Keith Masuda Blog 増田清のページ

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今月のひとこと2014年3月号

2014-02-28 11:39:54 | Weblog




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2014年3月1日
株価の戻りが遅いと言うか、想定通りと言うか、経済アナリストはいろいろ言いますが、このまま4月の消費増税に突入しそうです。 その後の展開も、6月には戻るとか年内はかかるとかいろんな意見がありますが、結構時間がかかると思います。 その結果、10%は見送りになると思っています。 このまま、あと2%アップしたらガタガタになってしまうような気がします。 夏の内閣改造で、麻生さんが残るかどうかで、決まると思っています。

EUもだんだんと日本化しつつあり、デフレに突入の可能性が高くなってきました。 EUは過去はうまく危機を乗り切ってきましたが、じわじわとくるデフレに対応できるのでしょうか。 日本にも影響が大なので気になるところです。 あれだけ円高円高と騒いでおきながら、いざ円安になると、その効果は物価押し上げと一部の海外展開をしなかった、もしくは遅れていた国内生産の比重が高い企業の利益アップにしか効いていないように見えます。

円高の時に中小企業の社長から円高がすべての元凶みたいなことを言われて非常に違和感があって、未だによく覚えています。 国内の中小企業は、それなりに影響はあるのでしょうが、直接の影響は無いはずと思っていましたが、やはり実際に円安になってみると、その効果は限定的であることが明確になってきました。

そもそも自国通貨が高くて文句を言い、安くなって安心すると言うのは、どこかおかしいと以前からの自説ですが、特に原発が止まって燃料費がアップしている現時点での円安は、貿易赤字の原因になります。 もっとも、燃料費のアップはたいしたことは無くて、その試算が過大だとか、円安だけの効果だという話もあります。 いずれにしても、従来言われていたような、円安万能論には限界があると言うことで、これからは適正な為替水準に落ち着いていくと思います。

原因はともかく貿易黒字が急速に減ってしまって、貿易赤字が定着しそうです。 日本は世界最大の債権国ですから、その配当とかを入れた経常収支は、依然黒字なので、当面は問題ないですが、これも減りつつあって、最終的に外貨準備が減り始めると、国富が減少すると言うことで、国債の価値に疑問符が付いて、価格の下落つまり長期金利のアップと言う事態になってくると、これは大変なことになります。

長期金利は日銀の異次元緩和で、低いままです。 一時は乱高下しましたが、最近は落ち着いてきて、しかしこの間見た広告では、変動住宅ローンが0.6%で、びっくりしました。 1%を切った時点でもびっくりしたのですが、その内に0.8%になり、最近は0.7%で、これが底かと思っていたら、さらに下がりました。 これは実際の金利ですから、銀行が調達する金利はもっと安いことになります。

経済とITの狭間の話題は、何と言ってもビットコインでしょう。 年明けからビットコインの新聞記事が増えたなと思っていたら、取引所が閉鎖と言うことで、大きなニュースになりました。 仕組みがイマイチ明確ではありませんが、暗号化技術で良く使われる、公開鍵と秘密鍵の鍵ペアを使った仕組みのようです。 公開鍵を使って振り込みを行い、秘密鍵で引き出すと言うことらしい。 しかし、これだけでは特徴の一つである匿名性が保たれないので、何らかの仕掛けがあると思いますが、技術的には大したものでは無いと思います。

今回の問題は、この鍵ペアが破られたと言うことでは無くて、取引所のサーバーがハッキングされたと言う良くある話だと思います。 もし鍵ペアが純技術的に破られたとしたら、これは大問題で、世の中が根本的にひっくり返る可能性があります。 同じシステムを住基ネットはもちろん、ネットバンクでもセキュリティの高いビジネス口座にも中心的に使われています。

あれだけ大騒ぎして本欄でも取り上げたSTAP細胞が怪しくなっているようです。 論文に掲載の写真が取り違えていたと言うそれ自体は大きな問題ではないのですが、発表から1ヶ月経っても、実験の再現がどの研究所でも出来ていないようです。 ネットを見ると、「いや、1ヶ月では結論が出ない」、「STAPの特徴は短時間に培養できるはず」、「特許も取っているから」、「特許取っても正しい保証は無い」、「特許を完全に押さえないといけないので、論文には全部書いていないはず」、「全部書いていない論文なんて意味が無い、追試が出来ることが論文の必須条件」などなど憶測が渦を巻いています。
要するに、私も感じていましたが、最大の疑念は胎児の細胞にES細胞が混じっていたのでは無いかと言うことだと思います。


本欄で先月取り上げたように、過去の常温核融合事件と展開が似ているので、同じ展開にならないように祈ります。 世界中で追試は行われているはずですが、今までで5-6カ所の否定的な結論しか出ていないようです。 総本山の京都大学IPS細胞研究所の追試とその結果を知りたいものです。

今月の読み物は「世界は分けてもわからない」講談社現代新書 福岡伸一著 ¥ 819
捏造ついでに、思い出したのが、この本。 福岡氏はよくTVにもでて来てフェルメール オタクとしても知られていますが、文章もなかなかうまくて、ファンが多いです。 本書の前半は、まとまりもなく面白みも無いですが、後半は打って変わって筆が冴え渡る。 本書は前半は絶対に読まないで、後半だけお読みください。 読む価値あり。

1980年代、E・ラッカーという高名な生化学者が、癌化におけるリン酸化カスケード理論、「まず司令塔の酵素があり、それにより酵素が次々にリン酸化し、最後に細胞のリン酸化が起きて、細胞が癌化する」を提唱した。ラッカーの研究室はその仮説を実証すべく、蛋白生成、酵素反応、電気泳動の実験を膨大な数行うのだが、誰もその理論を立証できなかった。 現在では、これは正しいとされ、これを元に夥しい数の新薬が作られていて、ノーベル賞級の研究だったのですが、以下のような前代未聞の捏造事件で、その名声は地に落ちてしまいました。

ある時、大学を卒業したばかりのマーク・スペクターという若い研究者が研究室に入り、彼が実験をすると、今まで誰も証明できなかったカスケード理論を立証するデータを次々に生み出していきました。スペクターの実験は彼のみしか成功しないものが多く、彼は「神の手を持つ実験者」と皆からみなされるようになった。 スペクターの努力により、ラッカー教授のリン酸化カスケード理論は完璧に近いものに完成し、あの超一流学会誌「cell」にも論文が載った。

しかし、ひょんな偶然から、彼の実験はすべて捏造ということがばれ、スペクターは行方不明となる。 スペクターは天才実験者ではなく、天才詐欺師であったのだ。

自分のサイトを検索してみたら、4年前にも紹介していました。 こちらも、ご覧ください。
http://masuda.org/jiko/jiko2010b.htm#20101101


★★★ 是非読むべし




今月のひとこと2014年2月号

2014-02-04 15:20:11 | Weblog




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2014年2月4日
あれよあれよと言う間に株価が下落して、元の木阿弥になってしまいました。 いつも年度末は裏切られると言うか、想定より速く落ちます。 今年は、消費増税を控えているので、みんな身構えていたんでしょう。 3月どころか2月に入る前から落ちました。 2011年の時は3月末に向かって、順調に上がっていたのが、東北大震災で一気に急落。 12年は低迷、昨年はやれやれと思ったところで、連休に来ましたね。 まさにアベノミックスも正念場。 これから真価が問われます。 来年の今頃はどうなっていることでしょう。

来年の消費税10%への道ですが、ほとんど可能性は無いと思います。 元々この8%でも、安倍首相はやる気が無かったと思います。 夏ごろにはそ迷いが見え隠れしてました。 結局、法案を出す時間も無かったし、日本としては一度言ってしまっているので、やめるわけには行かなかったのでしょう。 3%分に相当する5兆を積んで、目を瞑って正面突破です。 しかし10%は、こうは行かないと思います。 出だしからこの株価ですから。

あれよあれよと大きな話題になっているのは、何と言ってもSTAP細胞でしょう。 みんなべた褒めですが、額面どおりなら、またノーベル賞と言うことでしょうが、何か違和感があります。 この分野は世界中の研究者が競って研究しているので、単純なアイデア勝負できる分野では無いと思います。 本当にアイデア勝負なら、他の研究者は大いに恥じるべきですが、そうそう大きな抜けがあるとは思えないです。

だから最初のコメントは、みな一様に「驚いた」と言うことでした。 IPS論文捏造事件も、方法は化学処理でしたので、化学処理はやり尽くして、最後に遺伝子操作による山中方式が成功したのだと思います。 その時点で抜けがあったとしたら、宝くじに当たったようなもので、しかし運も実力の内ですから、それはそれで良いと思います。 山中教授でも「私は運が良かった」と何回もコメントしていましたが、それなりのメジャーな世界でトップを取ろうとしたら、「実力」と「パワー」と「運」は必須でしょう。

私見ですが、STAP細胞の弱いところは、人間の細胞では成功していないことです。 あれだけ短期間に培養できるなら、自分の皮膚であろうが髪の毛であろうが、口の粘膜であろうが、そこからSTAP細胞を作るのは極めて容易のはずですが、出来ていない。 ここにヒントかあると思います。

受精卵から作るES細胞は倫理上の問題があったので、IPS細胞が開発されたんですが、これは遺伝子操作するときに癌を引き起こす遺伝子を使ったので、ガン化の恐れがある。 その後ガン由来の遺伝子を使わずにIPS細胞が作成できて、大いに広まったのです。 今回のSTAP細胞は、報道によるとマウスの新生児のリンパ細胞から作られたとのことで、ES細胞に近いものに刺激を与えてリセットしたのではないかとも言われています。

人間は妊娠期間が長いので、生まれた後ではSTAP細胞にならないのではないかと思います。 また大量にSTAP細胞を作る場合は、ES細胞の時に問題になった程ではないでしょうが、倫理問題が再燃するかもしれません。 いずれにしても注目すべき研究ではあります。

似たような話として、強烈に印象に残っているのは、常温核融合。 米国ユタ州のソルトレイクのホテルに泊まっていて、USA Today の朝刊を見ると、一面トップに掲載されていました。 Fusionとなっていたので、これは核融合の事かなと一瞬辞書を引きたくなるくらいでした。 ビーカーに溶液を入れて電極で電気分解すると、その時に中性子が出たとか、液温が上がってエネルギーが出たとか。 当時の通産省もその気になって予算を付けて、大々的に追試を始めましたが、一向にその気配が無い。 中性子は間違い、エネルギーは電気分解時の電気のエネルギーと言うことになったと思います。 しかし最近まで国の予算でその研究をやっていたと思います。 (写真のリンクの内容は真偽不確かです)

この時の衝撃は、何千億円もかけて、核融合炉を開発しているのに、それと同じことがビーカーの中で出来てしまうと言う、予算をつけた方としては、戦慄すべき話だったわけです。 これと同じで、もし化学刺激でIPSと同じものが出来るのなら、これは大ごとで、IPSにあれだけの(と言ってもまだたいした額ではない)予算をつけて大々的にやっているプロジェクトが無意味になってしまいます。 頭の柔軟な若い女性の研究者の成果と言うだけでは済まない問題がいろいろあると思いますし、それ以前に、IPSと同じに論じて良いのか、と言う問題もあります。 報道は、自由な研究環境、理系の女性と言うことだけに焦点が当たっており、ついこの間もノーベル賞で大騒ぎしたIPS細胞のことをけろっと忘れているようなワイドショーにも幻滅します。

今月の読み物は超硬派です。 ケプラー予想: 四百年の難問が解けるまで 新潮文庫 ジョージ・G. スピーロ著、青木 薫 訳。 1900年にパリで開催された国際数学者会議で、ヒルベルトが重要な未解決問題のひとつとして提起したものですが、私は全く知らなかったです。 ひょんなことからこれを知ってこの本を読み出したのですが、最初の章を読んで、余程止めようかと思ったぐらいですが、途中から俄然面白くなり、読みきりました。

ケプラー予想とは「大きさの等しい球をもっとも効率よく三次元空間に詰め込む方法は、果物屋の店先にオレンジが積まれるときの方法と同じである」と述べている。小さな子どもでさえ、直観的に「正しいのでは?」と思いそうな命題だ。ところが、一見当たり前のようなこの命題の正しさを明らかにすることが、とてつもなく難しかった。

最後は、地図を4色で塗り分ける4色問題と同じく、コンピュータを使って数学的には無理やり証明(証明と言うのか)したのです。 この当時、従来の数学的な手法は、「エレガントな方法」で、コンピュータを使ったのは、「エレファントな方法」だと言うことを聞いたことがあります。

また、同じようなことを本書では、イギリスの数学者イアン・スチュアートは「ワイルズによるフェルマー予想の証明がトルストイの『戦争と平和』なら、ヘールズによるケプラー予想の証明は電話帳のようなもの」だと喩えているのも面白いです。

しかし、もっと面白いのは、コンピュータを使った証明は、それを100%検証することは非常に難しい、一つの問題を別のコードを書いて、別のコンパイラでコンパイルして、別のコンピュータで計算して同じでも、そうではない可能性があると言う批判に対して、従来型の数学的な手法の証明でも間違いはいくらでもあり、論文として出てから何年も経ってから間違いが発見されることもある、と言う反論は興味深いです。

この本の最後の3分の1は、コンピュータの歴史から、数値計算の方法や限界とそれを打ち破る歴史などに費やされていて、数学に興味のお持ちの方以外でも、コンピュータに興味がある方にも面白く読めるものではないかと思います。


★★☆ 理系の男女は是非読むべし。