未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第1章 未来社会 ⑤⑥

2021-08-27 16:03:03 | 未来記

2005-01-11

5.未来のスポーツ

 

キラシャと幼なじみで仲の良いタケルは、キラシャより一足先に11歳を迎えた。

 

彼は、MFiエリアで流行っているパスボー・ゲームの主力選手でもある。

 

午後の授業は、スポーツやミュージック、アート、科学実験など、生徒が希望する講座を選択して受講する。

 

タケルは、時間が許される限り、スポーツの時間と、その後夕食まで行われているクラブ活動の時間、ほとんどをパスボー・ゲームのために使っていた。

 

この未来のスポーツ、パスボー・ゲームは、1チームの出場者が6人。監督の指示で何度か選手交代が行われる。

 

天井の高さと横幅が同じ球型の壁に囲まれた、すべてがコートとして競技を行う。

 

コートの中央から上下25度線までは、周りを強化ガラスで覆われ、観客はその外側に設置してある観客席から応援する。通気穴からは、選手の熱気も伝わって来る。

 

試合が始まると、球状のコートの天井にポツンポツンとある穴の、どこから飛び出してくるかわからないボールを追い、先に取った方が、先攻で主導権を握る。

 

空中に浮くスケボーに乗り、球状のコートの中をグルグルと移動しながら、金色に光り輝く小さなボールを追いかける。

 

ボールを奪ったチームの味方同士が、ラケットを使ってパスを繰り返しながら、ゴールへ。

 

ゴールは、コートの中央に浮いている、四方八方穴の開いた、サッカーボールを大きくしたようなカゴの中に入れば、5点。

 

カゴの中にボールが入ったとたんに、

 

 

ゴーォォォ―ル!!!のアナウンス

 

 

同時に、ボールを入れたチームの選手がスポットライトを浴び、シュートした選手の指定したテーマ曲が場内に流れる。

 

カゴは常に上下左右に移動しているので、移動先を考えに入れながら、シュートを決めなくてはならない。

 

観客前の強化ガラスの面にも、開いたり閉じたりしている、小さな穴があって、これにボールをたたき入れると、2点の追加。

 

ゴーォォォ―ル!!!というアナウンスは、真ん中のカゴへのゴールより、ややおさえめ。

 

だが、ボールが入った穴の周りがと照らされ、入れた選手にもスポットライトが浴びせられる。

 

このゲームは反則にも厳しい。相手が故意にぶつかって来たら、抗議をすると、すぐに3Dホログラムのビデオを再生して判定される。

 

反則した方が、3点の減点。ラケットで殴ったとなると、6点の減点と退場。

 

選手は、コート面の小さな穴か、中央の空中にさまようカゴをめがけて、ボールをラケットで変化させながら

 

シュ

 

時には、激しいボールの取り合いで、ケガ人がホスピタルへ運ばれることも・・・。

 

ヘルメットやサポーターを身につけていても、ぶつかる衝撃で選手はアザだらけだ。

 

試合が白熱しすぎて、両チームが入り混じり、殴り合いのケンカになることだってある。

 

前半15分と、5分の休憩をはさんで、後半15分の短い時間で勝負が決まる。

 

空中での回転ジャンプとパスを繰り返し、ゴールの動きに合わせて自由自在に動きまわり、絶妙なタイミングでシュートを決める、パスボーのプロチーム。

 

アニメ・宇宙船艦ヤマトの主題歌を、自分のテーマ曲に指定しているタケル。

 

自分もプロのチームに参加して、新たな得意技を編み出して、観客を思いっきり沸かせるシュートでこの曲を流してみたいなぁと、ずっと夢に見ていた。

 

パスボー・ゲームは、他のエリアでも流行っているゲームなので、Mフォンで、いろんなエリアの試合が観戦できるし、ステーション広場でも巨大な3Dホログラムで楽しめる。

 

熱烈なファンは、やっぱり熱戦を直接肌で感じるのが最高だ。

 

パスボーの会場では、アルコール入りのドリンクを片手に、敵同士がお互いの選手をなじっては、自分のお気に入りのチームを応援する。

 

と空気を切るような勢いで、スケボーをあやつり、目の前を通り過ぎる選手達。

 

酔いがまわった観客からは、遠慮なしにヤジが飛んで来る。

 

「もっと、早くボールを取れ、バカやろー」

 

「おまえのせいで、点取られたじゃないか、このアホが!」

 

そんなヤジに、選手はチェっとつばを吐き出して、必死でボールを追いかける。

 

大人の激しいスポーツも観客を魅了するが、子供の小さくて、すばしっこい動きも、パスボーを愛するファンにとっては、たまらない魅力だ。

 

医療技師をしているタケルの両親も、激しいスポーツに熱中している我が子を心配しながら、試合会場へと駆けつけた。

 

チームの中でもシューター№1として、監督からもっとも信頼されているタケルは、試合のたびに、応援する女の子を増やした。

 

チアガールも応援に駆けつけ、悲鳴に近い声でタケルの名を叫び、他の選手の負けん気を誘った。

 

しかし、タケルは相手チームの隠れた反則行為や、観客のヤジにもまったく動じることなく、冷静にチームの得点を加えた。

 

大事な試合に勝った夜は、家族でレストランへ行き、楽しく話しながら団らんを過ごす。タケルにとって、それが幸せなひとときだった。

  

2005-01-14

6.小さな恋

 

タケルとキラシャ。

 

パスボーのヘルメットをはずした時、キラッと目が光るのが印象的なタケルは、端正な顔立ちで、応援する女の子を魅了する。

 

キラシャの方は、生まれたころはふっくらして、少女らしい顔立ちだったが、厳しいトレーニングのせいか、年々、顔つきも男の子らしく成長している。

 

2人は、初級コースのころからずっと同じクラスで、時には言い合いのケンカもするけど、勢いあまって絶交しても、気がつくと前よりずっと気持ちが通い合っている。

 

水中に潜ったり、走ったりすることには男子にも引けを取らないキラシャだが、ボールを使ったスポーツは苦手なので、パスボーに関しては、タケルにかなわない。

 

タケルの出場するゲームには、手作りの旗を持って大声で応援をすることもあるが、タケルには、いい迷惑だったりして、それがケンカの原因なのだが・・・。

 

それでも時々、お互いに機嫌がいい時は、タケルの家族とキラシャの家族が一緒に食事をしていた。

 

まだ10歳のキラシャに、恋愛という言葉は早すぎるかもしれないが、タケルには、他の男の子にはない、赤い糸のようなものを感じていた。

 

もしも、2人とも一緒に上級に進級したら・・・

 

 

・・・ここで、“もしも”という言葉を使うのは、

 

2人とも勉強が苦手で、ヘタをすると進級テストに落第する可能性もあるからだ。

 

恋愛学のパートナーは、タケルだけ・・・。

 

キラシャは口には出さないものの、心の中でずっとその気持ちを温めていた。

 

義務教育だが、未来の教育は今より厳しい。

 

特に中級コースからは、進級テストで合格点に達していないと、再テストを受けなくてはならない。それでも、合格した科目が必要な単位数ないと、留年だ。

 

授業だけで理解できない子は、土曜日も補習を受けているが、試験が近づいてくると、子供達は平日の夜も自主的に勉強に取り組んでいる。

 

キラシャとタケルも、自分の成績に危険信号を感じてからは、仲間と一緒に広い食堂の一角を陣取って、肩を寄せ合って勉強を始めた。

 

しかし、パスボーの練習でほとんどの体力を使い果たしているタケルは、しばらくすると、キラシャの肩を借りて眠り始める。

 

はっと気づいたキラシャは、照れ隠しに周りの仲間に「やだね~」と言って、タケルを起こそうとするが、皆あわててそれを止めた。

 

仲間はみんな、キラシャの気持ちに気づいているし、タケルが疲れていることも良くわかっている。

 

2人をかばおうとしてか、タケルのパスボーチーム仲間のケンが、口をはさんだ。

 

「タケルはだいじょうぶだよ。こいつは、ヒーローなンだ」

 

子供達は、お互いの口に人差し指をあてて、静かに勉強を続けた。

 

自分の肩で熟睡しているタケルに、誰より頼られていると感じるキラシャだったが、決してライバルがいないわけではない。

 

タケルに群がってくる女の子は多いし、そんな彼女らに、タケルの方も顔を赤らめながら話していることもある。

 

特に、同じクラスのマギィとジョディは、チアガールの中でも目立つぐらい、タケルの応援に力を入れていた。

 

タケルに関しては、女の子らしいジェラシーを感じるキラシャだったが、一方でタケルの様子がおかしいことにも気がついていた。

 

パスボーの練習を休んだ日。一緒に勉強しようと言ったら、用事があるからといって、プイッとどこかへ行ってしまった。

 

担任のユウキ先生には、何やら相談をしているようで、秘密の話があるらしい。

 

いつもならキラシャがそばへ行くと、すぐに振り向くタケル。

 

いきなり後ろから肩をたたくと、びっくりして無茶苦茶に怒り出した。

 

そのくせ、遠い目をして、悲しそうなため息をついている。

 

『どうして? 』

 

『何があったの? 』

 

目が合えば、お互いすぐに分かり合えたのに・・・。

 

 

タケルが試合に出なくなったせいで、タケルのそばに群がる女の子も減ったが、そのかわり家族同士の食事もなくなってしまった。

 

このままタケルが、どんどん遠くに離れて行きそうな予感がして、キラシャの不安は募るばかり。

 

そんなある日、タケルが休んだ学習ルームで、ユウキ先生が突然こんなことを告げた。

 

「タケルは、家庭の事情で火星へ移住することになりました」

 

学習ルームは、騒然となった。ユウキ先生は、皆が静まるのを待って、話を続けた。

 

「急なことでびっくりしていると思うけれど、旅立つ彼のことを応援してほしいと、先生は願っています。

 

火星へ出発したら、少し長い旅になるから、メールが送れるよう宇宙船のことは確認を取っておきます。

 

出発するまで、1週間ありますが、タケルのことはそっとしておいてあげてください・・・」

 

 

キラシャの顔がスーッと青ざめ、そんなキラシャをケンが心配そうに見つめた・・・。


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