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唯物論の再構築

ヘーゲル大論理学 存在論 解題(第三篇 第三章 本質の生成)

2019-12-21 10:47:55 | ヘーゲル大論理学存在論

 ヘーゲル大論理学の第一巻の表題がなぜ存在論なのかと言えば、第一巻の結論が存在概念を示すことにあるからである。しかし存在概念は独立に存在を語るだけで示されるものではなく、対語としての本質と併せて説明されなければならない。しかもハイデガーが言うように、存在概念は自明な自家撞着概念としてその説明を拒否されたアポリアに扱われている。ハイデガーは存在概念を自家撞着概念としてむしろ積極的に是認することでこのアポリアを解いたと評価されている。しかし実際にはその方法は、既にこの大論理学の第一巻としてヘーゲルによって実践されている。したがってハイデガーは、ヘーゲルによるこの無言の実践を後付けで存在論の特殊手法として明示的に世に喧伝しただけである。しかもハイデガーの存在論は、存在の意味を問うと言いながら、実在性の意味を語っており、本当に存在の意味を語ったのかどうか怪しい点も多い。この点でヘーゲル存在論は、はるかに直截に存在概念を陳述しており、名実とも堂々たる存在論である。以下ではヘーゲル存在論の総括と結論を構成した度量論末尾の第三篇第三章を概観する。

[第一巻存在論 第三篇「度量」第三章「本質の生成」の概要]

 存在概念は存在論の冒頭で抽象的無関心性としての純粋存在として示された。その質は区別を持たない無差別である。しかし即自存在の脱自と対自は、区別を内在する絶対的無差別へと存在を超出する。一方で絶対的無差別は、区別を内在する即自存在にとって矛盾である。それゆえに即自存在は絶対的無差別を否定して対自存在となる。この対自存在が本質である。それは自ら抱える規定と被規定の内部分裂の矛盾を止揚し、対自存在へと移行した即自存在の姿にほかならない。


1)絶対的無差別としての存在概念

 ヘーゲル大論理学の始まりにおいて存在は無限定な純粋存在として現れた。それは無を内に含むが区別を持たない抽象的無関心性であり、そのことを自らの質として即自存在する無差別である。そして大論理学の量論の始まりで示された純粋量も、やはり無差別である。ただしそれは全ての質を自らの外面に捉え、自己自身にも無関心な純粋形式としての自己の対自存在であった。この無差別の質と量は排他的に統一され、再び自己自身として自己の度量を成す。しかしこの度量の形式からも脱自する自己は、自己を絶対的無差別へと超出する。なぜなら自己にとって度量の形式にある自己自身は、端的に言えば時空に制限された物体だからである。一見するとこの絶対的無差別として示された存在は、始元に現れた無差別へと回帰している。しかしこの絶対的無差別は、質を自らの外面に付帯している。なぜなら絶対的無差別は、それらの否定を媒介にして現れた存在であり、それらの質を自らの状態だとみなすからである。したがって絶対的無差別は、始元に現れた無内容な無差別ではない。それが現す存在は、自らに付帯する外面を内部に存在させている。それゆえに絶対的無差別とは、抽象的無関心性として現れるようなカント式物自体ではない。それが表わすのは、具体的かつ現実的な対自存在の即自存在だからである。これがヘーゲル大論理学存在論の存在概念である。


2)絶対的無差別の否定としての本質

 無差別としての存在は、その無差別において質でもあり量でもある。しかしこの二つの規定は、既に存在の質と量を量的に限定する。それゆえに質と量は、この限定を制約として互いに量的に逆比例する。一方で質と量は、無差別において連続している。それゆえにその量的な逆比例は、両者の質にも反映する。したがってその逆比例も、ただ量的逆比例なのではなく質的逆比例でもある。そしてそのような逆比例において質と量の両者は区別される。ところがここでの区別と逆比例は、直接的な即自存在であり、内面的な限定存在ではない。対自からすれば、その区別の外面性は欠陥である。ただしこの欠陥は、対自の欠落と言う欠陥がある限り露呈しない。対自の欠落において代わりに両者の区別を構成するのは、質的契機の分裂である。すなわちそれは無差別の不等な内部分裂である。それゆえに内部分裂において二者は同じ外延を持つことになる。またこのことが両者の逆比例を可能にする。それどころかその逆比例は、両者の因縁であり宿命である。そしてその量的不等こそが両者の限定存在を成す。ただしそれが不等であるためには、両者は均等であってはならない。しかし均衡を持たなければより少ない方は消滅する。区別の消失による両者の単純な統一は、両者を無差別に復帰させる。しかしそれでは無限反復を呼ぶだけの矛盾である。それゆえに両者の統一は、対自が擁立する独自な性質において、両者に対して否定的に果たされるべきである。このような排他的統一として擁立された独立性質こそが、本質である。


3)排他的統一の欠落例

 天体の楕円運動では、天体の速度は近日点に近づくときに速度が増大し、遠日点に近づくときに速度が減少する。この速度の変化は、遠心力と求心力の二つの力の差異によって説明される。ただしこの二つの力は別々の力ではない。もしそうであるなら、二力の差異は固定したものとなる。すなわち速度の増大や減少も、増大は増大のまま、減少は減少のままに固定する。しかしこの想定は、二力の一方の消滅に帰結する。この場合に天体は、楕円運動をせずに楕円の中心を離れるか、逆に中心へ衝突すべきとなる。もちろんこの推論の結末は、現実と異なる。それゆえに天体の速度の増大と減少の説明では、二力が相互に無関心な別々の力ではなく、逆比例関係に置かれるべきとなる。このような相関する二力を分離する誤った形式主義は、密度における凝集力と反発力、生体における感受性と刺激性の理解などにも現れた。いずれの形式主義にも共通するのが、二力の排他的統一の欠落である。似たようなことはスピノザの無差別的実体にも該当する。その実体の諸属性は、経験的悟性が外面的に導入するものであり、相互の有機的相関を持たない異なる神々として現れるからである。


4)即自存在の対自存在としての本質

 絶対的無差別としての即自存在にとって、諸区別は全て自己内在でありながら外面的に現れる。それゆえにその存在は、自体的な絶対的否定性である。しかし絶対的無差別としての即自存在にとって、この自体的な絶対的否定性の規定も外面的である。そもそも即自存在において他在が現れる限り、否定としての絶対的無差別は否定される。これらの否定の否定が即自存在に残すのは、絶対的無差別としての自己に対する反発である。この完全な自己反発は即自存在に対し、デカルト的コギトが抱えた規定と被規定の自己の二重性をもたらす。しかしその二重性と言えども、絶対的無差別としての即自存在にとって単なる形式的区別にすぎない。なぜなら即自存在にとって常に「我はある」からである。そこで即自存在はこの完全な自己反発を止揚するために、規定と被規定の排他的統一を即自存在の外部に対自存在として擁立する。この対自存在が本質である。対自存在において規定と被規定の自己の二重性は消失する。対自存在において諸区別は、既に外面的変化でも出現したものでもない。それらは擁立されたものであり、対自存在に排他的に統一されて相関を前提された契機になっている。これにより即自存在は消失し、存在は本質に移行する。とは言え、必ずしもこの結末は大団円では無い。代わりにその二重性は、対自存在と即自存在の自己の二重性、または本質と実存の二重性として復活するからである。ヘーゲル存在論は、この点を無視して本質論と概念論に突き進むが、このことの反発がヘーゲル以後の共産主義と実存主義の台頭に連繋する。

(2019/11/21) 前の記事⇒(ヘーゲル大論理学 第一巻存在論 第三篇 第二章)


ヘーゲル大論理学 存在論 解題
  1.抜け殻となった存在
  2.弁証法と商品価値論
    (1)直観主義の商品価値論
    (2)使用価値の大きさとしての効用
    (3)効用理論の一般的講評
    (4)需給曲線と限界効用曲線
    (5)価格主導の市場価格決定
    (6)需給量主導の市場価格決定
    (7)限界効用逓減法則
    (8)限界効用の眩惑

ヘーゲル大論理学 存在論 要約  ・・・ 存在論の論理展開全体

  緒論            ・・・ 始元存在
  1編 質  1章      ・・・ 存在
        2章      ・・・ 限定存在
        3章      ・・・ 無限定存在
  2編 量  1章・2章A/B・・・ 限定量・数・単位・外延量・内包量・目盛り
        2章C     ・・・ 量的無限定性
         2章Ca    ・・・ 注釈:微分法の成立1
        2章Cb(1) ・・・ 注釈:微分法の成立2a
        2章Cb(2) ・・・ 注釈:微分法の成立2b
         2章Cc    ・・・ 注釈:微分法の成立3
         3章      ・・・ 量的比例
  3編 度量 1章      ・・・ 比率的量
        2章      ・・・ 現実的度量
        3章      ・・・ 本質の生成


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