goo blog サービス終了のお知らせ 

そこはかとなくかきつくれば

日々のとりとめのない気付きを結晶に

不完全性定理と実数

2011-11-18 | 数学

昨日の記事について補足。

 

ゲーデルの不完全性定理は、ものすごく大雑把にいうと

「ある無矛盾な公理系が設定されたとき、

証明可能かどうか決定できる命題のなす集合の濃度(集合の大きさと思ってよい)は、

命題全体の集合の濃度と比較して小さい」

ということを示して、

「証明も否定もできない命題が存在する」ことを示している。

これは対角線論法と呼ばれる。

 

彼が実際に「これが証明も否定もできない命題だ」と

そのときに例を出したわけではない。

実際にそうした例を作るのは大変なのだ。

それ故に、後に「連続体仮説」が実際に決定不可能な命題であることが

わかったことには価値があったのである。

 

------------------------

 

対角線論法は、カントールの実数論に起源を持つ。

彼は、この論法を用いて、超越数(注)が無限個存在することを示したのである。

この頃は、まだ超越数と知られていた数が数えるほどしか存在しなかったので、

これは当時の数学界に衝撃を与えた。

 

----------------------

 

対角線論法を理解していれば、実数の中には

「人間が定義を与えることができない実数」

という、お化けみたいな数が存在することがすぐに分かる。

しかもそれらは、我々が実際に定義できる実数より遥かに多いのである。

 

我々が実際に具体的に扱える実数というのは、ごくごく一部なのである。

その意味では、実数全体は我々の手の及ぶところから遠く離れている。

私が度々「実数は難しい」と述べているのはこれが理由である。

 

(注)ある有理数係数の代数方程式の解として表せる実数(または複素数)

を代数的数という。有理数は全て代数的数である。

√2は無理数だが、x^2-2=0の解なので代数的数である。

代数的数でない実数を超越数という。

円周率πや自然対数の底eは超越数であることが知られているが、

その証明は難しい。

eについてはエルミート(1873)、πについてはリンデマン(1882)が

超越数であることを証明した。


高校で教えない高校数学7:レプ・ユニット

2011-11-11 | 数学

今日は'11年11月11日である。

ということでとりとめもなく111111を素因数分解してみる。

 

まず、11や111で割り切れることはすぐに分かる。

111は素数ではない。3で割れる。

一般に、各桁の数の総和が3で割り切れるとき、

またそのときに限り、その数自身が3で割り切れる。

実際、111=3×37である。

 

また111111は7で割れる。

一般に6桁の数abcdefが7で割り切れるときというのは、

abc-defが7で割り切れるとき、またそのときに限る。

まとめると、

111111=3×7×11×13×37となる。

 

11時11分11秒になったら、

今度は111111111111を素因数分解してみよう。

 

---------------------

 

このように、1が並ぶ形の数をレプ・ユニット数という。

レプ・ユニット型の素数が無限個あるかどうかはわかっていない。

 

1がn個並んだレプ・ユニット数をR(n)で表すことにすると、

すぐ分かるのはR(n)が素数となるためにはnが素数でなければならない。

しかし、それはR(n)が素数となるための十分条件ではない。

先述のように、R(3)は合成数である。

今のところ素数であることが知られているのは、

n=2,19,23,317,1031

の場合のみである。

 

-----------------------

 

ちなみに、レプユニットは10進法表記にその定義が依存しているが、

当然他の底でも似たようなものを考えることができる。

特に有名なのが2進法の場合であり、このときはメルセンヌ数と呼ばれる。

メルセンヌ数の場合は素数であるかどうかを判定する、

リュカ・テストと呼ばれる比較的簡単な方法がある。

 

このため、現在知られている巨大な素数(1000万桁を超える)

はメルセンヌ型素数である。


はっきりとしたものとしての数字

2011-11-10 | 数学

私自身は考えたこともないのだが、

世の中の多くの女性はダイエットを意識しているという。

彼女たちはダイエットを考える際に目標に掲げるのは

ほとんどの場合、体重である。

 

しかし、どうして体重なのだろう。

人によっては、骨密度の関係で見た目より体重が多い人もいる。

彼女たちが標準体重に合わせるようにダイエットすると却って不健康になる。

 

ダイエットには色々な方法が考えうるが、

メジャーな食餌制限という方法以外にお勧めされているのが運動、である。

新陳代謝を高め、シェイプアップ効果もある。

しかし、運動は筋肉が体につくことになる。

筋肉は脂肪より重いため、体重を減らす目的で運動に臨むと

思うように効果が得られず、失望することになる。

健康になるのだから、失望する必要はないだろうと

はたから見ると思ってしまうのだが、体重を減らすことそのものが

自己目的化してしまった人にはそうは思えなくなるらしい。

 

そんなわけで、体重減を目標としたダイエットは上述のように

色々疑問点がある。

にも関わらず、なぜ皆体重にこだわるのか。

一つはそれが数字としてはっきり出て、達成感が得られるからだろう。

目標は、達成できたか否かが明快であるほうが

動機付けが高まる。

 

------------------

 

数学を好きな生徒にその訳を聞くと、

「答えが○×ではっきりしているから」と答えることも多い。

前に、計算問題ばかり解こうとする学生気質を採り上げたが、

計算問題などは○×がはっきり出る典型である。

彼らにとっては、計算問題こそが彼らの好きな数学なのだろう。

 

一方で、証明問題などは正誤が分かりにくい。

だから数学好きを自称する生徒でも、こうした論述問題に対しては

あまりのめりこめないのかも知れない。

 

本当は証明問題も○×が計算問題と同じくらいはっきりしているのだが。


文字が足りない

2011-11-03 | 数学

数学は、基本的にアルファベットを用いる。

ただし、それだけでは大小合わせても52文字しかないので

本格的な数学をやりだすとすぐ間に合わなくなる。

 

従って、次に用いるのはギリシャ文字

(α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、…)だが、

アルファベットと区別がつかない文字も多いので、

使用可能な文字数はそれほど増えない。

 

次に手を出すのがロシア文字になるという。

ただし、これはあまり一般的でない。

 

文字の種類を変えて一生懸命区別することもある。

よく使われるのはドイツ花文字やスクリプト文字、カリグラフ文字である。

 

とある英語の論文ではカタカナの「サ」の字を大真面目に用いているという。

 

---------------------

 

それでなくとも、数学ではいくつかの文字については

すでに意味が決まっており、他に使いにくいものがある。

有名なものは勿論円周率π、自然対数の底e、

虚数単位i、素数p、関数f、などなど。

 

dやDなどは微分、微分作用素、距離、双対、次元、次数、

円盤、差積、導来圏など意味するものが多すぎるので、

安易に使うことができない文字の筆頭にある。

 

そう、数学においてはアルファベットは表音文字としてではなく

表意文字として扱われるのである。

 

-----------------------

 

従って、漢字を数学の文字として使いたいと思うのは、

実は自然な発想なのだ。

漢字の種類は何万もあるから文字が足りなくて困ることはない。

日本の数学者で同じことを考えている人は多いのではないだろうか。

 

ただ、この話を外人の先生にしてみたら

「それやると日本人と中国人はいいかもしれないけれど、

僕たちは漢字同士の識別が大変だから困るよ」

とのことである。そりゃそうである。

慣れない人にとっては、漢字は使う以前に識別が困難なのだ。


足し算と掛け算の順序

2011-10-23 | 数学

先日、6+5×3を就職試験で出したところ、

「33」と答える就活生が多いと嘆く採用担当者の声が

どこかで記事になっていた。

 

正解は当然、6+(5×3)=21である。

誤答の多くは(6+5)×3=33としてしまったものであろう。

 

さて、この話は果たして「しょうもない」のだろうか。

確かに、掛け算を先に行うという計算上の約束事は小学校の時点で既に習う。

しかし、間違えた人の中には、

「誰が掛け算を足し算より優先して行うと決めたんだ。勝手じゃないか」

と疑問を持つ(ごねる?)人もいるだろう。

 

ここを「約束事だから文句言うな」と突っぱねる人は

実は理解が浅い。

一応、掛け算を優先するのは理由があるのである。

そして、その理由を知っている人は多くはないと思う。

 

記号法というのは、表せる内容が変わらなければ、

少ない記号で表せる方が効率が良い。もし、ここで

「計算では足し算を掛け算に優先させる」(*)

という約束事にすると必要な括弧の数が増えるのである。

典型例が分配法則で、通常なら

(a+b)×c=a×c+b×c

で括弧は一組で済むのだが、(*)のように約束すると、

a+b×c=(a×c)+(b×c)

となり、括弧が2組必要になる。

というわけで、「掛け算を優先する」方が、少し効率が良くなるのである。

 

ちなみに、この思想を推し進めると、中学の文字式で

「(足し算ではなく)掛け算の記号を省略する」

というところに行きつく。

 

蛇足だが、では現行の計算表記が一番効率がいいのかというと

そういうわけではない。

プログラミング業界ではよく知られているのだが、

ポーランド記法というものがある。

これは、演算子を2つの数字の間に書く(中置記法)のではなく、前に書く。

そうすると、実は括弧が不要になる。

例えば上記の分配法則は

×+abc=+×ac×bc

と表せる。

効率的なのだが、人間の間には流行っていない。

可読性の問題だろうか。