亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

パラレルストーリー おじさんと中島②

2018-10-02 21:19:53 | 美月と亮 パラレルストーリー
「あのさあ。軽々しく学校に電話
してこないでくれないか。」

中島はもう事務のおばちゃんに取り入って
気軽に電話を掛けてきては俺を呼び出す。

「電話越しの声。なかなかセクシーだよ。」

「切るぞ。」

「ねえ。また会って。」

「もうガキのお守りをしている暇はない。」

「いじわる。」

「お前、受験は?」

「ん。一般だよ。」

「なら勉強しなさい。」

「社会科の先生なんでしょ?
俺、日本史苦手なんだ。教えてよ。」

「基本、教師ってのは自分の生徒しか
教えちゃいけないんだよ!」

くだらないやり取りで延々と長電話をする。
地味な攻撃だがげんなりする。
こっちが次第にイライラしてくるのを
中島は楽しんでいる。

「今度こそ切るぞ。」

「んもう。また電話するから。」

そもそも俺は用事もないのに電話で
ぐだぐだしゃべるやつらの気が知れない。
そのくらい電話は嫌いだ。

俺がイライラしているのには
もうひとつ理由がある。
美月がまた風邪を引いた。
そんなに風邪を引くやつじゃないのに
最近体調を崩すことが多い。

また賞平が授業のノートを渡すからと
見舞いに行こうと誘ってきた。

「権も連れていくよ。」

賞平は面白そうにニヤニヤしながら
俺を窺った。

はあ。頭痛い。
ただでさえ美月とイチャイチャ出来なくて
寂しいのに。

曲者、中島からは電話が掛かってくるし
賞平は人をからかって喜んでるし
権藤は不機嫌そうに後ろを取って
ついてくるし。

くそ。もう美月の部屋ではイチャイチャ
させてもらうぞ。

呼び鈴を鳴らすと、しばしの間があり
美月が出てきた。

「そうか。まだ直樹帰ってないか。」

俺が美月の肩を抱くと
怠そうにしなだれかかってくる。
腋に手を入れ、半ば運ぶように
部屋に連れ帰った。
ベッドに寝かせると頭を撫でる。
熱があるのか熱く湿っていた。

「いいよ。美月。もう帰るから。
ノートのコピー、ここに置いとく。」

賞平は美月の机の上に、コピーを
ばさりと置いてすぐに部屋を出た。

「鷺沼。お大事にな。」

「…権藤?」

美月は喉をやられていて
何と言ったのかは寄り添う俺にしか
聞こえなかったろう。

「ゆっくり休め。」

権藤も部屋を出た。

「俺も帰るな。」

朦朧とした虚ろな瞳と、熱い息を吐く
赤い唇に無駄に興奮した俺は、美月の頬を
撫でながら唇にキスした。

「もう。感染るから。」

かすれた声で言いながら、俺の胸を
拳でパタパタと打った。

「愛してるよ。」

美月に布団をかけ直して、部屋を出た。

玄関先で図体のデカイあんちゃんが
二人して突っ立っているのは
たまらなく鬱陶しい。
俺も小さい方ではないが
賞平と権藤に挟まれると落ち着かない。

「権はこの辺、地元なんだろ?」

賞平はまた駅に戻るから俺と一緒の
道を歩く。こいつと二人も気が重い。
権藤の家はここから10分程だという。

「駅までの近道ってないか?」

権藤はキョロキョロすると
学校とは反対方向を指す。

「こっち行くと前野原駅まで7~8分だ。」

俺の家の最寄りからは離れるし
定期の区間ではないが、賞平は定期で
乗り降り出来る駅だ。

「知んなかった。いつも無駄に歩いてたよ」

賞平が道を覚えたいと言うので
権藤が案内してくれることになる。
何となく俺もついていく。
さすが地元民だ。いきなり曲がって
思いも寄らない場所に出る。
嫌な予感がした。

「お、俺、やっぱ戻るわ。」

こそこそと元来た道に戻ろうとする。
だが、もう遅かった。

そこは中島の家の前の道で。
ちょうど今から行こうとする駅から
帰ってきただろう中島が
こちらを見て棒立ちになってる。

「な、中島!!」

権藤は中島に駆け寄る。

賞平はただならぬ空気の中で
それでも中島という名前を記憶の奥底から
甦らせたらしい。

賞平の陰に隠れてやり過ごそうとしたが
中島には見つかってしまった。

「何のつもりなのさ!このお節介おやじ!」

権藤と賞平はまた、キョトンとして
俺を見ている。

「違うよ!偶然だよ!俺はそんなに
暇じゃないって!」






何故か揃って中島家のリビングに通された。

「なあ、中島。柔道、やめたんだってな。」

権藤は自分のせいで中島の柔道人生を
潰したくらいに思っているので
土下座をする勢いだ。

「美月ってホンっとにおしゃべりだな!
ったく、だから女ってやつは!」

権藤は切なそうな顔で言い訳する。

「鷺沼を責めないでくれ。悪気はない。」

中島はこのへんで悟ったと思う。
権藤が美月を好きなことを。

「中島!済まなかった!俺のせいで」

「何の話?俺は元々、柔道はやめようと
思ってたんだよ。お前に負けたからなんか
じゃないし、締め落とされたのなんか
気にしてないし。」

中島は権藤の頭を撫でる。

「もう。でっかい図体して小心なんだから。
もっと堂々としててよ。あんなに強いのに」

「中島。」

「しょうがない人。」

このへんで賞平が首を傾げだした。
そりゃ一般的な柔道というイメージから
あまりに遠い中島のキャラクターは
とても権藤を負かすようなやつには
見えなかったし。なんか。へんな雰囲気
出してるからである。

「そういや、さ。長内くんて
この中島くんと知り合いなの?」

何とも言えない雰囲気を変えたかった
賞平はちょうど手頃な話題があることを
思い出してしまった。権藤も頷く。

「いや。その。こいつが道端に転がって
いるのを偶然発見したことがあって。」

俺は説明しながら、中島の様子を窺う。
黙って聞いているので異存はないらしい。

「なんだ、穏やかじゃないな。」

権藤は中島を素直に心配する。

「大丈夫。ちょっと転んだだけなんだ。」

中島は権藤のこんなところが好きなのかな。
デカイ図体して、妙に気弱というか
優しいというか、本当に見てくれとの
ギャップが激しい一面がある。

「鷺沼とは、同じ道場だったんだって?」

権藤は話の軸を美月にシフトした。
また中島は不機嫌になる。

「ああ。中学でも同じクラスになったし。
聞いてるんだろ?美月に。あいつは
何て言ってるか知んないけど、そんなに仲が
良かったわけじゃないから。」

叩き落とすなあ。
俺はまだ色々知ってるから我慢出来るけど
ここにいる男三人、程度の差はあれ
全員が美月を好きだからな。
知らねえぞ。

「そうか。じゃあ、鷺沼の片想いって
ところか。まあ、過去の話か。」

権藤は現在進行形で美月を見ている。
過去は気にしてないかと思えば
そんなわけでもなかったんだな。
このまとめ方に、中島が反応する。
俺は本日二度目の嫌な予感が怒濤のように
胸を襲った。

「ふうん。美月は権藤に惚れたって
ことか。大した尻軽だ。」

それならそれでもいいので
俺のことはそっとしておいて
もらいたかったんだけど
ちゃんと言い含めるべきだったかな
いやそんな暇はなかったんだよな

「中島くん。美月が惚れてんのは
こっちのおじさんだよ。俺たちは
振られ組だから。」

あー横からの弾きたー

中島は俺に白い目を向けた。

「えっと。内緒にしてください。」

「へえ。美月のどこがよかったの?
あいつも一人前の女なんだな。
まさか抱いてないことないよね?」

ああ。本当に面倒くさい。
思春期ってやつは。

「俺だけのことなら、話すよ。
俺は確かに美月が好きだ。
愛してるよ。でも、どんな関係かとか
あいつの問題でもあるから。」

「寂しいほど好きなんだ?」

「ああ。そうだ。」

権藤も賞平も固唾を飲んで見守る。

「なんで俺、いつも上手く行かないんだろう」

権藤と賞平は、中島が美月を好きだった
のだと思う。こんなうだつの上がらない
おじさんに取られたと、その気持ち
分かるぜと感情移入している。

真実は微妙にずれているのだ。

人を好きになるという感情は
真っ直ぐで透き通って、時に身勝手で
自分や他人を傷つけながらも
成長して熟成していくものだろう。
だが、これまた多くの者が
ねじ曲がって汚い思いにまみれてしまった
どうしようもない感情として捨てきれず
もて余しているのだろうと思う。

こいつが美月に対して持っているものは
跡形もなく変形した想いだ。
それは心を暖かくするものでは決してない。
それなのに、捨て去ることができない。

「なあ、中島。今度飯でも食いにいこう。」

権藤ががっくりと肩を落とす中島に言う。
励ましたいのだろうな。
賞平は、権はいいやつだなという目で
二人を見ていた。

俺は黙っていた。





しばらくして、学校にまた電話が入る。

「あいつからの電話は取り次がなくて
いいですからね!」

事務のお姉さま方は笑いながら俺を呼ぶ。

「なんだ。また、なんか脅しか?」

美月とのことを垂れ込むくらいは
するかと思っていたが、そんなこともなく
静かな日々が続いていたのもおかしな話だ。
ついに来たかと身構えたが。

「なんか俺が美月を好きだったことに
されちゃったのは釈然としないけど
お陰で共通の敵が出来た。」

改めての敵認定が降りた。
何とでも言えと流す。

「権藤とはいい感じだよ。俺の気持ちは
明かすつもりはないし、あいつは全く
気づいてない。かわいい男だよ。」

「へえ。」

「なんか、寂しさを暖めるって。
わかる気がする。」

「そうか。それは良かった。」

あっさりと電話は切れた。

「あら。もうおしまいなの?
長内先生、振られちゃったのかしら。」

事務のお姉さま方は面白そうに笑う。

「振られたわけじゃないですよ。
ま、もうかかってこないと思いますが。」

やだあ、やっぱり振られたのよ~!と
盛り上がる事務室を後にする。

「やれやれ。やっと片付いたか。」

つい独りごちた。









直樹は中学時代からつき合っている
彼女を迎えにいく途中だった。
近所に住んでいるから
寂しくなれば何時でも会いに行く。
小石を投げて合図。彼女が窓から顔を出す。
なんて実際には電話するんだけど。

「拓郎!久しぶりじゃん!」

懐かしい面影の幼なじみと行き合った。
隣に立っている、いかにも格闘技をやってる
風体の大きな男は友達か恋人か。
でも直樹にとって、そんなことは
どうでもよかった。

「直樹。久しぶり。」

二人は肩を叩きあう。

「鷺沼。」

直樹は知らない男から名前を呼ばれて
怪訝そうな顔をしたが、慣れているのか
一言尋ねた。

「美月を知ってるの?」

「あ、ああ。クラスメートだ。」

「権藤。直樹は、美月の双子の弟なの。」

中島は楽しそうに笑いながら
権藤の二の腕にまとわりつく。

それを見ていた直樹は穏やかに微笑む。

権藤はそろそろおかしいなと
思い始めていた。中島は、何かと言えば
自分の体に触れてくる。うっとりと筋肉を
撫でてみたり、自らの体を擦り寄せてくる。

「恥ずかしいから。離れろ。」

こう言いながら、何故恥ずかしいかも
権藤には分かっていないようだ。

「じゃあ、またな。」

直樹は何事もないように去っていく。
素っ気なくも見える彼は、昔からこんな
少年だったのだ。

「いい奴なんだよ。」

「そう、なんだ。」

顔はそっくりだが、美月とは
違うタイプの直樹。中島が心を許している
風なのが何となく悔しかった。
権藤はそんな風に思う自分は狭量な奴だと
自分でガッカリした。

「どうしたの?」

「や、何でもない。」

中島は権藤に寄り添って歩く。
肩がぶつかるくらいの距離感で
たまに、手で手に触れる。
権藤は何回かに一回、中島をたしなめる。

「何してるんだ?」

「何って。一緒に歩いてたら
手だってぶつかるよ?」

「なるべくぶつからないようにできんか。」

「…痛い?」

痛いわけはない。中島もわかって
言っている。

「ん。わかった。気をつけるよ。」

そう言いながら権藤の手をきゅっと握る。

「やめろ。恥ずかしい!」

「ごめんごめん。」

二人はわちゃわちゃしながらも
頻繁にデートしているようだ。

「次のデートは何処に行こうか。」

「デートじゃ、ない!」

権藤はそんな中島を突っぱね切れない。