ここではロベールのカデンツァについて考察する。
私が所属する尚美ミュージックカレッジ専門学校の楽曲試験では、自身が取り上げる楽曲についての楽曲分析をレポート形式で提出することが必須となっている。
そのレポートをもとに、楽曲を調べる中で見えてきたもの、疑問に思ったもの、などをまとめる次第である。改めて見返しても細かい分析が足りていないが、そこは私の知識不足ということで、今後改定を加えていく。
ただし、先に何点か把握したうえで読んでいただきたいので以下に記載する。
一、本文中、他のブログや情報源から引用することもあるだろうがリンクの許可を逐一とっていてはきりがないので、紹介にとどめることとする。
一、上記を含め、多数の意見、演奏を考慮したうえでの私個人のまとめであるため、発言の責任は私にある。本文中の疑問などは他の紹介者ではなく、この記事をまとめる私に投げかけていただきたい。
一、私もまだまだ調べているさなかであるため、いくつか怪しい点もあるため疑って読んでいただきたい。
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1)L.ロベールの生い立ちについて
ルーシー・ロベール(Lucie Robert)は、フランス生まれの女流作曲家である。
1936年10月3日にレンヌに生まれ、12歳になるまでレンヌ音楽院に学んだ。その後、1951年1月にパリ国立高等音楽院に入学。
ピアノ、ピアノ伴奏法、オルガン、室内楽、アナリーゼ、作曲を学び、そのすべての科目で一等賞を獲得して卒業するという輝かしい経歴を持つ。
1965年に、フランス作曲界の登竜門であるローマ大賞を受賞。
その後、ピアノ伴奏科クラスのアシスタントに就任。さらに1972年に、和声学とアナリーゼの教授に就任し、後進の育成に力を注いだ。
2001年に退職し、現在は作曲に専念している
サクソフォーンの作品は27曲ほど手がけており、カデンツァ、サクソフォーン四重奏のためにテトラフォーンなど、難易度が高い曲が多い中、今もなお演奏されている。
2)カデンツァについて
「カデンツァ」は、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の名手、ミシェル・ヌオー Michael Nouauxの委嘱により書かれ、1974年の第4回世界サクソフォンコングレス(フランス、ボルドー)において初演された。
カデンツァというタイトルの通り、一貫したテンポはなく、それぞれに独立したテンポが設定されている。
冒頭ピアノの強烈な和音から始まり、その中からサクソフォーンが現れる。ハイトーンを含む俊敏な音の羅列を示した後、ピアノの半音階による執拗に繰り返されるモティーフを伴いメロディーらしきフレーズがサクソフォーンに突如として現れる。[1]※1
しかしすぐにピアノが増一度を中心とした音列を示し、サクソフォーンが(ハイトーンを伴った)スケールを奏で曲は静寂を迎える。
次にピアノから始まるモティーフはこの曲で最後まで繰り返し現れる。(以後、モティーフ【A】とする)[2]
様々なリズムパターンがピアノとサクソフォーン交互に現れた後、被さりながら別のリズムで演奏され曲のエネルギーは増していく。[3、4]
また静寂を迎えるが、ここでは新たにサクソフォーンにグレゴリオ聖歌のようなフレーズが現れる。[6]
3連符によるパッセージが突如現れ、サクソフォーンのメロディーに怪しげな雰囲気が加わる。[7] そして3連符を残したまま冒頭のメロディーが(ppで)再現される。
サクソフォーンによる細やかなパッセージ[9]が奏でられた後、新たなモティーフ(以後【B】)が現れ[10]、サクソフォーンはテヌートを伴ったフレーズで少し時間軸にブレが生じ始める。
【B】を三回繰り返したとこで、ピアノが新たなモティーフ(以後【C】)を演奏する。[13] 16分音符と8分音符の使い分けが妙で、独特の癖になるリズムパターンが形成される。
そして再び【A】が一瞬だけ現れる。[15] その後は【C】も混ぜつつサクソフォーンの細かいパッセージ、繰り返すテヌートより音楽のエネルギーとともにストレスが増していく。[18-20]
【C】が主となりサクソフォーンのテヌートのフレーズがピアノと交互に奏でられ、貯まっていたストレスが一気に解放され、曲は一度頂点を迎える。[21]
サクソフォーンがハイトーン、急速な連符を終えた後でもピアノがそれまでのフレーズを繰り返すことで、それまでのエネルギーがいかに巨大なものであったかがわかる。[22]
曲は静寂を迎え、またグレゴリオ風のメロディーが現れる。[23] まるで激しい戦いの後に祈りをささげるように感じる。
そして、ピアノが8分音符でこの曲で唯一伴奏らしいフレーズを演奏する。[24] このフレーズが右手と左手で鏡のように書かれているのだが、完全4度・短3度が逆になるように配置されているのも面白い。何とも不気味な響きが生まれるのが興味深い。
8分音符が3連符(8分音符)→5連符→7連符→5連符(16音符)→7連符と切迫して行く[27-28]のと同時にサクソフォーンもクレッシェンド・音高の上向によりエネルギーを増大させていく。ここで冒頭のサクソフォーンのメロディーがピアノにより奏でられる。[28]
その後【A】を崩して5連符の中にちりばめられたモティーフが演奏される。[29] 途中サクソフォーンによる合いの手や、ポルタメントのようなフレーズを挟み、やがてそれは新たなモティーフ【D】となる。[36]
【D】はアクセントの位置が2パート同じであるため、推進力はもちろん力強さが(ディナーミクに問わず)生まれる。[36、38]
そして【A】を軸にした三回繰り返され、ディナーミク・オクターブの拡大、間のサクソフォーンの強烈なハイトーンやハイトーンを伴ったスケールにより二度目の頂点を迎える。
すかさず【D】が圧縮されたモティーフが登場。[44] サクソフォーンがそのうえで緩やかなメロディーを演奏する。
徐々にこちらに迫ってくるが、突如【A】がメロディーとなりピアノに現れる。[46]
4拍子、3拍子を掛け合わせた複雑なリズムパターンを挟み、ピアノが奏でていた【A】をサクソフォーンも演奏する。
【A】を3連符化したパッセージ[49]を急に上向し、pに落ちたかと思うや否やピアノは【D】を圧縮したモティーフを奏で、サクソフォーンと共にフィナーレを目指しクレッシェンドしていく。[50]
またpに落ちるが今度はそれまでのモティーフをピアノの共に奏で[51]、ピアノはそれまで嫌というほど出てきた(この曲の特徴とも言える)3連符でもって、サクソフォーンは強烈なハイトーンを伴ったスケールを駆け上がり曲はフィナーレを迎える。[52]
なお、スコアとパート譜に何点か違いが見受けられるので、演奏する際は先人たちの演奏を参考にするのが良いだろう。
※1 [ ]はリハーサル番号を示す。
私が所属する尚美ミュージックカレッジ専門学校の楽曲試験では、自身が取り上げる楽曲についての楽曲分析をレポート形式で提出することが必須となっている。
そのレポートをもとに、楽曲を調べる中で見えてきたもの、疑問に思ったもの、などをまとめる次第である。改めて見返しても細かい分析が足りていないが、そこは私の知識不足ということで、今後改定を加えていく。
ただし、先に何点か把握したうえで読んでいただきたいので以下に記載する。
一、本文中、他のブログや情報源から引用することもあるだろうがリンクの許可を逐一とっていてはきりがないので、紹介にとどめることとする。
一、上記を含め、多数の意見、演奏を考慮したうえでの私個人のまとめであるため、発言の責任は私にある。本文中の疑問などは他の紹介者ではなく、この記事をまとめる私に投げかけていただきたい。
一、私もまだまだ調べているさなかであるため、いくつか怪しい点もあるため疑って読んでいただきたい。
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1)L.ロベールの生い立ちについて
ルーシー・ロベール(Lucie Robert)は、フランス生まれの女流作曲家である。
1936年10月3日にレンヌに生まれ、12歳になるまでレンヌ音楽院に学んだ。その後、1951年1月にパリ国立高等音楽院に入学。
ピアノ、ピアノ伴奏法、オルガン、室内楽、アナリーゼ、作曲を学び、そのすべての科目で一等賞を獲得して卒業するという輝かしい経歴を持つ。
1965年に、フランス作曲界の登竜門であるローマ大賞を受賞。
その後、ピアノ伴奏科クラスのアシスタントに就任。さらに1972年に、和声学とアナリーゼの教授に就任し、後進の育成に力を注いだ。
2001年に退職し、現在は作曲に専念している
サクソフォーンの作品は27曲ほど手がけており、カデンツァ、サクソフォーン四重奏のためにテトラフォーンなど、難易度が高い曲が多い中、今もなお演奏されている。
2)カデンツァについて
「カデンツァ」は、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の名手、ミシェル・ヌオー Michael Nouauxの委嘱により書かれ、1974年の第4回世界サクソフォンコングレス(フランス、ボルドー)において初演された。
カデンツァというタイトルの通り、一貫したテンポはなく、それぞれに独立したテンポが設定されている。
冒頭ピアノの強烈な和音から始まり、その中からサクソフォーンが現れる。ハイトーンを含む俊敏な音の羅列を示した後、ピアノの半音階による執拗に繰り返されるモティーフを伴いメロディーらしきフレーズがサクソフォーンに突如として現れる。[1]※1
しかしすぐにピアノが増一度を中心とした音列を示し、サクソフォーンが(ハイトーンを伴った)スケールを奏で曲は静寂を迎える。
次にピアノから始まるモティーフはこの曲で最後まで繰り返し現れる。(以後、モティーフ【A】とする)[2]
様々なリズムパターンがピアノとサクソフォーン交互に現れた後、被さりながら別のリズムで演奏され曲のエネルギーは増していく。[3、4]
また静寂を迎えるが、ここでは新たにサクソフォーンにグレゴリオ聖歌のようなフレーズが現れる。[6]
3連符によるパッセージが突如現れ、サクソフォーンのメロディーに怪しげな雰囲気が加わる。[7] そして3連符を残したまま冒頭のメロディーが(ppで)再現される。
サクソフォーンによる細やかなパッセージ[9]が奏でられた後、新たなモティーフ(以後【B】)が現れ[10]、サクソフォーンはテヌートを伴ったフレーズで少し時間軸にブレが生じ始める。
【B】を三回繰り返したとこで、ピアノが新たなモティーフ(以後【C】)を演奏する。[13] 16分音符と8分音符の使い分けが妙で、独特の癖になるリズムパターンが形成される。
そして再び【A】が一瞬だけ現れる。[15] その後は【C】も混ぜつつサクソフォーンの細かいパッセージ、繰り返すテヌートより音楽のエネルギーとともにストレスが増していく。[18-20]
【C】が主となりサクソフォーンのテヌートのフレーズがピアノと交互に奏でられ、貯まっていたストレスが一気に解放され、曲は一度頂点を迎える。[21]
サクソフォーンがハイトーン、急速な連符を終えた後でもピアノがそれまでのフレーズを繰り返すことで、それまでのエネルギーがいかに巨大なものであったかがわかる。[22]
曲は静寂を迎え、またグレゴリオ風のメロディーが現れる。[23] まるで激しい戦いの後に祈りをささげるように感じる。
そして、ピアノが8分音符でこの曲で唯一伴奏らしいフレーズを演奏する。[24] このフレーズが右手と左手で鏡のように書かれているのだが、完全4度・短3度が逆になるように配置されているのも面白い。何とも不気味な響きが生まれるのが興味深い。
8分音符が3連符(8分音符)→5連符→7連符→5連符(16音符)→7連符と切迫して行く[27-28]のと同時にサクソフォーンもクレッシェンド・音高の上向によりエネルギーを増大させていく。ここで冒頭のサクソフォーンのメロディーがピアノにより奏でられる。[28]
その後【A】を崩して5連符の中にちりばめられたモティーフが演奏される。[29] 途中サクソフォーンによる合いの手や、ポルタメントのようなフレーズを挟み、やがてそれは新たなモティーフ【D】となる。[36]
【D】はアクセントの位置が2パート同じであるため、推進力はもちろん力強さが(ディナーミクに問わず)生まれる。[36、38]
そして【A】を軸にした三回繰り返され、ディナーミク・オクターブの拡大、間のサクソフォーンの強烈なハイトーンやハイトーンを伴ったスケールにより二度目の頂点を迎える。
すかさず【D】が圧縮されたモティーフが登場。[44] サクソフォーンがそのうえで緩やかなメロディーを演奏する。
徐々にこちらに迫ってくるが、突如【A】がメロディーとなりピアノに現れる。[46]
4拍子、3拍子を掛け合わせた複雑なリズムパターンを挟み、ピアノが奏でていた【A】をサクソフォーンも演奏する。
【A】を3連符化したパッセージ[49]を急に上向し、pに落ちたかと思うや否やピアノは【D】を圧縮したモティーフを奏で、サクソフォーンと共にフィナーレを目指しクレッシェンドしていく。[50]
またpに落ちるが今度はそれまでのモティーフをピアノの共に奏で[51]、ピアノはそれまで嫌というほど出てきた(この曲の特徴とも言える)3連符でもって、サクソフォーンは強烈なハイトーンを伴ったスケールを駆け上がり曲はフィナーレを迎える。[52]
なお、スコアとパート譜に何点か違いが見受けられるので、演奏する際は先人たちの演奏を参考にするのが良いだろう。
※1 [ ]はリハーサル番号を示す。
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