goo blog サービス終了のお知らせ 

そこはかとなくかきつくれば

日々のとりとめのない気付きを結晶に

電王戦第5局

2013-04-21 | コンピュータ

今回もリアルタイムでは見れていない。

-----------------------------

   
先手:三浦弘行 
後手:GPS将棋 

▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲6六歩 △6二銀 ▲5六歩 △5四歩 ▲4八銀 △4二銀

▲5八金右 △3二金 ▲6七金 △4一玉 ▲7八金 △5二金 ▲6九玉 △3三銀 ▲7七銀 △3一角

▲3六歩 △7四歩 ▲7九角 △4四歩 ▲3七銀 △6四角 ▲4六角 △7三銀 ▲7九玉 △3一玉 

▲8八玉 △8五歩 ▲2六歩 △1四歩 ▲1六歩 △2二玉 ▲2五歩 △4三金右 ▲6八角 △7五歩

▲同 歩 △8四銀 ▲7四歩 △7五銀 ▲7六銀 △同 銀 ▲同 金 △7五銀 ▲同 金 △同 角

▲7七銀 △6四角 ▲7六銀打 △7二飛 ▲6七金 △8四金 ▲6五歩 △8二角 ▲6六金 △7四飛 

▲7五歩 △7二飛 ▲8六歩 △同 歩 ▲同 銀 △7四歩 ▲同 歩 △6四歩 ▲7五金 △7四金

▲同 金 △同 飛 ▲7五歩 △7一飛 ▲8三金 △7三角 ▲8二歩 △6六金 ▲8七玉 △8八歩

▲8一歩成 △同 飛 ▲7三金 △8九歩成 ▲7二金 △8八と ▲9六玉 △7六金 ▲8一金 △9四銀

▲9五銀 △7三桂 ▲4一角 △8三歩 ▲9一金 △9五銀 ▲同 玉 △8四銀 ▲9六玉 △9九と

▲9五桂 △9四香 

102手まで後手勝ち

--------------------------

 

戦型は矢倉の中でも脇システムと呼ばれる形。

変化が狭く、研究をしていないと踏み込めない形と言われる。

だからこそ三浦八段はこの戦型に誘導したとも言える。

 

私は残念ながらここらの定跡を殆ど知らない。

45手目▲7六銀など、守りの銀を後手の攻めの銀に

自分からぶつけていくのは奇異な感じだが、

これも定跡のうちなのだろう。

 

先手は伸ばした7四歩が生命線である。

これを無条件で払われる形になると主張点がなくなる。

 

正直この中盤は私ごときが口を出せるような

レベルのシロモノではないのだが。

ただ53手目▲7六銀打ちなどはコンピュータならやらない手だろう。

プロ棋士はこのような「厚み」を好むが、

この場合持ち駒という潜在的可能性を

放棄するだけの価値があったのかどうか。

実際には8五の歩をとることはなかった。

 

55手目▲6七金。

通常はプロでも指さない。自ら玉を薄くする手だからだ。

三浦八段が命運をかけた一手だが、

ここで形勢が決まった可能性がある。

56手目△8四金。

一見イモだが以下の展開をみればわかるように

これで先手の圧力に対抗できると同時に歩損の解消が確定した。

以下先手の7四歩をはらうことに成功。

 

このときの盤面を見ると

常日頃からコンピュータに負かされまくっているアマチュアは

嫌な予感がするのである。

この時点で先手は盛り上がっていて威張っているように見えて、

実は勝てるパターンが相当制限されているのだ。

故米長氏の対局の、あのパターンを連想させる。

網を広げたものの、一箇所でも食い破られると終わりである。

 

先手は8六歩から動いたが、

大駒を犠牲にして一気に寄せ切られてしまった。

感想戦でも先手が優勢になる順が途中あったかどうか

はっきりと指し示されることはなかったようだ。

 

------------------------

 

これは大将戦であり、今までの対局とは重みが違う。

と同時に、これまでの対局とうってかわって

コンピュータの強さが一方的に発揮された一局だった。

 

この第2回電王戦シリーズはコンピュータの

勝ちであることは誰も否定出来ないだろう。

 

------------------------

 

直前の記事では入玉のことを述べたが、

この対局を見る限り状況は深刻である。

プロが自分たちの定跡で

「これは先手有利」あるいは「これは一局」

で打ち切ってきた変化を洗いなおす必要が出てきている。

 

実際に、A級棋士が勝てなかったのである。

 

この一局で、コンピュータは新手を披露したのかも

知れないが、それでも奇手というほどのレベルではない。

少なくとも指されればその理屈は分かる。

普通に指して普通に勝っている。

 

反省しなければならないのは専ら人間の側である。

 

次回、プロ棋士は誰が出場するのか。

もはや現時点でほとんど余裕がなくなってきている。


電王戦補足:入玉について

2013-04-19 | コンピュータ

前回4/14に行われた電王戦第4局

塚田泰明九段対Puella α

について、Puella開発者の伊藤氏がブログで

色々述べている。

 

http://aleag.cocolog-nifty.com/blog/?PHPSESSID=36c89792d6bb7ad0e46aff4fca1e3357

 

今回の電王戦で、伊藤氏は「ヒール役」を

自認しているが、その発言はよくも悪くも率直である。

 

第4局、入玉模様の将棋になったことについて

「(見ていて)つまらなかった」という伊藤氏本人の発言が

反響を呼んでいるが、それについて私見を述べる。

 

------------------------

 

江戸時代の川柳でも

「入り王になると見物碁にたかり」

とあるくらい、入玉模様の将棋は観客には評判が悪い。

ギリギリ一手違いの斬り合いを将棋ファンは

求めるものであり、伊藤氏の発言もおそらくその延長上にある。

またコンピュータ側が力を発揮できるのも斬り合いの局面だから

ということもその発言の理由としてあるだろう。

 

ただし、前回のブログにも述べたように、

将棋がプロ競技としてルールが厳密化されている現在では

入玉は勝敗に直結する重要な要素であり

プロの練り上げた定跡も戦略もそれなしに語ることはできない。

 

現在、コンピュータ将棋は斬り合いの局面と比較すると

入玉模様の将棋がかなり弱い。

(これはコンピュータの計算速度が向上したら解決するような

簡単な問題ではないようである。)

 

将棋が勝負である以上、それで食っているプロ棋士は

今後当然ながらコンピュータ相手には入玉を狙うだろう。

それが多少棋理に反する指し方であったとしても。

 

このような現象は何も人間対コンピュータに限った現象ではなく、

プロ棋士の間でも当然起こっている。

相手が振り飛車(穴熊)一本だったりすれば、

例え一手損でも角を換えて得意戦法を封じたりするのは

プロの公式戦でも日常茶飯事である。

 

そのような対策をとられるのが分かっているから、

あるいは相手に応じて戦型を選択できるように、

実際にはプロ棋士はどんな戦型でも

ある程度は対応できる程度の知識は持っている。

 

塚田九段は本当のところはプロの中では

入玉が下手な部類ではないかと推察される。

実際、入玉で勝った公式戦はそう多くないはずだ。

それでも、自分以上にコンピュータは入玉が苦手であるという

前提の下、入玉模様に局面を誘導したのである。

 

一方でこの日解説者だった木村一基八段は

「世田谷の受け師」と異名を持つほどの受け将棋であり、

従って入玉も強い

(当然ながら、受け手は「入玉するぞ」と攻め手を

脅迫しながらポイントを稼ぐというテクニックが必須である)。

塚田八段の慣れない指し手を見て

色々突っ込みたくなったのだろう。

 

---------------------------

 

第4局では塚田九段が点数的に必敗だった局面を

Puellaは引き分けに持ち込まれる失態を演じた。

 

これは何を意味するかというと、

「対コンピュータの場合には入玉が

プロの通常の判断基準より随分価値が高くなる」

ということであり、従ってその局面判断によって

プロの現行の定跡とは根本的に異なる定跡が

コンピュータに対しては有効となることを意味する。

 

これは故米長氏が2手目6二玉でコンピュータに応えた

思想と共通する。

 

当然、この新しく作られる定跡は

人間対人間の対局では通用しない。

根本的な価値観の部分で相違があるからである。

 

従って、プロおよび観客がその勝敗にこだわる以上は

人間対コンピュータの対局は

従来の定跡の進歩に対してはなんら寄与しなくなる。

伊藤氏はこの可能性を否定せず、

「ただそうなると将棋がどんどんつまらない方向にいくような気がする」

とコメントしている。

 

残念ながら、この可能性を回避するには

コンピュータが入玉に強くなるしかない。

 

ルールの範囲内で相手の弱みを突くのは勝負の常道であり、

それを「卑怯」と言っても始まらない。

 

入玉模様の局面での弱さを抱えていながら、

それでもソフト開発者側が「コンピュータがプロを超えた」と

言えるようになるためには、

プロがコンピュータ対策シフトした本格的定跡を作り

対抗してきたところをなおも勝ち越せるようになってからだと思う。

 

この点、チェスとは随分様相が異なる。

電王戦第4局

2013-04-14 | コンピュータ

リアルタイムでは見れていない。

しかし、第3局とは別の意味で熱い戦いだった。

 

-----------------------

先手:Puella α 

後手:塚田泰明九段 

▲76歩 △34歩 ▲26歩 △44歩 ▲48銀 △42銀 ▲56歩 △52金右▲68銀 △62銀 
▲78金 △54歩 ▲69玉 △32金 ▲77銀 △41玉 ▲79角 △33銀 ▲58金 △31角 
▲66歩 △74歩 ▲36歩 △43金右▲67金右△72飛 ▲46角 △73桂 ▲79玉 △42角 
▲88玉 △31玉 ▲16歩 △22玉 ▲15歩 △53銀 ▲37桂 △64銀 ▲25桂 △24銀 
▲13桂不成△同銀▲25歩 △45歩 ▲37角 △84歩 ▲14歩 △同銀 ▲同香 △同香

▲83銀 △71飛 ▲26角 △31飛 ▲74銀成△16歩 ▲29飛 △17歩成▲46歩 △16と 
▲62角成△85桂 ▲64成銀△同歩 ▲44銀 △同金 ▲同馬 △33銀 ▲54馬 △43銀 
▲63馬 △26香 ▲59飛 △15と ▲41金 △13玉 ▲31金 △同金 ▲71飛 △25と 
▲91飛成△24玉 ▲86銀 △17香成▲55香 △15玉 ▲53香成△32銀 ▲93龍 △27香成 
▲84龍 △24銀 ▲42成香△同金 ▲85龍 △33桂 ▲45歩 △46香 ▲57銀 △47香成 

▲64馬 △41金 ▲44桂 △36と ▲54角 △25桂 ▲32桂成△26玉 ▲41成桂△46歩 
▲68銀 △37桂成▲63角成△48成桂▲62馬 △35歩 ▲79飛 △58成桂▲14銀 △69金 
▲23銀成△25銀 ▲24成銀△16銀 ▲77玉 △28成香直▲95銀△79金 ▲同金 △39飛 
▲86玉 △68成桂▲同金上△89飛成▲75玉 △57歩 ▲84玉 △58歩成▲93玉 △99龍 
▲78金 △57と ▲82玉 △67と ▲同金 △27玉 ▲91玉 △69龍 ▲68金打△49龍 

▲34歩 △58成香▲13歩 △47歩成▲33歩成△68成香▲同金 △59龍 ▲67金 △57と 
▲86馬 △58龍 ▲77金 △67と ▲12歩成△77と ▲同馬 △56龍 ▲44歩 △52金 
▲71馬 △62銀 ▲82馬 △71金 ▲92馬 △81金打▲同馬 △同金 ▲同龍 △47龍 
▲86馬 △44龍 ▲34成銀△46龍 ▲64桂 △63金 ▲72桂成△66龍 ▲64歩 △同金 
▲68香 △57龍 ▲64香 △53銀 ▲63香成△54銀 ▲64成香△45銀 ▲43歩 △77歩

▲75馬 △68龍 ▲42歩成△46銀 ▲86馬 △47と ▲44歩 △36歩 ▲22歩 △67龍 
▲63歩 △78歩成▲43歩成△77と ▲85龍 △88歩 ▲21歩成△89歩成▲62歩成△88と引 
▲54歩 △87と引▲75馬 △37歩成▲82歩 △18玉 ▲26金 △27銀成▲同金 △同と 
まで230手で持将棋 

 

--------------------------


後手4四歩に対して先手は2五歩を付かなかったので

後手はウソ矢倉に。

後手番矢倉で通常突く8四歩を他の手に回せるのが

後手の主張だが、過去3局と比べると

序盤で稼げたポイントはごく僅かである。

 

先手1六歩に対して後手は受けず、突越しを許す。

棒銀を警戒したのか。

先手はこれを生かして2五桂から先攻。

ただし、4八銀が取り残されているので、

プロは第一感やらない攻めである。

 

とはいえ以下の進行を見ると、

後手が受けきっているとも言いがたい。

59手目▲4六歩はプロの目から見ても感じのいい手。

 

後手はどうも飛車を見捨てたために形勢を損ねたようだ。

74手目に△1三桂としなかったため▲4一金で

飛車を取られる。

以下入玉を目指すも大駒4枚全てを先手に持たれ、

たとえ入玉しても点数不足で負けるという絶望的な局面になる。

解説の木村一基八段は匙を投げていたようだ。

このまま負ければ、例えるなら

相手に背中を見せながら敗走するところを切り捨てられるという

プロとしてはあまりに惨めな負け方となる。

 

しかし、塚田九段は投げなかった。

おそらく事前研究でコンピュータの

持将棋模様の将棋が下手であることを知っていたので、

希望を捨てなかったのだろう。

 

ただしPuellaも入玉対策用にある程度

チューンアップされていたようだ。

後手の歩をひとしきりパクついた後

9四銀~7七玉からするすると入玉。

後手は飛車は取り返したもののまだ点数が足りない。

 

ここで塚田九段が意地を見せる。

160手目△5二金から二枚替えで

相手の馬を仕留めることに成功。

持将棋模様の将棋特有のテクニックである。

その後もじわりと点数を稼ぎ、

見事持将棋に持ち込むことに成功した。

 

---------------------------

 

持将棋模様は将棋ファンにとっては「つまらない」と評判が悪いが、

実際はこの一局を見ても一手一手に細心の注意を要する

神経をすり減らす勝負であることが分かる。

 

振り返ってみると序盤、

後手が9筋の端歩を打診しなかった時点で

このような進行を想定していたのかもしれない。

端歩の突き合いの有無が入玉の難易に影響するのだ。

 

また、後手が後半、先手陣の左側半分の歩をなかなか

取らなかったのも、と金づくりを阻害するテクニックである。

結果的に後の馬奪取につながった。

 

コンピュータは持将棋模様の将棋で

まだこのようなきめ細やかな対応はできないようだ。

 

「プロともあろうものが入玉狙いで指すなんて」

と非難する向きもあるようだが、

入玉も将棋のルールに則った真っ当な戦略の一つである。

現在の精密な定跡も入玉の要素がなければ成り立たない。

持将棋模様の将棋がコンピュータの弱点であったとしても、

そこを突くことは卑怯でもなんでもない。

 

---------------------

 

塚田九段は局後インタビューで涙ぐむ場面があった。

その涙の理由を説明することはなかったようだ。

 

塚田九段は若かりし日は「塚田スペシャル」という戦法で

22連勝(当時連勝記録)し一世を風靡したが、

年齢による衰えは隠せず、

最近は活躍をきくことが少なくなっていた。

 

PVでPuellaの製作者の伊藤氏に挑発され、

売り言葉に買い言葉で

「(ソフトの)あんな序盤でよくそんな

(名人を超えたなどという)ことが言えますね」

と返したものの、

直近の第3局で生きのいい若手が敗北を喫したのを

目の当たりにして、危機感は相当あっただろう。

 

多くの人がコンピュータの勝利を予想していた本局、

塚田九段は「負けないためだけに」

批判を覚悟の上で入玉を目指し、かつ途中で

プロなら目を覆いたくなるような必敗の局面になったのだ。

 

あまり感傷的になるのは趣味ではないが、

これ以上涙の意味を第3者が解説することもまた失礼にあたると思う。

 

ともあれ、バトンは

最終ランナーの三浦九段の手に渡った。

待ち受けるは今回最強と謳われる

パソコン788台クラスタ型のGPS将棋である。

 


電王戦第3局

2013-04-07 | コンピュータ

今回の対局はリアルタイムで観ていた。

 

--------------------------------

終了日時:2013/04/06 20:36:33 
先手:舩江恒平 
後手:ツツカナ 

▲76歩 △34歩 ▲26歩 △74歩 ▲58金右△84歩 ▲78金 △32金 ▲25歩 △62銀

▲24歩 △同歩 ▲同飛 △85歩 ▲28飛 △23歩 ▲22角成△同銀 ▲88銀 △42玉

▲77銀△73銀▲66歩 △64銀 ▲67金右△33銀 ▲48銀 △31玉 ▲56歩 △75歩

▲65歩 △同銀 ▲75歩 △76歩 ▲68銀 △86歩 ▲同歩 △44角 ▲55角 △同角

▲同歩 △66角 ▲同金 △同銀 ▲26飛 △75銀 ▲54歩 △52金 ▲53歩成△同金

 

▲24歩 △同歩 ▲71角 △52飛 ▲61角 △51飛 ▲62角成△61飛 ▲同馬 △22玉

▲54歩 △同金 ▲23歩 △同玉 ▲51飛△44角 ▲46飛 △22金打▲54飛成△99角成

▲25歩 △同歩 ▲43馬 △55香 ▲56歩△89馬 ▲88金打△78馬 ▲同金 △66桂 

▲67銀 △58歩 ▲同銀 △78桂成▲24歩△同玉 ▲55龍 △43金 ▲同飛成△68金

▲49玉 △27角 ▲38角 △66銀 ▲同龍 △42歩 ▲68龍 △43歩 ▲78龍 △54角成


▲28香 △14歩 ▲55金 △53馬 ▲76龍 △13玉 ▲72龍 △71歩 ▲77龍 △89飛

▲69歩 △86飛成 ▲68龍 △54歩 ▲45金 △73桂 ▲16歩 △12玉 ▲17桂 △26歩

▲15歩 △同歩 ▲25桂打△23金打▲36金 △44歩 ▲46金引△24銀 ▲26香 △32金

▲74歩 △85桂 ▲73歩成△64歩 ▲74と △77桂成▲57龍 △42馬 ▲55歩 △35歩

▲54歩 △56歩 ▲同金 △36歩 ▲同歩 △27歩 ▲29歩 △16歩 ▲63と △52歩


▲46歩 △15銀 ▲53歩成△同歩 ▲同と △同馬 ▲14歩 △26銀 ▲45金 △51香 

▲13銀 △同桂 ▲同歩成△同金 ▲34金 △42馬 ▲52歩 △同香 ▲53歩 △同香

▲13桂成△同玉 ▲25桂 △14玉 ▲53龍 △37桂 ▲同銀 △同銀不成▲13桂成△同香

▲24金打△同馬 ▲同金 △同玉 
まで184手で後手の勝ち 

--------------------------------

 

第2局に続いてプロ棋士の敗戦。

今回はソフトの事前貸出しあり、

コンピュータ側のハードもクラスタ型ではなく市販のPC一台で

プロ棋士が先手、というわけで

2局目より人間側には好材料が揃っていただけに

この敗戦は(プロ側にとっては)痛い。

 

最初の展開は1局目と似ている。

角換わり(先手だけ一方的に飛車先が切れたので先手に不満なし)

から後手が早繰り銀を繰り出すものの

いきなり銀バサミをくらう。

無理攻めを船江五段がいなす展開に。

 

歩を駆使した軽快な反撃で69手目▲5四飛成の時点では

先手飛車得。

ただし一手前△2二金打の徹底抗戦と

その後の△9九角成からの攻めに対して受けの形がないことから、

見た目以上に形勢は接近していたらしい。

むしろこの時点ではコンピュータの多くが「後手有利」と評価していた。

(人間は逆。ただし楽観していない)

 

74手目△5五香が人間側の予想していなかった奇手。

自分の馬道を止める上に先手の応手も幅広く、

人間の思考では指し手候補に上がらない。

しかし、対する先手▲5六歩で先手は歩切れになるため

2四歩の叩きが消えるのが大きい。

歩の価値が尋常でなく高い異常な局面なのである。

 

先手は受けの形がなく、

後手は攻めつつ駒損をみるみる回復させる。

評価が後手に次第に傾く所で

83手目▲5八同銀がプロのプロたる所以。

瞬間コンピュータの評価は-800(後手優勢)を超え、

解説者も「感覚的にありえない」と思ったらしい。

しかしこれが好手だった。

手番を握り、2四歩の叩きが生じたのが大きかったのである。

以下モミ合いの中99手目▲7八竜まで

後手の攻め駒を一掃することに成功。

後手は完全に切れ模様になった。

終盤から中盤戦に戻るが、先手が金得である。

 

ここから先、先手が色々勝つパターンはあったのだろう。

しかしここまで人間側は消耗していたようで、

持ち時間も切迫し指し手が乱れる。

先手は歩越しの2枚金が出現するに至り、

プロでは考えられないほどの愚形となる。

この時点でコンピュータ側の形勢評価も完全に五分に戻る。

 

139手目▲5五歩に対して△3五歩があまりに強烈なカウンター。

以下後手は船江五段の懸命の切り込みを見切って躱しきる。

ここはコンピュータの真骨頂という他ない。

 

-------------------------

 

第2局以上の熱戦だった。

コンピュータが「優勢」と判断していた終盤を

船江五段がひっくり返したあたり、

終盤でもプロはコンピュータと戦えることを示している。

一本道だが手数が長い詰みがある局面では

コンピュータも正しく判断をすることが難しいのかもしれない。

 

ともあれ、プロ側の負けであることもまた事実である。

コンピュータにもスキがあることを示したと同時に

人間の弱さもまた露呈した一局と言える。


プロ棋士の価値

2013-04-01 | コンピュータ

前回の記事の補足。

 

佐藤慎一四段のブログ

http://satosin667.blog77.fc2.com/blog-entry-452.html#cm

 

コメント欄は「感動した」「頑張ってください」という励ましから

「プロ棋士の価値がなくなった」系の誹謗中傷まで

様々である。

(後者はどうも粘着質の少数がコメントを連投しているようだが)

 

このブログではこの対局を観戦するにあたり

私がどのように感じたかという心情面を述べることは

あえて避ける。

 

------------------------

 

確かに、現役プロ棋士がコンピュータに

負けたのはエポック・メイキングな出来事には違いない。

ただし、一方で一つ負けたくらいで

「プロ棋士の存在価値がなくなった」と述べるのは

感情論を抜きにしても短絡的すぎる評価だろう。

 

振り返れば、「プロ棋士の価値が云々」と

言われるような出来事は今までも色々あったのである。

 

最初に公式戦でアマチュアに負けた日。

男性棋士が女流棋士に初黒星を喫した日。

瀬川晶司元アマ(現在プロ棋士五段)個人がプロ棋士相手に

7割近い勝率を残したとき。

 

いずれのときも世論は揺れただろうが、

それでもプロ棋士、そして将棋連盟は存続し続け、

社会的に一定の評価を得つつ今日に至る。

 

プロ棋士は「将棋が強い」ことが重要な要素だが、

一方でそれだけの存在でもない。

格下に負けることもある。

それでもプロはプロであり続ける。

将棋を生業とする人種であるがゆえに、

様々な伝説や事件を提供する。

そして世間はそこにある種の畏怖やオーラを見出す。

 

今回もその一つなのだろう。

対コンピュータの敗戦も

「プロ棋士」という存在がなければそもそも

事件として取り扱われないのである。

 

-----------------------

 

純粋に棋力のみで考えてみても。

 

コンピュータが格下とは言えない位置に

来ている可能性は否定しない。

だが、一局だけで「コンピュータが人間を凌駕した」

という結論も出せないということもまた事実である。

 

今回の電王戦5局連続対局が終了してから

その点はじっくり検証してもいいだろう。

 

-------------------------

 

「対局の姿に感動した」という人もいれば

「プロ棋士ガー」と対局者を批判する人もいる。

 

いずれにせよ、

この企画が多くの人の関心を集めているのは事実である。

 

逆説的だが、プロ棋士を批判している人は、

プロ棋士の「価値」を無意識のうちに認めてしまっているから

このような反応になってしまっているのだろう。