『静の剣』
第二幕 龍之介
椿の花に添えた文は遺書だった。
恨み言でも、泣き言でもない。
ただただ貴女のこれからの幸せを祈る言葉を書き綴ったモノ。
俺の想いは書かなかった。
ただこれから死ぬかもしれない俺が幼馴染みに出した文。願い。ただそれだけ。
「こらぁー。龍之介、あんた、男でしょう? あれがついてるんでしょうが! あれが! だったらその証拠を見せなさいよ。勝つまで帰ってくるんじゃない!」
姉上に言われるのならわかる言葉。
だけどそれを言うのは静。姉上は色白の顔を真っ赤にしている。耳まで。
そして俺を喧嘩で負かしたいじめっ子たちも。
「なんだよ、龍之介。てめえ、女に尻を叩かれなければ喧嘩もできねーのかよ? 情けねー奴だ」
同い年の子らの中で身体が一番でかいそいつはガキ大将。そのとりまきはけらけらと下品な事を言って笑っている。
喧嘩はただただ些細な事。子どもならではの。
俺は身体も小さくって弱い。泣き虫。何もできない。顔を二、三発殴らせてそれで終わりにするつもりだったのに、一発目を殴られた所で姉上と静が来た。
静に見つかったのが一番の運の尽き。
静は俺の事が嫌いだから、俺が嫌がる事を平気でやる。
五月蝿いほどに蝉が鳴き続ける真夏の昼間、じりじりと真上に来た太陽の光りに焼かれながら俺は静とガキ大将を見比べる。
どちらが怖い、そう問われれば、答えは決まっていた。
「うわぁぁぁぁ―――ぁっ」
俺はガキ大将に叫びながら立ち向かっていき、二、三発で済んだ喧嘩が着物をずたぼろにするまでの激しいモノへと変わり、俺は顔を腫らし、身体のあちこちに青あざを作って、川原に仰向けで転がった。
「情けない。どうしてあんな奴、拳骨の一発でもあの下品な顔に叩き込んで、倒してやれないの」
「無茶、言うな…」
「無茶じゃないわよ。あたしが男だったらあんな奴、一発でのして、ここらの子どもの大将になっているわ」
鼻を鳴らす静。俺は今の女のままでも静ならば絶対にガキ大将となれると想った。
本当に俺は静にはよく苛められた。
相撲が弱ければ、静の家の馬鹿犬(凄まじくでかい犬なのだ)と相撲を取らされるし、剣術道場で一番弱いと知られたら、薙刀を持った静に追いかけられた。心底静を怖いと想ったのは川に追いかけられ、突き落とされて、竹で突かれ、溺れかけさせられて、死にそうな目に遭わされた事。あいつは俺を泳げるようにしようとしたらしい。
本当に恐ろしい奴だった。
その俺が川で溺れて死にそうになるまで。
俺は一晩生死の縁をさ迷ったらしい。
そして俺を彼の岸から此の岸へと呼び寄せたのはそのほかならぬ静の泣き声だった。
泣きながら静が俺を呼ぶ。
それを聞いた時、俺はどうしても戻らなきゃ、そう想ったんだ。
―――だって命令通りに戻らなきゃ、三途の川を船頭のこぐ船で渡っても、静が追いかけてきて、命令を守らなかった俺に何をするかわからないから。
俺は本当に静が怖かったのだ。
それが変わったのは顔にかかる雨の温もりに瞼を開いたら、そこに静の泣いている顔があったから。
俺があいつの前で泣くのは何度もあったけど、静が俺の前で泣くなんて。
―――どうして?
静は俺の身体に抱きついて、そして大声でわんわんと泣き出した。
姉上は優しく笑いながら静を連れて部屋を出て行き、部屋にひとりとなった俺はずっとどうして静が泣いていたのかを考え続けていた。
静は何故だか大人しくなった。それが気持ち悪い。
前は着物の裾をまくしあげて、竹刀を持って俺を追いかけていたのに、今の静はなんだか女の子みたいなのだ。
姉上の言葉遣いを真似たり(もっともこれは三日坊主にもならないうちにやめたが。)、姉上に花や茶を習ったり(これは半月で断念した。)、姉上の動きを真似たり(これは一ヶ月で元に戻った。)、そして俺を苛めなくなった。怒らなくなった。ただどんな時も静も笑っているようになった。だけど俺にはそれが不自然に見えてしょうがなかった。静は静だから。
そんな静を不気味に想っていたのは俺だけではなく、いつも俺をいじめている時に邪魔をしてきていた静を快く想っていなかったいじめっ子たちもそうであった。
いじめっ子たちは怒らなくなった静を怒らせようと様々な悪戯を静にした。
しかし言葉遣いも、花や茶も、清楚な動きもすぐに放り投げた静だが、怒る事だけはしなかった。
だからいじめっ子たちも段々と意地となり、俺は密かに静を心配するようになった。
そしてその心配が的中した。いじめっ子たちは天神様の夏祭り、綺麗に浴衣で着飾った静に泥団子を投げつけて、静の化粧した顔と浴衣を泥まみれにしたのだ。
『龍之介様、もしもよかったら、今日の天神様の夏祭り、あたしと一緒に………』
顔をほんのりと赤くしながらそう言った静が、俺にはかわいく見えたのだ。俺が了承したその後に静が浮かべたその笑顔も。
だから俺は静が泣き出した瞬間に、いじめっ子たちに立ち向かった。
結果は惨敗。俺は殴られ、蹴られ、診療所送り。
だけど静に「やったぞ」、俺がそう言った瞬間に静が浮かべた表情は忘れられなかった。
―――ああ、力が欲しい、そう想ったのはその時が初めてだった。
そして俺は剣術も勉学も勤しんだ。
でも哀しいかな。勉学はどうしようがどうにもならなかったし、剣術もまるでダメだった。
肝心な所で剣が止まる。
俺はダメなのだ。
姉上は年頃となるといくつもの縁談話が来た。
姉上は俺とは違い、美人で、清楚。頭も良く、何でも人並み以上にこなしてみせた。そういう姉上は誰からも認められており、そして名家、神木家より誘いで神木家次期当主、神木基伸殿の妻となる事が決まったのだ。
姉上も実は基伸殿に密かに恋い焦がれていたので、本当にこの話はとんとん拍子に進み、誰もが二人はこのまま幸せになると想った。
しかし基信殿は藤堂修羅によって斬り殺された。
姉上は泣き続け、その憔悴ぶりは見ていられなかった。
俺には何もできないのだろうか、姉上のために?
優しく大好きだった大切な姉上。その幸せを奪った藤堂修羅。
―――許せない。
「頼もう」
基伸殿の葬儀の次の日、俺は道場へと行き、先生に乱取りを願い出た。道場の塾生、全員を相手にし、最後に先生に乱取りを挑む、殺されても文句の言えぬ、そういう乱取りを。
猛る血。怒り。
しかしそれで何かができる訳ではなかった。
俺は弱い。
剣術はからっきしなのだ。
それでもこの地獄の乱取りを乗り越え、抜けきる事ができたのなら、何かが変わる気がした。
「次ぃ」
3勝29敗。最後は先生。
俺は息も絶え絶え。身体の感覚ももうほとんどない。耳は血の流れる音に邪魔されて、外界の音は少しも拾えなくなっていた。
それでも先生が放つ剣気、その凄まじい修羅が如くのそれは嫌というほどに感じられた。肌が粟立つ。
汗がさぁーっと全身から引いた。
「藤堂修羅は私よりも強い。私を斬れねば生きられんぞ、龍之介!」
先生の怒声は俺の中にあった何かを揺り動かした。
浮かんだのは姉上の憔悴しきった魂の抜けた顔と、
―――あの夏祭りの日に見た静の顔。
俺は力が欲しいんだ。
大切な者を守れるだけの力でいいから、力が欲しい。
だん、と床板を蹴る。
突き出される竹刀をかわすが、かわしきれずにそれが首筋をかすめるが、それぐらいはくれてやる。
胴への横薙ぎの一撃を俺は先生へと叩き込み、竹刀を持つ手にはその感触が確かに伝わった。
藩主へと願い出た藤堂修羅への敵討ちは受理され、その日のうちに俺は木版と、書状を頂いた。
今晩俺は、出る。
藤堂修羅を殺すために。
しかしその前に俺はもうひとり、殺さねばならぬ者が居た。
―――静を愛する俺を。
したためたのは遺書。
恨み言でも、泣き言でもない。
ただただ静のこれからの幸せを祈る言葉を書き綴ったモノ。
静への俺の想いは斬り捨てた。
俺は死ぬ。相打ち覚悟でしか俺は藤堂修羅には敵わぬ。そんな俺が静に俺の想いを明かせるわけがない。
静の想いには気付いていた。
いつしかいじめっ子の静が俺を愛してくれていたのを。
どれだけ願い、望むだろうか?
ただただ貧しくとも良い。
静が居て、二人の子どもが居て、静と共に幸せに歳を取る事を。
しかしもうそれは敵わぬ想い。だから俺は静への想いを殺そう。
どうか静、貴女だけは幸せに女として生きて欲しい。
「龍之介」
静への文を書き終えた頃、床に伏せていた姐上がやって来た。
「姐上、お身体は?」
そう問う俺に姐上は顔を静かに横に振り、そして一振りの刀を俺に渡してきた。
それは神木家が姐上に形見訳として与えてくださった名刀『黎明』。緋の波紋が浮かぶ美しき刀剣。
一説によればその刀匠が打った刀は鬼もが欲すると言われている。
「これを俺に? しかし姐上、これは」
姐上は静かに微笑んだ。顔色の悪い姐上の顔に浮かんだその笑みはだけど俺には泣き出す寸前のような顔に見えた。
「この刀があなたを守ってくださいます」
「はい。はい。姐上。姐上………」
黎明を受け取った時に浮かんだ静の顔はしかし、気付かぬふりをした。
そして俺は静の家の裏の門に静が好きな桔梗の花と文を添えて、藤堂修羅を殺すための敵討ちへと出た。
続く。
ほくほく。(><
キーリとビートのディシプリン、死神のバラッド、ゲット。(><
笑えるのは本屋の入り口をくぐった瞬間に本屋のおばあちゃんが笑顔で三冊を出してくれた事。
もうすっかりとお得意様です。このおばあちゃんがいるから私は本を買う時はここで買ってるんですけどね。^^
ゆっくりと三冊読んでいきます。^^
まずはキーリ。兵長ファンとしては本当に心配です。(><
そしてブギ―の番外編はまた新に始まる? っぽいのかな? という事はまだまだ当分ブギーポップは終わらないという事でしょうか? 前回本当に凪の描写が意味深だったから、あれなのですが。。。。
でも好きだった小説がどんどん終わっていっているのでまだ終わらないというのはうれしいかな。しかし本の置き場が。。。。
そうそう。今月の電撃文庫の折り込みチラシに入っている小説家さんのエッセイで長年の謎だった橋本先生は男なのか、女なのかの謎が解けました。(><
しかも日記に出てくる同居人さんの正体まで。(^^
すごくすごくすっきりとしました。(^^
今日は仕事が終わってから、母方の祖母の家に行ったのですが、ちょうど夏祭りをやっていたらしく、車を停めたお寺で見たちょうちんの灯りが何だか良かったです。
竜神様の船は子どもの頃によく見に行っていたのですがまた見たいかな。^^
すごくカッコいいのです!
やはり中部国際空港の影響で、祖母の家の辺りも結構地元の常滑焼きのギャラリーとか、何やらができていて、暇がある時に見に行っても面白そうだなーと想いました。
ちなみに今、サザエさんのオープニングで流れている常滑の焼き物の散歩道、歩いた事があります。(笑い
っていうか、大人の艶っぽい文章を出して、落ち着いた大人を演じようと想って、一人称を私にしているのですが、むむむむ。(ーー;
第二幕 龍之介
椿の花に添えた文は遺書だった。
恨み言でも、泣き言でもない。
ただただ貴女のこれからの幸せを祈る言葉を書き綴ったモノ。
俺の想いは書かなかった。
ただこれから死ぬかもしれない俺が幼馴染みに出した文。願い。ただそれだけ。
「こらぁー。龍之介、あんた、男でしょう? あれがついてるんでしょうが! あれが! だったらその証拠を見せなさいよ。勝つまで帰ってくるんじゃない!」
姉上に言われるのならわかる言葉。
だけどそれを言うのは静。姉上は色白の顔を真っ赤にしている。耳まで。
そして俺を喧嘩で負かしたいじめっ子たちも。
「なんだよ、龍之介。てめえ、女に尻を叩かれなければ喧嘩もできねーのかよ? 情けねー奴だ」
同い年の子らの中で身体が一番でかいそいつはガキ大将。そのとりまきはけらけらと下品な事を言って笑っている。
喧嘩はただただ些細な事。子どもならではの。
俺は身体も小さくって弱い。泣き虫。何もできない。顔を二、三発殴らせてそれで終わりにするつもりだったのに、一発目を殴られた所で姉上と静が来た。
静に見つかったのが一番の運の尽き。
静は俺の事が嫌いだから、俺が嫌がる事を平気でやる。
五月蝿いほどに蝉が鳴き続ける真夏の昼間、じりじりと真上に来た太陽の光りに焼かれながら俺は静とガキ大将を見比べる。
どちらが怖い、そう問われれば、答えは決まっていた。
「うわぁぁぁぁ―――ぁっ」
俺はガキ大将に叫びながら立ち向かっていき、二、三発で済んだ喧嘩が着物をずたぼろにするまでの激しいモノへと変わり、俺は顔を腫らし、身体のあちこちに青あざを作って、川原に仰向けで転がった。
「情けない。どうしてあんな奴、拳骨の一発でもあの下品な顔に叩き込んで、倒してやれないの」
「無茶、言うな…」
「無茶じゃないわよ。あたしが男だったらあんな奴、一発でのして、ここらの子どもの大将になっているわ」
鼻を鳴らす静。俺は今の女のままでも静ならば絶対にガキ大将となれると想った。
本当に俺は静にはよく苛められた。
相撲が弱ければ、静の家の馬鹿犬(凄まじくでかい犬なのだ)と相撲を取らされるし、剣術道場で一番弱いと知られたら、薙刀を持った静に追いかけられた。心底静を怖いと想ったのは川に追いかけられ、突き落とされて、竹で突かれ、溺れかけさせられて、死にそうな目に遭わされた事。あいつは俺を泳げるようにしようとしたらしい。
本当に恐ろしい奴だった。
その俺が川で溺れて死にそうになるまで。
俺は一晩生死の縁をさ迷ったらしい。
そして俺を彼の岸から此の岸へと呼び寄せたのはそのほかならぬ静の泣き声だった。
泣きながら静が俺を呼ぶ。
それを聞いた時、俺はどうしても戻らなきゃ、そう想ったんだ。
―――だって命令通りに戻らなきゃ、三途の川を船頭のこぐ船で渡っても、静が追いかけてきて、命令を守らなかった俺に何をするかわからないから。
俺は本当に静が怖かったのだ。
それが変わったのは顔にかかる雨の温もりに瞼を開いたら、そこに静の泣いている顔があったから。
俺があいつの前で泣くのは何度もあったけど、静が俺の前で泣くなんて。
―――どうして?
静は俺の身体に抱きついて、そして大声でわんわんと泣き出した。
姉上は優しく笑いながら静を連れて部屋を出て行き、部屋にひとりとなった俺はずっとどうして静が泣いていたのかを考え続けていた。
静は何故だか大人しくなった。それが気持ち悪い。
前は着物の裾をまくしあげて、竹刀を持って俺を追いかけていたのに、今の静はなんだか女の子みたいなのだ。
姉上の言葉遣いを真似たり(もっともこれは三日坊主にもならないうちにやめたが。)、姉上に花や茶を習ったり(これは半月で断念した。)、姉上の動きを真似たり(これは一ヶ月で元に戻った。)、そして俺を苛めなくなった。怒らなくなった。ただどんな時も静も笑っているようになった。だけど俺にはそれが不自然に見えてしょうがなかった。静は静だから。
そんな静を不気味に想っていたのは俺だけではなく、いつも俺をいじめている時に邪魔をしてきていた静を快く想っていなかったいじめっ子たちもそうであった。
いじめっ子たちは怒らなくなった静を怒らせようと様々な悪戯を静にした。
しかし言葉遣いも、花や茶も、清楚な動きもすぐに放り投げた静だが、怒る事だけはしなかった。
だからいじめっ子たちも段々と意地となり、俺は密かに静を心配するようになった。
そしてその心配が的中した。いじめっ子たちは天神様の夏祭り、綺麗に浴衣で着飾った静に泥団子を投げつけて、静の化粧した顔と浴衣を泥まみれにしたのだ。
『龍之介様、もしもよかったら、今日の天神様の夏祭り、あたしと一緒に………』
顔をほんのりと赤くしながらそう言った静が、俺にはかわいく見えたのだ。俺が了承したその後に静が浮かべたその笑顔も。
だから俺は静が泣き出した瞬間に、いじめっ子たちに立ち向かった。
結果は惨敗。俺は殴られ、蹴られ、診療所送り。
だけど静に「やったぞ」、俺がそう言った瞬間に静が浮かべた表情は忘れられなかった。
―――ああ、力が欲しい、そう想ったのはその時が初めてだった。
そして俺は剣術も勉学も勤しんだ。
でも哀しいかな。勉学はどうしようがどうにもならなかったし、剣術もまるでダメだった。
肝心な所で剣が止まる。
俺はダメなのだ。
姉上は年頃となるといくつもの縁談話が来た。
姉上は俺とは違い、美人で、清楚。頭も良く、何でも人並み以上にこなしてみせた。そういう姉上は誰からも認められており、そして名家、神木家より誘いで神木家次期当主、神木基伸殿の妻となる事が決まったのだ。
姉上も実は基伸殿に密かに恋い焦がれていたので、本当にこの話はとんとん拍子に進み、誰もが二人はこのまま幸せになると想った。
しかし基信殿は藤堂修羅によって斬り殺された。
姉上は泣き続け、その憔悴ぶりは見ていられなかった。
俺には何もできないのだろうか、姉上のために?
優しく大好きだった大切な姉上。その幸せを奪った藤堂修羅。
―――許せない。
「頼もう」
基伸殿の葬儀の次の日、俺は道場へと行き、先生に乱取りを願い出た。道場の塾生、全員を相手にし、最後に先生に乱取りを挑む、殺されても文句の言えぬ、そういう乱取りを。
猛る血。怒り。
しかしそれで何かができる訳ではなかった。
俺は弱い。
剣術はからっきしなのだ。
それでもこの地獄の乱取りを乗り越え、抜けきる事ができたのなら、何かが変わる気がした。
「次ぃ」
3勝29敗。最後は先生。
俺は息も絶え絶え。身体の感覚ももうほとんどない。耳は血の流れる音に邪魔されて、外界の音は少しも拾えなくなっていた。
それでも先生が放つ剣気、その凄まじい修羅が如くのそれは嫌というほどに感じられた。肌が粟立つ。
汗がさぁーっと全身から引いた。
「藤堂修羅は私よりも強い。私を斬れねば生きられんぞ、龍之介!」
先生の怒声は俺の中にあった何かを揺り動かした。
浮かんだのは姉上の憔悴しきった魂の抜けた顔と、
―――あの夏祭りの日に見た静の顔。
俺は力が欲しいんだ。
大切な者を守れるだけの力でいいから、力が欲しい。
だん、と床板を蹴る。
突き出される竹刀をかわすが、かわしきれずにそれが首筋をかすめるが、それぐらいはくれてやる。
胴への横薙ぎの一撃を俺は先生へと叩き込み、竹刀を持つ手にはその感触が確かに伝わった。
藩主へと願い出た藤堂修羅への敵討ちは受理され、その日のうちに俺は木版と、書状を頂いた。
今晩俺は、出る。
藤堂修羅を殺すために。
しかしその前に俺はもうひとり、殺さねばならぬ者が居た。
―――静を愛する俺を。
したためたのは遺書。
恨み言でも、泣き言でもない。
ただただ静のこれからの幸せを祈る言葉を書き綴ったモノ。
静への俺の想いは斬り捨てた。
俺は死ぬ。相打ち覚悟でしか俺は藤堂修羅には敵わぬ。そんな俺が静に俺の想いを明かせるわけがない。
静の想いには気付いていた。
いつしかいじめっ子の静が俺を愛してくれていたのを。
どれだけ願い、望むだろうか?
ただただ貧しくとも良い。
静が居て、二人の子どもが居て、静と共に幸せに歳を取る事を。
しかしもうそれは敵わぬ想い。だから俺は静への想いを殺そう。
どうか静、貴女だけは幸せに女として生きて欲しい。
「龍之介」
静への文を書き終えた頃、床に伏せていた姐上がやって来た。
「姐上、お身体は?」
そう問う俺に姐上は顔を静かに横に振り、そして一振りの刀を俺に渡してきた。
それは神木家が姐上に形見訳として与えてくださった名刀『黎明』。緋の波紋が浮かぶ美しき刀剣。
一説によればその刀匠が打った刀は鬼もが欲すると言われている。
「これを俺に? しかし姐上、これは」
姐上は静かに微笑んだ。顔色の悪い姐上の顔に浮かんだその笑みはだけど俺には泣き出す寸前のような顔に見えた。
「この刀があなたを守ってくださいます」
「はい。はい。姐上。姐上………」
黎明を受け取った時に浮かんだ静の顔はしかし、気付かぬふりをした。
そして俺は静の家の裏の門に静が好きな桔梗の花と文を添えて、藤堂修羅を殺すための敵討ちへと出た。
続く。
ほくほく。(><
キーリとビートのディシプリン、死神のバラッド、ゲット。(><
笑えるのは本屋の入り口をくぐった瞬間に本屋のおばあちゃんが笑顔で三冊を出してくれた事。
もうすっかりとお得意様です。このおばあちゃんがいるから私は本を買う時はここで買ってるんですけどね。^^
ゆっくりと三冊読んでいきます。^^
まずはキーリ。兵長ファンとしては本当に心配です。(><
そしてブギ―の番外編はまた新に始まる? っぽいのかな? という事はまだまだ当分ブギーポップは終わらないという事でしょうか? 前回本当に凪の描写が意味深だったから、あれなのですが。。。。
でも好きだった小説がどんどん終わっていっているのでまだ終わらないというのはうれしいかな。しかし本の置き場が。。。。
そうそう。今月の電撃文庫の折り込みチラシに入っている小説家さんのエッセイで長年の謎だった橋本先生は男なのか、女なのかの謎が解けました。(><
しかも日記に出てくる同居人さんの正体まで。(^^
すごくすごくすっきりとしました。(^^
今日は仕事が終わってから、母方の祖母の家に行ったのですが、ちょうど夏祭りをやっていたらしく、車を停めたお寺で見たちょうちんの灯りが何だか良かったです。
竜神様の船は子どもの頃によく見に行っていたのですがまた見たいかな。^^
すごくカッコいいのです!
やはり中部国際空港の影響で、祖母の家の辺りも結構地元の常滑焼きのギャラリーとか、何やらができていて、暇がある時に見に行っても面白そうだなーと想いました。
ちなみに今、サザエさんのオープニングで流れている常滑の焼き物の散歩道、歩いた事があります。(笑い
っていうか、大人の艶っぽい文章を出して、落ち着いた大人を演じようと想って、一人称を私にしているのですが、むむむむ。(ーー;
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