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デラシネ魂

ジャンルよろずな二次小説サイトです。
ネタバレ満載、ご注意を。

ひかりのこども

2005-12-10 | ロックマンエグゼ小説
◇これはパラレルです。彩斗兄さんが生きてたら、な幼い光兄弟の話なので、そういうのが嫌な人は自力回避をお願い致します。

それではどうぞ。

それは、めずらしく暖かい日差しが空から降りそそいだ、ある冬の日のこと。

「熱斗、どうしたの?」
ベランダに並んだ家族全員の布団をじっと見て動かない弟に。
不思議そうな顔をした兄が声をかける。
「おにいちゃん」
にこっと笑いながら、手を差し出され、彩斗は思わず反射的にその手を取った。
からから、と開けられた窓から、ふたりはぴょんとベランダに飛び出す。
「ごろん、しよ?」
ぽかぽかの日差しに誘われたのだろうか。
人工芝が敷いてあるだけのそこにそのまま寝転がろうとする弟を。
「うーん熱斗、ここにはお布団がないよ?」
兄はやんわりと制した。
「あるよ、ここ」
そうきたか…。
うんしょこらしょと干してある布団を引っ張る熱斗を後ろからぎゅっと抱きしめると。
「お布団さんは久し振りにおひさまに会えたんだよ?邪魔しないであげようね」
「うー」
基本的には、熱斗は彩斗の言うことは素直に聞くが。
ごく稀にだが、やはり例外は存在する。
「大きいたおる…持ってこよ?」
その視線の先にはおろしたばかりのタオルケット。
これをベランダに敷いたらママが困るだろうな…とは思うものの。
「…だめ?」
ああ、結局自分は。
この大きな茶色の瞳には、弱いのだ。
「…うん。いいよ、一緒に運ぼう?」
泣きそうだった熱斗は、その言葉にぱぁっとその顔を輝かせた。

ベランダに、ふたりでタオルケットを敷いて。
おそろいの枕を、並べて。
ころんと寝転べば、途端に隣から歓声があがった。
「おにいちゃん、ね、ぽかぽかだよ!」
「うん、あったかいね」
それからしばらくふたりで色々なことを、話して。
気づけば隣の熱斗の体はぽかぽかとあたたかく、まるで湯たんぽのよう。
「熱斗…ほら眠るなら部屋の中に入らないと…」
まずい。今まではしゃいでいたからか、熱斗は目に見えてうとうととし始めた。
「や…ここに、いる。だって…」

おひさまのひかりを吸い込めば、嫌な夢見ないでしょ?

にこ、と笑って。
すうっと眠りに引き込まれていく弟を、彩斗は驚いた顔で見つめていた。
知ってたんだ、僕が魘されてること。
「…ありがと」
浮かんだ涙をごまかそうと顔をうずめた茶色の髪からは、おひさまのにおいがして。
「熱斗がいれば、だいじょうぶだよ」
君さえ、僕の傍らにいてくれれば、もうなにも怖くないから。
ぎゅっと抱きしめられた、ひかりのこどもは。
「ん…ずっと、いっしょ、ね…」
ふわりと幸せそうに微笑んで、誓いの言葉を口にした。


◇ほのぼの…になってるか不安のパラレル光兄弟話。同じ年のはずなのに彩斗がずいぶん年上に見えるという突っ込みはナシの方向で(笑)成長してもきっとあのふたりは同い年に見られないと思います、はい。
今日の放送、炎山を信じきってる熱斗がかわいいやら何やら…「遅いぞ炎山」「炎山が来たから大丈夫」(うろ覚え)だの、副社長、いいように使われてますよ!(笑)前後しますがアイリス「いつでも分離出来るから…」って科学省で熱斗が泣いてる時に分離してやって下さいよ!2度目の獣化で取り乱していた熱斗も慣れてきたのか反応が素っ気無いです。分離した時トリルを抱っこして遠い目してるロックマンがかわいかったです。あの後ブルースが来て罪悪感にかられるロックマンを寝かせてくれたんなら萌えますな。しかし予告…あれ絶対隠れ家じゃないよ!
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あの空の向こうには、きっと未来がひろがっていて

2005-12-09 | ロックマンエグゼ小説
『なんだか熱斗くん、悩んでるみたいだから…話聞いてあげてよ』
自分にも、炎山にも。
彼は笑顔しか向けてくれないから、と。
翡翠の瞳に哀しげな光を浮かべた青いナビの頼みを断れず。
今、自分はここにいるわけだが…。

気まずい。
非常に気まずい。

思えば、こいつとこうやってふたりっきりになったことはなかった気がする。
いつも自分の傍らにはロックマンが。
そして目の前の熱斗の傍らには、炎山がいるのに。
「なー、ブルース…」
「…なんだ?」
「暇」
そう言われても。
いつもの通りの無表情、けれど見るものが見れば困惑しているのが丸わかりな顔で自分を見上げるブルースに、熱斗は思わずくすりと笑みを零した。
「炎山さまも、ロックマンも…すぐに帰って来るだろう。それまで…」
「あのさ」
まっすぐにこちらを見る茶色の瞳に、言葉は封じられる。
「俺、ブルースに聞きたいことがあったんだ…なあ、ロックマンのこと、どう思ってる?」
それはいつもなら、くだらない、と一笑に付す問いかけ。
けれど。
反応を返してしまったのは。
「どう、とは?」
「そうだなあ…ロックマンと一緒にいたいって思う?」
目の前の人物が。
あまりにも、いつもの彼とはかけはなれた表情を、浮かべていたから。
「不快では、ない」
沈黙の後で。
必死にひねり出した、その答えともつかない答えに、満足そうに頷くと。
「これからもロックのこと、よろしくな」
あいつには、幸せになって欲しいから。
「…お前らしくないな」
「へ?何がだよ?」
訝しげに首を傾げる熱斗に手を差し伸べる。
本当に、らしくない。
お前が、そんな----。

「ロックマンも、炎山さまも。お前が、幸せにするんだろう?」

弱い瞳を、するなんて。
「…うん。そうだな、そうだと、いいな…」
わずかに震えていた、小さな呟きが。
今も耳に残っている。
もしあの時、何かあいつに言っていたら。
この未来は変わっていたのだろうか。
あの言葉の裏に潜んだ決意に気づいていたなら。

『これからもロックのこと…よろしくな』

ああ、けれど。
どんなに悔やんでも時間は戻らない。
あの空の向こうには、きっと未来がひろがっていて。
自分のオペレーターの傍らには笑顔の熱斗がいるのだと。
そしてそんな彼らを青いナビと見守っていけると。
その時の自分は、疑いもしなかったのに。

「お前を犠牲にして得た平和で…誰が幸せになれるというんだ…!」

ブルースは悲痛な思いで、それを見上げた。
オペレーターと、想い人。
ふたりの大切な人が囚われている、空の鳥篭を。


◇ストリームの初期の頃の話。バレルが最終回でした決断を、熱斗がこの時点でしていたら…な捏造です。
本当は

どうせ置いていくのなら、最初から何も残さないで(熱斗)
強くなるよ。だから、護ってくれなくたっていい。(ロック)
あの空の向こうには、きっと未来がひろがっていて(ブルース)
一人で生きていこうにも、この世界は広すぎて(炎山)
祈りの言葉なんて知らない、僕たちは(ロック・炎山・ブルース)

「長文五題」から抜粋(空詩[カラウタ]/陽沙真珠(ヨウサマジュ)さま)

この順番で書くはずだったのですがね…意味わからない話でごめんなさい。
しかし何故いきなり3番目に飛ぶかな…。
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ナイショだよ?

2005-12-08 | ロックマンエグゼ小説
光熱斗のすべてを知っている。
その、心の闇までも。

あれはいつだったかな、部下達がロックマンをデリートする策を思いついたと出かけていったんだ。
ウキウキと、軽やかにスキップしながらね…まったく愚かな部下を持ったものだよ。
それはなんてことない、光熱斗をオペレート出来ない状況に追い込んでロックマンを孤立させるなんてちゃちいものだったけど。
まんまと引っかかったんだよね、馬鹿だからさ。
冷凍庫に閉じ込められた光熱斗は。
僕が現れたことにも気づかないくらい、バトルに集中していたよ。
冷凍庫の気温はどんどん下がっていく。
あんな薄着の人間じゃ到底耐えられないほどにね。
それでもバトルチップの選択も、送るタイミングもまったくいつものままだった。
僕がシステムを操作して、その体を吊るされた肉のブロックで弾き飛ばさなければあいつらがデリートされてたね。
それにしても、あんなダメージを受けてもPETを離さないのは流石だと思ったよ。
まだ意識は残ってたけど、目は虚ろでさ。
だからあの細い首に手をかけてみたんだよ。
少しでも、力を込めたら。
それですべてが終わる。
…そんな絶体絶命のピンチなのにさ。
笑ったんだよ、光熱斗は。
すごく嬉しそうに。
暴れるなり、命乞いのひとつでもしてくれれば楽しいのに。
…え、それからどうしたのかって?
もちろんすぐに冷凍庫から引き摺り出して、じっくりと『介抱』してやったよ。
それから後のことはそっちの方が良く覚えてるんじゃないの?
色々下準備して、さあこれからって時にあの赤いナビとそのオペレーターがすごい形相で乱入してきて、掻っ攫ってったよ。
へぇ、面白いこと訊くんだね。
「どうして殺さなかったのか」だなんて。
だって熱斗くんがそれを望んでいたんだもの。
もう苦しいのは嫌だって。
終わりにしたいって。
だからだよ。
みすみす願いを叶えてやるわけないじゃない、この僕が。やだなあ。
ああ、もう時間だね。
…どこに行くのかって?
いつまでもたっても涙のひとつも見せない強情な弟に会いに行くんだけど?
必死に抵抗してるけど、もう時間の問題だね。
だって僕は、熱斗を泣かせることが出来る唯一の存在だもの。
…ダメ。
君はあの子を追い詰めて、壊すことしか出来ないよ。
笑顔の裏に隠された心の闇に気づきもしなかったくせに。
…ゆるさない?ふぅん、君、そんなこと言える立場?
ったくうるさいなあ。
君はそこで指をくわえて見ていなよ。

「ね、ロックマン」

僕は君から生まれた、もうひとりのキミ。
でもね、それだけじゃないんだ。
ボクは。

「もうひとりの光熱斗でもあるんだよ」

これ、熱斗にはナイショだよ?
君に自分の心をさらけ出したなんてあの子に知られたら、壊れちゃうからさ。
あ、もう二度と会うことはないだろうから、関係ないか。

どこまでも続く漆黒の闇。
真実を知ったナビの心を思わせる、その場所に。
くすくす、と鈴の音を思わせる笑い声だけが響いていた。


◇熱斗は彩斗にすごい負い目がありそうなので。痛い話でごめんなさい。ダークロックマンが熱斗のオペレート能力だけじゃなくて、その心も受け継いでたらいいなあと。
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ご利用は計画的に

2005-12-07 | ロックマンエグゼ小説
秋原町に向かう始発バスに乗り込むと。
「つっかれた…ぁ…」
熱斗はぐったりとした様子で座席に沈み込むように腰掛けた。
『熱斗くん、大丈夫?少し寝てなよ…着いたら起こしてあげるから』
「ん…そうする…」
炎山がアネロッパに行ってしまってから、ネットセイバーとしての出動も増え、熱斗は小学生と言うよりは高度経済成長期のサラリーマンのような生活を強いられていた。
徹夜明けでは、若いとはいえさすがに眠い。
ロックマンの言葉に甘え、うとうとと居眠りをしていると。
「…?」
突然バスががたん、と大きく揺れた後で、とまった。
「なに…?」
『エンジントラブルみたい』
困ったような怒ったような、複雑な顔で腕組みをするロックマンに熱斗が苦笑する。
「しょうがないじゃん。待ってればいつか動くって…ロックマン、遅れるってママにメールしといて…」
そしてふあ、とひとつあくびをしてまた眠りにつこうとした、のだが。
「それが…メールが送れないんだ。運転手さんが言ってたけど通信機も使えないって」
それならば、どこかで電話を借りるしかない。
とはいえ、見渡す限り人が住んでいるような家なんて…。
「…あった」
丘の上に、ひっそりと佇む屋敷。
「行ってみようぜ、ロックマン」
「…うん」
浮かない顔で了承の意を示すナビに首を傾げつつ。
このままじっとしているよりはましだ、と熱斗はバスから飛び出した。

「ごめんくださーい…誰も、いないのかな?」
『熱斗くん、何だか昔こんなことがあったような気が…』
「プラグイン!ロックマンEXE、トランスミッション!」
『って、きいてなぁーい!』
泣きそうな顔でPETから姿を消すロックマンを見送って。
廊下を歩いていた熱斗は、映画に出てくるような古めかしい電話を見つけた。
「炎山の家にあったよな…こんなの…」
受話器を取り上げ、ダイヤルを回そうとするが…。
ツーツーツー。
聞こえてくるのは、そんな音ばかりで。
「切られてる…?」
いや待て、ネットセイバーたるものここは慌てず騒がず、最善の選択を…。
「…」
したくても、睡眠不足でどうにも考えがまとまらない。
「他の部屋にあるかもしれない、よな…」
ぽん、と手を叩いた熱斗はふらふらと自分の勘を頼りに歩き出した。

「誰か、いませんかぁ~」
疲れた…横になりたい、いやこの際椅子でもいい…。
とろんとした茶色の瞳を擦りつつ、扉が開け放してある部屋に足を踏み入れる。
「そうだ、ロックマン…」
思いついたようにPETを目の前に持ち上げるが、画面は砂嵐状態で、その姿はどこにもなかった。
「ロックマン、ロックマン!」
ばたん!
「えっ、なっ、何だ?」
扉が自動的に閉まったかと思ったら、窓には鉄格子。
天井から何か球体の装置が出てきたと思ったら。
みるみるうちに目の前の空間に金の鳥篭のような球体を形作る。
『熱斗くん!』
その中に閉じ込められているのは、ロックマン。
翡翠色の瞳に、ほんの少しの怒りをにじませて。
『閉じ込められたんだ。…に…』
青いナビは信じられない人物の名を告げた。
「え…?」
いっぱいに見開かれた茶色の瞳に映るのは。

「俺とのバトルに勝たない限り、この屋敷から出るのは不可能だ…」

アメロッパにいるはずの。
「炎山…!」
伊集院炎山、その人、だった。


◇元ネタは無印(セカンドエリア)30話「エレキママの電撃大作戦!」より。
ナビが受けた衝撃を電撃で味わって肩で息してたり、ふっ飛んで気を失ってる熱斗っていいなあと(こらこら)必死に呼びかけるロックマンもツボです。

このような手段は使いたくなかったが…もう限界だ、熱斗…。
僕の目の前で熱斗くんに手を出そうだなんていい度胸だね…。
俺がやられれば炎山さまに危害が及ぶ…負けるわけにはいかん!だが…。


…な選択肢があってもいいかなあと…思うだけですよ、思うだけ(笑)
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期間限定

2005-12-06 | ロックマンエグゼ小説
IPCの副社長室には、たまに茶色い髪の高校生が訪れる。
「副社長にお取次ぎを」
「はい。少々お待ち下さいませ」
受付の女性の打てば響くような返答に、眼鏡の奥の茶色の瞳が嬉しそうに細められる。
少年の第一印象は、礼儀正しく、物静か。
かつての彼を知るものであれば、その変化は目を瞠るもので。
「お待たせ致しました」
二言三言電話で言葉を交わした受付の女性は、にこやかに頷いた。
「お会いに、なられるそうです」
少年はここの社員でこそないが、社内の人間の信望も厚い。
「ありがとうございます」
にこりと微笑みを浮かべながら、少年はくるりと身を翻す。
----ああ『差し入れ』が間に合って良かった。
----これで定時で帰れそうだ…。
期待に満ちた眼差しに、思わず肩を竦める。
『やっぱり、来て正解だったね』
「そうみたいだな」
相棒の呆れたような声に苦笑を返しつつ。
少年はエレベーターのボタンを押した。

「ブルース」
「はい、炎山様」
「今日は…何だと思う?」
「ロックマンの情報によると…」
赤いナビの報告は、ばたーんと開いたドアの音に遮られた。
「差し入れ持って来たから一緒に食おうぜ!」
そのきらきらした茶色の瞳ときたら。
まるでぱたぱたと振れる尻尾が見えるようである。
炎山は展開していたデータを閉じると、すっかり彼専用になってしまっているソファに歩み寄った。
「今日は、まともなものなんだろうな…」
付き合ってみてわかったことだが。
光熱斗という人間は期間限定という文字に弱い、そりゃもう弱い。
明らかに地雷のメニューにもほいほい手を出してしまうほどに。
いつかラーメン屋で黒酢冷やし中華(具はもやしのみ)を頼んだ時には、炎山のみならず店員まで驚いていた。
熱斗のうまいものを見分ける能力は買っているが(ヤツがここだ!と言った店に入って満足しなかったためしがないからな)この文字を見てしまったらその野性的カンも当てにはならない。
「んー、大丈夫大丈夫!」
「俺はお前の後始末だけはごめんだからな」
ふたりとも一度口をつけたものは残さないという躾が徹底しているため、まずいものにあたった時は地獄である。
そして炎山はすでに数え切れないほどのそれを見ている。
「おいしい(かもしれない)のに…」
しゅん、と俯いてしまう熱斗に内心焦りつつも、ここで甘い顔を見せると今までの繰り返しだ。
「どうしてそんなに期間限定商品にこだわるんだ?」
え…、と振り返った熱斗に炎山の胸がどくん、と音を立てた。
それはまるで、途方にくれた、迷い子のような顔。

「『今』しか手に入らない、から…」

そんなことはない。
期間限定商品というものは、人気が出れば素知らぬ顔で帰ってくるものだ。
そう、言ってやりたかった。
限定されることなど、ないのだと。
人が手に入れたいと望めば、それは何度でも現れるのだと。
言いたかったの、だけれど----。
『熱斗くん』
絶妙のタイミングで割り込んで来たその声に、ほっと息をつく。
「そうだな、そろそろ帰るか」
すれ違いざま渡されたのは、炎山が唯一気に入っている缶コーヒー。
もう扱っている自販機など数えるほどしか残っていないはずなのに。
「ありがとう」
この寒空の下、必死に探してくれたのかと思うと、思わず口元が綻ぶ。
「ちゃんと休憩、取れよ?」
じゃあな、とひらひらと振られた手。
そのまま熱斗は振り返ることなく、ドアの向こうに、消えた。

IPC本社のビルに浮かび上がる、クリスマスイルミネーション。
湧き起こる歓声の中、熱斗はひとり、佇んでいた。
『熱斗くん…ね、もう、帰ろう?』
「ごめん、ロックマン。もう少しだけ…」
あそこにはたくさんの社員が働いていて。
支えて、支えられているのが、炎山で。
ここにいないあいつなんて、考えられない。
だから。

この差し入れは、期間限定。
お前が。
18歳に、なるまでの。

泣きそうな、けれど決意に満ちた、その声を。
聞いていたのは、どこまでも透明な翡翠の瞳を持つ。
「…それで、いいの?熱斗くん…」
彼の者の、青い、ナビだけだった。


◇期間限定なお付き合いの炎熱。このお話の熱斗は、高校生にもなると小学生の時のようにはいかないので、必死に彩斗兄さんの真似をしてます(笑)続きそうですが、続きません。
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冬の日

2005-12-04 | ロックマンエグゼ小説
冬の日に、ふたりで出かけた。
つないだ手は、離さずに。

それは、初めての現実世界で過ごす時だったから。
だいじに、大事にしたくて。

「じゃあさ、次はあれ乗ろう!」

ずきんずきんと痛む頭。
でもそれも熱が上がりきるまでの辛抱だ。
そうすれば。

「彩斗兄さん…?」

どうしてそんなかなしそうな顔、してるの?
だいじょうぶ、俺なら、大丈夫だから。
お願い、その足をとめないで。

「熱斗」

淡い茶色の瞳がまっすぐにこちらを見る。
俺が逆らえないことを知っていて。
それでも貴方はそうやって微笑むんだ。

「今日はもう、帰ろうね」

それはやさしく残酷に。
この胸に、響く。
しあわせの、おわりを告げる言葉。

「これで、最後じゃないだろう?」

笑って。
当たり前だよって言って。
すぐにでも頷きたかったけど。

「…」

ふわりとかぶせられたマフラーに、残るはずのないあたたかさを感じて。
俺の頬に、涙が伝った。


◇色々と意味不明なところのある話ですが、さらっと読み流して頂けると嬉しいです。もっとほのぼのらぶらぶな光兄弟が書きたいなあ…。
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触れない手、振れるココロ / 02.声が嗄れるくらいに

2005-12-03 | ロックマンエグゼ小説
アメロッパから帰って来た炎山はその足で科学省に向かった。
熱斗のためにも、再び獣化したロックマンをどう抑えるか。
そのことで頭が一杯だった炎山を出迎えたのは。
「熱斗!」
「炎山…?」
切羽詰った顔で建物から走り出て来た当の本人だった。
その手に握り締められているのはPETと、そして…。
「それは、まさか…もう完成していたのか…!」
話には聞いていた。
フォースシンクロチップ。
獣化したロックマンとコンタクトが取れる唯一の方法。
「危険だ!」
しかしそれは諸刃の剣。
何が起こるか、誰にも…光博士にすらわからないというのに。
「またあのナビがロックマンを正気に戻してくれるとは限らない…こうしてる間にもシステムが破壊されてるんだ」
護りたいものを自ら壊してしまったら、そしてそれを知ったら、ロックマンが心を痛めないはずがない。
悲しそうな顔で力なく項垂れていた、あんな姿は、もう見たくないから。
「ネットセイバーとして…何より、あいつのオペレーターとして」
つよい光を放つ、綺麗な茶色の瞳。
「放っておくわけにはいかない」
いつから、こんな顔をするようになったのか。
それは、今まで幾度となく身を挺して熱斗を護ってきた。
あの青いナビと、同じ----。

「お願い、俺を誰もいないところに運んで」

何が起こるかわからない、現実世界でネットシティのように暴れられたら…熱斗はそう考えたのだろう。
「しかし…」
あんな状態のロックマンとクロスフュージョンすればどうなるかわからない。
大体たったひとりでどうやってあの力に立ち向かうというのか。
最悪、熱斗の精神と体は…。
「大丈夫だからさ!」
自信満々の笑顔のその裏で。
コンキョないけど、と小さく付け加えるその頭をこつん、と小突き。
「…高くつくぞ?」
必ず、帰って来い。
不安を押し殺して微笑む炎山に、熱斗はありがと、と小さな笑みを零した。

そうして連れて来られたのは、演習施設のある孤島。
確かにここならもしものことが起こっても、炎山は心置きなく自分を攻撃することが出来る。

「名人さん…ディメンショナルエリアを…!」

無情にも現れる自分と熱斗を隔てる壁。
その向こうで。
熱斗は青空に、PETを掲げ。
しあわせそうに、ほほえん、で。

「フォースシンクロチップ、スロット…イン!」

その瞬間。
耳をつんざくような悲鳴があがった。

暗く、深く。
どこまでも続く漆黒の闇の中で、熱斗は必死に荒ぶる力に抗っていた。
リーガルと対決した時に5枚のソウルチップを使った時…いや、その比ではない。
体が無理やり作り換えられていくような感覚。
四肢が千切れるかと思える激しい痛みがひっきりなしに襲ってくる。
人間の肉体に繋がれた強大な力は、解放を求めて荒れ狂い。
「くっ、あ…ぅああ----っ!」
周りの建物を瞬く間に瓦礫に変えていく。
「くそっ!」
ブルースがダークオーラに侵された時、自分は助けてもらったのに。
ディメンショネルエリアの外で、苦しむ熱斗をただ見ていることしか出来ない。
「ロックマン、はやく気づけ!…このままでは、あいつが…!」
自分に出来ることなど。
「熱斗!熱斗!」
声が嗄れるくらいに、いや、嗄れてもその名を呼び続けることぐらいで。
その時、熱斗の体が不自然に大きく仰け反った。
「----っ!」
痛みに見開かれる茶色の瞳から、光が失われていく。
息が、出来ない。
「…ぁ、あ…」
立っていられず、熱斗はその場に崩れ落ちるように蹲った。
「熱斗!熱斗!もういい、もうやめろ、熱斗ぉっ!」
悲痛な叫びに、熱斗はうっすらと目を開いた。
何かを探すように、彷徨う視線。
「…く、まん…」
戦慄く唇から漏れたのは。
ひび割れ掠れた、ほんのちいさな、こえ。
それでも。

とどけ。

「ロッ、クマン、ロックマン…!」
それで貴方がここに帰って来てくれるなら。
自分は。

届け。

「ロック…ッ!」

熱斗から離れた光の粒子がPETを形作る。
ほんのわずかに指先が触れた、と思った瞬間。
その意識は、闇に沈んだ。

ディメンショナルエリアが解除されると同時に炎山は走り出した。
「熱斗くん…、熱斗くん!返事してよ、熱斗くん!」
狂ったようにオペレーターを呼ぶ声を頼りに、ようやく熱斗のもとに辿り着いた時には。
「お願いだから!起きてよ、熱斗くん、熱斗くん!」
まるで疲れて眠ってしまったようなその横顔は、わずかに微笑んでいるようだった。
けれど。
「おい!」
反応が、ない?
「熱斗!熱斗!しっかりしろ、熱斗!」
呼びかけにもかたく閉じられた瞳はぴくりとも動かない。
嫌な予感にみっともなく震える体を叱咤して、その口に手を寄せれば。
「…っ?そんな…」
呼気が感じられなかった。
「死なせない…このままいなくなられてたまるか…っ」
絶対に。
気道を確保し、ふぅっと息を吹き込むと。
けほっと弱々しい咳と共に。
熱斗はようやく自発呼吸を始めた。
「熱斗くん!」
ゆらゆらと頼りなげに彷徨う視線が、翡翠の瞳に合わせられる。

「よかった、な…ロック…」

ふわり、と微笑んで。
炎山の腕の中で、傷だらけの小さな体は力を失った。

「熱斗くん」
真っ白なベットに横たわるオペレーターはまるで作り物の人形のようだった。
あれから茶色の瞳は一度も開かれることはない。
医者の話では、熱斗の体は衰弱しきっているとのことだった。
その上、怪我による発熱で体力はだんだんと削られていく。
数日中に意識が戻らなければ…このまま…。
「お願いだから…はやく起きて…」

静かな弱々しい呼吸だけが、唯一、その生を確かめる術。
片時でも目を離したら、途切れてしまいそうな、それだけが。

「ロックマン、遊ぼうよぉ…」
「ごめん、トリル。もう少しだけ…」
「だめ!ロックマンはトリルと遊ぶのーっ!」
視線を熱斗から決して外すことなく。
ただ辛そうに笑うロックマンの腕を、トリルは強引に取り、引っ張った。
「トリル…」
「ブルース、トリルを連れていけ」
割り込んできた凍てついた氷を思わせる、冷たい声に。
トリルのみならずロックマンもびくりとその身を震わせた。
現れた赤いナビに抱き上げられ、姿を消す黄色いナビを見送って。
ロックマンはふぅ、と疲れたようなため息をついた。
「炎山…」
その青い瞳に浮かぶのは、苛烈なまでの。
「獣化の原因はわかりきっているのに、突き放せないとはな。そんなにトリルが大事か…?熱斗よりも?」
「…っ!」
「お前がまた獣化したなら…あいつは何度でもフォースシンクロチップを使ってとめようとするだろう。自分の体などお構いなしでな!」
荒れ狂う怒りのままに、炎山はPETの置かれている机に拳を叩きつける。
カシャンと、と乾いた音に反応したのは、ふたりだけではなく。

「ロック、マン…?」

気づけば、綺麗な茶色の瞳がこちらを見ていた。
「なぁ…」
くしゃりと歪む自分の顔に困ったように、笑って。
「泣くなよ」
「熱斗くんが無茶、するからだよ…」
喪うかと思った。
何よりも、誰よりも大切なこの存在を。
「熱斗く…」
「…トリルは?」
伸ばしかけた手は、ぽつりと零された呟きに、ぴたりとその動きをとめた。
「…今はブルースに預けてる。それより…熱斗くん」
「そっか」
視線を避けるように、茶色の瞳が伏せられる。
「今頃泣いてるかもな…あいつ子供の扱い苦手そうだし。はやく迎えに行ってやれよ」
すっかり頬のこけてしまった青い顔に浮かぶのは、心からトリルのことを案じているのがわかる…。
「俺は大丈夫だからさ」
自分の背を優しく押す、微笑み。
だからこそ。

----だからこそ、かなしかった。

→03.どうか君に届きますよう に続きます。

ただ、怖いだけなんだ。
自分の持っている力が。
だから。



◇1話を炎山視点で補完してみました。なのであまり話が進んでいなかったり。
今日の放映を見て、やっぱりロックマンは獣化した時のことを色々気にしてたんだなあ、と思いました。トリルも聞き分けが良くなって…アイリスが乳母兼先生のようでしたよ…。抱きつかなくても獣化って出来るんですね。しかしやられるロックマンは色っぽかったです。来週炎山がどう登場するか楽しみです。予告を見る限りものすごい派手ですけど(笑)
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貴方を好きになった、その理由

2005-12-02 | ロックマンエグゼ小説
月明かりのもと、科学省に現れた謎の少女。
日の光のもと、学校に現れた緑の瞳の転校生。

その顔に浮かんでいたのは、いつも----。

「そういえば…どうしてトリルはロックマンがそんなに好きなんだ?」
どうしてロックマンにトリルが抱き着くと獣化するのかとか、どこから来たのかとか(これはブルースの証言から断片はわかったが)なんで成長するのかとか、大体お前は誰のナビなんだ、とか。
聞きたいことは山ほどあれど、返ってくるのは『えー、わかんなぁい』というお前は時事問題を街頭で聞かれた女子高校生か!と言わんばかりの答えばかりで。
ならば少しでもトリルが興味を持ってるところから攻めるしかない。
「んー?」
真剣な熱斗の問いかけに何かを感じたのか、黄色いナビはむむ?と首を傾げた。
どうして相手のことが好きなのか。
それは世の恋人たちが一度は互いにぶつけ合う疑問であり、うやむやのうちにスルーされる話題でもある。
ちなみに熱斗が同じことを某副社長に言われた時は。
『どうしてって言われても…どうしてなんだろう。あんなに冷たくされたのになあ。N1グランプリでタッグ組んだ時だってひとりで勝手に戦ってるし。なぁロックマン?』
『…うん。僕ブルースに色々酷いことされたよ。あれこそまさに獅子身中の虫っていうヤツ?なにがBR旋風だか…もちろんその報いは現在進行形、未来永劫受けてもらうつもりだけど』
ふふふ…と黒い笑みを浮かべるロックマンに。
熱斗は素直に首を傾げ。
炎山は同情の目を赤いPETに向け。
当のブルースはネットシティに逃亡していた、という逸話(間違い)がある。

閑話休題。

まあそんなこんなで非常に答えにくい質問ではあるわけだが。
だからこそトリルの言葉が気になるわけで。
「んーっとねぇ…」
まさか同じ緑の瞳だからお母さんと思いました、なんてことはないよなあ…大体それならロールに懐くだろうし、いやいや待てよこの頃のロールは某アニメのピンクの髪の女の子ばりに妄想癖があるしなあ…ロックマンの方がよっほど…。
「って何考えてんだーっ!」
「ひゃあっ!」
いきなり大声を上げた熱斗に驚き、トリルがころんと後ろに転がる。
「ぶー、考えろって言ったのは熱斗のくせにぃ…」
怒りにつりあがる緑の目に、今はここにいないお目付け役の姿が重なって。
「あ、わ、悪い…」
冷や汗をたらたら流しつつ謝る熱斗を、トリルは腕組みをしながらちらりと見やった。
「わかればよろしい」
おいおい何だよそのロックマンそっくりの仕草は…。
「あのね」
はーっ、と疲れたようなため息に重なったのは、落ち着いたトリルの声。
見違えたような大人びた顔でにこり、と笑って。
「トリルがロックマンを好きなのはね…」
黄色いナビが告げた、言葉は。

寂しそうな顔で、笑わないから。

「…え」
「おねえちゃんも…みんなも。かなしそうにさびしそうに、笑うの。かわいそうに、って言うの」
どきり、と胸が鳴った。
今目の前にいるのは、ロックマンでは…兄ではないのに。
なのに。
「ロックマンは、楽しそうに幸せそうに笑うの…だから、好き」

きっとそれって熱斗がいるからだね。

「…っ!」
ああ、自分は。
無邪気に微笑みかけてくる緑の瞳に、ちゃんと微笑み返せていただろうか。
「トリル、ロックマンだーいすき!じゃあね熱斗、おやすみなさーい!」
PETにダイブする黄色いナビを見送った後で。
「俺がいるから…か」
くすり、と熱斗はそっと笑みをもらした。
「本当に、そう…だったらいいのにな…」
今は遠い彼の人を想う、その表情は。
トリルの言う『おねえちゃん』とまったく同じ、だった。


◇アニメ8話冒頭、ロックマンが科学省で眠っている時のひとコマということで。このふたり、ふたりっきりの会話ってあまりなさそうなので…。うーん、トリルがロックマンを好きな理由を解明したかったんですけれど、無理だったようです。炎熱でブルロクな設定なのに、熱斗が兄さんラブなのには目を瞑って下さると嬉しいです、はい(笑)
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音をたてて崩れた世界

2005-12-01 | ロックマンエグゼ小説
囚われているのは。
果たして、どっち?

きっかけは些細なこと。
バンダナをしたまま眠ってしまった熱斗に、それを外してやろうと手を伸ばした。
ただ、それだけだったのに。
「ねっ、と…」
炎山の手から滴るのは、真っ赤な血。
噛まれた。
ゆらりと起き上がる熱斗の、茶色の瞳に意思の光はなく。
「だめじゃない、炎山。人のものに手を出しちゃ」
くすくす、とPETから笑い声が響く。
それは聞き慣れた、けれど常の彼からは信じられない言葉で。
「良くやったね、熱斗くん」
「ん…」
優しい、その声に。
熱斗はくすぐったそうに、それでも気持ち良さそうに瞳を細めた。
その様はまるで言いつけをまもった従順な犬が主人に撫でてもらっているかのような。
「…熱斗に、なにをした…!」
目の前に広がる異様な光景に、思わず声が震える。
常に冷静な青い瞳は、怒りに彩られ。
対する翡翠の瞳に浮かぶのは。
「ナイショ」
見まごうことなき、嘲りのいろ。
「…っ、ふざけるなっ」
殴りかかろうとする炎山の拳はPETに届くことはなく。
「か…はっ…」
それは間に滑り込んだ熱斗のみぞおちにモロに入った。
息が出来ないのだろう、苦しそうに喘ぎながら、がくりと膝をつく。
「…もうやめてよね」
痛みでぼろぼろと零れ落ちる涙。
それでもこちらをきっと見据える茶色の瞳は、自分を『敵』と見なしていて。
「熱斗くんは何度だって僕を庇うよ?」
青いバンダナはずり落ち、ゆるく首に巻きついている。
ナビマークの入ったそれはまるで…。

「暗示をかけたからね」

にっこりと、いっそ無邪気に。
自分の罪を告白する青いナビに、全身の血液が沸騰するかと思った。
「だって、君がいけないんだよ…?」
いつも近くにいるけど、触れられない僕。
触れられるけど、いつもそばにいられない君。
どっちを選ぶかなんて、わかりきってるじゃないか。
「熱斗は僕のものなのに、手を出そうとするから…」
翡翠の瞳に浮かぶのは、紛れもない、憎悪。
あの瞳には自分にも覚えがある、あれは、あれは----。
醜い独占欲だ。
「だからね、今から思い知らせてあげるよ」
身も、心も。
彼が自分のものである、その事実を。
「大好きだよ、熱斗」
熱っぽい囁きに、ぴくんと反応を返す。
今の熱斗は操り人形も同じ、その言葉に、意味などない。
そう、思うのに。
なのに。

「…うん。彩斗、兄さん…」

想い人の幸せそうなその笑顔に。
世界が崩れる音を確かに聞いた気がした。


◇なんだかなぁなカンジの彩熱←炎。兄さんは独占欲強いと思う。続きはやるなら請求直行。んでもって自分の体なんだけど、兄さんの意のままに自分で自分を慰める熱斗とかバンダナで目隠しプレイとか言葉責めとか炎山に見られて羞恥プレイとか、書いてみたいなあなんて。怪しい余白は反転しない方が身のためですよー。

タイトルは冷やかし程度に10のお題からお借りしました。
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あおきいろあか

2005-11-29 | ロックマンエグゼ小説
冬も近いというのに、この頃昼間は暖かい。
「猫の気持ちがわかるよなー」
学校帰りに通る公園のベンチに腰掛けると、熱斗は上機嫌で空を仰いだ。
『本当だね…でも長居は禁物だよ。熱斗くんは体を冷やすと、すぐ風邪引くんだから』
「わかってるって」
『え…?』
いつになく素直に頷かれ、翡翠の瞳がぱちくり、と瞬いた。
穏やかに笑っているオペレーターに感じるのは確かな違和感。
『熱斗くん、どうし…』
『ロックマーン!あそぼ!』
問いかけは元気な声に遮られた。
「トリル…」
その姿を認めた熱斗の顔が、わずかに曇る。
しかし、それはほんの一瞬のこと。
「行って来いよ、ロックマン。俺も、すぐに家に帰るからさ」
「でも…」
ロックマンは困った顔で熱斗を見上げる。
『はやくはやくー!』
『うわっ、ちょっとトリル、待って…』
が、トリルに腕を絡め取られ、その姿はPETの中へと消えた。
画面にふたりがいないのを確かめてから、はぁ、とため息をつく。
と、ピピピ、とメールの着信音が鳴った。

はやく家に帰ってね。うたたねなんて、しちゃだめだよ。

「…」
ひらりと目の前をよぎった黄色の落ち葉に、思わず上を見る。
目に飛び込んでくるのは、綺麗な黄色。
銀杏の木は、青い空に向かって手をひろげているようだった。
それはとても綺麗だけど、でも。
あおいろときいろ。
それは、まるでロックマンとトリルのよう。
さしずめ自分は黄色に埋もれてしまっている木の幹といったところだろうか。
「少しだけ、な。少しだけ…」
ふたりと自分を連想させるその景色をもうこれ以上、見ていたくなくて。
熱斗はそっと、逃げるように、瞳を閉じた。

『お願い炎山、熱斗くんを探して!』

青い顔で自分のPETに飛び込んできたロックマンに、炎山は眉を顰めた。
この青いナビが自分に助けを求めることなど、めったにない。
「あいつはPETを持っていないのか?」
『熱斗くん、PETの電源を切ってるみたいなんだ…』
夕方になり、日が落ちると、途端に風は冷たくなる。
家路を急ぐ人々はみな寒そうにコートの襟を立てたり、手をすりあわせたりしていて。
『どうしよう、あんな薄着で、熱斗くんに何かあったら…』
泣きそうな顔で。
そんなに心配するくらいなら。
「何故あいつをひとりにした?」
『え…』
戸惑った声に、思わず舌打ちする。
「お前は…何もわかってないんだな」
コートを引っ掴み、炎山は荒々しい足音と共に副社長室を飛び出していった。
『だって…僕は…』
青いナビの、切なげな声には気づかぬ振りをして。

「いた…」
ようやく見つけた彼の人は、すっかり眠り込んでしまっていた。
その体にはうっすらと黄色い落ち葉が降り積もっている。
「熱斗…熱斗、起きろ」
「…」
揺り起こされた熱斗は、まだ覚醒しきっていないのだろう、ぼんやりとしている。
「ロックマンも心配している…はやく、家に帰れ」
促すために取った手の、ひやりとした冷たさにどきりとした。
一体どれだけの時間、この場所にいたのか。
「考えてた」
ガラス玉のような、けれど深い色を宿した茶色の瞳。
「銀杏の葉っぱが全部落ちたら、空はもう一度木を見てくれんのかなって…」
その言葉が何をなぞらえているのかなんて、その辛そうな笑顔を見れば一目瞭然で。
「…熱斗」
すい、と炎山の腕が動き、あるところを指差した。
「泣くなら、あそこで泣け」
それは目の前の人を連想させる、赤い落ち葉の降り積もる場所。
縋りついて泣くことは簡単だけれど、でも。
「泣かない」
ゆるりと首を横に振ると、熱斗はPETの電源を入れた。

『ね・っ・と・くん?君、すぐ家に帰るって言ってなかった?』

現れたロックマンは、満面の笑顔で、でも目は笑ってなくて。
悪い悪い、この通り!とロックマンに手を合わせる熱斗はもういつもの熱斗で。
きっとこのふたりはこのまま想いを告げることはない。
そして偽りの幸せなときを選び続けるのだろう。

救われない…な。

炎山はやりきれない気持ちで、空を仰いだ。
あおでもあかでもない、まっくろな、そらを。


◇あれ?なんでこんなに暗く…(汗)この前の話が炎熱←ロクだったので、今回はロク熱←炎ということで。しかしこれみんなの想いがひとつどころか空回りしまくりな話ですな。これとは繋がりないですが、ロックマンと炎山の対決は書きたいかも。バンダナがキーワードで、独占欲ばりばりな兄さんに暗示かけられちゃう熱斗とか。っていうかこれ書くとなると間違いなくせいきゅ…げふんごふん。

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