未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第2章 未来のスクール ④⑤

2021-08-26 19:44:56 | 未来記

2005-02-14

4.タケルに会いたい…

 

日を追うごとに、キラシャのタケルに会いたいという気持ちは、どんどん強くなってゆく。

 

いつも悪ふざけばっかりしているケンとマイクが、心配してゲームに混ぜてやるが、元気を取り戻したかなと思うと、フッーとため息をつくキラシャ。

 

学習ルームにいる時は、メールしたらすぐに返って来たのに、あれからいくらメールを送っても、タケルからの返事はない。

 

メールは届いているはずなのに…。

 

 

ある時、キラシャは希望を見つけたように、ふと思った。

 

『タケルの出発まで1週間あるって、ユウキ先生は話してた。

 

もし、ユウキ先生がタケルの居場所を教えてくれたら…。絶対会いに行きたい。だって、話ができれば、このモヤモヤした気持ちがパーって吹っ切れるかもしれないじゃない』

 

大好きなスポーツでさえミスをして、厳しい先生にやる気がないと叱り飛ばされ、これ以上平常点がマイナスになると、成績の悪いキラシャは確実に落第してしまう。  

 

『もし上級コースに進めたとしても、タケルがいない恋愛学のパートナーに、いったい誰を選べばいいんだか…   

 

いっそのこと、タケルが戻ってくるまで、落第しちゃおうか。でも、パパはきっと怒るだろうな。タケルは…、やっぱり怒るかな?

 

タケルだって、成績良くなかったモン。相談したら、…なんて言うだろう?』

 

…とは言うものの、タケルへのメールには、この切ない気持ちを伝えられない。

  

せめて、タケルへの連絡先を知りたいが、まず、ユウキ先生に相談してみなくてはならない。

 

だが、キラシャがタケルに会う理由を見つけられないまま、1週間が過ぎようとしていた。

 

 

タケルが火星へと出発する日。

 

午前の授業が終わると、学習ルームを出ようとするユウキ先生をぎゅっとつかまえて、キラシャは勇気を振り絞って、タケルに連絡を取るための許可を願い出た。

 

ユウキ先生は困った顔をしながらも、キラシャのただならぬ様子を心配して、声のもれない相談ルームに連れて行った。

 

ユウキ先生はすぐにカウンセラーを呼ぼうとしたが、キラシャの気持ちは、タケルと話すことでしか解決しないのだ。

 

 

キラシャは、すがる気持ちで先生を見つめた。

 

それを察した先生は、キラシャを諭すように言った。 

 

「出発の近いタケルに、面会を申し込む子は多かったが、実際に話をした子はいないよ。

 

一応、タケルの気持ちを聞いてはみるが、今まで言って来た子は、みんな断っていたぞ。

 

もし、君が同じ結果でがっかりしても、先生は責任を負えないよ。

 

先生がタケルなら、こんな風に慕う子を拒否するなんて、もったいないことしないのだがね…」  

 

先生は、キラシャにそれでも良いかと確認をしてから、Mフォンでタケルを呼び出した。

   

『きっと、パスボーを応援していたタケルのファンの子達も、あたしと同じ気持ちだったんだろうな。ダメでも、先生にはお礼を言わなくちゃ』

 

キラシャはユウキ先生に向かって、深々と頭を下げた。

 

タケルの着信音だろうか、戦艦ヤマトの音楽が聞こえる。

 

音が切れると、先生のMフォンの先に、タケルの顔が見えた。

 

「タケル、良かった。ちょっと元気がないな…。みんな心配しているんだぞ。今、そばにキラシャがいる。時間がないから、キラシャに代わろう」

 

先生は、すぐに自分のMフォンからキラシャのMフォンへと転送した。

 

キラシャは、お気に入りのアニメの着信音が鳴り響くMフォンをあわてて出し、目の前に浮かび上がったタケルを見つめた。

 

「君達が話せる時間は、300secだ。

 

時間が来たら、先生の所へ自動的に転送されるからね」

 

先生は、キラシャの頭をポォーンとたたき、その場を離れた。

 

キラシャは、急いでMフォンの時間を確認して、目の前に浮かぶタケルを見つめた。

 

タケルは、少し青白い顔をしていた。

 

キラシャがいつもより明るい調子で「元気だった?」と声をかけると、タケルはぼう然とした顔をして言った。

 

「キラシャ、会いたかった…」

 

キラシャの目から、ボロッと涙がこぼれた。

 

『タケルもあたしに会いたかったのか…』

 

タケルも涙が出そうだったが、歯を食いしばって言った。

 

「メールありがとう。でも、返事を出したら、せっかく決心した火星行き…」

 

キラシャは涙をぬぐって、急いで口をはさんだ。

 

「いいじゃない。火星行きなンてやめちゃえば…。どうして、そんなことになったの?

 

ケンもマイクも、みんな怒ってるンだ。あたしだって、もう、絶交だって思ったモン!」

 

タケルは、キラシャの抗議に戸惑いながらも、こう言った。

 

「パパとママが、火星へ行こうって。

 

…2人とも医療技師を始めたころから、ずっと火星で研究したかったンだって。

 

…オレは、パスボーがしたかったけど…

 

でも一緒に行って、何か新しいことを発見してみたくなったンだ…。

 

今までの自分になかったものが、見つけられたらいいなって」

 

キラシャは叫んだ。「そんなの、ここでも見つけられるじゃない!

 

パスボーだって、誰にも負けてないじゃない。

 

それ以上に、タケルは何が欲しいって言うの?」

 

タケルは、だまってうつむいた。

 

「それにさ、なぜ、もっと早く教えてくれなかったの?

 

あたし、タケルと一緒に外の海に行ってみたかったンだよ!

 

上級コースになったら、2人で組んでオリン・ゲームにも出たかったのに…。

 

11歳になったらドームの外出許可取って、外で早く動けるように、必死で訓練してたのに…」

 

   

「…キラシャ、だまっていて、ゴメン。

 

キラシャの悲しい顔、見たくなかったンだ。だから、家族にも話さないように頼んだンだ。一緒に食事したら、すぐに顔に出るからって…。

 

絶対、キラシャが反対するのわかってた。

 

だけど…、オレ、またキラシャに会えるって…」

   

「…すぐには帰って来れないの? 

 

5年も10年も先のことなんて、あたしにはわかンないよ!

 

お願いだから、火星へ行かないで! 

 

あたし、ひとりでどうしたらいいンだよ…。

 

タケルがいたから、勉強できなくても、今までがんばれたのに…。

 

タケルがいなくなったら、あたし落第だよ…。

 

ひとりで、上級コースへ進級できないよ…」  

 

「キラシャ。オレだって、がんばって頭に詰め込んでテストに合格して、やっと、火星行きが決まったンだ。もう、今じゃどうしようもないンだ。

 

…オレ、今はうまく言えないけど、キラシャにはわかって欲しい。

 

いつか、話せる日が来ると思うから…」  

 

キラシャは、タケルの頬を伝う涙を見つめた。

 

タケルには、何か大事なことがあるのだと感じた。

 

キラシャのMフォンが、「300secまで、残り10secです」と告げた。

 

「わかった。…もう時間だね」

 

そして、タケルに気持ちを込めて、キラシャは言った。

 

「タケル、…愛してる。いってらっしゃい!

 

きっと会おうね。

 

メールしてよ! 約束だよ!!」

 

キラシャに涙を見せてしまったのが恥ずかしいのか、愛してると言われてテレてしまったのか、タケルはうつむき加減で、涙を乱暴にふき取りながら言った。

 

「キラシャ、わかった。絶対、忘れやしないよ…。元気でな…」

 

その言葉を聞いて、ちょっと満足したキラシャの姿が、ぼんやりとタケルの前から消えた。

 

 

入れ替わりに、タケルの前に先生の心配した顔が現われた。

 

タケルは鼻を赤くしたまま、照れくさそうにお礼を言った。

 

「先生、ありがとう。突然でびっくりしたけど、キラシャと話ができて良かった」

 

しかし、先生は「今まで断った子にも、ちゃんとお詫びのメールを送っておいた方がいいぞ」と注意した。

 

そうでないと、これがもれたら、みんながキラシャをイジめるから…。

 

 

2005-02-18

5.タケルの旅

 

宇宙旅行への手続きを終えたタケルは、家族とともに火星行きの宇宙船に乗り込んだ。

 

彼は、得意なパスボーで、相手を攻め続けて得点することに夢中になるタイプだから、自分を振り返って考えることなんて、これっぽっちもなかった。

   

あれほどにぎやかで、わずらわしかったチルドレンズ・ハウスの毎日が、日増しに自分と関係のないものになってしまったんだと、感じるようになった。

 

 

火星への道のりは、思ったより長かった…。

  

この船は火星に向けて、医療物資を運ぶための専用船で、途中、宇宙ステーションに立ち寄って、新しい機材で住民への身体検査や運動能力の測定を行い、人体に関するデータを収集している。

 

超音速宇宙船に比べると、何倍も時間がかかるので、子供はたいくつな日々を持て余していた。

 

常に動く敵のチームと戦っていたタケルにとって、多少からだを動かせても、周りに変化のない生活が、これほどたいくつでやる気をなくすものだとは、想像もしてなかった。

 

大切な医療機材を積んでいるので、乗組員達はうろつく子供に対して厳しい。タケルが機関室や倉庫に近づいただけで、ゴキブリのように追い払われる。

   

さびしそうにしているタケルを見かけて、両親は心配そうに声をかけてくれるが、厳しい訓練で独立心の芽生えていたタケルは、かえって子供扱いされるのをいやがった。

   

かといって、タケルほど激しいスポーツが得意だという男の子は、見当たらない。

 

共通語が苦手なタケルは、定期的に行われる授業に参加するだけで、友達を作って会話しようという発想がなかった。

 

タケルには、別の目的があったからだ。

 

 

気晴らしに、船内をグルグルと散歩していると、タケルの顔をチラッと見ながら、女の子の集団が、楽しそうに話を咲かせている。  

 

スクールで見かけた子も、何人かいた。

 

自分のうわさかな? と気づくと、思わず笑顔で答えても、照れくさくて話の中に入ることができない。

 

タケルは内心くやしい思いをしながら、女の子の集団から離れて行った。

 

トレーニング室では、いろんなエリアの言葉が飛び交っていたが、スポーツ好きの大人も集まって、地球からのスポーツの映像を見ながら、なつかしそうに雑談している。

 

何を話しているのか、時々耳を傾けながら、タケルは黙々と自分のトレーニングに励んだ。

 

定期的に行われる授業や食事で同席する子とは、ありきたりな雑談を交わすが、自分から進んで友達を作ろうとしないタケルに、周りの子も少し距離を置くようになった。

 

担任のユウキ先生が、タケルの乗った船のメール・アドレスを紹介してくれたおかげで、しばらくはタケルのMフォンに、読み切れないくらいのメールが入った。

 

パスボーを応援してくれた子や、パスボー仲間、同じクラスの子達からは、急にいなくなったタケルのことを心配するメールもあったが、怒りのメールが多い。

 

みんながキラシャをイジめるという先生の言葉も、わかる気がした。

 

『キラシャも負けず嫌いだから、メールに困ったなんて入れてないけど、いろいろ言われてるンだろうな…』

 

タケルはみんなにちゃんと話をしてから、出てくれば良かったと後悔した。

 

とは言うものの、自分のことを冷静に、みんなに説明できるほど、タケルは自分の気持ちの整理がついていなかった。

 

そんなためらいがあって、ファンだった子から、直接話がしたいという、宇宙船のメッセンジャーからの通知に、タケルは断りの伝言を頼んだ。

 

キラシャに会いたかったのは、小さいころから自分の気持ちを素直に言える相手だったから。

 

それでも、タケルが自分の秘密を言い出せないまま、キラシャにわざと不機嫌な態度を取ったのは、タケルのプライドからだろうか。

 

タケルは、相手になめられるのをキラった。女の子に同情されるのも、大キライだ。

 

ただ、キラシャに愛してると言われて、悪い気持ちはしないし、上級コースのオリン・ゲームだって、キラシャと2人なら、ダントツで優勝できる自信はあった…。

 

でも…。

 

タケルは、「まいったなぁ」とつぶやいた。

 

『ケンにダン、それにヒロ。今ごろ何やってるンだろう。

 

ケンは、オレよりキラシャのことを気にしていたから、きっとキラシャが困った時には、助けてくれるさ。

 

ダンだって、弱いものイジメはキライなんだ。オレやキラシャがイジメに巻き込まれた時も、加勢してくれたっけ。裁判になれば、オレよりあいつの方が、要領いいからな。

 

ヒロとは、パスボーのことで、殴り合いの大ゲンカしたっけ。ヒロの異次元の研究が認められて、バッジもらえるトコだったのに。

 

おかげで、ヒロのバッジも、飛び級の話も、パァになっちまった。

 

ヒロさえだまってたら、上級コースやカレッジなんか飛び越えて、ラボラトリでやりたい研究、バンバンできるのに…。

 

オレが悪かったってあやまったら、ヒロは、あれで良かったンだって…。

 

言いたいことが言える仲間がいて、やりたい放題ケンカができて…

 

オレ…何て幸せだったンだろう。

 

殴り合いのケンカだって、もっとやっとけば良かった。今みたいに、何にもできないより、全然やった方がましだよ。

 

この病気さえなかったらなぁ…』

 

タケルの気持ちは、深く沈んだ。


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