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500ユーロ札とマフィア

2009-07-20 | clipping
フジサンケイビジネスアイ|Bloomberg GLOBAL FINANCE 企業に忍び寄る伊マフィア リセッションに乗じ資金源拡大 2009/6/10
http://robo.business-i.jp/news/bb-page/news/200906100081a.nwc


 活気あふれる青空市場とアラビア様式の建物で知られる、イタリア・シチリア州の州都パレルモ。この町でロベルト・スカルピナート検事(57)は、20年にわたりマフィアの資金源根絶を目指して闘っている。

 リセッション(景気後退)の影響で世界中の企業が減収減益を余儀なくされるなか、マフィアだけは潤沢な資金を背景に収益を上げ続けている。レバレッジを過度に高めたあげく、信用危機で大きな損失を出した企業とは異なり、彼らは無借金の現金主義を貫いているからだ。

 2008年以降、スカルピナート検事が押収したマフィアの資金は総額27億ユーロ(約3681億円)。スーパーマーケット王のジュゼッペ・グリゴーリ容疑者(59)を、マフィアの指揮下で食料品店などを経営していた容疑で逮捕した際には、12件の事業、220棟の建物、33区画の土地、全長25メートルのヨットを押収した。

 ◆年間収益1300億ユーロ

 しかしこれらは氷山の一角に過ぎない。マフィアの年間収益を1300億ユーロとする推算もある。民間調査機関エウリスペスによると、イタリアの三大マフィア組織の08年の利益は700億ユーロで、収益率は54%だった。ちなみに世界最大の株式公開会社エクソン・モービルの利益はその約半分の452億ドル(約4兆4400億円)だった。

 ナポリターノ伊大統領は先月、経営危機に陥っている企業をマフィアが買収し、地域社会に浸透する危険性があると警鐘を鳴らした。

 ベルルスコーニ首相も、今年4月にイタリア中部で起きた地震の復興工事では、マフィア系企業に発注しないと明言して称賛を得たが、マフィアとその資金の全容を把握するには至っていない。

 一方で国連薬物犯罪事務所のコスタ事務局長は、資金に枯渇したイタリアの銀行がマフィアの成長を助けている可能性があると指摘。スカルピナート検事が捜査した事件では、シチリアの食料品店経営の夫婦がマネーロンダリング(資金洗浄)した資金45万ユーロを、スイスにあるイタリア系銀行ウニクレディト・スイスに持ち込もうとしたことが明らかになった。

 イタリア銀行(中央銀行)は5月6日、各銀行がマネーロンダリング防止策を緩和したとして注意勧告を行った。さらに顧客の情報を収集、監視、分類する規制を導入する予定だ。

 マフィアの新たな資金源となっているのが個人や企業への高金利での貸し付けだ。反マフィア団体SOSインプレサによると、高金利融資は昨年17%成長し350億ユーロ規模となった。同団体の調べでは、合法の貸金業者から融資を断られた人が年率730%もの超高金利で融資を受けていたことが分かっている。

 あるホテル経営者の男性は銀行の貸し渋りにあったことがきっかけで、非合法の貸金業者から4万5000ユーロを借り、取り立て屋に追われているという。20年間、非合法貸金業者の訴追を行ってきたアルベルト・カペルナ検事は、近ごろのマフィアは取り立てにためらいなく暴力を行使するようになったと話す。この変化はボスの世代交代と関係があるかもしれない。

 マフィアがらみの事件を担当するピエトロ・グラッソ検事によると、90年代後半から正規の学校教育を受けた“若手”メンバーが組織を取り仕切るようになった。服役中のボス、ジュゼッペ・グッタダウロ(60)は外科医の資格を持っている。「ボス中のボス」と呼ばれ06年に逮捕されたベルナルド・プロベンツァーノ(76)が小学校2年までしか行っていないのとは対照的だ。

 新世代のボスのもと、イタリアの犯罪組織は資金源をコカイン取引に求めるようになった。南米に“駐在員”を置き、コカインを買い付けさせ、イタリアばかりかスペインやオランダの組織に送るというシステムが確立されている。

 米麻薬取締局で欧州・アフリカ地域を担当するラッセル・ベンソン氏は、09年の世界のコカイン市場は3200億ドル規模で、欧州の取引の大半をイタリアの組織が牛耳っていると説明した。同氏は「欧州諸国には大量のコカインが流入している。マフィアは金をもうけ、世界のビジネスに投資しようと必死だ」と話した。

 ◆世界経済の脅威に

 こうして手にした資金は、巧妙な迂回(うかい)ルートをたどって、金融市場に投資される。シチリア銀行のロベッロ会長は「そのうちマフィアが投資家のように銘柄の物色を始めるだろう」と話した。

 現金主義のマフィアに好まれるのが500ユーロ札だ。持ち運びが便利なのがその理由だという。100万ドルをすべて100ドル札で用意すると約10キロもの重さになるが、500ユーロ札だと約1.5キロですむ。前出の食料品店経営者による資金持ち出し事件でも、45万ユーロの半分がこの高額紙幣だった。

 一般の買い物には使いづらい500ユーロ札は流通量も少ない。この特徴がマフィアの資金の流れを追跡する手がかりになるとして、コロンビアやメキシコの麻薬捜査で注目されるようになった。

 スカルピナート検事は、500ユーロ札を追跡することで、イタリアの犯罪組織が世界経済に大きな脅威を与えていることがわかったと話し、リセッションの間にマフィアが新しい市場やビジネスを開拓し、財政的影響力を増すのではないかとの懸念を示した。「マフィアは過去のものではない。犯罪組織は新しい時代で主役を演じるまでに進化を遂げてきた」と同検事は言う。(Steve Scherer、Vernon Silver)