麻生総理が演説でナチスを引き合いに出したことで
案の定、マスコミの揚げ足取りを食らって騒ぎになっている。
麻生副総理の憲法改正めぐる発言の詳細
(7/29、東京都内のシンポジウムにて)
http://www.asahi.com/politics/update/0801/TKY201307310772.html
全文を読んでこの演説の主張点が
「ナチス賛美」なのかどうかは皆さんで考えてほしい。
無難な要約をすれば
「憲法改正は(何が問題なのか)
静かに、みんなでもう一度考えてください。」
ということが一番言いたかったことなのだろう。
「静かに」というのは「冷静になって」「理性的に」
の意味合いでとらえるのが適切だろう。
ただし、ここでナチスを引き合いに出す必要はなかったし、
そもそも麻生副総理の捉え方に誤謬があるようなのが問題だろう。
次が問題があるとされる部分である。
(麻生副総理発言原文)
「(第一次大戦後のドイツの)憲法は、
ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって
ナチス憲法に変わっていたんですよ。
誰も気づかないで変わった。
あの手口学んだらどうかね」
まずここだけを取り出してしまうと、先に述べた
「静かに」の意味合いが
「(与党議員だけによる)密室談合でこっそり決める」
の意味に曲解されかねない。
それよりも、多くの方が指摘されていることだが
「ナチス憲法」というのは存在しない。
ナチスがいわゆる全権委任法を通したことで
当時もっとも民主的とされたワイマール憲法が
骨抜きにされた、というのが正確なところである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%A8%E6%A8%A9%E5%A7%94%E4%BB%BB%E6%B3%95
これが「誰も気づかないで変わった」とも考えにくい。
実際に議決の少し前に
ドイツ国会議事堂放火事件が発生し、それにともない
国会議員含む共産党員、ドイツ社会民主党員を
逮捕・予防拘禁している。
また議院運営規則修正法案を提出・可決することで
排除された議員は全て出席したものとみなして
採決の計算をすることを可能にしている。
実質憲法修正の内容を持つ全権委任法は
本来議員出席2/3以上、
出席議員の2/3の賛成が必要だったが、
上の修正法案によって可決させることに成功している。
他、地方政府でもナチ党によるクーデターを
起こして権限を掌握している。
これによって全権委任法は第二院も通過した。
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こうしてみると、ナチスも結構強引なことをしている。
「静かに」「誰も気づかずに」
全権委任法が成立したと考えるのは無理があるだろう。
麻生副総理の
「あの手口」とはどの部分を指して言うのか。
これだけではよく分からないが、
誤解されてもしょうがない表現でもある。
(音声録音を聴くと、どうも麻生副総理は
この部分冗談のつもりで言っていたようだが。
残念ながら今のマスコミには冗談が通じない)
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麻生副総理の発言はひとまずここで置くとして、
私見を述べる。
今までも繰り返し述べているが、
ナチスは、多少グレーゾーンがあるとはいえ、
民主的、合法的手続きをもって政権を掌握した
独裁政権の例である。
当時の民主主義の間隙を突くことで成立したと
言ってもいい。
現在の民主主義国家ではこのようなことが
再発しないよう、憲法や法にある程度の
セーフティーネットが施されているが、
それでも万全とはいえない(と私は思う)。
それほどナチスの手法は民主主義の
微妙なところを付いているということだろう。
その意味で、独裁政権の再来を防ぐためには、
逆説的だがナチスの手法を研究し
法整備をもっと考えないといけない。
「ナチスと名の付くものは全てダメ」
で思考停止しているうちは、
ナチスの再来を防ぐことはできない。
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現在、安倍内閣が進めようとしている
憲法改正の話が、ナチスのような危険性をもっているのか否か、
というのはおそらく難しい話だ。
一部分だけ取り出して偏向した議論をすれば、
「ナチスと似ている。危険だ」
「いや全然似ていない。危険でない」
の両方の結論を導くことができるだろう。
自称有識者の意見に騙されないよう、
我々自身が知識を蓄えておく必要がある案件だと思われる。