目の中のリンゴ

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「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」 ここにもカウボーイが2人

2006年04月30日 | 映画タイトル ま行
ここにもカウボーイが2人。
そして、そこはかとなく、友情を超えた何かを感じる・・・。

俳優トミー・リー・ジョーンズが監督し、
脚本は「アモーレス・ペロス」「21グラム」のギジェルモ・アリアガ。
2005年カンヌ国際映画祭で見事最優秀男優賞と脚本賞を
受賞した作品というので、ちょっと難しそう・・・と思いつつ
観てきました。

メキシコとの国境近いテキサス。
メキシコ人メルキアデス・エストラーダの死体が見つかる。
孤独で純朴なメルキアデスと親しかった
カウボーイのピート(トミー・リー・ジョーンズ)は
彼との約束を思い出す。
「もし俺が死んだら 故郷のヒメネスに埋めてくれ」と。
犯人は国境警備員のマイク(バリー・ペッパー)だと突き止めたピートは、
マイクを拉致し、メルキアデスの亡骸とともに3人で
”ヒメネス”を目指す・・・。

緑豊かで美しい風景の「ブロークバック・マウンテン」とは
かなり違う、砂漠のような何もない乾いた風景の中、
馬とロバが歩いてゆきます。

死体を掘り起こして運ぶなんて、正気の沙汰じゃない!
無口でコワモテのトミー・リー・ジョーンズは
何を考えてるのか さっぱりわかりません。
しかも、彼は死んでしまったメルキアデスを、
まるで生きているかのように焚き火のそばに座らせちゃうんです。

うげー そ、そんなリアルなメルさんの姿を見せなくても・・・。
(笑ったら不謹慎なのに、コミカルで笑えるシーンになってます)

物語は現在と過去を行きつ戻りつ、
ピートとメルキアデス、マイクと妻、まわりの人々の
状況を描き出します。これが なかなか上手い。

変わり者で孤独なピートが、なぜかこの不法入国者の
メルキアデスと親しくなって、意地でも約束を守ろうとする。
夢見るような表情で愛する家族、美しい故郷のことを
語るメルキアデスに、ピートは何を想ったんだろう。
ムチャな旅の果てに ヒメネスに着いたら、
きっと何かが変る、と自分の願掛けだったのかも。

これは立派なロード・ムービーですよね。
ピートとマイク、そして、ピートの心の中では 
メルキアデスとの旅でもあったのかも。
殺人を犯したマイクが、ピートに脅され
拉致されて手錠をかけられて死体と一緒に荒野の旅。
逃走を試みるも、さんざんな目にあうばかり。
(ヨレヨレになって走るマイクを 馬で併走しながら
眺めるピート、最高(笑))

”ハイスクールのスターだった”マイクと妻は
無表情に生気なく、無為な日々を過ごしていて、
マイクは不法入国のメキシコ人相手に 
過剰な暴力を振るうことでストレスを解消しているように見えます。
美しい妻も、娯楽もないこの町でカフェに入り浸る日々。

無駄に生きているような人生を、
このメキシコへの旅が変えたのです。
まぁ、こんな旅はそうそうあるもんじゃないけど。
生きるということを実感し、人生を見つめなおす、
バリー・ペッパーの表情の変化が素晴らしい!

彼を見ていると、クリストファー・ウォーケンを連想します。
けっこう出演作見てて、好きな俳優の1人です。
ハンサム!というのではないけど、
無表情でクールに見えて義理人情に厚いところが持ち味。
(「プライベート・ライアン」「グリーン・マイル」
「25時」「ワンス・アンド・フォーエバー」
そして、話はしょーもないけど「ノックアラウンド・ガイズ」が
かっこいいです)

旅の途中で出会う人たちとのエピソードも良いです。
みんな 叶えられない夢を心に生きているのかもね。

静かに情緒溢れる、しみじみといい映画でした。

私の疑問(ネタバレ反転にて・・・)
メルキアデスが家族だと言っていた女性は 
ただの片思いの憧れだったのかなぁ?
ヒメネスも、孤独なメルキアデスが思い描いた理想の夢の町だった
ということなんだろうか・・・?
まさかピートが本当に約束を守って、
探してくれるとは思わずに。
それを知った時、ピートはそのメルの孤独を想い、
よけいに彼のことが好きになったと思う。
だから意地でもヒメネスを探し出して埋葬したのだろうな。
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14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こちらも楽しみ! (Kim)
2006-04-30 16:25:20
cartoucheさんのところでもレビューを読ませていただいて、気になっている映画です。

Kinoさんもしみじみいい映画とおっしゃってますし、これはますます楽しみですね^^。

当地にも上映予定にあるのですが、まだ日程は決まっていないみたいで…。5月中に観れるかなぁ…。
返信する
この映画、 (sabunori)
2006-04-30 17:54:03
タイトルが長くてちょっととっつきにくくて損している気がしませんか?

だけどかなり私好みの作品!

シリアスな作りの中になんともいえない「おかしみ」が散りばめられていてトミー・リー・ジョーンズ監督、センスいいなぁ・・・と驚きました。

出てくるヒトたち誰も彼も少しだけ悲しさを抱えているっていうのもまたしみじみ。

特に盲目の老人の言葉は胸に突き刺さりました。
返信する
色々考えられる映画で。。 (Cartouche)
2006-04-30 23:59:55
これはいい意味で色々な感想を持てる作品です。私は国境というものを通して不法侵入者を取り締まってばかりいるアメリカとアメリカから旅してきた人を温かくもてなし肉を分けてくれる温かなメキシコ人との差。そしてふたつの国の今のあり方を考えました。ネタバレになりますが、架空の故郷というところがまたまた憎い!もう一度見たらまた違うことに色々気付きそうです。
返信する
こっちのカウボーイにはやられました (かえる)
2006-05-01 11:47:17
こんにちはー。

バリー・ペッパーはすばらしかったですよね。

これもやっぱりロードムービーですよね。

それもかなり風変わりですが。

あまっちょろくないシブさに惚れまくりましたー。
返信する
味わい深い (kino)
2006-05-01 23:16:04
>Kimさん

ほんと、シンプルで味わい深い映画でしたよ。

トミー・リー・ジョーンズ監督、やるな!って感じ。

メキシコに行ってみたいと思いました・・・。



>sabunoriさん

そうです!このタイトルが、なんか難しげで

ソンしてますよね。コミカルな部分もあって

面白いのに。

誰もが潔癖じゃないところもまた良いです。

お爺ちゃん・・・あのシーンはじーんときました!



>Cartoucheさん

”国境・ボーダー”というものも、

この映画の中で重要なポイントでしたね。

私はそれをうまく絡めて書けなかったのですが

Cartoucheさんはさすがです。

ケン・ローチの「ブレッド・アンド・ローズ」でも

必死で国境を越えて不法就労するメキシコ人が

描かれてました。

うんうん。じっくりもう一回観たら 気づかなかったことに

気づきそうです。



>かえるさん

バリー・ペッパー、いいなぁ。

彼も、爬虫類系っていうか、体温低そう。

男臭い映画でした!
返信する
*こんにちは! (ダーリン/Oh-Well)
2006-05-31 15:38:31
☆kinoさん、こんにちは。



>これは立派なロード・ムービーですよね。



僕も同様に受け止めています。



映画序盤からの、3人の男たち個々のキャラクターを明確にして行く描写はもとより、レイチェル、“ルー・アン”、保安官、また、テキサスのスモール・タウンがまとう倦怠感やらも、

映画後半から描かれて行く、メルの遺体を伴ってのピートとマイクによる“ヒメネス”を目指す過酷な旅に於いてじわり活きて来るものとなっていたかと思います…。



また、道中、保安官がピートら一行を一旦は追って来ますが「撃てない」と断念しますし、国境警備隊のヘリが突如姿を現しもしますが、“盲目の老人”の機転でもって警備隊員はあっさりと引き返したり…、そんなこんなの、派手なドンパチやら追跡劇に持って行かぬ、その、はぐらかし振りも妙味でした。



メキシコに入ってからの、荒涼としながらも、テキサスにある以上に突き抜けた陽光の明るさなども印象深いところです。



>バリー・ペッパーの表情の変化が素晴らしい!



ジョーンズ監督、目が窪んで頬が落ちたあの凄い顔^^を活かし切りましたよね。

僕など、ピートによってズタボロに為って行くマイクの姿には目を見張るばかりでしたし、特に、エンディングでの彼の表情やつぶやきは忘れがたいものと為っています。



本作品、思い起こすたびに、あれこれのシーンにあったものが微細に異なった趣きで僕の内に甦って来ます。

返信する
心にのこる (☆kino)
2006-06-02 01:37:14
>ダーリン/Oh-Wellさん

いつも丁寧なコメント、ありがとうございます。嬉しいです。



コメントを拝見していて、この映画のいろんなシーンが

脳裏に甦り、ああー よかったなぁ この映画!と

しみじみ思い出しています。

もう一度じっくり観たい映画です。

トミー・リー・ジョーンズ監督も、バリー・ペッパーも今後のさらなる活躍が楽しみ。
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なるほどね! (Kim)
2006-06-17 21:57:07
バリー・ペッパーとクリストファー・ウォーケン、ナルホドね~!!

うん、バリー・ペッパーもウォーケンが演じているような役、似合うかも^^。

ピートがメルキアデスの埋葬にあんなにこだわった理由、最初はわからなかったのですが、最後まで観ると、濃い友情だったんだなぁというのがわかり、じわ~んときました。

TBさせてくださいね。
返信する
楽しみ (☆kino)
2006-06-18 00:20:38
>Kimさん

バリー・ペッパーは ハンサム!っていうタイプじゃないけど

いろんな役のできる上手い俳優さんだなーと思います。

男っぽくて乾いた感じの映画だけど、後に温かいものが残る

イイ映画だったと思います。

DVDが出たら たくさんの人に観て欲しいですね。
返信する
Unknown (たお)
2006-09-12 07:28:58
男の物語に偏らず女性側の物語も深く描いてましたね。

「私を殺してくれないか?」とサラリと頼むお爺さんが抱える絶望感に胸が詰まりました。

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