フクロウを“のりつけほーせ”と呼んでいることを90代の女性から聞きました。合わせて、その鳴き声の“のりつけほーせ”が糊を付けて干せと聞こえるから、翌日は晴れるという自然の天気予報のことも聞きました。その場に3人いましたが、残りの80代の女性2名はこのことを知りませんでした。その後、別の機会に“のりつけほーせ”について、70代や80代の女性数名に聞きましたが、このことを知っている人はいませんでした。男性も同様でした。たまたま、この方が知っていたのか、それとも若い世代に糊付けという行為や、この自然の天気予報のことが伝わらなかったのかは分かりませんでした。
洗濯後、洗濯物に糊を付けて乾燥用の板に貼ります。その後、天日干し乾燥させ生地に糊付けをするという行為は昭和30年代柏崎市ではよく見られた光景でしたが、間もなく姿を消しました。この糊付けが現代に伝わらなかったのと同じように、“のりつけほーせ”の方言名を知っている人は少なかったです。
この糊付けという行為について、柳田國男は、「梟の啼声」(柳田國男「野鳥雑記」P122『柳田國男全集第十二巻』筑摩書房(1998)で200年くらい前から盛んになった事であるから、“のりつけほーせ”という方言名もそんなに古い言葉ではない、としています。旧高柳町においても、それより少し遅れて糊付けと、“のりつけほーせ”が伝わったものと考えていいと思います。
『門出郷土誌』⑴に、「慶安御触書」(慶安2年(1649))の現代訳の一部がありますが、そこに「一.百姓は衣類の儀布、木綿よりほかは、きものの裏にも仕るまじきこと。」と書かれていました。木綿が着られていたこと、及びこれへの糊付けが行われていたことと推定できます。しかし、現在この糊付けは全く見られなくなっており、間もなくこの方言名自体も消えていくものと思います。
また、旧石黒村においては、“ふくりょ”という方言名が伝わっています。新潟県内では、中越地方や東蒲原地方といった内陸部で“のりつけほーせ”が使われていました。
全国では、山形県で、“のりつけほうほ”が、長野県で“のりつけ”があります⑵。また、『日本方言地図第5集201~250』⑶においては、“のり”(糊)について、“NORI”と“NORO”を共通点として、その分布を山形県にまとまりを持ち、新潟県南部、長野県、島根県西部に各1地点づづ見られる、としていました。『日本方言地図第6集251~300』⑷は、フクロウの鳴き声について、“NORI”に繋がる鳴き声の分布として、島根から秋田までの日本海斜面に広く分布している、とあり方言名の分布と重なります。この“のりつけほーせ”と、洗濯時における糊付け行為との関係について同書は洗濯史の研究の今後の課題ともしていました。
⑴ :門出郷土誌編集委員会『門出郷土誌』P11 門出郷土誌編集委員会(1972)
⑵ :清棲幸保『日本鳥類大図鑑Ⅱ』和名索引P12 ㈱大日本雄弁会講談社(1952)
⑶ :国立国語研究所研究報告30-1~6『日本方言地図第5集201~250』 P37国立国語研究所(1972)
⑷ :国立国語研究所研究報告30-1~6『日本方言地図第6集251~300』P104 国立国語研究所(1974)