読書ノート  

主に都市、地域、交通、経済、地理、防災などに関する本を読んでいます。

第三のチンパンジー【完全版】人類進化の栄光と翳り ジャレド・ダイアモンド 2022

2023年01月16日 | 教育・歴史(文部科学省・文化庁)

日本では1993年に刊行された本の解題・修正・補遺・文庫版。
ヨーロッパ人は他の大陸へ領土を拡張し世界の大部分を征服した。その理由は人種民族間の生物学的違い(人種差別主義者がよく取り上げる知性の差)などではなく、地理が文化的特徴、文明の水準に影響を与えたためだ。
ユーラシア大陸の中央の肥沃な三日月地帯に家畜化しやすい動物(羊、山羊、豚、牛、馬)や生産性の高い食用作物(イネ科植物)が種類豊富に存在した。ユーラシア大陸は東西に広いため食用作物や家畜がほとんど同じ緯度で横に広がった。アメリカ大陸は南北に長いため緯度の異なる地域へ食用作物や家畜が広がらなかった。アフリカ大陸もアメリカ大陸同様主軸が南北に走り、結果としてサハラ以南には農業社会の発展が非常に遅かった。

今では広く知られるジャレド・ダイアモンドの原点がこの本に書かれている。
私の感想としては、「トンデモ本」とは言わないけれど、重要なことが欠落した仮説だと思う。
ユーラシア大陸でも1億数千年前はすべて狩猟採集社会だったのだから、その時点で新大陸やアフリカと文明の差はなかったかもしれない。そもそも全ての人類の祖先はアフリカで誕生し、私たちは皆共通する遺伝子から出発している。ヨーロッパ人やアジア人の祖先がアフリカを出たのは5万年前だった。その後、動物の家畜化と植物の栽培によって文明が発達したという著者の仮説は正しいかもしれない。
しかし、その文明の発達はおそらく人類の遺伝子の構成を変化させただろう。狩猟採集社会では、動物的な能力が生存し種を残す能力を規定する。これに対し牧畜や農耕の社会では、種蒔きや水利を計画的に行ったり、大きな集団の中で役割を発揮したり言語や文字で意思を伝達することが重要である。運動能力とは異なる人間的な知能の高い個体が評価され、遺伝子を多く残すことができる。結果的に人種間の知能の差が生じ、文化力、経済力、戦力の差に帰着したのではないだろうか。


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