見水の俳句遊び
11月14日の日経新聞の文化面で、作家・北村薫さんの「かるた作り」の楽しさを書いたエッセイを見た。気に入った小説のフレーズなどを集めて、自分だけの「日本文学かるた」を作るのだという。読者にもお正月に向け、好きなジャンルで作ってみては、と提案している。
江戸時代の「いろはがるた」は、「犬も歩けば棒に当たる」「論より証拠」「花より団子」と、ことわざを並べている。
誰もが考えつきそうだが、俳句で作ればどうだろう。①49人の俳人から1句ずつ選ぶ、②著名俳人の句集から選ぶ、という方法がある。とりあえずは、生涯1000句を残した俳聖・松尾芭蕉の句集から選んでみようか、と、山本健吉「芭蕉全発句」(講談社学術文庫)を開いた。索引があるので、「いろは…」は埋まっていく。「た」は迷った。「旅人とわが名呼ばれん初しぐれ」「鷹一つ見つけてうれしいらご崎」「蛸壺やはかなき夢を夏の月」「田一枚植ゑて立去る柳かな」「旅に病で夢は枯野をかけ廻る」など名句が多い。どれを選ぶか。明石の魚の棚の明石焼きが目の前に浮かんで3番目を選んだ。「あ」や「さ」も同様。「れ」は上句に無いので下句で。「ん」は「うん」が無いので「蒟蒻」に。
い 石山の石にたばしるあられ哉
ろ 六月や峰に雲置くあらし山
は 初しぐれ猿も小蓑をほしげ也
に 似あはしや豆の粉めしにさくら狩り
ほ ほととぎす消え行く方や島一つ
へ 蛇くふときけばおそろし雉の声
と ともかくもならでや雪のかれお花
ち ちさはまだ青ばながらになすび汁
り 両の手に桃とさくらや草の餅
ぬ ぬれて行くや人もおかしき雨の萩
る 留主のまにあれたる神の落葉哉
を 荻の穂や頭をつかむ羅生門
わ 若葉して御めの雫ぬぐはばや
か かたつぶり角ふりわけよ須磨明石
よ 義仲の寝覚の山か月悲し
た 蛸壺やはかなき夢を夏の月
れ 瓜の皮むいたところや蓮台野
そ 其ままよ月もたのまじ伊吹山
つ 月さびよ明智が妻の咄しせむ
ね 葱白く洗ひたてたるさむさ哉
な 夏草や兵共がゆめの跡
ら 蘭の香やてふの翅にたき物す
む むめがかにのっと日の出る山路かな
う うきわれを淋しがらせよかんこどり
ゐ 猪もともに吹るる野分哉
の 野ざらしを心に風のしむ身かな
お おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉
く 草臥れて宿かる頃や藤の花
や 山路来て何やらゆかしすみれ草
ま 先ずたのむ椎の木も有り夏木立
け けふばかり人も年よれ初時雨
ふ 古池や蛙とびこむ水の音
こ 此道や行人なしに秋の暮
え 枝ぶりの日ごとにかはる芙蓉かな
て 寺にねて誠がほなる月見哉
あ 荒海や佐渡に横たふ天の河
さ 五月雨を集めて早し最上川
き 菊の香や奈良には古き仏達
ゆ 行春を近江の人と惜しみける
め 名月や北国日和定めなき
み 水無月や鯛はあれども塩くじら
し 閑さや岩にしみいる蝉の声
ゑ ゑびす講酢売に袴着せにけり
ひ 雲雀より空にやすらふ峠かな
も 物いへば唇寒し秋の風
せ せつかれて年忘するきげんかな
す 須磨寺やふかぬ笛きく木下やみ
ん 蒟蒻のさしみもすこし梅の花
京 京にても京なつかしやほととぎす
以上、下句が重ならないように選んだ。百人一首のように上句から詠みあげ、並べた下句の取札を取り合うかるた取りもできる。
山頭火や放哉なら面白いかとやりかけてみると、山頭火は語彙が少なく足で書いたような句が並ぶ。放哉は語彙は豊富だがシュールな句が多い。なるほど面白い発見だ。蕪村、一茶、鬼貫ならいい句が選べそう。
と、ここまできて、インターネットで「芭蕉かるた」を検索したら、出るわ出るわ、芭蕉、去来、蕪村、一茶のかるたが絵入りでゆかりの地の土産物などとして販売されている。俳句もかるたも日本人にはまだまだ人気が高い。どの句を選んだのだろうか。取り札は中七から書いている。夏井いつきさんがいっちょかんだ俳句かるたまである。
49人の俳人から1句ずつ選ぶアンソロジー作りも面白そうと思ったが、もう誰かが立派なのを完成させているだろう。RANDOM句会かるたか自選句かるたを作るしかないか。
(2021.11見水記)