未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第9章 それぞれの想い ④⑤

2021-08-14 16:56:47 | 未来記

2008-01-27

4.学習ルーム

 

地球上には、未来においても、四季は巡っている。このエリアでは、一番寒い時期にあたるが、この時期、ドームの街は華やいでいる。

 

愛の日ヴァレンタイン・デーも近い、中級コース3年生のキラシャの学習ルーム。恋人がいる人にとっては、とってもハッピーな日。

 

なのにここでは、好きな人だけでなくお世話になった人へ、お礼としてプレゼントを渡すのが、習慣なのだ。

 

他のエリアから来た人には、ちょっと不思議な習慣かもしれない。

 

次の学年に進級できたら、いよいよ上級コースへの進級テストが待っている。

 

もちろん合格したら、恋愛学を受けるために、ダイジなパートナーも選ばなければならない。

 

そろそろ、子供たちもパートナー選びに興味が移るころなのだが、恋愛学にはさまざまなケースが認められている。

 

飛び級してきた7歳のニールは、上級コースに進級しても、恋愛学はパスできる。

 

彼は必要な単位だけとって、恋愛学は自分の研究が落ち着いて出来るようになってから、受けようと思っているようだ。

 

また、スポーツ選手には恋愛学は不要だという監督がいて、本人の気持ちとは関係なく、恋愛学を受けないで良い生徒もいる。

 

社会人になれば、受講する機会もあるが、好きな子がいる場合は、スポーツを取るか、恋愛学を取るかで、悩む生徒も大勢いるらしい。

 

成績優秀なヒロの場合、すぐにでもわが研究所に来て欲しいという要望が、何件かスクールに届いているのだが、ヒロはいたってマイペース。

 

タケルと大げんかして、上級への飛び級のチャンスを失ってからは、スクールは普通に卒業したいというのが、口癖になってしまった。

 

もちろん、恋愛学はまじめに受ける気で、誰をパートナーにするかは、模索中だ。

 

ジョンは、パールをパートナーにしようとがんばっている。

 

パールがいつホスピタルから退院するかわからないが、退院後もMFiエリアに残って上級コースへ進級してもらえるよう、説得するつもりだ。

 

パールがジョンをパートナーに選ぶかどうかは、神のみぞ知ることだが、ジョンはあきらめずにメールを毎日送り続けている。

 

ダンは、進級テストが終わった後で行われる、オリン・ゲームのエリア大会に向けて、イメージトレーニングを続けながら、テスト勉強の追い込みにかかっている。

 

クラスで委員長をしているダンは、女の子がイジメられているのを見かけると、すぐにイジメる相手をやっつけようとするタイプだ。

 

おかげで、ヴァレンタイン・デーには毎年のように、お義理ではあるけど、たくさんのプレゼントをもらっている。

 

ダンは、好みの女の子だとうれしそうに受け取るが、お返しが大変なので、もらうのを断ることもある。

 

断られた子が目の前で泣き出したり、怒りだしたりすることもあって、ダンはそのたびに、女の子の扱いの難しさに困って、誰をパートナーにしようかと思案中だ。

 

マイクとケンは、『進級テストなンて、合格点さえ取ればいいンだ! 』と割り切って、Mフォンでゲーム形式の問題を見つけては、解きまくっている。

 

ケンはいつも調子が良いから、女の子から話しかけられやすいが、ヴァレンタイデーにプレゼントをもらえるのは、キラシャも含めて片手で数えるほど。

 

それでも、お返しのことを考えると、ケンとしてはそんなもンさと、割り切っているらしい。

 

パートナーはいまだに探し中だが、キラシャの気が変わって、自分にもチャンスが巡ってくることを期待して待っている。

 

背が高くて太めのマイクは、スクール内でもかなり目立っている。

 

女の子にはモテるのだが、優柔不断で自分の気持ちを言い出せないところがある。

 

パールに対しては、素直に自分の気持ちを表現しているが、ジョンという強敵な競争相手がいるので、前途多難だ。

 

最近、マイクはコズミック防衛軍からの退職を考えているママから、フリーダム・エリアで一緒に暮らさないかと、相談のメールを受け取っていた。

 

それをパパにも言えず、誰にも相談できずに、ひとりで悩みを抱えていた。

 

さて、女の子はというと、マキ、サリーとエミリなど、日頃から成績の良い子も、進級テストに少しプレッシャーを感じながら、勉強に取り組んでいる。

 

3人とも、恋愛学のパートナーがまだ見つからないので、少し理想のレベルを下げて、プレゼントを渡す相手を決めているが、うまく渡せるか心配だ。

 

サリーとエミリは、マイクに特別大きなクマのチョコを用意している。マイクがいきなり転校すると言ったら、2人で大泣きし始めるかもしれない。

 

マギィとジョディも、テスト勉強は熱心だ。クラブ仲間とのおしゃべりを楽しみながら、合格点を目指している。

 

この時期は女の子にとって、愛の告白が出来るチャンスなのだ。来年になると競争が激しくなるので、好きな人がいたら今のうちに手をつけておきたい。

 

しかし、マギィとジョディに目をつけられた男の子は気の毒だ。

 

いったん付き合うと、1から10まで言うことを聞かないと、機嫌を損ねてしまい、気が済むまで悪口やいじわるなメールが延々と続くのだ。

 

そんな学習クラスの中で、進級が危ぶまれているのは、転校してきたばかりのパールを除くと、女子はキラシャ。男子はカイ。

 

他の生徒は、次の学年が始まるまでに、他のエリアへ移住を決めている子ばかりだ。

 

わずかな期間同じクラスにいるだけでも、多少の情が移るのだから、幼いころから一緒の子供たちは、お互いの進級が気になる。

 

キラシャはいればいたでうるさいが、いないとクラスが妙に静かな気がする。たまには、キラシャのすっとんきょうな大声を聞かないと、何かさびしい。

 

でも、キラシャのことだ。ありあまるエネルギーを全開にして、クラスに戻ってくるだろう。仲間は何となく、そう思っていた。

 

しかし、カイは他のエリアへの移住を家族が断念してからというもの、MFiエリアでの生活に希望が持てず、やる気を失っているようだ。

 

管理の厳しさ。慣れないことへの戸惑い。居心地の悪さ。

 

それは、本人でしかわからないことだから、どうしようもない。

 

カイは先生の質問に見当違いの答えを言って、みんなに大笑いされても、ふてくされた顔をするだけ。

 

相変わらずクラスに溶け込もうとしないカイに、周りはいらだちを感じていた。

 

2008-02-03

5.ケンカ騒ぎ

 

明日がヴァレンタインデー。

 

そして1週間後には進級テストが始まる中で、スクールの中では、相変わらず子供たちのにぎやかな声が、廊下に響いていた。

 

食堂での夕食が済んだ後、カイはいつものように、オリエント・エリアの仲間と夢中で話をしながら、廊下を歩いていた。

 

その前方で、同じオリエント・エリアだが、カイのグループとは仲の悪いグループの1人、素行不良のゼノンが、仲間たちと廊下をふさぐようにたむろしていた。

 

ゼノンは15歳なのだが、授業もまじめに受けないで遊んでいるので、上級コースに入れず、中級コースの4年生に入れられていた。

 

親戚が皇族だとかで、ドームに多額の寄付があったからか、自分のクラスにもめったに顔を見せないが、悪さをしても嫌がらせ程度だったので、スクールの先生達も黙認していた。

 

チルドレンズ・ハウスの中で、ゼノンのグループの縄張りができていた。カイはゼノンのそばからおとなしく立ち去ろうと、自然と顔を避けて、素通りしようとした。

 

ところが、それがあだとなったのか、ゼノンがさっと出した足に気づかず、カイは足を払われてそのままガッターンと倒れ、床に顔を打ち付けてしまったのだ。

 

カイが倒れた音がした後、顔から流れる血に気がついた、周りの女の子たちの、キャーと叫ぶ声が響いた。

 

すぐ近くにいたパトロール隊員が1人駆けつけたが、カイの仲間とゼノンの仲間は、お互いに相当な敵意を感じていて、一発触発の危機にあったようだ。

 

倒れたカイを見て、あざ笑っているゼノンに気がつき、パトロール隊員が近づいてゆくと、カイの仲間があだ討ちとばかりに、そのパトロール隊員を押しのけて、ゼノンに殴りかかった。

 

それを合図に、近くにいた仲間たちも、敵同士が組になって殴り合いを始めてしまった。

 

パトロール隊員は、あわてて緊急のサイレンを鳴らし、他の隊員を待ちながら、生徒指導の担当の先生に連絡を取った。

 

しかし、集団で殴り合いを始めると、男の子たちは収集がつかないくらい、団子の状態であばれまくっている。

 

やって来た先生もなす術がなく、急いでホスピタルの救急隊員を呼んだ。

 

暴れる生徒を捕まえては、睡眠マシンを注入し、次々に動かなくなった生徒を担架でホスピタルへと運んだ。

 

ようやくスクールは静かさを取り戻したが、廊下にはあちこちに血が飛んでいた。調査のために残ったパトロール隊員の顔には殴られた傷もあり、手にも血がにじんでいた。

 

ケンカに関しては、このスクールが始まって以来の、最悪の事態だ。

 

このケンカ騒ぎはすぐに外部へと伝わり、校長先生を始め先生達は、ニュースにも取り上げられて、マスコミへの対応や、苦情の対応に追われた。

 

しかも、スクールの先生全員が、深夜まで続けた会議の結果、進級テスト前の大切なこの時期に、全クラス、ロングホームルームで反省会を行うことに決まった。

 

反省会の課題は、「どうしたら、チルドレンズ・ハウスで仲良く暮らせるか…?」

 

子供たちにとっては、永遠のテーマであるとともに、どんな良い意見が発言されたとしても、決して問題の解決にはならない…と、誰もが感じていることである。

 

それでも、スクールの行事にまじめに参加しなければ、進級テストの判定に差し支える。

 

「あいつらは、なんでこんな時に、あんな騒動を起こしたんだ…」

 

そんなボヤキ声が、あちこちから聞こえた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする