未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第5章 海洋牧場 ③④

2021-08-21 16:24:33 | 未来記

2005-12-18

3.1通のメール

 

タケルの乗った宇宙船は、途中でいくつかの宇宙ステーションに立ち寄り、一週間程度の停泊中に住民への検査機器を提供し、船の安全点検を行う。

 

いつ終わるともわからない、この船の長い旅に、タケルの気持ちは曇りがちだ。

 

気がつけば、宇宙船の中でもタケルは寡黙な少年として扱われ、浮いた存在になっていた。

 

地球のドームにいた時も、時々激しくカンシャクを起こすタケルには、それほどたくさんの友達がいたわけではない。

 

タケルの怒鳴り声に頭を抱えながらも、キラシャやケンが、気にせず声をかけてきたから、仲間として付き合うことができたのかもしれない。

 

いろんな女の子に声をかけられたが、キラシャのように誰とでも仲良くしていたわけではないし、タケルは自分から打ち解けようとする少年ではなかった。

 

そんなタケルのガマン大会のような日々が、ちょうどピークを迎えた時、マギィから送られてきた1通のメールが、タケルを逆上させてしまった。

 

内容は、こうである。

 

[タケル、元気?

 

キラシャ、海洋牧場のこと何か言ってた? 

 

最近は、別の子に夢中みたいよ。

 

ちょっと前まで、タケルばっかだったのにね。

 

どう、心配…? 

 

あたしも、ジョディと行ってみるわね。

 

何だか、面白いことになりそう…]

 

キラシャのメールは、確かに毎日受け取っていたし、海洋牧場に行くことも前から知っていた。

 

キラシャがそれを楽しみにしていることは、タケルにも十分伝わっていた。

 

このごろは、キラシャのメールを読むことが、タケルの楽しみになっていた。

 

しかし、それはキラシャが、タケルを一番大事に思ってくれると信じていたからだ。

 

タケルの心の中で、キラシャにつながっていた糸が、プツンと切れて、自分が遠くに飛ばされてゆくような気がした。

 

タケルは、気がつくと音声モードでマギィにメールを送っていた。

 

[オレはもう、キラシャとは何の関係もないンだ。

 

火星に行くのは、別の目的があるからだ。

 

地球にいたらできないこと、火星に行って実現してやるンだ。

 

オレはいつか火星で成功して、地球のみんなにザマーミロって言ってやる。

 

マギィ、おまえなんかにオレの気持ちがわかってたまるか!]

 

タケルが今まで心にためていたものが、一挙に爆発したのだ。

 

 

勢いで送信したものの、少し冷静になってくると、だんだん不安になってきた。

 

『キラシャ、愛してるって言ったじゃないか。オレがいたら、絶対、何百倍も楽しいのにって…。

 

マギーの言うこと、ホントなのか? キラシャがメールくれなかったら、オレ…』

 

2005-12-28

4.消えた2人

 

大流星群が地球を襲う以前に、このドームのそばで大きな地震が起こっていた。

 

そのときに、この海洋牧場の海底がぽっかり開いて、みごとな洞窟が現われた。

 

海洋牧場では、冒険好きの観光客目当てに、この洞窟への運航を行っている。

 

探検と言っても、管理のきびしいMFiエリアのことである。ボートで洞窟をくぐりながら、自然にできた岩の形や、珍しい生き物を紹介する程度だ。

  

このうわさは広く知られているのだが、洞窟の探査中にボートが行方不明になり、乗組員が帰って来ないこともあったとか。

 

それでも、怖いもの見たさに運行を要望する声が強く、ドーム管理局も資金稼ぎのために、慎重に運航を続けている。

 

キラシャを心配するキャップ爺も、潜水艦には乗らないよう注意していた。

 

だけど、そんな説教より、冒険を楽しみたいキラシャは、この地底探検を楽しみにしていたのだ。

 

暗い洞窟の中、ライトだけを頼りに潜って行く。時々、深海からやって来たのか、奇妙な形をした魚や動物らしきものが動いている。 

 

子供達はそれを発見しては、新しい名前を命名するのが楽しみなのだ。

 

しばらく、泣きじゃっくりの止まらないパールに、ジョンが付き添っていた。

 

キラシャは、何かなぐさめにならないかと、イルカ・ロボットのチャッピをパールに反応させてみた。

 

チャッピがパールに向かってクウクウと泣き始めると、パールはキラシャから赤ん坊を抱くように受け取り、やさしくほおずりしてかわいがった。

 

みんなと洞窟の風景をながめていると、心がなごんだ様子だ。 

 

パールは、キラシャに向かって「これは何?」とたずねた。キラシャは知っている魚は得意そうに答え、知らない魚にはキラシャ流の解釈をつけて、新しい名前を命名した。

 

ところが、キラシャの命名した名前に、他の子から異論が出て来ると、あたりが騒がしくなる。

 

正しい情報を求めて、キラシャも魚の情報をMフォンから仕入れるのだが、ヒロやジョンやダンの方が、高度な機能を持つMフォンを使っている。

 

遠くで泳ぐ魚でも、望遠カメラで写すと、Mフォンがすぐに3Dホログラムで、目の前に魚の泳ぐ姿を映し出し、名前や特徴を音声で教えてくれる。

 

「キラシャは、ああ言っていたけど、本当はこんな風に泳ぐ魚なんだ」

 

ヒロやジョンだけでなく、ダンまでも、自分のMフォンの動画をパールに向けて、競うように見せ始めると、いつもの子供同士の言い合いが始まってしまった。

 

特に、キラシャをいつもバカにしていたマギィとジョディは、この時とばかりに、キラシャの悪口を言い始めた。

 

「キラシャって、でしゃばりなのよね。知ったかぶりばかりしちゃってさ」

 

「そうそう、ちょっと泳ぎがうまいからって、えらそうな顔して。だから、タケルにも嫌われちゃうのよ。フン!

 

タケルはキラシャを嫌がって、火星に行ったのよ」

 

パールに遠慮して、今日はマギィとジョディのつんけんした態度に、ずいぶん気を使ってだまっていたキラシャだった。

 

それでなくても、タケルのことが気がかりで、腹立たしくもあり、不安にも思っていただけに、この言葉にはムッときてしまった。

 

しかし、マシンおじさんの言った言葉が、まだキラシャの耳に残っていた。

 

『仲良くするんだよ』 

 

近くにいたサリーやエミリも、心配そうにキラシャを見守った。

 

それでも、マギィのジャブは続いた。 

 

「だけど、タケルもヘンな子が好きだったよね。

 

なんでキラシャばっかり相手にしてたのかしら…。

 

かわいい女の子には真っ赤な顔して、無口になっちゃってさ。

 

地球を離れてやっと気がついたのよね。あンな子と付き合って、損したなって。

 

だって、そうでしょ。

 

そうよ~、考えてみれば、タケルってたいしたことなかったわよ…。

 

あたし達って、バカだったわ~。もっとイカス男子いたのに…」

 

キラシャは自分のことより、あれほど応援していたタケルの悪口を平気で言うマギィに、こらえきれず反論を始めた。 

 

「マギィ。タケル、タケルって、パスボーの試合のたびにギラギラの衣装着て、うるさいほど応援してたの誰だっけ。

 

タケルはね、最初からそんな子に興味なかったよ。タケルは、顔のきれいな子と付き合うの疲れるって言ってたんだ。

 

それに、あたしのこと忘れないって、言ってくれたんだよ」

  

マギィは、いつものように、人を小馬鹿にしたような感じで、フンと鼻で笑い、こう言った。

 

「あらそう、タケル、あたしにはメール送ってきたわよ。キラシャは、どうなの?」

 

キラシャは、思わずうなった。

 

 

キラシャを軽く横目でちらりと見たマギィは、こう付け足した。 

 

「タケルは、もうキラシャと関係ないンだって。だから、あたしに伝言をよこしたの。

 

火星の方がいいらしいわよ~。地球のみんなにザマーミロって、言ってやるンだって…」

 

キラシャは、冷静に判断できなかった。

 

プライドの高いマギィが、タケルのことで、つまらないウソをついているとは、とても思えない。

 

朝から張り切ってみんなを先導したり、水中のパフォーマンスでイルカと泳いだり、みんなに気を使って、ケンカの種をこらえていた疲れが、どっと出て来た。

 

 

身体が妙に重く感じ、頭もふらふらして、倒れそうな気がする。

 

『タケル、マギィの言ったこと本当なの? キラシャに言ったことはウソ? 

 

タケル、どうして?

 

何があったの?

 

お願い、あたしを助けて! 』 

 

なんとなく、キラシャの身体がフワッと浮いた感じがした。

 

そばにいたパールが、思わずキラシャに抱きついた。

 

その時である。ボートがガタっと傾き、ボートの客全員がよろめいて倒れた。

 

ボート全体が伸びたり縮んだりするような圧迫感が、みんなを襲った。

 

ボートの中を照らす照明も、ついては消えを繰り返した。

 

ボートのアナウンスが始まった。

 

「どうか皆さん落ち着いて! 姿勢を低くして、動かないものにつかまってください!」

 

同時にキーンとする耳鳴りがして、誰もが耳をふさいだ。

 

ボートがいったいどうなっているのかわからず、乗客は身体が上下左右にぶれるのを少しでも抑えようと、必死でしゃがみこみ、周りの人や手すりにつかまった。 

 

しばらく揺れが続いた後、ボートは静かに止まった。

 

乗客は無事を確かめ合うと、Mフォンから何の注意報も出なかったので、ザワザワし始めた。

 

未来では、地震の予知情報も早い。

 

しかし、この揺れが地震なのかどうかもわからず、責任者への説明を求める声が上がった。

 

そんな騒ぎの中、キラシャとパールがいないことに、ケンが気づいた。 

 

「キラシャ、…パール。いったいどこへ行ったんだ?」 

 

周りの子供達は、2人がいたはずの場所を見つめた。 

 

「ホントだ。どこへ行っちゃったの?」

コメント
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