名無しの教師の日誌

ある公立中学校教師の教育私論と日記です。

速さをみはじの図で教えることの是非

2018-01-07 17:57:58 | 教育に関する私論
突然ですが、速さって何ですかね?

いろいろな答えがありうると思います。

「君の名は。」で未曾有のヒットを飛ばした、新海監督が10年くらい前に作成した映画

「秒速5センチメートル」のキャッチコピーは

「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか」

でした。

ちょっと哲学的ですよね。



今日は、速さの学習のお話です。

ここで言う速さとは、古典力学における速さでして

「単位時間あたりの、物体の移動距離」

のことです。

哲学的・文学的なニュアンスは一切排除して下さい。

なんで?と言われても困ります。

昔の偉大な学者達が、「速さってのはこういうもんだ」という風に決め、後世の私達がそれに従っているに過ぎません。

難しい言葉で、「定義する」と言います。

つまり、速さとは、単位時間あたりの、物体の移動距離であると定義されたのです。

私は、定義という表現は中学生にはふさわしくないと思っているので

「こういうもんだということにしよう、って昔の偉大な人たちが約束したの。

我々はその約束されたルールに従っているだけだよ。」


と説明しています。



この定義を、ちゃんと数学的に式で表わそうとすると、ベクトルが出てきます。

なので、小学校の算数ではそのような難解な表現を回避するために

「速さ=距離(道のり)÷時間」

という風に表現し、子どもたちに教えます。

例題です。

名無し先生は、自宅から60km先の遊園地まで、車で移動しました。移動には、2時間かかりました。

名無し先生の乗っていた車の速さを求めなさい。


答えは

60[km]÷2[h]=30[km/h]

であり、時速30キロメートルとなります。

さて、この速さの話を理解すると

・距離と時間から速さを算出する問題
・距離と速さから時間を算出する問題
・速さと時間から距離を算出する問題


この3パターンに対応出来るようになります。

というか、できるようにならないといけません。

現状、そのように定められています。

そこで、しばしば登場するのがこのみはじBOXです。

(正式名称は知りません。様々な呼び名があることでしょう。ここではみはじBOXと呼びます。)





今日は、こいつを理科教師の視点で糾弾します。

私は、こいつが大嫌いです。

なぜならば、「速さとは何か」を理解しなくても、速さの問題が解けるようになってしまうからです。

この図を使うと

問題文から、みちのり・はやさ・じかんの3要素のうち、2つを読み取る。
→この図にあてはめる。
→機械的に、式が完成する。
→かけ算ないし割り算を行なう。
→答えが出る。


という、あまりに思考停止な解き方が成立してしまうからです。

そして最も恐ろしいのは

速さとは何かをちゃんと理解した子も、理解せずに機械的に問題を解いているだけの子も、どちらもそこそこ良い点を取れるようになってしまうので

「本当は理解していない」ことが見落とされたまま

「いい点取れたね、頑張ったね」と次に進んでしまう可能性があるのです。


そのような子は、中学の理科で間違い無くつまづきます。



中1の2学期で、密度の学習があります。

密度とは、単位体積あたりの質量のことです。

○○あたりの××……どっかで聞いた覚えがありますよね。

ちゃんと速さとは何かを理解してきた生徒は

「なんだ、速さと似たようなもんじゃん」

で終わります。

ところが、速さの計算をみはじBOXに頼りきってきた生徒は、フリーズします

体に染みついたルーティーンとは異なるからです。

(ちなみに、みはじBOXを使用して速さの計算を行なうことすらできない生徒は、この時点で詰んでいます。
私の経験上、クラスに数人はいます。
ですから、すべての生徒に同じ内容の授業を受けさせることは、以前から主張していますが、教師・生徒双方にとって不幸なことだと思います。
今日は、話の本筋から外れるので、これ以上の議論はしませんが。)

また、密度の計算を学習するころには、数学での方程式の学習が完了しています。

このへんは、教科書ってよくできているなぁ、と思います。

すなわち

密度=質量÷体積の式を暗記し

既知数は代入、未知数をxとおき、方程式を立て、未知数を導出すると言うことができるようになります。

そして、密度でこのやり方を身につけておかないと、次の質量パーセント濃度で苦労します。



みはじBOXの

みちのりを質量に

はやさを密度に

じかんを体積に書き換え

同様のBOXを作って暗記することは可能です。

しかし、それをやってしまうと、後に大変な目に遭います

まずは、質量パーセント濃度。

質量パーセント濃度は

質量パーセント濃度=(溶質の質量/溶液の質量)×100

です。

この×100があるため、これをBOX化すると逆にややこしくなるのです。

そしてさらにその後、圧力の計算や、フックの法則等

数学的処理を要求する学習内容は多く存在します。

すなわち、BOXでの処理は、その場しのぎにはいいですが、本質的な理解・学力向上には寄与しないと思います。



またまた長くなってしまいました。

言いたいことを短くまとめると

・みはじBOXによる速さの指導を行なうと、速さを理解しなくても問題が解けるようになってしまうので、児童の理解不十分を見落とす可能性が高い。
・理解不十分なまま、みはじBOXで答えを出すことになれてしまった生徒は、中1理科でえらい苦労をする。
・よって、みはじBOXで授業を行なうのは、いかがなものか。


です。

というか、こういうリスクがあるから、教科書に載ってないんじゃ無いの?と思います。

それを、「教科書にないウラワザ」的に、嬉々として教える教師や塾講師は安直ではなかろうか、と思います。

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4 コメント

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Unknown (hinata)
2018-01-09 21:53:35
こんばんは。

正式名称は私も知らないのですが、
みはじ計算は、数学にこだわりを持っている先生には評判が悪いとは聞いています。

またまた、うちの子の話で申し訳ないのですが、
息子は小学生の頃、公立小学校で習うレベルの算数は得意な方でしたが、
まさかまさかの、中学1年生の最初の方で習う、正負の計算で躓きました(苦笑)
私は算数・数学が苦手ですが、正負の計算は躓くどころか楽しいと思ったくらいなので、
息子がそこで躓いているということに気が付いた頃には、学校は三単現先を進んでいたので、
夏休みに、数学が苦手な私が正負の計算を教えることになったのですが、
私はまず、問題を解かせる前に、正負の計算を擬人化して説明したのです。
「我ながら、素晴らしい説明だわ。正負の計算が苦手な子の親御さんに勧めたいくらい」
と得意げになっていたのですが、
数年後に息子から「お母さんのあの教え方だと、体系的に、後に繋がらなくなるんだよね」と言われました。

数学や理科は、素人が手を出しちゃいけない領域だと思い知りました・・・

Unknown (筆者)
2018-01-10 18:26:08
コメントありがとうございます。
ちなみに私は否定派だと書きましたが、肯定派の先生の意見も紹介しておきます。
曰く
「理解できなくても、できて、点数がとれるようになる。これが自信や学習意欲につながり、理解につながる」
だそうです。
こうなると、「卵が先か鶏が先か」の議論に近いのかも知れません。

算数の延長線上に数学があるように思われがちですが
自分は、全くの別物だと思っています。
算数は本当に難しいです……
Unknown (とある人)
2019-08-13 12:23:07
今日は、今更ですが、コメント失礼します。

英語教育においてローマ字が害悪である、ということと類似性を感じる問題ですね。

私は発達段階に合わせた学習という観点にから

思考停止して覚えるべき時期と、
その意味を理解するために思考する時期は、

内容によっては区別すべきで、それはその範疇に入ると思います。

はやさの意味の理解を小学校で行おうとし、多くの生徒が理解出来ず、算数の学習全体でつまづくことをふまえれば

中1で苦労するから早い段階でそこまでやりなさい!ではなく、その引っかかりも踏まえた上で指導すべきだとわたしは思います。

これは、論理的繋がりが確立されている数学、理科で起こりやすい事ですが、論理的思考が全ての年代で可能ではないということと、それを踏まえ段階的に学習しているとうことを忘れてはいけません。

文系の学問でも、
英語の上記ローマ字の問題や、
語法などは本来言語特性や成り立ちを踏まえれば暗記ではなく理解に落とし込むことができますが、それを行うのは大学以降です。

日本のひらがなは、その成り立ちを知らずとも覚えば使う事ができ、大学以降で変体仮名なども含め成り立ちやロジックを学びます。

過去に一片的な知識で学んだものが、学年をあげて繋がっていき立体的な理解となることも学習の醍醐味ですので、語呂合わせや極端な易化による理解を毛嫌いせずに指導していただくことを願います。

長文失礼しました。
Unknown (筆者)
2019-08-18 19:37:14
コメントありがとうございます。
思考停止による定着が必要な場合は確かにあると思います。
しかし、この記事を書いたとき、中学校になってもみはじBOXから脱却ができていない生徒に多数遭遇したのです。
そのような背景が有り、小学校教育への警鐘を鳴らす意味も込めて、中学校での指導者の視点から書きました。

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