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デラシネ魂

ジャンルよろずな二次小説サイトです。
ネタバレ満載、ご注意を。

Regret

2005-05-02 | 他ジャンル小説
『兄弟なのに、好きだなんて』

ごめん、豪。
お前がその花を見つけたのは偶然で。
ただ、見たことない花だったから摘んでしまっただけ。
それだけで、終わるはずだったのに。


朝起きたら、小さな、紫色の花が枕元にあった。
「…豪。これどっから摘んできたんだ?」
「あん?裏山からだけど?」
ごはんを口いっぱいにほおばって、豪が返事をする。まったく生意気に朝のジョギングなんて始めたもんだから、消費量もハンパじゃないな、こいつ。
こっちは、起きたばっかで食欲ないってのに…。
「ふーん…ごちそうさま」
何かひっかかるんだけどな。あの花。疑問があったら、すぐ調べるべし。
俺は原色学習ワイド図鑑が並べてある本棚から「野草」を引っ張り出した。
確かあの花、カタクリって名前だったような…カ行はっと…あ、これだこれだ。
『カタクリ。山地の林の中に生える多年草。高さ15~30センチ。全体にやわらかく無毛である。2枚の楕円形の葉の間から1本の花茎を立て、1個の美しい紅紫色の花を開く』
念のためカラー写真で確かめる。うんこれだ、間違いない。
えっと、分布は北海道・本州・四国。…ん?
『(少ない)』
「…」
俺は図鑑を閉じた。平和にお茶を飲んでる豪に向かって手招きをする。
「豪、ちょっと来い」
「あん?何だよ烈兄貴」
怪訝そうにしながらもしぶしぶやって来た豪の顔をじっと見つめる。
「なに?」
俺はすうっと息を吸って。
「この…馬鹿!」
大声で怒鳴った。いきなり怒鳴られた豪は、目をパチクリしてる。
「はあ?馬鹿とは何だよ、せっかく摘んできてやったのに、そりゃねーだろ!」
ようやく立ち直ったと思ったら、ぎゃんぎゃん噛みついてきた。だけどそんなの怖くもなんともない。俺はふふん、と笑ってその前にカタクリを突きつける。
「いいか?この花の名前はカタクリっていって、すっごくめずらしい花なんだ。天然記念物にも指定されてる」
テンネンキネンブツ?漢字には変換出来なかったようだが、何やらすごいものだというのは察したらしい。途端に静かになってしまった。
「そ…それで?」
「それをお前は摘んでしまった…これがどういうことかわかるか、豪?」
ごくん。つばを飲み込み音が響く。
「…」
強がって胸をそらしてるが、視線がうろうろ泳いでる。少しは不安になってきたらしい。
さて。ここからがからかいがいのあるところなんだよな。
俺は豪の瞳をまっすぐとらえて、そして。衝撃の事実ってヤツを口にした。
「警察がお前を捕まえにくるんだ!」
「なっに~っ!」
もちろん、そんなのは嘘だ。ま、確かにそこらに生えてる野草よりは価値はあるけど、そんなことでしょっぴくほど警察だってバカじゃない。大体そんなの見張ってるほどヒマだったら、こんなに毎日毎日殺伐とした事件なんて起こんないよ。
けど、豪は信じたらしい。顔色が真っ青になってる。
ここぞとばかりに俺は怒ったフリをした。この頃コイツに甘すぎた気がするからな。たまにはいいだろ。
「あーもー、この馬鹿!父さんや母さんに何て言う気だ?WGPだって出場停止になるかもしれないんだぞ!ったく!」
「どーすりゃいいんだ、なー烈兄貴ー」
泣きそうになってる豪の顔を見てると、何だかおかしくなってくる。ま、いじめるのはこの辺にしといてやるか。
「とりあえず、枯らさないようにコップに水はっていれとけよ」
「おっし!」
あーあ、単純な奴。バタバタ、とダイニングに向かって駆けていく豪の後ろ姿に俺はこれから
のあいつの将来が心配になった。
ま、仕掛けたのは、俺なんだけどね。

それからというもの、豪は花に付きっきりになった。
学校から帰って、夕食食べてさっさとまだ顔も見てない。
いつもはうるさい位まとわりついてくるくせにさ。
ま、別にいいんだけど…でも、なんかすっきりしない。何でだろ?
「…」
いつもやってる授業の復習も、全然頭に入っていかない。こりゃ、やるだけムダだな。
パチン。勉強机の電気を消す。支えのなくなった教科書がパタン、と閉じた。
そしてまるでそれを見計らったかのように。
「烈兄貴ーっ」
どたどた、と廊下を走る音がして、バンとドアが開かれる。
すわ一大事ってカンジで息を切らしてる豪を見て、ガクーッと力が抜ける。
まったく兄ちゃん情けなくて涙出てくるよ。
「は、花がしぼんじまった!どーしよ!」
んなことで泣くなよ。って半分は俺のせいか。
頃合いを見計らって、嘘だよって言ってやんないとな…。さて、と。
「…」
黙って図鑑を取り出す。えーっと、123P…。
「良く見ろ、豪」
「え?」
カタクリのぺージを開いてやると、常にない真剣さで図鑑に見入っていた。ああ、勉強教えてやってる時もこれだけ真剣になってくれたらなあ。
「ほらここ」
『昼はそりかえり、夜はとじる』
「それがカタクリの花の生態なんだから。大丈夫だって、そんなに大騒ぎしなくても」
「そっか…」
途端に、はーっと安堵のため息をつく。嬉しそうな笑顔。
「…」
あれ?何だ今の。胸がチクッとする痛み。何で?
「あのさ、豪」
気がついたら、口を開いてた。おい、何言おうとしてんだよ。
あの花があいつに大事にされてるからって、俺にはカンケーないだろ?
「これ枯らしたら警察に連れていかれるっての、まだ信じてるのか?」
バラしたのは、そしたら豪が「なーんだ」ってカタクリを放り出すかと思ったから。
でもその反応は、思い描いていたのとはまるっきり違ってて。
「あ、やっぱり嘘だったんだ、それ」
豪は、青い瞳を一瞬、見開いただけで。後は、ただ笑ってるだけだったんだ。
そしたら、何だか、自分がバカみたいに思えてきて。
「と、とにかく!世話するなら、ちゃんと調べとけよ」
俺はさっさと豪を部屋から追い出しにかかった。ちょっとだけ涙声だったかもしれない。
「…ああ。烈兄貴、こいつ、いつまで…」
その一瞬だけ、大人びてみえた、青い瞳。
それは今まで見たことのない、憂いをたたえた、うみのいろ。
「…にいてくれんのかな」
「…?」
「いや、何でもない。じゃ、おやすみ!」
何だってんだよ…まったくもう。
こんな時は、何もかも忘れて寝ちゃうに限る。
俺はベットに勢いよく寝転がった。
けれど、その夜、何故か眠りはなかなか訪れてはくれなかった。

そして、二日が過ぎて。
俺達の必死の尽力もむなしく、学校から帰ったら、カタクリは枯れてしまっていた。
豪は、黙々と夕食を片付けた後、部屋に閉じこもってしまった。
「豪ーっ?」
コンコン、とドアをノックする。反応は、ない。かといって蹴破るには、もう遅い時間だし。
心配する母さんの相手やら、片づけやらで思ったより時間を取られちゃったんだ。
「入るぞー」
だけどそこは、勝手知ったる弟の部屋。こういう時、あいつが鍵を掛けないこと位知ってる。
あっけなく開いたドアを後ろ手に閉めると、小さな声が俺を呼んだ。
「烈兄貴…」
ベットの上にうずくまって、その手に、茶色くなったカタクリの花を握り締めて。真っ赤な目で、こっちを見てる。
「ん?」
「俺、この花が好きだった、烈兄貴みたいだったから」
え?
「小さいのに頑張って生きててさ、けど、俺が摘んじまったから…」
だから?
「豪」
「こっちに来て、烈兄貴」
豪が手を差し伸べる。その手を取ろうとして。
「俺のこと、ほんの少しでも好きなら」
トクンッ!
見開かれる、ひとみ。動かなくなる、からだ。
「…なんでっ」
「痛ッ」
ぐん、と強く手を引かれ、俺は思わずベットの上に倒れ込んだ。
「ごめん…」
そっと背に回された腕が抱きついてきた。おずおずと、まるでこわれものをあつかうように。
「…豪?」
こんな不安そうな豪は久し振りに見る。
まだ小っちゃい頃、俺の後をついて回って追いつけなかったりすると、よくしてた、顔。
泣き出す一歩手前の、おっきな瞳。
「烈兄貴は、どっかいったりしないよな?」
「何言ってんだよ。そんなの、わかんな…」
「やだ!絶対やだ!」
必死にしがみつくその腕は、とてもふりほどけるものではなくて。
「やだよお…も…こんなの…」
俺の胸を濡らすその涙を、とめる術なんて知らなくて。
「ずっと、そばにいて…お願いだから…」
「豪…」
だから、俺は。俺に残されてる選択肢は。
ひとつしか、なかったんだ。


ごめん、豪。
俺があんなこと言わなければ、気づかずにすんだのに。
ただ、めずらしい花を摘んだってだけで、それが枯れても哀しくなんかなくて。
そう、愛しい、なんて思わなかったろうに。
こんな気持ち、気づいたって、苦しいだけなのに。


『兄弟なのに、好き、だなんて』  
                

◇禁忌の関係に踏み込む直前の話。豪が烈兄貴に迫ってというのも好きですが、こう迷いながら豪を引き込んでしまい、そのことに罪悪感を覚える烈兄貴も好きです。

真夜中の訪問者

2005-03-23 | 他ジャンル小説
今回は何故か「D.Gray-man」のお話です。


地下水路を進む舟の中で。
ふぁ、とあくびをしたアレンを見てトマが笑った。
「今回もお疲れ様でした。ゆっくりお休み下さい」
調査の結果、イノセンスはなかったけれど。
エクソシストである自分も、ファインダーであるトマも大した怪我もなくて。
「ありがとう、おやすみなさい」
軽く手を上げ、暗闇に消えていくトマを見送って。
さて、とアレンは目の前の階段に足をかけた。

今は真夜中、教団内の照明は落とされている。
いつもに比べれば怪我もほとんどないけれど、疲れた体は休息を欲していて。
本当は今すぐにでもベットに沈みこんで眠ってしまいたい。
けれど、自分にはその前にどうしても行きたいところがあった。
あった、のだけれども。

「…迷った」

もともと方向感覚に優れた方ではない。
しかも今は疲労と空腹で、頭もロクに回らない状態だし。
このまま行き倒れかな、と思ったその瞬間。

「?」

忘れられない、その旋律が耳を掠めた。
これは、この子守唄は。
ララ、の。
けれど、この声は。
ヘブラスカ?

「アレン…?」

歌声を頼りに、辿り着いたそこは光にあふれていた。
世界に109個あるというイノセンス。
その番人であるヘブラスカの体内にはその孔(ホール)が印されている。
ちかちか、と瞬いているそれはアレンが初めて持ち帰って来たイノセンスだった。

「…イノセンスは様々なものに宿り、その想いを受け止める。だがあまりに強い想いは時折それを
外に向けてやらねばイノセンス自体が壊れてしまう」

物言いたげに立ち尽くすアレンに答えるように、また気遣うように。
ヘブラスカは静かに、静かに語りかける。
その頬を優しく撫でていく手に、ほ、と詰めていた息を吐くと。
アレンはまるで子が親に縋るように、その温かさに身を摺り寄せた。

「だから歌っていたのだが…すまない、お前には辛かったようだな」

ヘブラスカの謝罪に。
ふるふる、と首を横に振ると。
ぱっと顔を上げたアレンは、嬉しそうに微笑んだ。

「そのおかげで僕は、ここに辿り着けたんだよ?」

何度も諦めそうになって。
それでも、どうしても、どうしても伝えたい言葉があったから。

「ただいま、ヘブラスカ」

君に一番に言いたかったんだ。
アレンがそう、小さな声で囁いても。
ヘブラスカから返ってくるのは沈黙だけで。
ああ、やっぱりイノセンスがなければここには来ちゃいけなかったのかな、と。
しゅんと肩を落としたアレンの体は、突然ふわりと宙に浮いた。

「嬉しい…ものだな…。おかえり、アレン」

ああ、自分は。
その言葉が聞きたくて、ここまで頑張ってきたんだなあと。
薄れゆく意識の中で、アレンは思った。

それからぐーぐーとお腹を盛大に鳴らしながらも幸せそうに眠り続ける真夜中の訪問者のために。
ヘブラスカが(ティムキャンピーに頼んで)食料を調達したり、寒くないように毛布を持ってこさせたりと、それはもう涙ぐましい努力を(ティムが)していたのだけれども。
それはまた、別のお話。


◇イノセンスについては捏造ですので(いつもですが)本気にしないで下さいねー。
この後ヘブラスカがアレンのためにコムイに掛け合って簡易ベットと冷蔵庫(食料たっぷりの)を自分のトコに持ち込んだりしてくれると萌えです。ええそれはもうアレンのためだけに!(笑)
さ、次こそはTOS…明日放映の陰陽につかまらなければですが…はは。

こころのあざ

2005-03-02 | 他ジャンル小説
今回は何故か「D.Gray-man」のお話です。


どうして。
捨てたりなんか。 

黒の教団の城に足を踏み入れた途端、無性に『彼』に会いたくなった。

異形な姿をしていたために村人に疎まれたグゾル。
必要とされた人のために壊れるまで歌い続けたララ。

奇怪な腕を持って生まれたために、捨てられた僕。
親にすら見離された子供に愛していると言ってくれたマナ。

なにがあっても立ち止まらないと。
命尽きるまで、歩き続けると誓った。
この『ウォーカー』の名にかけて。
けれど。

「アレン…?」

気遣うようなその声の響きに涙が零れそうになった。
母親のぬくもりなんて知らない。
だけど、今この体を包み込むのは、確かに。

「ヘブラスカ…」

どうして、と。
そう問うことがどれほど無意味か、わかっていても。
あのような哀しいことがあった、後、は。

なにかが。
体の中に渦巻いている、喉の奥で出口を求めて暴れている。
叫び出したい衝動に駆られながら。
僕は一言も発することが出来ずに、ただ立ち尽くすだけ。

ふわり、と体が宙に浮いて。
ヘブラスカがそっと額を合わせてくる。
暴走した対アクマ武器を元に戻した時のように。
荒れ狂っていた心の中が、その、痛みが。
少しずつ少しずつ、鎮まっていく。

「…っ」

言葉のかわりに零れ落ちたのは。
誰を悼む涙だったのか。

ねえ、あなたたちはしあわせだった?

そして、僕たちは。


◇遅ればせながら、初めて読んでみたのですよ「D.Gray-man」いや、面白いですね。
アレンって基本的に敬語なのは、家族とかほんとに親しい人がもういないというかいらないと思ってるからなのかなあ、と妄想してみたりします。神田とアレンはいいコンビですね、あの精神的背中合わせがたまりません。しかし書くのはヘブラスカ…(笑)4日に3巻が出るそうなので、それを読んでから…いやもう書かないと思いますけども。っていうかヘブラスカってヘブくんって呼ばれてるから『彼』です…よね(弱気)知ってる方誰か教えて下さい…。

タイトルは自主的課題からお借りしました。

もう、離さない

2005-01-29 | 他ジャンル小説
今回は何をトチ狂ったかドラクエ8のお話です。
しかもこのゲーム、やってるのを横で見てただけでやったことがないです。
それなのに何故かネタバレ全開な話となっておりますので、未クリアの方はお気をつけ下さい。
CPは多分クク主です。そして死にネタです。不快になりそうな方は自力回避をお願い致します。

それではどうぞ。


あれはまだ俺達が出会って間もない頃。
トロデ王に必要以上に尽くすエイトに、何気なく言った言葉があった。

『王が、王がって、お前、あいつが死ねって言ったら、死ぬのかよ』
『死ぬよ』
さらり、と言われた。
迷いのない黒曜石の瞳が、まっすぐに俺を射て。
『でも、王はそんなことおっしゃらないだろうけど』
俺はさぞかし情けない顔をしていたんだろう。
困ったように笑って、そう付け足していたっけ。

呪いを解くために、旅をしてきた。
けれどその途中で知った、エイトの過去。
その、過酷な、運命。

『なあエイト、お前今、トロデ王が死ねって言ったら…』
『死ねるよ』
あの時と同じ、迷いもせずに言い切ったその体を抱き締める。
『でも、王はそう命じては下さらないだろうね…』
ただ腕の力を強めることしか出来ない俺に。
エイトは、どこか遠い目をしたまま、寂しそうに笑った。

「あいつの呪いを…解いてやってくれ。あんたがかけた、優しくて残酷な、呪いを」

旅が終わった後、トロデーンの近衛隊長に任命されたエイトは、多忙な日々を送っている。
兵の訓練から、書類の決済、果てはトロデ王の昔話に律儀に付き合ったりと。
けれどこいつがこんなに疲れてるのは、そのせいだけじゃない。
「ほらよ、茶だ」
んーっと伸びをする我らが隊長殿にカップを差し出せば、ありがと、と小さく礼を言って口付ける。
こく、と飲めば、おいしかったのだろうか、眉間の皺が少しだけ取れてなくなった。

トロデーンには半人半竜がいるという。
その血を飲めば、不老不死になれるのだと。

各国にまことしやかに流れる噂は、この国を、なによりエイトを。
真綿で首を締めるようにじわじわと追い詰めていた。
それでもその顔から穏やかな笑みが消えることはない。
こいつが泣いたのを見たのは、一度だけ。
「あ、そういえばさー」
「なに?」
「呼んでたぜ?」
主語のない俺の言葉に、エイトが首を傾げる。
「誰が?」
「トロデ王」
がたーん、と執務室の椅子が派手な音を立てる。
わたわた、と立ち上がったエイトは慌てて部屋を飛び出していった。
「頼むぜ…」
どうか、あいつに救いを。

戻ってきたエイトは久方振りの晴れやかな顔をしていた。
「明日、陛下の狩りのお供をさせて頂く事になったんだ」
「そうか、良かったな。楽しんで来いよ」
ひらひらと手を振る俺に、エイトは躊躇いがちに口を開く。
「ククールは…?」
「俺はお留守番。ふたりとも城開けるわけにもいかないからな」
それに書類が山積みだ、と机の上の紙の山を指差せば、しょうがないなあと笑った。
「じゃ、頼んだよ」
お前は知らない。俺が、握った手を離したくなかったなんて。
そして、俺も知らない。
ごめんね、と。
お前が、音にならない呟きをもらしていたことなんて。
その黒曜石の瞳が、潤んでいたことなんて。

「エイトよ。お前に頼みがある」

厳かに告げられたそれを、僕は受け入れた。
それはずっとずっと願っていたことだったから。
この身には半分、竜神族の血が流れている。
記憶を奪われ、彷徨っていた僕を助けてくれたミーティア姫とトロデ王。
そこから僕の歴史は始まった。
ヤンガスに、ゼシカに、そして、ククールに出会って。
王への忠義心の他は空っぽだった僕の心は、だんだんあたたかいものに満たされていった。
でも。
それも失われてしまう。
あの時。
人とは違う時の流れを生きると知ったあの時、僕は泣いた。
怖くて、怖くて。またひとりで取り残されるのかと思うと、哀しくて。
ククールはなにも言わずに、一晩中僕の頭を撫でてくれていたっけ。
ごめんね。
そんな君に、僕はひどいことをしようとしている。

「わしを庇って…死んでくれ」

後ろにはトロデ王。前には手負いの獣。
近衛隊長の僕がこの位置にいるのは、当然のこと。
獣の振り下ろされる鋭い爪を『避けきれず』に。
僕の体は切り裂かれ、貫かれた。
「く…ぅっ」
うん、痛くないけど、ただ、熱い。
流れる血が地面に吸い込まれていく。
こんなもの、欲しがる奴の気が知れないよ。
「王…ご無事で…?」
後ろを振り返って尋ねれば、返ってきたのは大事無い、と言う震えた声。
それと、かなしそうなつらそうな。そんな光を宿した瞳。
「すまぬ…すまぬのう、エイト…」
ああ…だめですよ陛下、そんなに近寄っては。御身が血に汚れてしまいます。
それに。
「…離れて下さい」
まったく鼻の良い。僕の血を狙ってる輩が、音もなく姿を現した。
でも、残念だね、あげないよ?
この身に触れることもゆるさない。
だって僕がそれをゆるしたのは、この世でたったひとりだけなんだから。
「ギガディ…」
「ったく、相変わらず物騒なもん唱えてるな」
ふわりと後ろから口を覆われ、どくん、と心臓が跳ねた。
「ククール…ッ!」
「こいつは心も体も、俺に独占権があるんでね」
にやり、と不敵に笑うと。
「お前らにはやらねーよ。血の一滴だってな」
ククールはいきなり僕を抱えあげるとルーラを唱えた。

ああ、あったかいな。

「ありが…と、ククー…」
幸せそうに細められ、そして閉じられた黒曜石の瞳が。
再び開くことは、なかった。

誰も知らない場所に、その墓はある。
「呪いは…解いてもらえたか?」
墓守の男が、微笑むと。
こたえるようにそっと、風がその銀髪を揺らした。


◇主に仕える敬語の少年って萌えるのですよ…ターンAのロランとか(微妙に古い)
最後が力尽きたのがばればれな話で申しわけないです…。思いついたのを吐き出したかっただけなんで満足しました。主人公もですが、なによりククールの会話口調がわからない…気を抜くとTOSのゼロスに(笑)実はこれ、2005年1月29~31日までフリーだったもので、恥ずかしいのでさげていたのですが、またひっそりあげてみたり…。ここまで読んで下さってありがとうございました。

タイトルは自主的課題からお借りしました。