老いの坂道(パピー)

楽しい心で歳を取り、働きたいけど休み、喋りたいけど黙る。
そんな気持ちで送る趣味を中心に日々の一端を書き留めています。

読書日記  『君のいない食卓』 川本三郎

2013-01-20 | 読書日記

食べ物の話しをするとどうして座があんなに盛り上がるのだろうか。

ブログやつぶやき等も食べ物の話しには反響が大きいことも確かなようです。

親しい友人数人が集まったときにも、昔の思い出話、本の話、テレビの話、子供の話、

旅の話し・・・・等々になるが、いちばん活気づくのは食べ物の話。どうしてなのだろう。

やはり、食べることは人生の大きな喜びだからだろうか。

 

この作品『君のいない食卓』は、食と食にまつわる著者川本さんの思い出を綴ったエッセイ集。

子供の頃から60代半ばを超えた今に至るまでを、食を通じて振り返った作品です。

 

   ちょうど僕たちとよく似た年代の作者の話は視点が共通するところが多く、それだけ、

読んでいて楽しくもあり、また懐かしさが蘇るところが嬉しい。

 

 母が作ってくれたオムライス、姉とただ一度行ったナイター球場で頬張ったホットドック。

新聞社に就職して最初に出張で行った東北の地元社員が家に呼んでくれてご馳走してくれたサンマの炭火焼。

 川本さんが食べる場面はいつでも、誰かがそばにいるんだな。。

 

回想シーンで一番多く登場するのは、彼が長く連れ添っていたが先立たれた妻。

住まいの中の食卓を挟んでの会話はごく普通の身近な人の「死」で失われてしまった。

今、食を通じてその亡妻と交わした色んな会話が、ひとりでの食事の度にふと蘇ってくる様子が目に見えるようだ。

 

この作品の最終章で、妻がこの世で最後に口にしたもの、それが何かを知ったとき、

ボクはなるほどと腑におちる気がした。そして自分の行く末をかいまみるようにも感じた。

 人はどこから来て、どこへ行くのだろうかを。。。。

 

妻を亡くしたいまを著者は人生の下降期に入ったのだと言う。

振り返れば既に歩んで来た道のりが、これから先の道程よりはるかに長いということが明確な自分の今と

その感慨は共有できる。

人間、一生に何万回食事をするのか数えたことはないけれど、これからよりもこれまでの方が、

はるかに多いことは確かだ。それらのシーンにいた人の多くが、すでに故人だ。

オムライスを作ってくれた母も。ビルの二階の寿司屋に連れていってくれた上司も。

 

歳を重ねるにつれて、何を食べても 何かを思い出すようになっていくのだろう。でも、

これも人生の味わいのうちだと信じているようなこの作品に、知らず知らずに想い出を重ねている自分に

ふと気づき、苦笑しながら読むこともまた読書の楽しみだろう。

思い出すことのない人生ほど、無味乾燥なものはないのだから・・・

 やはり「食」にまつわる話は人みんなに共通する何かを持っているのだろう。

 

僕の好んで読んでいる東海林さだおの「丸かじりシリーズ」もやはり「食」がテーマなんだよね。

そういえばここしばらく「丸かじりシリーズ」の読書日記がご無沙汰になっているようだ。

何冊か読み終えた本もあるようなので、また時期を見計らって日記掲載したいものだ。

 

ごく短いエッセイが35話で構成されているこの本。 

 最後にこの作品に収められているエッセーがどんなエッセーか、その題名だけでも数点ご紹介しておこう。

○ウナギの思い出。
○母のオムライス
○釜山の大衆食堂
○一人旅の朝食
○家内の残り物料理
○二段海苔と三色御飯の弁当

等々・・・・

50歳以上の方にはお薦めかな、若い方には話しが通じない部分もあるかも・・・

※写真上:『君のいない食卓』 川本三郎  新潮社 2011年11月初版発行。

※写真中:咲き始めたロウバイの花:(岡山後楽園にて1月19日撮影)

※写真下:少し色づき始めたようだけど、まだまだ蕾が固い紅梅:(同上)

 


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8 コメント

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Unknown (雪女)
2013-01-23 17:17:15
食べたいものがあれば、何でも叶えてあげるよ!
と言われたら、「おかあさんのおにぎり」です。
丸いような三角の、食べるとやわらかい感じが自分では
なかなか握れません。もう一度でいいから食べたいな~

「ロウバイ」花も香りも大好きです。
冬の京都 「広隆寺」で見たロウバイは
特に印象に残っています。

春の便りをありがとうございます。
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Unknown (パピー)
2013-01-24 20:02:22
雪女さん、こんばんは。

食べ物とくれば、やっぱりお母さんですね。
ロコさんのお母さんってきっと心優しい素敵な母さん
だったのでしょう。。。

この物語では母が作ってくれたオムライスが出てます
が、それには前話しがあるんですよ。

「母親のお財布から小銭を失敬して映画を見に行って
帰宅が遅くなった著者の少年に、わざわざオムライス
を付くってくれた」とのこと。
なんだか母親とその子供のシーンが目に浮かぶようで
この辺が、小説の素晴らしいところですね。
テレビドラマでは何の感動もなく素通りしてしまう場面
でしょうね。読書って素晴らしいですよね。

どうして「読書日記」にはコメントが付かないのか
不思議で仕方がないんですよ。
でも、コメントのことは考えないで自分の生きた証し
のひとつとして、これからも「読書日記」は時には
UPしたいと思っています。

ロウバイがお気に入りですか、ボクのブロともで絵を
書くことが趣味の方もロウバイが大好きだと言われて
ましたよ。

コメントありがとう
返信する
Unknown (*cranberry*)
2013-01-25 02:09:16
一人で食事するのって寂しいな・・・
次男がお弁当持って中学へ行くようになって
改めて実感しました
(小学校卒業するまでは昼に帰宅していたので)

まだ、家族で食卓囲んで夕飯食べているけど
いつか一日一人で食卓に向かうという生活
想像すると寂しくなります
う~ん・・・でも、カメラがあれば何とかなるかな?(笑)

食べ物についての記憶・・・
確かに、誰かと一緒に
何かのイベントで食べたモノが
一番先に蘇ってくるかもしれませんね!

ロウバイ、カナダでは咲かない花の一つです
黄色い花と青空は元気をくれますね~
梅の蕾も、春が来るのを待って準備中 ♪
動物も植物も、春の訪れを楽しみにして
待っているんでしょうね
私も、春が待ち遠しいと思ってますが
花粉症が怖いかも(笑)
返信する
Unknown (パピー)
2013-01-25 14:24:35
cranberryさん、遠方からの訪問ありがとう。

やっぱり食事は、会話を楽しみながら時間をかけて
頂くのが一番ですね。
ボクも毎日が日曜日に突入してから、ひとり食事の
回数が増えました。それまで同席していた取引先
関係や会社の同僚などとの機会が突然ゼロに
なりました。

cranberryさんなんかはまだまだ先のことですが、
人間って最後は一人ですものね。それに慣れる
ための練習だと思っています(笑)

カメラでは無理じゃないかな。。。カメラは食事しない
もの、それにこちらが話しすれば応えてくれるけど、
カメラくんからは話しをしてくれないな~

食事会話の想い出を出来るだけたくさん造って
おいてくださいね。

日本は昨日まで小さな春の足音がかすかに聞こえて
いたのですが今日から冬に逆戻り、、、ここしばらく
は寒いようです。小さな春はUターンしてあっちに
行ってしまったようです。

一昨日咲いた庭のスイセンの何処へ行ったのか、
今日は見当たりません、蕾に戻ったのかな~

コメントありがとう
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Unknown (zuzu)
2013-01-26 06:37:17
誰にでも、食べ物にまつわる思い出があるんですね…

私の場合、今は亡き母親が作ってくれた味噌カツです。
母は長崎出身だけど、名古屋めしの代表のようなこの料理をよく作ってくれました。

私もたまに家で作ります。
返信する
Unknown (パピー)
2013-01-26 10:30:42
zuzuさん、おはよう。

厳しい寒さが続いていますが、ご家族皆さんも
お元気ですか。

やぱり「母さんの味」が思いで№1でしたね。
母親って強いな~、、それに引き換え父親は・・・

「味噌カツ」って時々耳にはするんだけど、どんなもの
か解らず、いま、ググってみました。やっぱり想像して
いたのと同じようなもでしたね。

しかし、この「味噌カツ」が「名古屋めし」の代表とは
知りませんでした。

この本は、zuzuさん向きじゃないでしょうね。
川本さんの作品は、どちらかといえば中高年男性
向きかな・・・

今、歴史小説読んでます、といっても第二次大戦の
物語ですからzuzuさんとは少し時代が違っている
ようですが、興味深いです。

読書日記のUPにはいつも苦労してます。zuzuさん
のように上手く短く纏めることが出来なくて・・・

コメントありがとう
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Unknown (りえもんたん)
2013-02-03 11:28:20
ブログの更新に気付かず、遅ればせながらのコメントです。
興味深い本の紹介ありがとうございます。
食いしん坊の私は食べ物の話しにはすぐに食いついてしまいますね(笑)
「君」がいなくならないうちに探して読んでみようと思います。
返信する
Unknown (パピー)
2013-02-03 21:50:55
りえちゃん、こんばんは。

これはこっそり更新しました。mixi関係ないにね。

「君」は奥さんですよ。妻に先立たれての物語です
から、稀なお話しかも・・・
奥さんってだいたいは長命のようですから。

どちらかと言えば男性向けの内容じゃないかな、
と思います。

男心を覗き見するにはいいかも(笑)

コメントありがとう
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