昨日の記事について補足。
ゲーデルの不完全性定理は、ものすごく大雑把にいうと
「ある無矛盾な公理系が設定されたとき、
証明可能かどうか決定できる命題のなす集合の濃度(集合の大きさと思ってよい)は、
命題全体の集合の濃度と比較して小さい」
ということを示して、
「証明も否定もできない命題が存在する」ことを示している。
これは対角線論法と呼ばれる。
彼が実際に「これが証明も否定もできない命題だ」と
そのときに例を出したわけではない。
実際にそうした例を作るのは大変なのだ。
それ故に、後に「連続体仮説」が実際に決定不可能な命題であることが
わかったことには価値があったのである。
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対角線論法は、カントールの実数論に起源を持つ。
彼は、この論法を用いて、超越数(注)が無限個存在することを示したのである。
この頃は、まだ超越数と知られていた数が数えるほどしか存在しなかったので、
これは当時の数学界に衝撃を与えた。
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対角線論法を理解していれば、実数の中には
「人間が定義を与えることができない実数」
という、お化けみたいな数が存在することがすぐに分かる。
しかもそれらは、我々が実際に定義できる実数より遥かに多いのである。
我々が実際に具体的に扱える実数というのは、ごくごく一部なのである。
私が度々「実数は難しい」と述べているのはこれが理由である。
(注)ある有理数係数の代数方程式の解として表せる実数(または複素数)
を代数的数という。有理数は全て代数的数である。
√2は無理数だが、x^2-2=0の解なので代数的数である。
代数的数でない実数を超越数という。
円周率πや自然対数の底eは超越数であることが知られているが、
その証明は難しい。
eについてはエルミート(1873)、πについてはリンデマン(1882)が
超越数であることを証明した。