、旧大蔵官僚のやりたい放題の管理下から解き放って民間金融の体系に組み込むという、まさに「官から民へ」の世紀の大手術にあった。

 本誌がしばしば述べてきたように、旧大蔵省は発展途上国型の官僚主導の心臓部であった。「財政・金融一体」のスローガンの下、一方では税のほとんどを中央に吸い上げて省庁縦割りの予算として配分し、また郵貯・簡保を原資として財政投融資として旧公社・公団・財団などに注ぎ込み、あるいは国債を買わせ、他方では銀行はじめ証券・保険も含めた金融界を「護送船団方式」と呼ばれたほどに緊縛して右へ行け左へ行けと支配することを通じて、財政・金融両面から日本経済の血液たるマネーの循環の元栓を握ってきたことである。

 ところがその金融における政官業癒着の体制が、バブルの創出とその破裂を生み、不良債権問題という100年来最悪の金融スキャンダルを引き起こした。日本経済を10年以上にもわたって苦しめた不良債権問題の主犯は疑いもなく旧大蔵省のデタラメ金融行政にあったのであり、それに対する政治的な懲罰として、98年の金融庁の発足と旧大蔵省の看板引き下ろし=財務省への改編、そして日銀法の改正による介入権限の制限という革命的な改革の第一歩が踏み出されたのだった。ちなみに、これも本誌が前に書いたことだが、この時、最後の大蔵事務次官、最初の財務事務次官として「財政・金融分離」に徹底的に抵抗した筆頭が武藤敏郎であり、そんな人物を福田康夫前首相が日銀総裁に据えようとしたのは、98年の財金分離革命を台無しにする行為であって、野党がそれに反対して潰したのは当然だった。

 しかし不良債権の処理は長引いて、結局は小泉政権下で竹中が強権を用いてケリをつけた。そこで小泉・竹中コンビが間髪を入れずに着手したのが、郵政民営化だった。その意味するところは、金融の機能を奪われて半身になった財務省の徴税と予算、郵貯・簡保と財政投融資という2大財政機能のうち後者を同省から剥奪するにあった。350兆円が官僚とそのOBたちの食い物にされているのを放置するのでなく、民間金融の中で生き生きと自由に活用されるように大転換を図ることが出来れば、21世紀の日本経済は金融面から大いに元気を与えられることになる。これこそが、98年に続く革命的改革の第2弾となるはずだった。さらに付け加えれば、財務省のもう1つの重大な機能、すなわち徴税・予算の権限を剥奪するのが「地方分権」もしくは「地域主権国家への転換」で、これが革命的改革の第3弾となることが期待されている。

 革命的改革の第2弾を実現するためには、一方では、不良債権処理を終えた後の日本の金融のあり方について構図を描き上げ、他方では、これから民営化される郵貯・簡保をその中にどう位置づけるかの大議論を巻き起こすことが必要だった。ところが自民党内からは「郵便局の数が減ったら大変」とか「ハゲタカファンドに食い物にされたらどうするんだ」といった低次元極まりない反対論が高まって、議論は完全に本質から外れた方向に流れていって、挙げ句の果てに「民営化に賛成か反対か」という単純化された争点による郵政総選挙、刺客騒動となってしまった。

 その結果、今日もなお日本の金融の将来像は不明確なままで、一体ギガバンクを日本の金融体系の頂点に位置づけるのか、いや貸し出しも取り立ても運用もろくにやったことのないゆうちょ銀行を頂点に置くわけにいかないから3つのメガバンクの横か斜め上あたりに置くのか、それともかつて京都大学の教授たちが提言したように地域分割してローカル・バンキング(地銀、信金・信組)のバックアップをしながら「銀行とは何か」を学ぶようにするのか、何も定まっていない。これではせっかく民営化しても日本の金融に大元気をもたらすきっかけにはならい。・・・