Aさんは介護職出身ということもあり、私たち介護職というヒエラルキーの最下層までも気にかけてくれているのがよく分かった。Aさんは現場にまでよく足を運んでくれた。理事長の秘書という立場でありながら私を見ると笑顔で挨拶をしてくれた。<o:p></o:p>
Aさんは私の憧れの人となった。<o:p></o:p>
そこから数ヶ月、突然の出来事だった。Aさんが退職することになったとのことだった。どこか一流企業からヘッドハンティングを受けたという理由を噂で聞いていたが、事実は確かめようがなかった。病院の幹部のみで送別会が行われたらしいが、私たち介護職は送別会に招待されることもなかった。<o:p></o:p>
私はAさんがいない職場が空っぽのように感じていた。しかし生きていくためにはお金を稼ぐしかなく、転職をしようにもスキルも学歴もない私はその職場で働き続けるしかなかった。<o:p></o:p>
それまで私には借金もなく、少ない手取りながらも安いアパートを借りて生活していくことはできていた。貯金はほとんどなかったが、それでも特に大きなものが欲しいという気持ちもなく、それなりの生活をしているといった感じだった。<o:p></o:p>
当時付き合っていた彼女とは休日のたびに私のアパートか、彼女のアパートで過ごすという関係だった。時々は旅行に行くこともあったが、年に2回程度だった。<o:p></o:p>
そんな中で、趣味のサークルで1歳年上の女性と知り合うことになった。なぜか彼女は私に気があるような素振りで、私にアピールをしてきた。出会ったその日のうちに私のアパートでセックスをした。私は一瞬で恋に落ちて、付き合っていた彼女に別れを告げた。<o:p></o:p>
その女性とは、彼女の気が向いた時に私の家に来て、セックスをするという関係が続いていた。どこかに遊びに行くでもなく、お互いに性欲を満たす関係。そんな感じだった。<o:p></o:p>
そんな彼女には愛されていないように感じていた。もっと愛されたいと思うようになった。彼女を旅行に誘った時にこう言われた。<o:p></o:p>
「だってNくん軽自動車しか持っていないから、恥ずかしいからお出かけは嫌だな」<o:p></o:p>