未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第12章 ロング・ホームルーム ②

2021-06-22 15:43:55 | 未来記

2008-02-26

2.戦争をしないルール

 

久しぶりに見る、元気そうなクラスの様子をながめていたパールは、我を忘れて騒動を見守っていた。

 

ユウキ先生から、急に話をするように言われても、カイに何を言っていいのか、すぐに答えることができない。

 

キラシャが、そばで耳打ちをした。

 

「今まで、パールが話してたことを話せばいいんじゃない? 

 

うまく言えなかったら、あたしも助けるからね…」

 

キラシャは、パールの肩に優しく手をかけた。

 

「アリガトウ キラシャ…」

 

パールは、言葉に迷いながら話し始めた。

 

「カイ… キイテル?

 

ワタシ アナタ ト オナジ…。

 

アフカ カエリタイ。

 

パパ ママ キョウダイ アイタイ。

 

デモ イキテル ワカラナイ。

 

ワタシ イマ カエル。 ナニアル ワカラナイ。

 

ワタシ ト カイ オナジ。

 

ココノ ルール ビックリ。

 

アサ ハヤイ。

 

ショクジ ミンナ オナジ。

 

Mフォン シンセツ。

 

デモ チョット ウルサイ…」

 

学習ルームから、笑いが起こった。

 

「キラシャ イツモ イウ。

 

アンナ ルール ナイト イイノニ!

 

デモ アフカ・エリア イマモ カワラナイ。

 

ワタシノグループ ルール キメナイ。

 

コレ イケナイ。

 

アレ シナイ。ソレダケ…」

 

「パール、イケてる。その調子だよ…」横でキラシャがささやいた。

 

「オオキイ ルール ツヨイ グループ キメル。

 

ワタシノグループ ヒト オオイ。

 

デモ ツヨイ グループ コワイ。

 

ダカラ ナニモ キメナイ。

 

カイ イマ カエル。

 

ナニモ カワラナイ。

 

ツヨイ グループ イジメル ダケ。

 

カイ… ベンキョウ シヨウ。

 

センソウ シナイ ベンキョウ シヨウ。

 

MFiエリア センソウ シナイ ルール アル。

 

 

…カイ ジブン シンジテ。

 

MFiエリア コドモノ サイバン アル。

 

アイテ ワルイ オモウ。

 

ワルイコト ウッタエル。

 

ダイジ オモウヨ…」

 

生徒は静かに、パールの言葉を聞いた。

 

先生もパールの言葉に、大きく頷いて言った。

 

「そうだな。パールの言うように、カイはケンカの被害者だ。ここでは、子供でも裁判で相手を訴える権利がある」

 

「先生! ちょっといい? あたしにも言いたいことがある!」

 

キラシャも発言を求めたので、先生は、だまって頷いた。

 

「カイ! …さっき、パールも言ったけど、あたしもルールに対しては、不満だらけなンだ。だから、スクールのルール破って、ケンカに入って、怒られてるけどね。

 

でもさ、…スクールでやってる裁判は、自分の言いたいことが、言わせてもらえるよ。

 

だから、ケンカがひどくなったからって、やけになったりしないで!

 

裁判になったら裁判になったで、あたしは正々堂々と自分の意見を言うようにしてるンだ。

 

カイだって、今みたいに、言いたいこといっぱいあるンでしょ? 

 

だったら、裁判で言えばいい。

 

ゼノンみたいに、スッゴイ怖い相手の時は、しっぺ返しされないかって、ビビることもあるし、言っても無駄かなって思う時だってあるけど…。

 

みんなで決めたルールだから、ルールは簡単には変わらないけど、カイが言ったことが、後でみんなのためになることだって、きっとあると思うンだ。

 

だから、カイもがんばって! 

 

ゼノンと戦わずに、ただイヤだから出てゆくなんて、つまンないよ!」

 

クラスでは、拍手喝さいが起こっていた。

 

「やっぱり、キラシャだね」

 

「元気いいじゃン。もう退院してもOKだよ」

 

クラスの子供達は、笑いながらキラシャを見守った。

 

先生は、カイに向かって、自分の席につくように言った。

 

カイも、しぶしぶ、先生の言葉に従った。

 

「さて、今、パールやキラシャがカイに言ったことは、先生もみんなに言いたいことなんだ。他のエリアにはないルールが、MFiエリアにある。

 

他のエリアを脅かすような戦争は、しないというルールだ。

 

ケンカやイジメは、裁判で決着すればいい。

 

ただ、相手を恐れるばかりで、自分の思いを殺しても、いつかは問題になって出てくる。それが、今回の大ゲンカにつながってしまったんじゃないかな?

 

今回のケンカは、オリエント・エリアに関わるものだから、先生にも立ち入れないかもしれない。

 

ただ、不安や不満に思うことは、どんどんカウンセリングを利用して、吐き出して欲しい。

 

ダンも言っていたけれど、君たち全員、毎日朝早くからドームに住んでいる人のことを考えて、まじめにやっているなぁと、先生は感心しているんだ。

 

みんなもがんばってるし、カイだって、決してサボってはいなかったんだよ。

 

むしろ、朝早く起きられない仲間のことも、起こしに行って面倒も良く見ていたから、カイがひどい目に遭ったのを見て、周りがほっとけなかったんだ。

 

そうだろう? 」

 

カイは、何も言えず、自分の席で顔をおおった。

 

「他のエリアから来た子供達の苦しみや、悲しみは、簡単に理解してあげられるものじゃない。

 

先生だって、君達への指導が適切だったかどうか、反省してる。

 

君達も、このエリアにやって来て、つらい思いでいる子供達のことも考えてほしいし、同じクラスでイジメを見て見ぬふりをしていないか、いろいろ反省してみて欲しい。

 

それから、これを今の君たちに報告することが、適切かどうか、先生は迷っていたんだけど、少し前までこのクラスにいたタケルのことを伝えておきたいんだ」

 

ケンが叫んだ。

 

「先生、タケルがどうかしたの?」

 

「タケルは、今、危険な状態にいる。

 

…と言っても、先生には、遠い宇宙で何が起こっているのかわからないが、ひょっとしたら君達が、彼を助けることができるかもしれない。

 

今までだまっていたが、タケルは、耳が聞こえなくなるという病気を持っていたんだ…」

 

クラスがざわめいた。

 

「その病気を治すために、火星へと向かったんだが、環境の変化に耐えられなくて、情緒的に不安定になってしまったそうだ。

 

それに、先生にもよく理解できていないんだが、タケルは何か恐ろしいことに巻き込まれるのではないか、と心配しているお父さんからのメールが届いた。

 

どうか、これ以上タケルをひとりぼっちにしないためにも、誰でもいい。時間があれば、タケルにメールをしてやって欲しい。

 

今は、大きな宇宙ステーションに滞在している。希望者にはアドレスを教えよう。

 

タケルが、このMFiエリアに帰って来ることを、タケルのご両親が希望しておられるようだ。

 

だから、みんなもタケルを励ましてやって欲しい。

 

先生は、カイと話があるので、残った時間はダンが議長で、副議長を選んで反省会をすること。

 

そうだ、忘れるトコだった…。

 

今日はヴァレンタイン・デーだけど、中級生はこれ以上の混乱を避けるために、校長先生から、『スクール内でプレゼントを渡すことは禁止する』という指令があった。

 

チルドレンズ・ハウスに戻れば、自由に渡すことはできるが、それが原因で混乱が起きないように、パトロール隊がいつもより多く常駐しているから、気を付けて渡しなさい。

 

Mフォンには、渡し方のルールがダウンロードされている。

 

ちゃんとアドバイスに従うように!

 

他にも先生に用事があったら、Mフォンで呼び出しなさい」


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