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舳倉島におけるムカデ咬傷の20例

2012-08-05 04:48:01 | 日記

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舳倉島におけるムカデ咬傷の20例
http://pws.prserv.net/jpinet.takodam/mukade.html



舳倉島におけるムカデ咬傷の20例


元・市立輪島病院舳倉診療所 所長*1 石川県立中央病院 救命救急センター*2 石川県立中央病院 整形外科*3
富山赤十字病院 皮膚科*4

児玉 貴光*1、*2 庭田 満之*1、*3 朝井 靖彦*1、*4



種が同定されたものの多くが,トビズムカデ Scolopendra subspinipes mutilans によるもので,アオズムカデ Scolopendra subspinipes japonica によるものは少数であった。
受傷部位別にみると,四肢が14例と圧倒的に多かった。

症状としては,受傷部位の疼痛,腫脹,発赤,掻痒感が多く認められた。

治療に関しては,初期には抗生物質内服,中毒治療薬内服,抗アレルギー剤内服,(抗生物質含有)ステロイド外用剤塗布などを組み合わせて実施した。

しかし,症例を積み重ねるうちに与薬数は減少し,最終的に軽症例と診断した症例に対しては抗生物質含有ステロイド外用剤のみを処方することに落ち着いている。

なお,前述の治療で全例が数日以内に治癒しており,重篤化して再診を要した症例はなかった。


考察

ムカデ咬傷は日本中で認められる疾患であるが,あまりに一般的であるためか症例報告はきわめて少ない。

ムカデは漢字では蜈蚣と書くが,百足とも書かれるように脚の多い動物の代表であり,英語でもcentipede(百の足)という。

動物学的には,節足動物門唇脚綱オオムカデ目に分類される。体型は細長く,頭部とそれに続く同規体節体制の胴部があり8),頭部には1対の触角と3対の付属器からなる口器をもっている9)。

歩肢の数は21または23対である8)。

胴節のうち,第1胴節は変形して顎肢節となり,背板は小さく,腹面に大きな基胸板がある。基胸板は付属肢の基節と胸板が融合したもので,その前面に歯板がある。顎肢は基胸板に続いて長大な転前腿節,さらにきわめて短い腿節と脛節がみられ,その先に大きい鉤爪状の*爪(著者注:*は「足」へんに「付」)があり,内側には頭部腹側にある毒腺からの導管が上面亜先端部に裂孔状に開口しており,ヒトや物を咬むのに役立つ9),10)。

総てのムカデは卵生であり,孵化した幼虫は成体と同じ数の胴節と歩肢を有し,数回の脱皮を経て少しずつ成熟していく微変態を行う8)。

わが国には,トビズムカデ,アオズムカデ,タイワンオオムカデ Scolopendra morsitans の3亜種が生息するが,ヒトを咬むのはトビズムカデとアカズムカデのみ9),10),11)で,沖縄以北の日本中に広く棲息する12)。

本研究でも多く認められたトビズムカデは日本国内に生息するムカデのうちで最大級で,頭部が赤褐色(鳶色)で,トビズ(鳶頭)と名付けられている。

胴の背面は黒色であるが,腹面と歩肢は橙色である。10回以上の脱皮を繰り返し,3年ほどで体長が7cmに達して成体となり,その寿命は6~7年である。

頭部の両側には4個ずつの単眼があるが視力は悪く,触角に頼って行動する8)。

一般にムカデは肉食性であり,昆虫その他の小動物を食している10)が,人に対しては偶然の機会に触れられた際に防御のためにすみやかに咬む8)。

ムカデ咬傷は繁殖が進む夏期に多く認められ,この点では本研究においても従来の報告3),11),13)と差異はなかった。

本研究では四肢の受傷が最も多かったが,これはムカデに偶然触れる機会が多いためであり,過去の症例報告3),13)の結果と同様であった。

その毒成分としてはハチ毒に似ており,溶血毒,サッカラーゼ,ヒスタミン,ヒアルロニダーゼ,セロトニン,p-ベンゾキノン誘導体,蛋白分解酵素などが知られている8),10)。

ムカデ咬傷としての特異的な症状は無く,受傷部の激痛,しびれ感のほか,局所症状として*爪(著者注:*は「足」へんに「付」)刺入による受傷部位の2個の小血点や皮膚の紅斑,浮腫,腫脹,水疱形成といった症状がみられる。

重症の場合は,潰瘍化したり壊死を起こすことがある。疼痛は早期に軽減する。

また,発熱,頭痛,嘔吐を伴うことがある。

一般的には比較的軽症である3),9),10),14)が,反復受傷により症状が次第に重症化した症例6),15)やハチ刺症でショックを起こしたことのある患者がムカデ咬傷でもアナフィラキシーショックを起こしたという報告14)も存在する。

また,頸部,顔面などの頭部を咬まれたものがショックを起こしやすいといわれている14)。この点を考慮すると自験例においてもムカデ咬傷の既往,ハチ刺症の既往とその転帰について詳細に病歴を聴取すべきであったと思われる。

また,顔面に受傷した症例4,7,11,13の4例については再診を指示せずに厳密な経過観察をおこなわなかったのは反省すべき点であった。

ムカデ咬傷の治療としては,古代ローマ時代は自分の尿を1滴指に付けて頭頂部に塗布するという俗信があり,古代中国においてはナメクジを潰したものやニワトリの尿,桑の汁や塩を塗布していたという16)。

今日でも特異的な治療法は無く対症療法が中心となるが,疼痛に対して局所麻酔薬の局注や局所麻酔外用剤の塗布などが有効とされている。

また,二次感染予防のために局所の消毒,抗生物質外用剤の塗布や炎症を抑えるために冷湿布の貼付,ステロイド外用剤の塗布,抗炎症薬の内服を行う。

そのほか,中毒治療薬の静注や内服,抗アレルギー剤内服などの有効性が示唆されている2),9)。

当診療所における治療は対象期間初期には複数の薬剤を組み合わせて,ともすると過剰な治療を行っていた印象があるが,自験例の増加ともに軽症のムカデ咬傷に対して最終的には抗生物質含有ステロイド外用剤塗布のみで加療している。

前述のごとく重症化する恐れのある一部の症例を除くと,受傷後早期の疼痛コントロールがつけば局所に対する抗生物質含有ステロイド外用剤塗布だけで十分な治療効果が期待できると考えられた。

ムカデの防除法としては,網戸などを取り付けてムカデの屋内侵入を防ぐこと,有機リン系殺虫剤で退治することが有効である9)。


まとめ

10年間に20例のムカデ咬傷を診療した。

ムカデ咬傷は,反復受傷の既往やハチ刺症におけるアナフィラキシーの既往がある症例や頭頸部への咬傷の症例は重症化する危険があるが,それ以外の多くの症例については受傷後早期の疼痛コントロールと抗生物質含有ステロイド外用剤塗布のみで十分に治癒すると考えられた。

なお,本稿の要旨は第11回総合医学術集会(1999年11月,さいたま市)にて発表した。


文献

1)岡田善胤,鈴木あけみ,斎藤学,他. ムカデ咬傷の6例. 皮膚科の臨床 1991;33:565 - 567.
2)西原修美. 虫刺傷に対するCepharanthinィ注射剤の効果. 新薬と臨床 1991;40:829 - 836.
3)岡田善胤,三浦隆. ムカデ咬傷例. 皮膚病診療 1992;14:627 - 630.
4)徳田安基,内川公人. アオズムカデによる咬症. 日本皮膚科学会雑誌 1997;107:1408.
5)武南達郎,平田和文,遠藤浩,他. ムカデ咬傷後に発症した急性腎不全の1例. 透析会誌 1987;20:329.
6)矢野哲生,真島宏海,岡田正範,他. ムカデ咬傷後,ショック状態にひき続きコルサコフ症候群を呈した1例. 精神医学 1987;29:1091 - 1093.
7)石井智子,高橋修治,金内正樹,他. 多臓器不全で死亡したムカデ咬傷の1例. 日本救急医学会雑誌 1991;2:405.
8)梅谷献二. 17. ムカデの仲間. 原色図鑑 野外の害虫と不快な虫. 東京:全国農村教育協会;1994,p. 231 ミ 237.
9)大滝倫子. ムカデ咬症. 山村雄一,久木田淳,佐野榮春,他編. 現代皮膚科学大系 追補第1巻:皮膚の構造と機能 検査・実験法 治療 感染性皮膚症 動物性皮膚症 上皮性腫瘍. 東京:中山書店;1987,p.255 - 257.
10)加納六郎,入交敏勝. 唇脚綱 Chilopoda (Centipedes). 山村雄一,久木田淳,佐野榮春,他編. 現代皮膚科学大系 第8巻:動物性皮膚症 体内寄生性皮膚症. 東京:中山書店;1984,p.231 - 232.
11) 富岡剛,馬場俊一,山口全一,他. ムカデ咬症の1例. 臨床皮膚科 1989;43:769 - 771.
12)毛利忍,杉山朝美,斉藤一三. ムカデ咬傷. 皮膚科の臨床 1989;31:566 - 567.
13)真野道規,築地治久,小田和弘,他. ムカデ咬症について. 月刊地域医学 1988;2(1):16 - 19.
14)野崎良一,有田哲正,白石幸明. ムカデ咬傷;臨床症状と治療について. 救急医学 1987;11:1043 - 1045.
15)大滝倫子,篠永哲,加納六郎. ムカデ咬症. 皮膚科の臨床 1985;27:576 - 577.
16)荒俣宏. ムカデ. 世界大博物学図鑑 第1巻:蟲類. 東京:平凡社;1991,p.131 - 135.


注:都合により、一部変更いたしております。

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