紙芝居ボランティア(ページ6)(練習・準備・本番)

7 練習

① 下読み
机の上に紙芝居を束にして乗せ、最後の画面を取り出して裏返して左に置き、文を読みます。次は1枚目の画面を左に動かして裏返し、次の画面と見比べて読みます。これを繰り返し最後の画面を戻して終わりです。

② 紙芝居を立ててやってみる
舞台が無い場合、紙芝居をテーブル上にたてかけ向かって左横に立ちます。一枚目の脚本は最後の画面の裏に印刷してあるのでそこだけコピーして別の紙に作るか、舞台裏を左に見て読みます。次からは抜いた画面を裏にして左手に低い位置で持ち、読んでいきます。画面を見たりお客様の反応を見たりでかなり忙しいので、文は暗記するほど慣れていれば一番良いのです。

③ 動作や演出(紙芝居の特徴の項 参照)
 左に「私が楽しみたい、こんな私を見てほしい、生きる張り合い、人のためにいいことしてる」
右に「主催者の目的、聞き手の多様な考え、地域の文化、人の作った良いものを伝える」
左右がつりあうよう、意識を調整して下さい。鳴り物が指定されるのは子どもが学校で演劇として楽しむための場合が多く、語り手は人間の声で場面を語り立ち上げていく努力をできるかぎり続けていきたいと思います。いずれも紙芝居に付加価値をつけたい方は、他の方より異様に浮き上がらないような配慮をしてください。

④ 脚本の変更は(紙芝居の特徴の項 参照)
 変更するときの原則は、時代に合わないものを直すとき、画面と文を合わせる時、口に乗りやすくするため、テンポ良くすすめるため、です。
借りた紙芝居では書き込めないので、全画面分の脚本を別の紙1~2枚にぎっしり書き、それを使うといいでしょう。台本を作る感覚で、実演者は物語を自分のものにできます。

⑤ 作者名を読むか
聞き手は題を聞くと想像が始まり期待しますが、作者名を聞くと現実に戻ってしまい、朗読を聞くような感じにもなります。名作については、原作を明らかにする必要があり表紙に印刷してあるのですが、口に出すと作者に関してついトークしてしまい、嘘を言ったり座が白ける原因にもなりやすいのです。おはなしするときは聞き手にあまり予備知識を与えないほうが良く、演じ手は「自分がその紙芝居(原作ではなく)を好きだ」ということのみを頼りにして自分の好きな、自分の知っている話として節度を持って、おはなしそのものを差し出しましょう。名作、昔話紙芝居は例えばラーメンのようなB級グルメであり、A級のものを実演時にちらつかせるのはかえって野暮で、ラーメンとしてしっかり愛していきたいと思います。

⑥ 声
子ども向けだからといって媚びたような猫なで声はやめ、その人の持っている自然な声で語ります。部屋の一番奥にいる聞き手に届け、全体を包む気持です。人の持つ本来のものを届けるため、機械を通さない声、つまりマイクは使わないほうがいいのですが、高齢者施設ではマイクを使うのも必要な選択肢です。腹式の発声や声を鍛えることも大切ですが、行き過ぎて威圧的にならないよう注意しましょう。立派な技術や絵の実演発表会というより、「上から行くな、下から行くな、対等に行け」と、紙芝居の基本思想を大切にしたいものです。

8 準備

① 依頼元の目的を知る
出張の場合は依頼元の目的をよく確認します。下見ができなかったら手順表を作り一つ一つ道具や状況を確認しないと失敗につながります。道具立ては楽しいのですが、内容に無頓着で道具で化かすと「道化」になり、場所によっては相手に失礼になることもあります。
民間からの依頼にも注意が必要です。紙芝居は親しみやすくいろいろな集会に使われ、営利や思想団体の盛り上げ役、交流の座持ちの人をする可能性なども想定して判断し、個人や劇団として運営される場合はなお一層、紙芝居の歴史も勉強が必要です。高齢者施設では突発的な問題も起こり得るので、慣れた実演者が同席し、若い女性だけの実演というのも注意しましょう。

② 幕紙
板目紙にきれいな紙を貼って幕の代わりにする場合がありますが、本で言えば装丁でもあり、お話の内容を壊さないことが大切です。始まりと終わりを視覚的にはっきりさせる効果のため、他には舞台の扉を閉める方法もあり、物理的に可能であればどちらでもいいと思います。

③ 舞台
紙芝居出版社から既製品が出ていますが作るならば画面を引き立てることを第一に考えます。ほるぷ出版の紙芝居は大型で小型舞台だと入りません。扉が左右に開くと、左に抜いた絵が抜くと同時に隠れて見えなくなり絵に集中できますが、2画面同時に見るおもしろさが消えるかも知れません。缶ビールの空き箱の前面と左をくり抜くと簡単な舞台を作ることができ、自宅での練習や重いものが持てない人、手作り紙芝居の製作時に役に立ちます。

④ 演台
聞き手の視線を第一に考えます。相手が床に直に座っている場合は、見やすい画面の高さは60センチ位の高さで、絵を上から見下ろして喉がふさがるのも防ぐためひざをついて演じることもあります。聞き手が椅子や車椅子の場合は1mかそれ以上の高さが必要。画面を抜いた後は舞台奥に置くので、演台の奥に60㌢位の置き場があると良いのです。なお油絵のキャンバスを乗せるイーゼルを改造すると、屋外でも何の用意もない部屋でも即席の演台ができます。長机など横長の台の場合、向かって左側の隅、体のすぐ近くに舞台を置かないと画面がぬきづらいです。

⑤ 演台の布・衣装
演台がないときは長机で代用しますが、画面下に余計なものが見えないよう布で覆います。画面の邪魔にならないよう無地が一番で、同じ理由で、大柄な模様の服装や飾りも避けましょう。実演者めあての交流ならば華やかな衣装もありますが、勘違いにならないよう気をつけます。

⑥ 照明
照明を使うなら、演台もその分奥行きがもっと必要です。15ワット1本を舞台の前部に置き、聞き手がまぶしくないよう聞き手側は遮ります。大きすぎると今度は聞き手の視線を遮ることになるので調整が必要です。照明があるととても絵が引き立つのでできるだけ使いたいものです。

⑦ 拍子木
本来は子どもを呼び集める時や幕開けの時、もうすぐ始まるよと鳴らしました。聞き手の気持ちを集めるときなどにしつこくない程度に使うと便利です。

⑧ 部屋
声が無駄に広がらないよう小さめの部屋で、演台は窓の無い面に置き、後ろは飾りがなるべくないようにします。おはなしの最中は演じ手の心の安定のために人が出入りしないほうがいいのですが、臨機応変にできるよう、演台の置き場所に工夫しましょう。
イベントの場合は出入り自由な空間の場合が多く、演じ手は前列の聞き手めがけて語り、声が止まる壁がないのでとても苦労しそうです。障子越しの日光か普通の部屋の明るさにし、舞台前の照明を使いましょう。館内放送が入ってしまったらその時だけ語りを一時停止するほか、お祭りなどでBGMの音量調節ができない部屋は使えません。屋外イベントの依頼はおはなしを聞くというより紙芝居の雰囲気を楽しむためのものなので、それに適した紙芝居を使いましょう。
小上がりでやってくれとの依頼はますます人を見下ろす形になりやすく、逆転の発想でお客を小上がりに、自分は土間に、で視線が対等になり、声も止まり、車椅子の演じ手もOK。踏み台に乗ってまで街頭紙芝居を見たがった人々の気持ちを、今、大切によみがえらせたいものです。

9 本番

① 直前
事前に紙芝居の順番を確かめておきましょう。タイミングよく抜くために指先に油分の補給が必要な時もあります。発声練習もしておきましょう。挨拶は、手に何も持たない、部屋の出入りはお話の区切りの時にする、友達の迷惑にならない程度に楽しく声を出してもらってよい、こわい話でもみんな一緒だから大丈夫、など。自己紹介を利用して自分の声の音量調節もできます。

② 子どもが話しかけてきたら
子どもの声を聞いたときは「そうだね」とうなづいて受け入れますが、演じ手は自分のおはなしをしっかりにぎりしめ物語の展開にもたつかないように。会話で長々と返事をしていては、他の子どももおはなしから集中がそれるので返事は率直に短くします。うっすら分かるけどと想像をめぐらせるのも時には必要でしょう。対等に目と目をあわせることも対話なのだと思います。

④ 全体の流れを
 前置きして話し始めるのも楽しみの一つですが、作品のたびに前置きすると流れが滞ります。聞き手を試すような質問もその人の雰囲気に左右されます。手遊びわらべうたは息抜きになりますので、適度に入れても構わないと思います。

⑤ 反省会
 「人の集まる場を自分の趣味のはけぐちにしている」と言われることが多いのは事実ですから、「プログラムはこれでよかったか」「絵に対応した読み方だったか」「舞台設定」「作品の説明と反省」などを話し合います。必ず絵を見ながらやりましょう。子どもが「その紙芝居、もういっぺん家でやってもらう」と手を伸ばしたなら最高です。ボランティアがその子に、物語を身近な人と楽しむという喜びを手渡すことができたからです。
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