未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第7章 与えられた命 ③④

2021-08-17 16:47:13 | 未来記

2007-01-14

3.オパールおばさん(2)

 

裁判は、さすがに私の生命コードまで奪われることはなかったけれど、母の主張に押されっぱなしで、太刀打ちできなかった。

 

私には、大人の裁判に対する反論の仕方もわからないし、育ててもらった母に立ち向かう勇気もなかったから…。

 

とはいえ、まだカレッジの途中だった私には、何の資格もなかったから、罰金をどうやって払えばいいのかもわからなくて、途方にくれていた。

 

 

『君が自分の母親から訴えられたことは、実に悲しいことかもしれない。

 

でも、世の中には自分の母親もわからず、ひとりで悩みを抱えて生きている人がたくさんいる。

 

君のお姉さんも、自分の母親に頼れず、きっとつらい思いをしていると思う。

 

つらいのは、君だけじゃない。そう思えば、少しは気が楽にならないか?

 

君がまじめに働く気があるのなら、自立更生システムを履修して、働ける場所を見つけなさい』

 

裁判に負けた人への、心療ケアでこんなアドバイスを受けた私は、そのシステムを履修しながら、担当のマネージャーから仕事を紹介してもらい、中央管理局の会議場近くのレストランで働いた。

 

でもね。

 

みんな楽しそうに食事をしているのを見て、毎日働いてばかりいるのは、正直つらかったわ。

 

楽しい催しになんて、ほとんど行けなかったし…。

 

もちろん、罰金を払い終わったら、自分の生活があるから、医療看護師を目指して資格を取る勉強も続けていたのよ。

 

そんな時、突然ものすごい大地震が起きたの。

 

しかも、地震の予知はあったはずなのに、予報が流されなかった。

 

 

たくさんの人が、ガタガタに揺れるドームの中で、右往左往していた。

 

救助隊もあちこちの通路がふさがれて、救助を待つ人達のいる場所までたどり着けず、被害は増えるばかり…。

 

私は、ケガで動けない人をホスピタルへ運ぶのに必死だった。

 

たまたま、ホスピタルでドリンクを配っていたリォンという若い男の人と、出会った。

 

最初は、社員の一人だと思って、気軽にドリンクを分けてくださいと声をかけたら、人なつっこく話しかけてきたの。

 

あとで、社長の息子ってわかったときは、びっくりしたけど、

 

『ボクは営業に向いてるから、誰か代わりに社長してくれる人いないかな』って、苦笑いしてた。

 

エリアの管理局に対しても、ドームの安全性とその対策について、信頼が失われていたときでもあったのよ。

 

明日が、どうなるかわからない。

 

自分達の生活や未来の地球について、夜通し話し込んだこともあった。

 

そのとき、私は正直にクローンだと、リォンに話してしまったの。

 

だって、リォンも正直そうな人だったから、私も普通の人間だって、ウソをつく気になれなかったのよ。

 

そのとき、リォンは顔色も変えずに、私の事情を理解してくれた。

 

『ボクは君が何であろうと、君のことステキだと思ってる。

 

だって、君ほど必死に人を助けようとしている人は、見たことがない』って。

 

その上、『罰金はボクが立て替えるから、君が望むのなら、ボクが秘書として雇うよ』ってことになったの。

 

彼は、私の恩人でもあり、生まれて初めて人を信頼しようと思った、大事な人…。

 

そうね。キラシャは、スクールでドリンクを飲んでいるでしょ?」   

 

「はい。毎食飲ンでます。

 

いろんな味のドリンクがあって、好きなものを選べるから迷うこともあるけど、

 

どれもオイシィです」  

 

「そう、良かった。リォンのお父さんは、そのドリンクを作る会社の社長だったの。

 

私がリォンの秘書になったころ、チルドレンズ・ハウスの食事は、今よりもっと味気なかったわ。

 

だから、私は『子供が飲むドリンクを、楽しんで飲めるようにしたらどう?』

 

とリォンに提案したの。

 

リォンは『グッドアイデアだよ』と言って、その提案を受け入れてくれた。

 

そのころは、管理局も栄養ばかりにこだわって、それほどたくさんの味はなかったのよ。

 

それで、休日にいろんなドリンクを配って、反応をみたら、けっこう人気が出てきたの。

 

そのうち、チルドレンズ・ハウスでも飲ませてやりたいという保護者の意見もあって、

 

うちの会社のドリンクが採用されるようになった…」

 

「そうなんだ。あたし、パンプキン・プリン味とアーモンド・キャラメル味が好き。

 

遊んで汗が出た時は、メロン・クリームソーダだけど…」  

 

おばさんは、うれしそうに微笑んで、キラシャを見つめた。  

 

「良かった。こんな風に喜んでもらえると、苦労した甲斐があったわ。

 

安全で、しかも栄養が取れる材料をどこからいくらで仕入れるか。

 

配合の仕方とか、取引のこととか…、とにかく本当にたいへんだった。

 

でも、力を入れたドリンクが、いろんなエリアで採用されたおかげで、会社の業績がどんどん上がって行ったわ。

 

そのころが、私にとって一番生きがいのある日々だった。   

 

そして、社長になったリォンが、私に言ったの。

 

人生のパートナーとして、2人の子供を作ろうって。  

 

でも、私は、すぐに返事はできなかった。

 

…だって、子供が大きくなった時、私のようなクローンの子であることに、悩む時期がきっと来る。

 

彼はそんな私に、クローンであるからこそ、自分の子供が成長することを、普通の人とは違う気持ちで見守ってやれるんじゃないか、と言ってくれた。  

 

リォンは自分から進んで管理局に申請し、お金や時間をかけて、ようやく許可をもらったの。

 

子供はたった1人だけど、2人の愛の結晶よ。

 

どんなに仕事で忙しい思いをしても、毎日子供の成長を見るたびにホッとしたの。   

 

だけど、幸せな生活はそれほど長く続かなかった。  

 

あの大流星群が突然現れて、混乱からドームの破壊活動も始まった。

 

せっかく、うちのドリンクが世界で認められると思ったころ、急に材料が手に入らなくなった。

 

リォンは材料を探しに、あちこちのエリアへ行き、突然、行方不明に…。

 

それ以来、私には何の連絡もないの…」

 

おばさんは遠い目をして涙を浮かべた。

 

『とても大切な人だったンだね…』

 

キラシャも、遠いタケルのことを想って、胸がキュンとなった。

 

「…ごめんなさいね。

 

でも、私は今でも信じているの。彼は必ず生きていて、私に会いに戻ってくれるって…。

 

彼を信じたいから、ずっと探さずにいたけれど、会社は彼が帰ってくるまで、絶対つぶすわけには行かない。

 

おばさんはずっとひとりで責任を負って、いくつもの金融会社と渡り合い、大流星群で地球が滅亡する恐怖と戦った。

 

そうね。あれは、大流星群が去った後だった。

 

母の後見人を通じて、母が危篤という連絡を受けたの。

 

もうあの裁判で、親子の縁は切れたと思っていたから、私にも相続の権利があると聞いて、びっくりしたわ。

 

私にとって、母との思い出はつらいものでしかなかったし、私に財産を残してくれるなんて、思いもしなかった。

 

不安な気持ちのまま、母の待つホスピタルへと行ってみた。   

 

そしたら、母は私を姉と思って、素直に私を受け入れ、『ありがとう、ありがとう』と言って、ルビーの名を呼んだ。

 

私は文句も言えず、姉になりきって母の最後の世話をしたわ。でも、ありがたいことに、母の後見人は、私が姉の分の相続財産も預かるように話がついていると言った。

 

もっとも私の名前は、一度も呼ばないまま、母は満足した顔でこの世を去った…」   

 

おばさんの話は続いた。   

 

「母は女優をしていた時に、いろんな人からのプレゼントをもらっていて、その財産を分けてもらえたおかげで、私は念願だったドリンクの会社を続けられたの。

 

もちろん、姉のことはずっと探していたのよ。母は、きっと姉の方に、自分の財産を受け取って欲しかったでしょうから。

 

アフカはドームの建設が進んでないと聞いていたから、別のエリアに行ってしまったのかと、ずいぶんいろんなエリアに調査を依頼したの。

 

でも、姉の居場所がわからない。

 

それが突然、ホスピタルから、ケガをしたパールを受け入れると連絡があった。

 

姉が子供に付き添えないので、代わりに妹の私に、保護者になるよう伝えてほしいと言ったとか。

 

私を妹と思うなら、自分の子供がかわいいのなら、自分も帰ってくればいいじゃないと思った。

 

母が亡くなるまで、姉に対してどんなつらい思いで過ごしていたのか、伝えたかったし…。

 

だけど、ひどいヤケドを負ったパールを見た時、叔母として、いえ人間として、何かせずにいられなかった。   

 

そして、やっとこの子の口から、アフカで姉がどんな暮らしをして来たのかがわかったの。

 

何年も離れていた姉の気持ちが、痛いほど伝わって来た」   

 

おばさんの目に、再び涙が浮かんでいた。  

 

「アフカの人は、決して戦争など望んでいない…。

 

いつだって、どこの戦争だって、そうなのよ。

 

戦争の犠牲者は、一番平和を望んでいる人達なの。

 

キラシャにも、いつかわかってもらえるといいのだけど…」

 

キラシャは、何も言えず、おばさんの話を聞くことしかできなかった。 

 

2007-02-11

4.失われた意志

 

エリック・マグナー。

 

彼は、人々の心に犠牲の尊さと、人を助けるための勇気を必死で訴えた。

 

ところが、コズミック・ユニオンの新体制によって、ドーム社会に莫大な損害を与えた罪人にされてしまっていた。

 

そして、地球を遠く離れた宇宙空間で、10年の服役を終えた今。

 

彼を慕う防衛軍の退役軍人たちの保護を受け、彼は密かに地球に戻っていた。

 

しかし、権威を失い、罪人として過ごした年月は、彼の姿をすっかり変えてしまった。

 

今の彼に、昔の面影はない。

 

そんな彼に、面会を申し出る人物がいた。

 

面会人は、部屋に通されると、ベッドに横たわったままのエリック氏に向かい、ていねいに敬礼をして、緊張した面持ちで話し始めた。

 

「初めまして、閣下。私は、オビ=ワン・ケノービー。ジェダイの騎士です」

 

「ハハハ…。

 

君はオビ=ワン・ケノービーではなく、デスラーに操られたルーク・スカイウォーカーの父親、

 

ダース・ベイダーではないのかね…」

 

軍人の堅苦しいあいさつに慣れていたエリック氏は、緊張した空気の中で、軽いジョークを口にする、マシン人間を興味深げにながめた。

 

エリック氏専用のドームに入ってくる人物は、何台も設置された防犯カメラと、防衛軍の兵士によって厳重に見張られている。

 

面会を申し込んだ人物は、入室の際に危険物の持込をチェックされた上、その背後には銃を構えた兵士がついている。

 

「残念ながら、ダース・ベイダーのような怪奇性を私は持ち合わせておりません。怖くて後ろを振り返って見る余裕もないほどです。

 

私は流星群が襲来した時に、エリア警備隊へ強制召集され、コズミック防衛軍の訓練生にも引っ張られたのですが…、

 

軍のあまりの厳しさに、入隊を断念したくらいなので…。

 

それでも、閣下のことをずっと尊敬しておりました。

 

この厳重な警備の中、あなたに会おうとした勇気を買って、どうか私のことをオビ=ワン・ケノービーと呼んでください。

 

このとおり身体だけは頑丈なので、いろんなエリアで仕事を拾い、生き永らえています」

 

「ようこそ。こんな私を見て、がっかりされただろう。こんな私に、何か力になるようなことがあるのだろうか」

 

オビ=ワンと名乗る男は、透明な強力ガラスでおおわれているエリック氏のカプセルベッドに向かって、急いで話を続けた。

 

「時間もあまりないので、率直に申し上げます。私は、あなたがどう思っておられるのかが、知りたいのです。

 

正義感の強いあなたが、生まれ育ったアフカ・エリアの終わらない戦争について、それをただ見過ごしにしておられるのか、どうなのか…」

 

「そうか、わかった。君はそんなことをわざわざ…。

 

しかし、君は今の私に何ができると思う? 

 

コズミック・ユニオンの情けで、刑期をたった10年で終えたばかりの、この老いぼれた私に、いったい何ができると言うのだ!」

 

急に語気を荒くして、エリックは思わず自分のベッドをたたいた。男の背後から、銃を持ちかえる音が、カシッと聞こえた。

 

男は、ゆっくりと自分には何の武器もないことを示し、両手を頭の後ろに上げたままで訴えるように言った。

 

「…どうか、昔のあなたに戻ってください。

 

あなた自身は、もう力はないと思っておられるかもしれないが、あなたを慕うのは私だけではありません。

 

大流星群に立ち向かうあなたの力強い言葉に、どれほど多くの人間が心を動かされたことか…。

 

そう、私達にとって、あなたの言葉はフォースだったのです」

 

「…しかし、逆に私の言葉を聞いたばかりに、命を落とした若者は多い。

 

人間同士の争いを避けるために、防衛軍の勇士達にも、助からないエリアへの救済を差し向けた。

 

この尊い犠牲に対しても、まったく償いができていないんだよ…」

 

「あなたが失った人への償いをしたいと言うのなら、これから犠牲になる人達をどうか助けてあげてください。

 

あなたの出身エリアの子供が、どんなひどい目に遭っているか。あなたにはよくわかっているはずだ。私も助けたいのです。あの子達を!」

 

「…どうも、君には権力の重さがよくわかっていないようだ。

 

一度権力を失ったものが、どんなにみじめなものでしかないか…。

 

ごらんのとおり、私には何の力もないのだ」

 

「でも、こうしてあなたは生きている。あなたを支える人達によって…。

 

今でも、あなたのフォースを崇拝する者がいっぱいいるんです!

 

そして、何の力もない私が、その人達の手引きによって、

 

こうしてあなたに面会することもできたのですから…」

 

 

「では、君は私にどうしたら良いと言うのかね…」

 

エリック氏は、途方にくれたような顔をして、その男の顔をじっと見つめた。

 

その男は、背後の警護兵に自分の胸ポケットから、シートを取り出すよう伝えた。

 

それは、ユニオン議会裏で使用されている、極秘連絡用のシートだった。

 

 

「そのシートの暗号を解く鍵は、『与えられた命の尊さを知る』です。

 

暗号解読の得意なあなたには、きっと解けるはずですね。

 

民間人の私にできることは、ここまでです。

 

未来の地球を救うため、

 

…どうか、固定観念にとらわれず、あなた自身のフォースを信じてください。

 

こちらの要望は側近の方に伝えてあります。

 

それが実現できるよう、後のことは、よろしくお願いします」

 

そう言い残して、マシン人間は部屋を出て行った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする