2005-01-11
5.未来のスポーツ
キラシャと幼なじみで仲の良いタケルは、キラシャより一足先に11歳を迎えた。
彼は、MFiエリアで流行っているパスボー・ゲームの主力選手でもある。
午後の授業は、スポーツやミュージック、アート、科学実験など、生徒が希望する講座を選択して受講する。
タケルは、時間が許される限り、スポーツの時間と、その後夕食まで行われているクラブ活動の時間、ほとんどをパスボー・ゲームのために使っていた。
この未来のスポーツ、パスボー・ゲームは、1チームの出場者が6人。監督の指示で何度か選手交代が行われる。
天井の高さと横幅が同じ球型の壁に囲まれた、すべてがコートとして競技を行う。
コートの中央から上下25度線までは、周りを強化ガラスで覆われ、観客はその外側に設置してある観客席から応援する。通気穴からは、選手の熱気も伝わって来る。
試合が始まると、球状のコートの天井にポツンポツンとある穴の、どこから飛び出してくるかわからないボールを追い、先に取った方が、先攻で主導権を握る。
空中に浮くスケボーに乗り、球状のコートの中をグルグルと移動しながら、金色に光り輝く小さなボールを追いかける。
ボールを奪ったチームの味方同士が、ラケットを使ってパスを繰り返しながら、ゴールへ。
ゴールは、コートの中央に浮いている、四方八方に穴の開いた、サッカーボールを大きくしたようなカゴの中に入れば、5点。
カゴの中にボールが入ったとたんに、
ゴーォォォ―ル!!!のアナウンス
同時に、ボールを入れたチームの選手がスポットライトを浴び、シュートした選手の指定したテーマ曲が場内に流れる。
カゴは常に上下左右に移動しているので、移動先を考えに入れながら、シュートを決めなくてはならない。
観客前の強化ガラスの面にも、開いたり閉じたりしている、小さな穴があって、これにボールをたたき入れると、2点の追加。
ゴーォォォ―ル!!!というアナウンスは、真ん中のカゴへのゴールより、ややおさえめ。
だが、ボールが入った穴の周りがピカピカと照らされ、入れた選手にもスポットライトが浴びせられる。
このゲームは反則にも厳しい。相手が故意にぶつかって来たら、抗議をすると、すぐに3Dホログラムのビデオを再生して判定される。
反則した方が、3点の減点。ラケットで殴ったとなると、6点の減点と退場。
選手は、コート面の小さな穴か、中央の空中にさまようカゴをめがけて、ボールをラケットで変化させながら
シュ~~~ト~~~!
時には、激しいボールの取り合いで、ケガ人がホスピタルへ運ばれることも・・・。
ヘルメットやサポーターを身につけていても、ぶつかる衝撃で選手はアザだらけだ。
試合が白熱しすぎて、両チームが入り混じり、殴り合いのケンカになることだってある。
前半15分と、5分の休憩をはさんで、後半15分の短い時間で勝負が決まる。
空中での回転ジャンプとパスを繰り返し、ゴールの動きに合わせて自由自在に動きまわり、絶妙なタイミングでシュートを決める、パスボーのプロチーム。
アニメ・宇宙船艦ヤマトの主題歌を、自分のテーマ曲に指定しているタケル。
自分もプロのチームに参加して、新たな得意技を編み出して、観客を思いっきり沸かせるシュートでこの曲を流してみたいなぁと、ずっと夢に見ていた。
パスボー・ゲームは、他のエリアでも流行っているゲームなので、Mフォンで、いろんなエリアの試合が観戦できるし、ステーション広場でも巨大な3Dホログラムで楽しめる。
熱烈なファンは、やっぱり熱戦を直接肌で感じるのが最高だ。
パスボーの会場では、アルコール入りのドリンクを片手に、敵同士がお互いの選手をなじっては、自分のお気に入りのチームを応援する。
ボワンっと空気を切るような勢いで、スケボーをあやつり、目の前を通り過ぎる選手達。
酔いがまわった観客からは、遠慮なしにヤジが飛んで来る。
「もっと、早くボールを取れ、バカやろー」
「おまえのせいで、点取られたじゃないか、このアホが!」
そんなヤジに、選手はチェっとつばを吐き出して、必死でボールを追いかける。
大人の激しいスポーツも観客を魅了するが、子供の小さくて、すばしっこい動きも、パスボーを愛するファンにとっては、たまらない魅力だ。
医療技師をしているタケルの両親も、激しいスポーツに熱中している我が子を心配しながら、試合会場へと駆けつけた。
チームの中でもシューター№1として、監督からもっとも信頼されているタケルは、試合のたびに、応援する女の子を増やした。
チアガールも応援に駆けつけ、悲鳴に近い声でタケルの名を叫び、他の選手の負けん気を誘った。
しかし、タケルは相手チームの隠れた反則行為や、観客のヤジにもまったく動じることなく、冷静にチームの得点を加えた。
大事な試合に勝った夜は、家族でレストランへ行き、楽しく話しながら団らんを過ごす。タケルにとって、それが幸せなひとときだった。
2005-01-14
6.小さな恋
タケルとキラシャ。
パスボーのヘルメットをはずした時、キラッと目が光るのが印象的なタケルは、端正な顔立ちで、応援する女の子を魅了する。
キラシャの方は、生まれたころはふっくらして、少女らしい顔立ちだったが、厳しいトレーニングのせいか、年々、顔つきも男の子らしく成長している。
2人は、初級コースのころからずっと同じクラスで、時には言い合いのケンカもするけど、勢いあまって絶交しても、気がつくと前よりずっと気持ちが通い合っている。
水中に潜ったり、走ったりすることには男子にも引けを取らないキラシャだが、ボールを使ったスポーツは苦手なので、パスボーに関しては、タケルにかなわない。
タケルの出場するゲームには、手作りの旗を持って大声で応援をすることもあるが、タケルには、いい迷惑だったりして、それがケンカの原因なのだが・・・。
それでも時々、お互いに機嫌がいい時は、タケルの家族とキラシャの家族が一緒に食事をしていた。
まだ10歳のキラシャに、恋愛という言葉は早すぎるかもしれないが、タケルには、他の男の子にはない、赤い糸のようなものを感じていた。
もしも、2人とも一緒に上級に進級したら・・・
・・・ここで、“もしも”という言葉を使うのは、
2人とも勉強が苦手で、ヘタをすると進級テストに落第する可能性もあるからだ。
恋愛学のパートナーは、タケルだけ・・・。
キラシャは口には出さないものの、心の中でずっとその気持ちを温めていた。
義務教育だが、未来の教育は今より厳しい。
特に中級コースからは、進級テストで合格点に達していないと、再テストを受けなくてはならない。それでも、合格した科目が必要な単位数ないと、留年だ。
授業だけで理解できない子は、土曜日も補習を受けているが、試験が近づいてくると、子供達は平日の夜も自主的に勉強に取り組んでいる。
キラシャとタケルも、自分の成績に危険信号を感じてからは、仲間と一緒に広い食堂の一角を陣取って、肩を寄せ合って勉強を始めた。
しかし、パスボーの練習でほとんどの体力を使い果たしているタケルは、しばらくすると、キラシャの肩を借りて眠り始める。
はっと気づいたキラシャは、照れ隠しに周りの仲間に「やだね~」と言って、タケルを起こそうとするが、皆あわててそれを止めた。
仲間はみんな、キラシャの気持ちに気づいているし、タケルが疲れていることも良くわかっている。
2人をかばおうとしてか、タケルのパスボーチーム仲間のケンが、口をはさんだ。
「タケルはだいじょうぶだよ。こいつは、ヒーローなンだ」
子供達は、お互いの口に人差し指をあてて、静かに勉強を続けた。
自分の肩で熟睡しているタケルに、誰より頼られていると感じるキラシャだったが、決してライバルがいないわけではない。
タケルに群がってくる女の子は多いし、そんな彼女らに、タケルの方も顔を赤らめながら話していることもある。
特に、同じクラスのマギィとジョディは、チアガールの中でも目立つぐらい、タケルの応援に力を入れていた。
タケルに関しては、女の子らしいジェラシーを感じるキラシャだったが、一方でタケルの様子がおかしいことにも気がついていた。
パスボーの練習を休んだ日。一緒に勉強しようと言ったら、用事があるからといって、プイッとどこかへ行ってしまった。
担任のユウキ先生には、何やら相談をしているようで、秘密の話があるらしい。
いつもならキラシャがそばへ行くと、すぐに振り向くタケル。
いきなり後ろから肩をたたくと、びっくりして無茶苦茶に怒り出した。
そのくせ、遠い目をして、悲しそうなため息をついている。
『どうして? 』
『何があったの? 』
目が合えば、お互いすぐに分かり合えたのに・・・。
タケルが試合に出なくなったせいで、タケルのそばに群がる女の子も減ったが、そのかわり家族同士の食事もなくなってしまった。
このままタケルが、どんどん遠くに離れて行きそうな予感がして、キラシャの不安は募るばかり。
そんなある日、タケルが休んだ学習ルームで、ユウキ先生が突然こんなことを告げた。
「タケルは、家庭の事情で火星へ移住することになりました」
学習ルームは、騒然となった。ユウキ先生は、皆が静まるのを待って、話を続けた。
「急なことでびっくりしていると思うけれど、旅立つ彼のことを応援してほしいと、先生は願っています。
火星へ出発したら、少し長い旅になるから、メールが送れるよう宇宙船のことは確認を取っておきます。
出発するまで、1週間ありますが、タケルのことはそっとしておいてあげてください・・・」
キラシャの顔がスーッと青ざめ、そんなキラシャをケンが心配そうに見つめた・・・。
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