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デラシネ魂

ジャンルよろずな二次小説サイトです。
ネタバレ満載、ご注意を。

後に残ったものは

2007-05-16 | TOD2小説
それから、表面上は穏やかな日々が過ぎた。
ようやく体力が回復してきたのか、父さんは俺と剣の稽古もするようになったし、長い時間は無理だけど、こどもたちと遊ぶようにもなった。

無理をしてるのも、その原因も明らかだったけど。
だけど、母さんも俺も何も言わなかった。

母さんは。
自分にそんな資格はないって、寂しそうに笑った。
そして、俺は。

「父さん」

ロッキングチェアでうたたねをしてるかと思ったのに。
父さんは思いつめたような顔で、一心不乱に手の中の書状の文字を追っていた。

ちらりと覗き見たそこには。
ファンダリア王・ウッドロウ・ケルヴィン。
ストレイライズ大神殿の司祭・フィリア・フィリスの署名があった。

かつての仲間でも、今のふたりは世界の二大権力。
彼らからの正式な呼び出しに、四英雄のひとりとはいえ、今はしがない庶民の父さんが逆らえるはずもない。

そして、出頭命令が下ったのは、もうひとり。

「大丈夫だよ、父さん。きっと、ウッドロウさんたちなら悪いようにはしないと思う」

殺しはしないよきっと。
権力者にとって、貴方は、まだまだ利用価値があるんだから。
そう、ジューダスは、金の太陽を表舞台に引きずり出すための。

「うん、そうだな」

嘘つき。
信じてなんか、いないくせに。

「そうだと、いいな…」

そうぽつりと、呟いて。
ぎゅっと焔の剣を握り締め、かつての英雄は泣きそうな顔で笑った。


「…俺は、反対だ」

ストレイライズ大神殿。
18年振りに揃った四英雄は、ある者は悲痛な面持ちで、ある者は諫めるように、俺を見た。

何もかも、あの時と同じ。
だけど、今度ばかりは譲る気は、ない。

「馬鹿か、お前は」

うるさいな。
自分の処刑を涼しい顔で受け入れた裏切り者に、そんな台詞言われたくない。

世界中のすべてを敵に回しても。
そんなこと望んでないって、言われても。

ただ、自由にしてあげたいだけなんだ。

ヒューゴに、ミクトランに、そしてフォルトゥナに縛られたあいつを。
それなら、あのまま神ごと燃やし尽くせば良かったのかもしれないけど。

やっと、取り戻せたんだ。
だから。

「…みんなは闇を恐れてるんだろ?」

だったら、照らしてやればいい。
ひとつで心もとないなら。
それなら。

「簡単な計算だよ。ひとつの闇にふたつの太陽。強いのはどっち?」

重ねられた、あたたかい手。
ああ、この子は。
いつも自分の望むことを。

「裏切り者は処刑するよりも、英雄に飼い慣らされる様を見せつけた方がいいと思いますけど?」

もともとそのつもりだったんでしょう?と。
にこり、と笑いかけられ、かつての英雄達は言葉を失った。

「ジューダス…いえ、リオン=マグナスはこのままここに監禁される。もちろん監視役の俺と父さんもここからは簡単には出られない」

ねえ、父さん。
貴方の大嫌いな英雄として崇め奉られるかわりに。

「きっと裏切り者と英雄、どちらかが死ぬまで」

ずっと、リオンと一緒だよ。
…嬉しい?

「俺はそれでもいいよ。父さんは?」

縋るものを求めるように、スタンはぎゅっと焔の剣を抱き締める。
こたえなんて、最初から、決まっていた。


「ただひたすらに突き進むしか」 に続きます。

◇企画もそろそろ終わりですねー。おかげさまで迷走を続けるこの連載もなんとか終わりそうです。あともうひと頑張り…ふう。後ですね、この他に短編書きますみたいなこと言いましたが、なんかどうもそこまで手が回らなそうなので、そちらは今UPしてる走り書きと拍手お礼文だけになりそうです。ごめんなさい。

関係ないですが、この企画終わったら、大江戸ロケット(←また観てる人が少なそうなものを…)の小話でも書きたいです。陰陽とかもいいな…。なんだかこの頃色々飢えてるので。

それで漸く、僕は救われる

2007-05-16 | TOD2小説
ベルクラントの出現に、世界の人々は恐怖した。
もうこんなことはごめんだと、誰かがぽつりと言う。
ちいさな小さなそのこえは、やがて大きなうねりとなって、世界を揺るがした。

国は民に。
神殿は信者に。

告げる。
神とその器の黒髪の少年を討ち果たしたのは、ふたりの英雄であると。

民は国に。
信者は神殿に。

希(こいねが)う。
金の太陽を、我らの目の届くところに、と。


あれから、リオンはデュナミス孤児院に身を寄せることになった。
『人雇う余裕なんてないけど、働き手は喉から手が出るほど欲しかったのよねー、助かったわ!』
母さんにいきなりバケツを手渡され、掃除を命じられた時の顔は見物だったなあ…。

「お兄ちゃん、あーそーぼー!」

こどもっていうのはほんと感覚で生きてるから、遊んでくれる人を一瞬で見抜く。
どんなに邪険にされても、最後には折れてくれるって知ってるから。

それに。
ちびどもがあいつに甘えるのは、この頃父さんが病がちなのも関係あるのかもしれない。
不安、なんだろうな。
また家族をうしなうんじゃないかって。

ごめんな。
先に、謝っとく。

「ジューダス!俺買い物に行って来るから、そいつらのこと頼むなー!」

これ、ちょっと嘘。
向かうのは森だからね。

ちびどもに『お兄ちゃんと一緒なら父さんの部屋、入ってもいいぞ』と耳打ちして。
そして俺は、その場を離れた。


「ディムロス」

机の上に置かれた剣に語りかけるのはこれで何度目だろう。
そのコアクリスタルは、先の戦いで力を使い果たしたのだろうか、輝きを失ってしまった。
息子は自分の力が足りなかったからだ、と泣き。ソーディアンの創作者は黙って首を横に振った。

焔の剣は、今度こそ逝ってしまったのだ。

「…」

どうして、泣けないんだろう。
どこからか聞こえるのはくすくすと笑う、誰かの。

『かわいそうにね』

そんなことない。
だってこれは、自分で選んだ----。


「スタン父さん!」

ばたん!とドアの開く音に我に返った。
駆け寄って来るこどもたちの後ろには、嫌そうな顔で自分から視線を逸らす、リオン。

「あー、起きてるー!元気になった?」
「大丈夫だよ。もうすぐみんなとも遊べるからな!」

カイルに子供達の世話を頼まれたのだろう。
俺がいるのは嫌だろうに、この場を離れようとはしない。

シャルティエを殺したのは自分だと告げた。
そうか、と彼は頷いた。

憎んで欲しかった。
生きているお前に、ずっとずっと。
けれど。
あいつは絶対に自分からは近づいて来ない。視線も、合わさない。
かつての仲間だったカイルとは話す、のに。

『ねえ、自分ではない、他の存在を選んだ想い人を。貴方は憎まなかったの?』

その時。
ざわり、と心の中でなにかがうごめいた。


「何をぼけっとしている!」

気づけば、突き飛ばされていた。
腕の中にいたはずのこどもたちは部屋の隅でかたまって、がたがたと震えていて。

(魔物…)

窓を破って侵入してきたのだろう。
ガラスは飛び散り、棚は壊れ。
せっかくカイルが汲んできてくれた水差しの水も、すっかり零れている。

「お前もソーディアンマスターの端くれなら、剣を取れ!」

ああ、なんだか眩しいな。
ぽたり、ぽたり。
きらきらと日の光を反射していたそれは、あかに侵食されて。

「…ぃ、や…」

ああ、こどもたちが泣いている。
護らなきゃ。

「ふざけるな!」

ぐらぐら。
視界が揺れる。

きもちわるい。

「それでもお前はカイルの父親か!」

酷いな。
きっとお前は俺の名前なんて、覚える気もないんだろう?

「…それくらいにしてあげてよ、ジューダス」

陽光に煌くのは、白銀の刃。
『ジューダス』の隣に立つのは、自分じゃない。
そんなこと知ってる。

だけど、さ。

「大丈夫?父さん」

本当に、ひどい。
あいつに憎まれることが、たったひとつの。

俺の、存在理由なのに。


「後に残ったものは」 に続きます。

◇父さん、カイルに嫉妬してます。カイルはもちろんわかってやってます。リオンはスタンに対しては苛立ちしか感じてないかと。

僕のことを思い出さないように、そっと祈ってる

2007-05-14 | TOD2小説
フォルトゥナは、シャルティエのコアクリスタルと共に滅した。
そして、後に残ったのは。

「ふぅん…やっぱり、生きてるんだ」

糸を切られた繰り人形は、まだ意識は戻らないものの、その胸は確かな鼓動を刻んでいて。
そして、父さんは。

「…何故、ひとりで戦わせた?」

静かに響くのは、自分を責める声。
どうして?
それはこっちの台詞だよ、だって。

「あんた達だって、スタンにみんな押し付けただろう?」

終わりのない、悪夢の中で。
繰り返されたのは、悲痛な叫び。

嫌だ。
どうして。
なんで…!

「どうしてみんなは、父さんに2度もリオンを殺させたの?どうしてあんたは自分が消えることを話さなかったの?」

軍人でもない、ただの一般人だったあの人の、その優しさにつけこんで。
自分達の尻拭いをさせて。
そして、最後には。

「あのね、耐えられなかったんだよ。大切なものを犠牲にして生き延びるなんてこと、父さんに出来るはずないでしょ?」

だから、狂った。歪んでしまった。
かつての仲間も、肉親も。この世界のすべてが。
彼を殺したことを、責めてはくれなかった、から。

「だから、俺が生まれたんだ。父さんの望みを、叶えるために」

貴方にそっくりな俺は、あいつの形代にすら、なれなかったけど。
でも、ね。

「これが、スタンの望みだというのか」

血まみれで、それでも幸せそうに微笑むかつてのマスター。
人あらざるソーディアンの身では、その体に触れることも出来ない。
ああ、声が震えてるね…悔しい?

「本気で言ってるの?」

あんなにあの人の傍にいたのに。
その本当の望みすら見抜けなかったんだ、あんたは。
かわいそうなおとうさん。
誰にも理解されないのに、誰をも理解しようとして、疲れちゃったんだね。

「もう、黙りなよ」

ゆれる、揺れる、懐中時計。
リオンを『呼んで』もまだその輝きを失わない、嵌めこまれたレンズ。

「大丈夫、殺しはしないから」

さあ、次はどうやって使おうかな?


一体自分はいつから、歩いているのだろう。
どこへ行こうとしているのだろう。

「迷っているのか?」

淡々とした声に、ふと顔を上げると、そこには白い衣を纏い、岩に腰掛けている女性がいた。
膝枕をされているのは、おそらくは自分の身代わりとなったあの少女。

「…」

なにか言わなければと、思うのに。
からからに乾ききった喉は、ただ震えるだけで。

「自分の願いを叶えてもらったのだろう?なのに、何故迷う」

彼を見殺しにした自分を、何度呪ったことだろう。
殺してくれと、何度祈ったことだろう。

「俺の、願い…」

願いは、本当に叶ったのか?
いや、違う。
自分の、本当の願いは、まだ。

『貴方の望みは、全部俺が叶えてあげるから』

その、力強い声に。
もう一度、甘えてもいいだろうか。
だって、あの子が嘘をついたことなんて、ない。

「これは私の片割れでな…何も言わなくても、私の望みを知り、叶えようとしてくれた」

愛しげに少女の黒髪を梳く女性の口から零れたのは、小さな呟き。
それでも、腕の中で眠る存在を、誇りに思っていることが、一目でわかる。

「だから、今度は私がその願いを叶えてやろうと思うのだ」

とん、と背中を押される感触と共に。
すべての音と光は消え失せた。

『こどもみたいだね、おとうさん』

触れるのは。
怖い夢を見た時に、思わず掴んでいた、息子の服の。

『なかないで。ぜったい、かなえてあげるから』

ひどいことをしてしまったのに。
その青い瞳は、いつでも真っ直ぐ、自分だけを映してくれていたのだ。


「ィ、ル…」

ぼんやりと見開かれた、青い瞳に映るのは。
綺麗な軌跡を描く。
焔の、剣だった。

「ありがとう…」

息子が振るう、それが。
燃やし尽くすのは、きっと。

「…カイル?」
「ジューダス!」

良かったぁ!と抱きつくかつての仲間を渋々ながら受けとめた黒髪の少年は。

「…?」

こちらに怪訝な視線を向けてきた。
そう、それはまるで。

知らない者を見るような----。

「『初めまして』ジューダスくん」

これでいいんだ。
望んでいたのは、一瞬の断罪ではなくて。

「俺は、カイルの父親のスタン=エルロンです」

ずっとずっと続く、苦しみなんだから。


「それで漸く、僕は救われる」 に続きます。

◇というわけでむすこさん、リオンの中のスタンの記憶だけ燃やしました。ディムロスがどうなったかはお察し下さい。ほらあの子スタンと仲良い人に容赦しないから…!(がくがくぶるぶる)

月は浮かび、うさぎは沈む(前編)

2007-05-10 | TOD2小説
(5.19追記)

「ステキ☆界面世界」の高声はにゅ~さまより素敵絵を頂きました!あのうさぎの耳とか、懐中時計とか、白靴下とか、小首傾げとか、さりげに開いてる胸元とか…!ハートにストライク!でございますよ!いつもありがとうございますv

◇コメントが多かったのでうさ耳見世物スタンな話を書いてみました。詳細は「酷い息子さんな走り書き」内の「うさ耳生えてるスタンが見世物にされるサーカスもの」をご覧下さい。場面ぶったぎりなので読みにくいかもです、ごめんなさい。


「ふきゅっ?」

大きな懐中時計をその首に下げ、舞台に出て来たスタンは、いきなり顔からすっ転んだ。
痛いのだろう、あの夜ぴん、と立てられていた白く長い耳は、へにょん、とへたってしまっている。

「うー…」
『おやおやうさぎさん、はやく立たないとアリスに置いていかれますよ?』

くるくるとステッキが回る。
仮面の男にこんこんと頭をノックされ、スタンはようやく立ち上がった。
涙をこらえ、てってけてーっと走っていく姿はとても大人とは思えない。

「あんなんで大丈夫なのか…?」

リオンは頭を抱えたくなった。
とろそうだとは思っていたが、まさかここまでとは…。
しかし観客にはそのとろさというか天然ボケがうけているらしく、気づけばスタンは一番おひねりをもらっていた。

公演が終わってもリオンはすぐに帰らず席に座っていた。
特に理由はない、人波が途切れるのを待っていたのだ。
最初は渋々訪れたサーカスだが、いい息抜きになった。
今夜は満月だし、あいつの喜びそうななにかをコンビニで買っていってやろう。

「お客様」

かつん、かつんと響く、靴音。
気づけば、黒づくめの男が目の前に立っていた。

「これを。うさぎから言付かってまいりました」

差し出されたのは下手くそな字で『とくべつこうえん』と書かれたチケット。
時間は深夜になっていたが、なに、別に構わないだろう。
気ままな一人暮らし、特に門限があるわけでもない。

「ありがとう。必ず行くと伝えてくれ」

薄暗いテントの中、仮面の男の表情はわからない。
けれど。

「…かしこまりました」

その時、確かに。
あいつは笑ったのだ。
おかしくてたまらない、といった風に。

罠だ、と気づいた時にはもう遅かった。


◇あ、スタンのうさ耳はグランゾートのラビみたいなのと思って下さい(←妙なこだわり)この話ではリオン、カイル共に18歳位なイメージで。スタンは…うーんいくつなんでしょ?(笑)続きもありますが、うにゃうにゃな展開になったので拍手に沈めました。

ダイ大に反応して下さる方がいて嬉しいです!A月さんもおっしゃってましたが、12巻はポップ=ゼロス、ダイ=ロイドとして読むとたまらなく萌えますですよ。バンダナとかね!余談ですがポップって連載初期は担当編集にすら「ポップ殺しましょうよ」と言わしめるほど読者の反感買ってたとか。良かった死んだままじゃなくて…。そういえば赤い光弾ジリオンのJJも当初1クールで主役交代の予定だったんだよな…と懐かしくなりました。DVD-BOX1が近所のブックスイトウで7800円で売ってたんですが、これは買いでしょうか…(悩)

061祭が今年も開催されるようで楽しみですv主催者のお二方、応援しか出来ませんが頑張って下さいー!

私信です。

Hにゅ~さん
好き勝手やってしまったクロスオーバー話ですが、楽しんで頂けたようで良かったです。こちらこそありがとうございました!はにゅ~さんのイラストは本当に、ただ見るだけでこちらに語りかけてくるというかお話が浮かんでくるのですごいと思います。そして、あの親子お好きですか!ぎゅんぎゅんシンパシー感じまくっております…!(笑)メールお待ちしておりますねv日記を拝見してマザー3がやりたくなりました。そして今度はテンペスト頑張って下さいね!サイトの中心で叫んで下さることをこっそりひっそり祈っております…!


消えてしまう、何もかも

2007-05-08 | TOD2小説
何故、逃げなかったのかと、英雄の相棒はきつい口調で問うた。
英雄はその青空にも似た青い瞳をひとつ、瞬いて。

「俺にしか、出来ないことだから」

再び彼の者の命を絶つ焔の剣を、その手に取り、無理やり笑う。
かわいそうな、かわいそうな、おとうさん。
でもね。

「大丈夫だよ!父さんから見たら頼りないかもしれないけど…俺だってついてるんだから」

そう、だいじょうぶ。
リオンを救う方法はあるから。
だって、そうしないと。

「…ありがとう、カイル」

貴方を、そしてあいつを。
壊せないでしょう?


イクシフォスラーが空へと舞い上がる。
妨害に遭う心配なんてなかった。
この兵器を造るだけで精一杯の神にはもう、ほとんど力も、そして。
時間も、ない。

降り立ったベルクラントで、自分達を迎え撃つのは黒髪の少年。
敵の手にあるのもまた、時を越えたソーディアン。
シャルと呼ばれていたその剣のコアクリスタルは、禍々しい光を放って。

「また、僕を殺すのか?」

スタン。
この上なく優しく呼ばれた名に、けれど父さんはなんの反応も示さなかった。
ただ、その青い瞳が、冷たく凍りついていくだけ。

「…ジューダス、ジューダス、ジューダス…」

裏切り者。
涙のかわりに血色の唇から零れ落ちていくのは、まるで呪文のような。

「もう、いいだろ?」

『また』なんて生易しいものじゃない。
この手はなんども何度もお前を貫いて、血に染まって。

もう、疲れたよ。

『逃げなかったごほうびに、いいこと教えてあげるわ』

ディムロスから立ち上るのは、浄化の焔。
この剣でリオンの体ごと神を滅ぼせば、すべてが終わる。

『ジューダスとフォルトゥナは完全に融合してるわけじゃない』

「カイル…」

ごめんな。

あの嵐の夜、こわい、と泣いたお前に。
悪い夢はもう見ないと、確かに俺は言ったのに。

「大丈夫」

背中から伝わるあたたかさ。
後ろから回された腕が、手が。剣を持つ手にそっと触れて。

「父さんなら、きっと出来るから!」

ああ、その言葉が。
今までどれほど、自分を支えてきてくれたことだろう。

「…ああ」

この子は知っているのだ。
それでも、なお。

「ありがとう、カイル」
「…どういたしまして」

もしも。
あの時、振り返っていたなら。
そしたら、もしかしたら。
気づいたのかもしれないけれど。

それでもきっと、手遅れだったんだろうな。

地を蹴り、神の器へと斬りかかる。
ディムロスは何も言わなかった。
ただ、伝わってくる鼓動が、その想いが。

「これで終わりだ…フォルトゥナ!」

振り下ろされた浄化の剣。
体を切り裂くかと思われたそれは、手元へと軌道を変えて。

「…ッ!」

コアクリスタルを貫いた。

「…はっ、ぁ…」
体が、重い。
これだけ血が流れ出しているなら、その分軽くなってもいいはずなのに。

『スタン!この馬鹿者が!』
ソーディアンの自分を叱る声が、ひどく、懐かしくて。
どうしよう、こんな時なのに、笑いがとまらない。

「…うん」
だってしょうがないじゃないか。
コアクリスタルを確実に捉えるためには、二刀のうちの一刀をこの身に受けるしかなかったのだから。

でも、まだ終わりじゃない。
砕かなくては。

まだ俺が。
生きていられる、うちに。

『ふうん?大切な存在を消しちゃうんだ?』

どくん、と心臓が脈打つ。
頭の中からきこえてくる、こえ。

『シャルティエを殺されたリオンは恨むだろうね、貴方のこと』

このまま死んでしまったら。
その、恨みは。どこに向かうのだろう…?

「…さん、父さん!しっかりして…」

霞む視界に映るのは、金の髪、青い瞳。
自分にそっくりな容姿を持つ息子はまるで。

形代。

「…だ、めだ」
「父さん?」

死ねない。
このままでは死ねないのに。

「おとうさん」

するり、と体中の力が抜ける。
自分の代わりに焔の剣を握る、息子は。

「もう、楽になっていいんだよ?」

きれいに、綺麗に、微笑んで。

「貴方の望みは、全部俺が叶えてあげるから」

ぱりん。
砕けたのはコアクリスタルか、それとも、俺の命か。

もう、わからなかった。


「僕のことを思い出さないように、そっと祈ってる」 に続きます。

◇はい、久し振りの連載です。スタン父さん、これからますます酷い目に遭いそうな予感…(汗)ラストは決まってるんですけど、そこに至る道のりが遠いです。

あかをともす

2007-05-07 | TOD2小説
高声はにゅ~さんのサイト「ステキ☆界面世界」の拍手絵「テイルズ主役クロスオーバーパロディ」を拝見して。
またもやせっかくの素敵な世界観を壊してる気がしてなりませんが、再びひっそり捧げさせて頂きます…。
(ちなみにD2×E、R×Dのお話は「あおにかえる」です)

・L×A

海神はうたう、片割れを恋う、そのうたを。

ただひとつ、この手にのこされたのは、蒼い宝石。
海に捧げられた彼女を探し、流れ着いた、ここで。
俺は。

「鎮魂歌か」

綺麗な赤い髪を、容赦ない風に弄ばれながら。
届かぬなにかに手を伸ばし、そいつは、ただひたすらに歌っていた。

「知ってるよ。ここから…送り出した」

ちいさな小さな、舟に乗せ。
周りを板で打ち付けて。
ただ海神の導くままに、と諭した自分に。

あの少女は、笑って。

「きっと、もう生きてはいない」

つよく煌いた、その青い瞳。
必ず辿り着いてみせるから、と。
貴方が今も、待っていると。
伝えて、みせるからと。

「ごめんなさい」

分かたれた、聖なる焔の光。
その片割れは真っ暗な海の底に沈められた。
もう、二度と。触れられない、声すらきこえない。

でも。
もしかしたら、と願ってしまった。
それが、俺の。

赦されない、罪。

「シャーリィは、生きてる」

人間の、少年は紡ぐ。
望みではない、真実の言葉を。
それは、贖罪の歌を断ち切って。

蒼い宝石は、輝きを失ってはいない。
それが、彼女の生きているという、確かな証。

「だから、お前を連れていく」

海神はひとと共に祭壇を離れ、海へと漕ぎ出す。
荒れ果てた其に響き渡るは、彼のものを呼ぶ、こえ。

あいたい。
あいたいよ。

「アッシュ」

恋うる歌に共鳴する、ただひとつの音を頼りに。
聖なる焔の光は、水鏡に映る、その顔にそっと手を伸ばした。


・P×S

制裁の天使を、護るべき大樹に縫いとめる。
互いの首にあてられた刃は、どこまでも澄み渡り。

「あんたは、大樹を護るのが使命じゃなかったか?」

戯言を。
青年の口元に浮かんだ笑みはまるで鏡像のように。
目の前の、天使に。

大樹は選べなかった。
この星の人間を生かすか、滅ぼすか。
だから、その選択を僕らに委ね…いや。

「押し付けたんだよ」

記憶を受け継ぎ、繰り返された輪廻。
ああ、誰かが言っていた。
この世に悪があるとすれば、それは人の心だと。
嫌というほど、その意味を知って、なお。

大樹をまもれと、人の世を存続させよと、命じるこえ。
抗うことなど、考えもしなかった。

「君は断罪の剣を振るうのが仕事じゃなかったの?」

大樹より与えられたのは、二振りの剣。
右手に水、左手には炎。
制裁の天使だけが持てる、すべてを消滅させる、それは。

「ああ、俺の意思でな」

人間を監視せよ、と与えられた永遠に等しい命。
ああ、誰かが言っていた。
世界は汚いものばかりではないと。

断罪せよと、人の世を終わらせよと、命じる、こえ。
終焉を望むことなど、ありえなかった。

この存在に、出会うまでは。

「…包んでやろうか?」

目の前にひろがるのは、しろ。
彼女の纏っていた色と同じ。
どこまでもやさしい、生きとし生けるものに差し伸べられる、それは。

「いや、やめとくよ」

青年は笑った。
呪いから解放されるこの身がどうなるかなんてわからないけど。

「僕には、その白い羽は似合いそうにないから」

対となる存在の、その笑顔だけは。
きっとずっと忘れない。


◇あたたかいお言葉に調子に乗って、テイルズ主役クロスオーバーイラストのお話、残りふたつも書いてみましたー。とっても楽しかったです!特にロイドとクレスの真っ黒コンビが…(笑)

ちょこっと解説すると、L×Aの「舟の周りを板で打ち付けて~」は宇宙皇子の天上編第三巻「天の補陀落恋渡海」から。宝石が輝きを失っていないから生きてる、はダイの大冒険37巻の最終話よりそれぞれ設定借りてみました。P×Sの水と炎ですべてが~は言わずと知れた極大消滅呪文メドローアです。えと、知ってる方しかわからない解説でごめんなさいです…。

さて、次はひどいむすこさん連載…。うさ耳見世物スタンも書きたいし…悩むところです、はい。

私信です。

Mさきさん
ご無沙汰してます。まずはチャット、なんだかROMばっかりですみません…しかも寝落ちしてました…そしてそのまま寝ぼけて電源をぷちっと(汗)ご、ごめんなさーい!(ジャンピング土下座)息子さん、お誕生日おめでとうございますv色々ありますけど、ふとした時にやっぱり自分のところに来てくれて良かったと思いますよね!反抗されまくりでたまにそれが揺らぐ時もありますけど!(笑)のんびりお互い頑張りましょうなのですvひどいむすこさん企画参加、アンケートコメントありがとうございます!逆裁パロ、どの場面やるかなあ…。いっそ牢屋の中のカイルと鉄格子越しプレ(以下略)え、ええと裏も期待してますね☆応援しか出来ませんけど、原稿も頑張って下さいー

白い花の名前を、誰か教えて

2007-04-27 | TOD2小説
夢を、見た。

俺たちはみんなで、暮らしていた。
リオンも、ディムロスも。

『またねむっているのか、この馬鹿は』
『寝る子は育つ…というが、頭の方がそうなって欲しいものだ』

ころしたのに。

ルーティも、カイルも。

『まあ、いーんじゃないの?』
『そうそう。いい天気なのに父さんが居眠りしてないと、なーんか落ちつかないしね!』

きずつけたのに。

みんなが笑ってくれて。
俺なんかのそばに、いてくれて。

ああ、なんて。
しあわせ、な----。


「…父さん?」

聞こえるのは、どこか沈んだ、こえ。
白いカーテンが、風に揺れている。
いや、あれはまるで、何かを隠している仕切りの、ような。

「カイ、ル…?どこだ?」

いつものように起き上がろうとしたのに、それはかなわなかった。
おかしい。
どうして、この体は動かないんだ。

「ここだよ」

白い布が捲れた時に、一瞬だけ見えたのは、息子が遺跡から連れて来た少女。
かたく閉じられた瞳と紙のように白い顔色。
静かに横たわる姿は、まるで。

「ごめんね、父さん。ジューダスが、あんなことするなんて…」

必死に起き上がろうとする自分を優しく押し留めると、カイルはぽつりと呟いた。
ジューダス、リオン。
頭の中で、黒髪の少年の笑顔と、優しく自分を呼ぶこえ、が。
ぐるぐると、回る。

「おれ、は…」

貫かれたのに。
どうして。

「…リアラが、助けてくれたんだ」

震える肩。
死を望んでいた自分を、その淵から呼び戻すには。
一体どれほどの力、を。

ああ、また自分は。
誰かを犠牲にしてまで、生き延びてしまったのか。

「俺、なにか食べるもの持って来るね!」

辛いだろうに、哀しいだろうに。
気丈にもにこっと笑って身を翻し、駆けていく息子に声をかけてやることさえ出来ない。

「…、…っ」
『スタン』

どくん、と心臓がはねた。

ありえないことだ、と頭では思いつくすべての否定の言葉を並べ立てる。
でも確かに体が反応する。覚えてる。
この、声は。

「ディムロス…!」

泣かせて欲しかった。
今は、ただ。
けれど。

「父さん…ちょっと、いい?」

カイルが連れて来た少女が告げた真実は。
なけなしの涙さえも、奪い取ってしまった。

カイルたちが倒したはずの神が生きていて。
それはリオンに融合して、あの時果たせなかったこと…世界を、砕こうとしている。
神の卵はもうない。
けれど今、空に浮かんでいるのは。

「ベルクラント…!」

リオンの記憶をもとに神がつくったその兵器を、とめる方法はひとつだけ。
発射される前に、リオンの器ごと神を、浄化の焔で消し去るしかない。

「これは他の誰にも出来ないことよ。先の大戦の英雄・スタン=エルロン…焔のソーディアンマスターである貴方にしか、ね」

覚悟が決まったら、ディムロスを取りに来い、と告げて、少女はふいと姿を消した。
カイルの話によると、過去から無理やり引っ張ってきたソーディアンは不安定で、調整が必要らしい。


そして今俺は、あの丘に来ている。
すっかり散ってしまった桜を見つけようと、ただ、上だけを見て。
馬鹿なことをしてるとは自分でもわかってるけど。
そうしないと、泣いて、しまいそうだ。

「父さん」

カイルはもっと辛いのに。
その原因の俺に、泣く資格なんてないんだから。

クレスタの街を見下ろせば、今日もみんなは生きている。
こどもたちはわらって、あそんで。

「俺がやるよ。俺だって、父さんの血を引いてるんだから、ディムロスだって、きっと…」

ありがとな、カイル。
でも、お前にはもうこれ以上、傷ついて欲しくないよ。
一番傷つけた父親の俺に願われても、迷惑かもしれないけど。

「ごめんな、カイル…俺は」

手の中に落ちてきたのは、たったひとつだけのこっていた桜の花。
こんな風に、たいせつなひとたちと。
みんないっしょに散ることが出来たら、良かったのに。

「きっと出来るよ…父さんなら」

いつからこの息子は、こんな微笑みを浮かべるようになったのだろう?

「信じてるから」

その時、どこかで。
銀の鎖の鳴る音を。きいた、気がした。


「消えてしまう、何もかも」 に続きます。

◇スタン視点。話が飛びまくりですみません。今更ですがこの話は色々捏造ありまくりなので本気にしないで下さいねー。

明日から連休に入るので、次の更新はちょっと滞るかもです。すみませんが、ご了承下さいませ。

(4.29追記)

連休初日から風邪を引きました…(熱高いのでひょっとしてインフルかもですが)なのでもしかしたら企画期間のばすかもしれないです。


もう、絶対に戻ることなんて出来ない

2007-04-27 | TOD2小説
冷たい手が、ぱたり、と力なく地に落ちる。
それは幼き日の、あの光景にも似て。

『ゆるさないよ』

ほんのわずかに開いた、その扉を。
必死に閉じようと足掻いていたのに。
開け放して、しまったのは。

『…ごめん、…リオ、ン…』

腕の中で微笑む父の、自分以外の存在を求める、ことば。
だって、貴方が望んだから、俺は生まれてきたんでしょう?

なのに。
どうして?

「大丈夫、貴方は死なない…殺してなんか、あげない」

口元から零れる赤い血を、ぺろりと舐め取る。
そっと、腕の中の金の太陽に口付ければ、その唇は色鮮やかに染まった。

だって俺には。

「カ…イ、ル?」

狂ったように散り急ぐ、桜の花びらの向こうで。
綺麗な、紫色の瞳を見開いて、立ち尽くす黒髪の少女。

「やってくれちゃったわね」

その白く細い手には不似合いの、大きな剣を抱え。
鋭い、それでいてどこか優しい視線を向けてくる、かつての仲間。

俺の胸元で揺れる、懐中時計。
裏に嵌めこまれたレンズは、あの時、偽りの世界と共に砕いたもの。

ふたりとも、もう、気づいてるんでしょう?
だってこの場には俺たちが殺した神の気配が漂ってるもの。

「あの時、拾っておいたんだ」

耳を打つのは。
悲鳴と、ため息。

そう、やっと時は満ちたんだ。
過去に遡り、終わりなき悪夢を見せたのはこのため。
ながかったよ。
何回も想い人を殺してしまった父さんの絶望が、レンズに降り積もり、あふれるのを待つのはさ。

「神が器にジューダスを選ぶのは当然だよね?」

力のない神には、もうそれしか選択肢がないんだから。
かつての自分がつくりだした人形に縋り、宿るしか。

「そして、父さんはリオンを『呼んだ』んだ。今度こそ、自分を殺してもらえるように」

ずっとずっと願ってたんでしょ?
代替え品なんかじゃなくて、リオン本人に、殺されたかったんでしょう?
貴方の願いは叶えたよ。
だけどね、今度は。

「だけど、きっとそれだけじゃすまないよね?神は、世界を壊したいんだから」

かつての英雄は、やさしくうたうように残酷な言葉を紡ぐ。
腕の中の愛しい存在の命の欠片は、今も零れ落ちて。
それを掬い、救うには----。

「リアラ」

やさしい、こえに。
びくり、と神の片割れの身が竦んだ。

「父さんを目覚めさせてくれるかな?たとえ…」

どんな代償を払っても。

にこりと微笑むのは、堕ちた英雄。
それでも。

リアラはスタンに手をかざした。
じわりとひろがった、あたたかい光が、ふたりを包んでゆく。

「カイル」

大好きだったから。
少しの間だけでも、人間として暮らしていられて。
確かに、しあわせ、だったから。

「…さよなら」

かくり、とその白い喉が仰のく。
紫の瞳から、涙は零れなかった。

「…」

まるで糸を切られた操り人形のように崩れ落ちるリアラには目もくれず、カイルはただ父を優しく抱き締める。
今にも絶えそうだった腕の中のスタンの鼓動は、つよく、強くなっていって。

「ハロルド…『あれ』拾ってきてくれた?」

貴方は生きなくちゃいけないんだ。
だって、俺のものなんだから。

呪詛にも似たその呟きを。
音もなく散った、桜だけがきいていた。


「白い花の名前を、誰か教えて」 に続きます。

◇というわけで、神を召還したのはカイルだったよ、な話。ようやくだんだん酷くなってきた…ような?次はスタン視点かなあ…。

私信です。

Hにゅ~さん
先日はメールありがとうございました。息子さん酷いことしてますでしょうか、っつってもまだ第一段階なんですが(笑)最終的には「こりゃひどい!」とみなさんが頭抱えるくらいのを目指したいと思います。クロスオーバー小説、喜んで頂けたらそれだけで嬉しいです!アンケートコメントの方もありがとうございました!えと、思いついたの書き出してみると…サーカスの中でスタンさんだけがうさ耳族の隔世遺伝で白いうさ耳があります。カイルはうさ耳なしで、団長さんみたいな位置かな。サーカスの子供たち養うためにはいつもお金が足りないので、スタンをそういう趣味のおじさんたちの中に放り込んで「売り」をさせたりします。酷い息子さんですね!(笑)通販届いたら確認メール送らせて頂きますねー。

Mさきさん
滲出性中耳炎はですね、はい娘の方です。痛くはないらしいですが、聞こえがやっぱり悪いらしいです。片耳だけなので、とりあえず日常生活にそれほど支障はないですが、小学校とか始まる前には直したいなあと…。あたたかいお言葉、いつもありがとうございます!みさきさんこそお体お大事にですよ~。で、でも黒い息子さんも気になる…!(笑)

お題は「追憶の苑/牧石華月さま」よりお借りしました。

叶わないなんて、判っていた

2007-04-26 | TOD2小説
『この世界は、スタンたちの手によって救われなければならない…』

それは、崩れゆくダイクロフトの中できいた、彼の人のこえ。
ずっとずっと、幻聴だと思っていた。
でも。

ラグナ遺跡から帰って来た息子が連れて来た、その少女を見た時に。
ぼんやりと夢のようだった、あの時のことが。
形を、持って。

『ジューダス…リオンもきっと帰って来るよ!』

ああそれはまるで太陽のような。
息子の放つ、希望という光は、今の自分にはつよすぎて。
スタンはそっと、かつて青空のようだと称された、その瞳を伏せた。

『うん…そうだな。そうだと、いいな』

願い事は、叶わない。
叶うとしたら、それは----。


「り…おん…」

桜の木の下、微笑む黒髪の少年はあの日と少しも変わらぬままに。
どうした?と小首を傾げて、自分の名を呼んだ。

「スタン」

他の、誰に呼ばれても。
凍り付いてしまった心には、波ひとつ、立たなかった、のに。

ひらひらと、桜が舞う。
それは15年前、カイルが生まれた時に。
ノイシュタットから枝を持ってきて、接木した、もの。

「良かった、これで…」

陽光に煌くのは、かつて彼と常に共に在った、剣。
俺は、自分の体が貫かれるのを、笑って見ていた。


「…さ…父さん!」

ああ、呼んでいる。
もうこの目は見えないけれど。
まだ、口は、動くから。

ごめんな、と言いかけて、咳き込んだ。
迷いなく貫かれたこの体は、きっと血まみれ、なんだろう。

だから、ごめん。

「だめだ、父さんっ…!」

もしも『彼』が現れなければ。

「…っで、どうして…!」

俺は、普通の桜よりもしろくちいさな、思い出の花を。
自分の血で、染めて欲しいと、願っていたんだ。

真っ白いお前の、手を。
穢しても、構わないと。

なんて勝手なんだろう。
こんな、俺が。
父親になんてなっちゃ、本当はいけなかったのかも、しれないけど。
これだけは、言わせて欲しいんだ。

「ありが…と…な?」

俺を抱く手に力がこもったと思った瞬間、なにもかもが遠くなった。

ああ、どうか。
こんなろくでなしのためになんか、誰も哀しまないで欲しい。
そう、願いながら----。


「もう、絶対に戻ることなんて出来ない」 に続きます。

◇拍手再録です。今度はスタン視点。次はまたひどいカイルの話な予定です。

お題は「追憶の苑/牧石華月さま」よりお借りしました。

私信です。

Mさきさん
息子さんの流行病はその後どうでしょうか。お疲れ様です。病院連れて行くのにエネルギー使うのに、さらに混んでると大変ですよね…。ウチのも滲出性中耳炎になってしまって、正直通うの大変です(泣)なんかいつも同じことばかりで申し訳ありませんが、あったかいもの飲んでおいしいもの食べて、だんなさんコキ使って(あれ?)乗り切って下さいませー!


こころに降り積もるのは

2007-04-26 | TOD2小説
なんども、何度も、繰りかえす。

それは音もなく零れ落ちる砂時計の砂のように。
終わりのない、悪夢。

やめてくれ、と音なき懇願を紡ぐ、青ざめた唇。
いつもはさらさらとこの指を零れ落ちる、綺麗な金色の髪は、今は冷たい汗に濡れてしまっていた。

毎夜ごと、息子の手によって、スタンの意識は過去へと遡る。
神の眼をめぐる、あの戦いの日々へと。

「ぁ…あ、なんで、どうし、て…?」

椅子の上で、かたかたと震える、その体。
どんよりと濁った青い瞳が映すのは、きっと血にまみれた、黒髪の少年。

ねえ、自分ではない、他の存在を選んだ想い人を。
貴方は憎まなかったの?

「ち…が、俺は、リオンをとめたかっ…」

真っ白なあいつに会いたくて、今度こそ、愛して欲しくて。
血にまみれた手で、その姉を抱いたのに。
生まれた、こどもは。

「かわいそうにね、おとうさん」

ぽろぽろと。
とめどなく零れ落ちる涙を、カイルは優しくその舌で舐め取った。

「全部、なくしちゃうんだね…『また』」

ゆらゆら、ゆらゆら。
金の太陽の乗った、椅子は揺れる。
だいじなものをすべて弾き飛ばして、踏み潰して。
なのに。
どうして。

「貴方だけがのうのうと生きてるの?」

呼吸が、とまる。

「…ぁ」

ころした。
ころしてしまった。

初めて、好きになったひとを。そして憎んだひとを。あの黒髪の少年を。
口うるさく、それでも自分の成長を喜んでくれた、父のような兄のような、あの炎のソーディアンも。

だから。
あのとき、願ったのに。

「だめだよ」

まだ、時は満ちていない。

穏やかに、それでも逆らうことをゆるさない絶対者の言葉に。
スタンはただ、絶望の涙を流し、そして。

「おやすみ、スタン…いい夢を」

すぐ近くできこえる時計の針の音に、息子の鼓動に導かれるように。
抗うことさえゆるされず、終わりなき悪夢の海へと沈んだ。


そして夜は終わり、朝が来る。

「おはよう、父さん!」
「ああ、おはよう、カイル」

あの夜のことをなにも覚えていないように、スタンは静かに微笑んでいた。
その手には、古ぼけた砂時計が握られていて。

「懐かしいね、それ」

まだ幼い頃、父の部屋に忍び込んでは、それをひっくり返していたものだ。
繰り返し、くりかえし。

その時は、まだ。
信じていたから…信じて、いたかったから。

「カイル?」
「母さんが呼んでるよ?早起きしたんなら、朝食の支度手伝え!ってさ」
「あ、もうそんな時間か!」

寝巻きのままで慌てて走っていく父の背中を、カイルは黙って見つめていた。
床には、放っておかれた砂時計が寂しげに転がっていて。

『軍隊ってのはね、綺麗ごとじゃ立ち行かないのよ』
暗く閉ざされた心によみがえったのは、彼女の言葉。

『上にとって厄介なのは、離反する奴ってのは決まって軍の将来を左右する実力者だってこと。だからアタシに、開発命令が下ったってワケ』
針を刻む音と対象者の鼓動が合わさる時、それは効力を発揮する。
もっとも辛い過去の傷を引きずり出し、追体験させ。大切なものをこれ以上失いたくなければ、軍に従えと。

『体には傷はつかないから戦闘能力は落ちない。朝になれば記憶はなくなってる優れものよ!ただね…』
本人も知らぬ間に、じわじわとその心を絡め取る、銀の戒め。
そして。
裏に嵌めこまれたレンズに揺らめく、そのひかりの意味は。

「…もうすぐだ」

くつり、とカイルの口元が笑みの形に歪んだ。
もうすぐ砂時計の砂は、尽きる。

「父さん…俺、言ったよね?」

貴方の想い人もきっと帰って来るって。
…大丈夫。

「もうすぐ、会えるよ」

取り返しのつかないことをしてしまっても、それをひっくり返せば、すべてが元に戻って、みんなが幸せになれるって。
そう、信じていたかったけど。

ぱりん。

硝子の器に閉じ込められた砂には、逃げ場なんてなくて。
自由に、なるには----。

すべてを壊すしかないんだよ。


「叶わないなんて、判っていた」 に続きます。


◇黒いカイルはむずかしい…。一応ここまでが序章ということで。本編は少年陰陽師のパロ入りますんで、不快に感じる方はご注意を。

あ、後この連載では今まで書いてきた小説の色々な設定をごたまぜにしてます。
ちょっと書き出しとくと

・スタンはリオンの生まれ変わりを求めてルーティと結婚、こどもをもうけた→「黒の裏切り」から。
・スタンはかつて自分そっくりの幼いカイルに自分を投影して、殺しかけたことがある→「太陽に灼かれて」から。
・カイルはそれでもスタンが好きで、無理やりにでも自分のものにしたいと思っている→「金の断罪」から。
・んで、かなり酷いことも平気でする→「金の贖罪」から。

こんなところでしょうか、はい。