泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

銀河鉄道の父

2018-04-02 14:02:26 | 読書
 

 読み終えて、宮沢賢治への見方が広がった。
 賢治もまた、人の子であって、弱すぎるほどに弱い、金持ちのぼんぼんだったのだと。
 試行錯誤を経て、作品を発表し、一人前にやっとなれたのだと。
 でも、まだまだ過程だった。体が丈夫でなく、先が長くないとわかっていたから、がむしゃらに書き尽くしたのかもしれないけれど。
 賢治は父に対して反抗ばかりしていたのだと思っていた。裕福な質屋の息子に生まれ、境遇を呪っていたのだと。
 それは一面でしかなかった。賢治の父は、教育にも熱心だった。息子が病気になったとき、徹夜で看病した。質屋も継がせようとした。
 でも賢治は優しすぎた。商いが向いていなかった。
 教師となって、子供たちに教える中で、言葉を工夫して伝える術も身に着けていた。
 教師になれたのは、父が学校に行かせてくれたから。地学、物理、化学、外国語などを学び、賢治だけの作品世界の土台ともなった。
 何より、妹のトシが最高の読者だった。結核に伏していたときも、目を輝かせて賢治のお話を聞いた。何度も何度もおねだりして。
 賢治が病に伏したとき、父がお話を聞かせた。賢治は、父と妹をはじめとした家族あっての賢治だった。
 そうした発見があった一方、事実に基づいているだけに、いまひとつ感情移入できなかったのも事実。
 小説だから、どこまで本当なの? という疑念がつきまとう。やたらと改行が多いのも、話の深まりを妨げていたように感じた。
 24歳でトシが、37歳で賢治は死んでしまった。
 生きることへの切実な思いが、作品に永遠の命を与えたのだと思う。
 トシと賢治だけでなく、送らざるを得なかったご遺族にとっても。

 門井慶喜著/講談社/2017
コメント
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