それから、表面上は穏やかな日々が過ぎた。
ようやく体力が回復してきたのか、父さんは俺と剣の稽古もするようになったし、長い時間は無理だけど、こどもたちと遊ぶようにもなった。
無理をしてるのも、その原因も明らかだったけど。
だけど、母さんも俺も何も言わなかった。
母さんは。
自分にそんな資格はないって、寂しそうに笑った。
そして、俺は。
「父さん」
ロッキングチェアでうたたねをしてるかと思ったのに。
父さんは思いつめたような顔で、一心不乱に手の中の書状の文字を追っていた。
ちらりと覗き見たそこには。
ファンダリア王・ウッドロウ・ケルヴィン。
ストレイライズ大神殿の司祭・フィリア・フィリスの署名があった。
かつての仲間でも、今のふたりは世界の二大権力。
彼らからの正式な呼び出しに、四英雄のひとりとはいえ、今はしがない庶民の父さんが逆らえるはずもない。
そして、出頭命令が下ったのは、もうひとり。
「大丈夫だよ、父さん。きっと、ウッドロウさんたちなら悪いようにはしないと思う」
殺しはしないよきっと。
権力者にとって、貴方は、まだまだ利用価値があるんだから。
そう、ジューダスは、金の太陽を表舞台に引きずり出すための。
「うん、そうだな」
嘘つき。
信じてなんか、いないくせに。
「そうだと、いいな…」
そうぽつりと、呟いて。
ぎゅっと焔の剣を握り締め、かつての英雄は泣きそうな顔で笑った。
「…俺は、反対だ」
ストレイライズ大神殿。
18年振りに揃った四英雄は、ある者は悲痛な面持ちで、ある者は諫めるように、俺を見た。
何もかも、あの時と同じ。
だけど、今度ばかりは譲る気は、ない。
「馬鹿か、お前は」
うるさいな。
自分の処刑を涼しい顔で受け入れた裏切り者に、そんな台詞言われたくない。
世界中のすべてを敵に回しても。
そんなこと望んでないって、言われても。
ただ、自由にしてあげたいだけなんだ。
ヒューゴに、ミクトランに、そしてフォルトゥナに縛られたあいつを。
それなら、あのまま神ごと燃やし尽くせば良かったのかもしれないけど。
やっと、取り戻せたんだ。
だから。
「…みんなは闇を恐れてるんだろ?」
だったら、照らしてやればいい。
ひとつで心もとないなら。
それなら。
「簡単な計算だよ。ひとつの闇にふたつの太陽。強いのはどっち?」
重ねられた、あたたかい手。
ああ、この子は。
いつも自分の望むことを。
「裏切り者は処刑するよりも、英雄に飼い慣らされる様を見せつけた方がいいと思いますけど?」
もともとそのつもりだったんでしょう?と。
にこり、と笑いかけられ、かつての英雄達は言葉を失った。
「ジューダス…いえ、リオン=マグナスはこのままここに監禁される。もちろん監視役の俺と父さんもここからは簡単には出られない」
ねえ、父さん。
貴方の大嫌いな英雄として崇め奉られるかわりに。
「きっと裏切り者と英雄、どちらかが死ぬまで」
ずっと、リオンと一緒だよ。
…嬉しい?
「俺はそれでもいいよ。父さんは?」
縋るものを求めるように、スタンはぎゅっと焔の剣を抱き締める。
こたえなんて、最初から、決まっていた。
→「ただひたすらに突き進むしか」 に続きます。
◇企画もそろそろ終わりですねー。おかげさまで迷走を続けるこの連載もなんとか終わりそうです。あともうひと頑張り…ふう。後ですね、この他に短編書きますみたいなこと言いましたが、なんかどうもそこまで手が回らなそうなので、そちらは今UPしてる走り書きと拍手お礼文だけになりそうです。ごめんなさい。
関係ないですが、この企画終わったら、大江戸ロケット(←また観てる人が少なそうなものを…)の小話でも書きたいです。陰陽とかもいいな…。なんだかこの頃色々飢えてるので。
ようやく体力が回復してきたのか、父さんは俺と剣の稽古もするようになったし、長い時間は無理だけど、こどもたちと遊ぶようにもなった。
無理をしてるのも、その原因も明らかだったけど。
だけど、母さんも俺も何も言わなかった。
母さんは。
自分にそんな資格はないって、寂しそうに笑った。
そして、俺は。
「父さん」
ロッキングチェアでうたたねをしてるかと思ったのに。
父さんは思いつめたような顔で、一心不乱に手の中の書状の文字を追っていた。
ちらりと覗き見たそこには。
ファンダリア王・ウッドロウ・ケルヴィン。
ストレイライズ大神殿の司祭・フィリア・フィリスの署名があった。
かつての仲間でも、今のふたりは世界の二大権力。
彼らからの正式な呼び出しに、四英雄のひとりとはいえ、今はしがない庶民の父さんが逆らえるはずもない。
そして、出頭命令が下ったのは、もうひとり。
「大丈夫だよ、父さん。きっと、ウッドロウさんたちなら悪いようにはしないと思う」
殺しはしないよきっと。
権力者にとって、貴方は、まだまだ利用価値があるんだから。
そう、ジューダスは、金の太陽を表舞台に引きずり出すための。
「うん、そうだな」
嘘つき。
信じてなんか、いないくせに。
「そうだと、いいな…」
そうぽつりと、呟いて。
ぎゅっと焔の剣を握り締め、かつての英雄は泣きそうな顔で笑った。
「…俺は、反対だ」
ストレイライズ大神殿。
18年振りに揃った四英雄は、ある者は悲痛な面持ちで、ある者は諫めるように、俺を見た。
何もかも、あの時と同じ。
だけど、今度ばかりは譲る気は、ない。
「馬鹿か、お前は」
うるさいな。
自分の処刑を涼しい顔で受け入れた裏切り者に、そんな台詞言われたくない。
世界中のすべてを敵に回しても。
そんなこと望んでないって、言われても。
ただ、自由にしてあげたいだけなんだ。
ヒューゴに、ミクトランに、そしてフォルトゥナに縛られたあいつを。
それなら、あのまま神ごと燃やし尽くせば良かったのかもしれないけど。
やっと、取り戻せたんだ。
だから。
「…みんなは闇を恐れてるんだろ?」
だったら、照らしてやればいい。
ひとつで心もとないなら。
それなら。
「簡単な計算だよ。ひとつの闇にふたつの太陽。強いのはどっち?」
重ねられた、あたたかい手。
ああ、この子は。
いつも自分の望むことを。
「裏切り者は処刑するよりも、英雄に飼い慣らされる様を見せつけた方がいいと思いますけど?」
もともとそのつもりだったんでしょう?と。
にこり、と笑いかけられ、かつての英雄達は言葉を失った。
「ジューダス…いえ、リオン=マグナスはこのままここに監禁される。もちろん監視役の俺と父さんもここからは簡単には出られない」
ねえ、父さん。
貴方の大嫌いな英雄として崇め奉られるかわりに。
「きっと裏切り者と英雄、どちらかが死ぬまで」
ずっと、リオンと一緒だよ。
…嬉しい?
「俺はそれでもいいよ。父さんは?」
縋るものを求めるように、スタンはぎゅっと焔の剣を抱き締める。
こたえなんて、最初から、決まっていた。
→「ただひたすらに突き進むしか」 に続きます。
◇企画もそろそろ終わりですねー。おかげさまで迷走を続けるこの連載もなんとか終わりそうです。あともうひと頑張り…ふう。後ですね、この他に短編書きますみたいなこと言いましたが、なんかどうもそこまで手が回らなそうなので、そちらは今UPしてる走り書きと拍手お礼文だけになりそうです。ごめんなさい。
関係ないですが、この企画終わったら、大江戸ロケット(←また観てる人が少なそうなものを…)の小話でも書きたいです。陰陽とかもいいな…。なんだかこの頃色々飢えてるので。