未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第3章 美しい転校生 ①③

2021-08-25 15:10:25 | 未来記

2005-02-20

1.アフカ・エリアからの転校生

 

キラシャは、その日も夕食を済ませた後、タケルへ今日のクラスの様子と、明日の予定を入れたメールを送って、シャワー室へ向かった。

 

次の日は、午後にオリン・ゲームの予選会がある。

 

タイムで上位20チームの中に入れば、進級テストの後で行われる、エリアの大会への出場権が得られるのだ。

 

上級コースで、本格的なオリン・ゲームを目指すキラシャは、中級コースのオリン・ゲームのトレーニングにも参加していた。

 

タケルがいる時は、チーム・リーダーでキラシャを引っ張ってくれたので、常に上位の10チームに入れたし、安心してゲームに参加していたが、新しいメンバーは、ケンがリーダーだ。

 

何でも自分で決めないと、納得しないタケルに比べて、ケンは周りを気にして、いい加減に済ませることが多い。

 

ちょっと頼りないリーダーだけど、キラシャはこのオリン・ゲームをきっかけに、元気な自分に戻りたいと思っていた。

 

タケルと最後に話をしたことで、ずいぶんイジメに遭ったけど、ケンにはいろいろ助けてもらったし、マイクとケンのコンビには、遊びにも入れてもらったし、笑わせてもらった。

 

明日のオリンでは、ケンとマイクとキラシャのチームで、なんとか20位以内に入りたいと思っている。

 

入浴をすませて、湯気を立てながらキラシャが部屋へ戻る途中、ホールで女の子と、車椅子の女の人と担任のユウキ先生が、話をしているのを見かけた。

  

『転校生? …ひょっとして、うちのクラス?』

 

タケルがいなくなった後、タケルのいた席はそのままだ。 

 

『もしそうだったら、タケルに知らせようっと』  

 

その夜は、オリン・ゲームとタケルに報告したいことがいっぱい頭に浮かんで、なかなか寝つけないキラシャだった。

 

次の日の学習ルーム。キラシャも眠い目をこすりながら、友達とMフォンでメールのやり取りをしていた。

 

オリン・ゲームが終わったら、休日にクラスの仲間と海洋牧場に行く計画だ。その日は、キラシャの11歳の誕生日でもある。

 

ケンがキラシャを気づかって、みんなで一緒に行こうと誘ってくれたのだ。

 

チャイムが鳴って、学習ルームに入って来た先生と女の子に気がついて、生徒達はメールの手を止めた。

 

先生はクラス中を見渡し、そばの女の子に安心するよう微笑んで、話し始めた。

 

「みんな、アフカ・エリアから来た、とってもチャーミングな女の子を紹介しよう。

 

彼女はこれまで、ホスピタルでやけどの治療を行っていました。

 

名前はパール。

 

このエリアの優秀な医療技術のおかげで、身体は元通りに回復し、しばらくリハビリを続けながら、一緒に学習することになりました。

 

君達もパールから、学ぶことがあると思う。だから、このエリアの習慣に慣れていないからといって、イジメたらダメだよ。

 

パール、みんなにあいさつしてごらん」   

 

その女の子は少しためらったが、先生の方を見て少しうなずき、何度も練習したのか、きれいなMFiの言葉で、話し始めた。  

 

「私はパール。私のお母さん、MFiエリアで生まれました。

 

おばさんも同じドームにいて、このエリアのこと、教えてくれました。  

 

…アフカでは、まだ戦争が続いています。

 

ここで平和を学んで帰りたいです。アフカが平和になるように…。

 

どうぞよろしく」

 

  

子供達は、拍手してパールを歓迎した。

 

パールは、正装用の黄色や赤色の模様が入った民族衣装を身につけていた。アフカは肌の色も黒褐色の人が多いが、パールは色が白い。

 

キラシャと同じくらいの年なのに、パールは女優のように目がパッチリして鼻も高い。くちびるも薄くて、賢そうな感じがした。   

 

やけどをしたというから、顔も整形しているのかもしれない。

 

それでも、気品のある美しい顔立ちに、女の子のキラシャでさえ、目を奪われた。

 

パールがタケルのいた席にすわると、みんな落ち着かないように、チラチラとその席を見やった。

 

先生の話だと、パールは午後のオリン・ゲームを見学するようだ。

 

ゲームに出場する男の子は、転校して来たばかりで何もわからないパールに、イイトコ見せておこうと、やる気満々で午前の授業を終えた。

 

 

お昼の休憩時間。

 

大勢の参加者とゲームのスタート地点へ向かうキラシャ。

 

同じチームで張り切っているマイクから、メールが入った。

 

Mフォンの翻訳は、いろんな言語で、すぐに翻訳して発音してくれるが、その精度は日進月歩だ。

 

人によって、いろんな発音の仕方があるから、万能なMフォンとはいえ、いつも正しい翻訳というのは期待できない。

 

今でもインターネットやスマホの翻訳を当てにしていると、とんでもない会話になって、失笑してしまうことがある。Mフォンも同じだ。

 

だから、MFiエリアでは、社会人のマナーとして、なるべくMフォンを使わず、自分の言葉で話すように、子供達に指導している。

 

それに子供のころから、翻訳までMフォンに頼っていると、普通に共通語を話せる他のエリアの人達から、取り残されてしまうだろう。

 

 

キラシャと同じクラスで、別のエリアを転々としていた転校生のマイク。

 

タケルがいなくなる半年くらい前にやって来たが、ようやくMFiエリアの生活に慣れたようだ。

 

マイクは、男の子とすぐに仲良くなって、MFiの言葉もなんとか話すようになったが、キラシャは時々送られてくるメールのマイク語に、悩まされていた。

 

「マイク、あたしにわかる言葉で、送ってきなよ!」と大きな声でどなると、マイクは「ミジカシィ(難しい)メール キライ」と澄ました顔。

 

転校生がきれいなMFiの言葉を使っていたのに、マイクはマイク語でメールを始めた。

 

[キラシャ アノ ビギャル

 

ウミ ツレテ イク?]  

 

[アノ ビギャル?

 

パールのこと?]

 

[イエー

 

キラシャ ドウ?]

 

[マイク…

 

カノジョ ヤケドでしょ?

 

ウミはムリ!]

 

[デモ オレ

 

パールト イッショ イイ!] 

 

 

キラシャは、Mフォンから目を離し、近くにいるマイクに話しかけた。

 

「…マイク。海洋牧場でイルカと遊ぶより、きれいな女の子と一緒に船の中で見学する気?

 

マイクってさ、コズミック防衛軍のパイロットになるのが夢じゃなかったの?

 

女の子とイチャツイテ、空の英雄になれると思ってンの?」

 

マイクは、キラシャの早口に面食らったのか、ケンの方に助けを求めた。  

 

キラシャは、タイミング良く来たケンに怒鳴り始めた。  

 

「ケン、ナンなの?

 

あたしの誕生日に付き合って海洋牧場に行くより、

 

きれいな子と遊びたいンだったら、正直に言えばイイじゃない!」

 

すると、ケンは不思議そうな顔をして、こう言った。 

 

「何のこと…?

 

オレは、仲間を増やして行こうよって言っただけだよ!」

 

 

マイクは顔を赤らめながら言った。 

 

「パール マダ トモダチ イナイネ。

 

ナカマニ シヨウ!」

 

キラシャは頭を抱えた。

 

「…アノネ、マイク…」

 

海洋牧場では、みんなでイルカと泳ぐのを楽しみにしていたキラシャ。

 

でも…。

 

転校生を自分達の仲間に入れておくことは、これからの友達づきあいを考えると大事なことだ。

 

ケンは、キラシャに聞こえないように、マイクにささやいた。

 

「マイク。海洋牧場のことは、オレにまかせろ。マイクは次の予定を立てろよ…」

 

マイクは、軽くうなずいた。

  

ケンは、キラシャに対して言い訳を始めた。

 

「マイクは、女の子を誘うのがヘタなンだ。今日来た転校生に遊びに行こうなンて、気が早いよ。

 

だいたい、サリーとエミリが許すわけがない。マイクはあいつらのアイドルなンだ。

 

オレがなンとかするから、今度の休日は海洋牧場に決定だよ!」

 

 

サリーもエミリもキラシャの遊び仲間。

 

マイクが転校して来てから、マイクの妙なMFiの言葉に笑いコケながら、この2人が正しい発音を教えた。  

 

このエリアには珍しく、マイクはプーさんのように太っている。おかげで、転校して来てから、女の子には妙にかわいがられていた。

 

『フン。どうせケンが知恵出したンでしょ…? 

 

それくらい、長い付き合いだからわかってるよ。

 

ケンってば、自分で女の子に話しかけて、すぐ調子に乗ってイヤがられるじゃない。

 

まったく…』

 

きれいな転校生を目の前にしたとたん、ケンやマイクまでが、女の子への競争心に燃えてしまったようだ。

 

キラシャは、男の子の心変わりの早さにあきれてしまった。 

 

でも…

 

タケルがいなくなってから、ケンは前と変わらずキラシャの良い友達でいてくれた。

 

他の子は、平気でイジメに加わってたのに…。

 

オリン・ゲームだって、ケンとマイクが同じチームに入れてくれたから、キラシャもこうやって、やる気を取り戻せたのだ。

 

ここは、敬愛なるケンとマイクを立てることにした。  

 

「それじゃあ。いい?

 

今日のオリン・ゲームで、タイムが30位以内に入ったら、海洋牧場に誘ってみる。

 

それがダメでも、次はどっか一緒に行こうって誘ってみるから、がンばってね」

 

 

マイクとケンは喜んで、OKの合図をした。  

 

「あ、それと、次の予定はどこでもいいケド、サリーとエミリはイッショでいい?」 

 

キラシャがたずねると、マイクはエーッと顔をしかめながら、力なくうなずいた。

 

2005-02-27

2.タケルの秘密

 

その昔、「宇宙大作戦」というアメリカのテレビドラマと映画があったのを知っているだろうか。

 

あのバルカン人は、耳の上がツンととがっていて、地球人にはない特殊な能力を持っている。

 

地球以外の場所で暮らしていると、その場所に適応した体形や能力を持って、生きてゆくようになるのかもしれない。

 

それをくわしく調査するための医療研究者が、たくさん船に乗り込んでいた。

 

タケルの父トオルは、耳専門の医療技師。

 

火星で発生する、聴感覚の変異についての研究を担当する。

 

母のミリもその助手として働くために、耳を含めた皮膚に関する医療の資格を取っている。

 

トオルは、遺伝的な障害で、子供のころからだんだん耳が聞こえなくなっていた。

 

ミリも突然の大きな地震で、壁に激しく頭を打ち、耳が聞こえない時期があった。今でも、急に耳鳴りがして、聞こえづらいことがある。

 

耳に障害を持つ両親にとって、2人が結婚を決めてから、長年の夢を実現するための移住だった。

 

2人とも、新しいピコ・マシンの開発によって、普段は他の人と変わりのない生活を送っていた。

 

それでも、100%聞こえているわけではない。

 

タケルの場合、トオルの遺伝を受け継いでいたが、小さいころからトオルの開発したピコ・マシンを注入していたから、自分の生活に何の不便も感じたことがなかった。

 

キラシャや周りの子供達も、タケルがごく普通に生活していたので、耳の病気が問題になるなんて、誰も想像もしなかったのだ。

 

しかし、パスボーで活躍していたタケルは、なぜ両親と一緒に火星へ行くのだろう?

 

自分の思うようにならないと、すぐイライラして人やものに当たってしまうタケルは、人と協調して学ぶということが苦手だ。  

 

タケルが周りに騒がれるほどパスボーの才能に目覚め、自分の活躍を鼻高々に自慢するようになった頃、タケルの変調に気づいたトオルは、こう告げた。  

 

「君がパスボーを続けることに、そろそろ限界が来ているかもしれない」

 

タケルには、すぐには理解できない言葉だった。

 

なんとなく、音や人の声がかすれて聞こえるのは確かだった。でも、パスボーができないなんて信じられない。

 

納得できないタケルは、両親と一緒にホスピタルに行き、自分の耳が今後どうなるのかをシミュレーションしてもらった。

 

担当の医療技師は、パスボーのコート上で響くコールや歓声、騒音のような激しい音楽を毎日聞いていることが、タケルの耳の機能を低下させていると伝えた。

 

遺伝的な要素もあって、これから半年足らずの間に、タケルの聴力は急激に衰えるとも。

 

タケルの聴力が、何%か減っただけでも、今までのようなすばやい動きはできないし、パスボーの得点のキーパーソンとしての活躍は望めない。

 

本当は、研究を続けたい両親だけが火星に行き、研究に成果が現われたらタケルを呼び寄せるはずだった。

 

しかし、このままだと大好きなパスボーができなくなるという現実と、いつも自分の味方になって勇気付けてくれる両親が、ずっと自分から離れた所にいるという不安。

 

負けず嫌いで、人に自分の弱い所を見せることのできないタケルには、そんな毎日が耐えられそうになかった。 

 

『火星に行けば、耳が聞こえるより、もっとすごい感覚が生まれるかもしれない』   

 

それが、タケルの火星を目指す理由だ。 

 

しかし、時が流れるのが日に日に長く感じられる。

 

火星に向かって行く宇宙船の中で、タケルのひとりぼっちのガマン大会が続いた。

 

2005-03-05

3.クラスの仲間

 

オリンの試合が始まる前に、キラシャと海洋牧場へ一緒に行く予定の、学習ルームの仲間のことを紹介しておこう。

 

パスボーチームでは、タケルの抜けた後、シューターとしてがんばっているケン。

 

ケンは血のつながった両親ではなく、登録されていた人の中から選ばれたおじさんが保護者だ。

 

でも、気が合わなくて、しょっちゅうグチをこぼしている。

 

ケンは両親ともあったことがないし、自分の名前も誰につけられたのかわからない。

 

親がわからない子は、上級生にイジられやすいので、キラシャがケンを励まそうと、おじいさんの所に誘った。

 

ケンは、キラシャとおじいさんの話の世界に入り込み、何度も話の続きを聞きに行くようになった。

 

最近では、キラシャもおじいさんの所へ行くのがおっくうになり、ケンがひとりで会いに行くこともあった。

 

キラシャのおじいさんは、休日に子供達を集めては、海の冒険話を子供達に聞かせてやっている。

 

その中でも、おじいさんの話す外海の世界に一番関心を持っていて、話の続きを催促するケン。

 

おじいさんの方も、ケンのことを誰よりかわいがってやっていた。

 

だから…ではないようだが、ケンはキラシャの方も気になるらしい。

 

タケルがいない今は、自分がキラシャのナイトにならなくちゃと、張り切っているようだ。

 

 

マイクも、複雑な生い立ちだ。

 

両親はマイクが生まれて、すぐに離婚している。

 

植物学者の父親と一緒に、戦争をしているエリアを避けながら、転校を繰り返していた。

 

食べ物に心配のないエリアばかり移住していたので、いつの間にか縦も横も大きく成長してしまったようだ。

 

少し甘えん坊のマイクだが、別れた母親はフリーダム・エリア出身で、コズミック防衛軍のパイロット。

 

マイクも、将来はカッコいいパイロットを目指しているが、それでもおやつをポケットから取り出しては、口を動かすのが習慣になっている。

 

そのおやつは、いつも途切れることなく、マイクの母親から送られている。

 

 

タケルと口ゲンカを繰り返していたヒロは、宇宙考古学が趣味で、将来を期待されるような技術者を目指している。

 

ヒロの頭の中には、地球より千年も文明が進んだ星、フィラが存在しているらしい。

 

すべてが合理的なシステムのフィラでは、パスボー・ゲームみたいなエネルギーの無駄使いで、非効率的なゲームはあり得ないと、ヒロは時々タケルをからかっていた。

 

オリン・ゲームでも、ヒロは無駄なエネルギーを使って、他のチームと早さを競争するよりも、エネルギーを使わず、最も効率的な移動にこだわりを持っている。

 

ヒロは、今日も運動が苦手で、自分の説に耳を傾けてくれる従順な仲間を選び、ボックスを最大限に使った、最短コースでゴールするのが目的で参加する。

 

 

男子のリーダーのダンは、父親もおじいさんも裁判官。ジュードーやレスリングも習っているので、スポーツは得意だが、ケンカも強い。

 

ケンカが過ぎて、子供裁判のお世話になることも多いが、キチンと自分のケンカの理由を説明して、罰もまじめに受けているので、先生方からの評判は良い。

 

でも、裏では親分を気取って、子分にした子をアゴで使うこともあるようだ。

 

ケンやマイクも、以前からダン好みのかわいい子に声をかけていたから、パールだって、ダンから誘うよう指図されたのかもしれない。

 

 

クリエート・エリア生まれの、ちょっと独特な雰囲気を持つジョン。

 

やさしい男の子だから、かなりイジメを受けたらしく、本人の希望でこのエリアにやって来た。

 

彼はアニメの映画監督になるのが夢で、授業中も先生から注意を受けない限り、アニメ作りに熱中するマイペースな男の子だ。

 

クリエート・エリアは、いろんなアイデアを商品化する人が多いので、どの分野も競争率が高い。

 

子供のアイデアを盗んで、商品化して儲けようとする人もいるが、作品の著作権や特許権については、あまり保護されていないようだ。

 

ジョンも、自分の作品を無断で、他の人の作品として使われてしまったことがあるらしい。だが、被害を訴えても、扱う件数が多すぎるのか、エリア警察は何もしてくれない。

 

MFiエリアには、子供裁判があると聞いて、自分や自分の作品を保護してもらえるかもと思って、やってきたようだ。

 

ただ、イジメに関しては、子供裁判で訴えることができるが、著作権などの問題は、MFiエリアでも、まだ子供裁判で保護できるルールと対策が十分ではないようだ。

 

MFiエリアにも、自分でゲームやアニメ作品を作って、スクール卒業後のカレッジへの進学や、その後の活動資金に充てたいと頑張っている子供達がいる。

 

だが、競争が激しくて、アイデアの盗み合いは日常茶飯事だ。

 

子供裁判でも、アイデアを盗まれた子から訴えがあると、著作権などの権利が認められたら、アイデアを盗んだ子には罰を与え、報酬を返還するよう説得をしている。

 

ただ、人からアイデアを盗むような子は、報酬を自分の遊びたいことにすぐ使ってしまい、訴えた子に返還される確率は低い。

 

だから、報酬を与えたゲームやアニメ会社などと交渉して、本来の権利を持つ子に、改めて報酬を渡すよう、ルール・ラボで新しいルール作りを検討している。

 

これによって、自分の作品と偽って報酬を得た子は、スクールを卒業するまでに返還しないと、報酬をくれた会社から、詐欺で訴えられることになる。

 

また、本人に無断でコピーされた作品とわかっていて、会社の方が黙って使用していた時は、子供裁判で発覚すると、すぐに本格的な裁判に移行して、会社が訴えられることになる。

 

才能のある子供の権利を、大人社会が奪っている事実を見過ごしにしていると、そのエリアにいる魅力を失って、権利を大事にしてくれるエリアに才能という財産が流れ出てしまう。

 

他のエリアで才能を認められた子供の過去の作品が、他の子の作品として盗用されている事実を知った所属の会社が、権利の復権を裁判にかけて、盗用を黙認した会社と争うこともある。

 

さて、今日のオリン・ゲームで、ヒロから同じチームでやらないかと誘われたジョンだが、今は次のアニメ作品の構想で頭がいっぱいらしく、ゲームは見学することに決めたらしい。

 

スポーツも勉強も得意で、キラシャよりボーイッシュな、リーダー的存在のマキ。

 

性格があっさりしているから、ケンカしても、タケルみたいにすぐ仲直りできるし、キラシャとはいろんなスポーツで競い合えるライバルだ。

 

オリン・ゲームの中級レベルは3人1組で、男女の区別はない。

 

キラシャとタケルがコンビを組むと、タイムだけはいつも上位なので、スポーツの指導者を目指すマキも、一緒のチームを組んでいた。

 

マキは、チェック地点の問題の正解率も高いので、個人成績ではトップクラスの常連だ。

 

チーム・リーダーのタケルがいなくなってからは、マキはキラシャとは組まず、キラシャと同じ部屋のコニーとカシューと組んでいる。

 

彼女らはいとこ同士だ。

 

朝のトレーニングの時も、「今日はライバルだから、チーム記録も負けないよ!」とキラシャに声をかけて来た。

 

 

マギィとジョディの2人は、タケルがいなくなったら、別のスポーツの選手がカッコいいと言って騒いでいる。

 

タケルとキラシャが最後に話したことが、周りに知れ渡るようになると…。

 

2人がキラシャに呪いのメールを送るよう、他の子にも強制し始めたが、キラシャはいっこうにめげる様子はなかった。

 

それに、タケルにいじわるなメールを出しても、まったく返事がなかったので、キラシャにも関心がなくなったようだ。

 

 

キラシャにとっては、タケルがそばにいないことの方がつらかったので、周りの女の子にイジメを受けても、逆に励みになっているように思えた。

 

『だって、タケルのこと本当に好きだったもン。タケルも絶対忘れないって言ってたし…。会えないのは、ホントつらいけどね…』

 

 

小さいころから一緒だったサリーやエミリは、キラシャにどんなことがあっても、仲間ハズレなんてしなかったし、いつもと同じように声をかけてくれた。

 

ケンとマイクは、他の男の子との友情より、キラシャを遊び相手に選んでくれたし、オリンのチームにも入れてくれた。

 

『やさしい友達に感謝しなくっちゃ…』

 

 

マギィとジョディは、チアガールの子と3人でオリン・ゲームに出場するが、この2人の機嫌を損ねるようなことをしたら、その子は後でいやというほどイジメられる。

 

女の子のイジメは、怖いのだ。

 

休日に海洋牧場に行くのだって、キラシャは誘わなかったのだが、オリンが始まる前に、急に行きたくなったからと言って、参加を申し出て来た。

 

また、何かたくらんでいるんだろうかといやな予感がしたが、断る理由もなく、なるべく2人には気をつけようと、キラシャは思った。

 

 

サリーとエミリのコンビは、スポーツは苦手だけど、歌が好き。

 

2人で作った曲を一緒に演奏したり、歌ったりして楽しんでいる。

 

オリンでは、マイクと走りたがっていたが、キラシャにユズってくれたようだ。

 

上級コースの恋愛学で、誰をパートナーに選ぶのか、興味が高まる時期でもある。

 

今回は、隣のクラスでちょっとイイ感じの男の子に、2人がかりで誘い込み、レースに参加しながら、パートナーの適性を確かめようとするサリーとエミリ。

 

父親の仕事の都合で転校して来たマイクは、また他のエリアに転校するかもしれないから、2人ともパートナーの対象から外している。

 

いつまでも、マイクをからかって、おもしろがっている場合ではないのだろう。

 

 

また、海洋牧場へは一緒に行かないが、この2人は同じクラスでも、ちょっと変わった存在なので、紹介しておこう。

 

オリエント・エリアから来た12歳のカイと、初級コースから編入して来た7歳のニール。

 

  

カイは、すんなりとクラスに溶け込んだマイクと違って、同じエリアの言葉の通じる仲間とは、普通にしゃべっているが、他のエリアの子だと共通語か、片言のMFi語で、少ししか話さない。

 

一方のニールは、同じ年の子供達と学習するより、自分の研究を早く始めたいという希望があって、この中級コースを選んだ。   

 

2人とも、同じクラスに長く居続けるつもりはない。  

 

カイの方は、オリエント・エリアで暴動が起きる前に、家族とMFiエリアへたどり着いたのだが、規律正しすぎる生活や、親切すぎるMフォンになじめない。

 

カイ本人は、移民クラスに行きたかったようだが、家族がこのエリアに定住したいと考えていたので、しぶしぶそれに従っているという感じだ。

 

 

一方のニールは、女の子達のかわいいマスコット。

 

マイクがプーさんなら、ニールは、ピカチュウだろうか?

 

好奇心の強い女の子は、自分よりうんと年下で、まだまだかわいい顔のニールが、難しいプログラムに取り組んでいるのが、不思議でしょうがないらしい。

 

先生の話によると、ニールほどの知能があれば、すぐにでも上級コースに進んで良いのだが、上級コースの大半は、ディベート形式の授業や実地訓練が多い。

 

だから、まず知識を吸収するという点では、中級コースに所属するのが一番なのだ。

 

  

しかし、ニールは、いったいどんな研究をしたいのか?

 

時々、それがクラス中の関心事となる。

 

 

高度な知能を持つ生徒では、先輩格のヒロ。

 

彼が言うには、今よりもっと効率的なエネルギーの開発方法があるらしいとのこと。

 

これ以上は、言ってもわからないし、ひょっとすると、これですごい金もうけになるから、秘密にしといた方がいいのかもしれない、とも付け加えた。

 

未来の技術は、未来の子供達によって、思いもよらないような新しい進歩を遂げるのだ。

 

ニールがこのクラスに編入してから、生徒は感化されたように、授業中に先生を困らせるような、難しい質問をするようになった。

 

キラシャのクラスを担当する先生達は、生徒の突拍子もない質問に、少々戸惑いながら、Mフォンを最大限に使った説明に追われた。

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