亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

松尾家の嫁④

2018-05-17 07:01:43 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「いや。折角だから。
うちに住めばいいんじゃないか。」

何が折角だからなのか
さっぱりわからない。

シンはバーバラに呼ばれた。
鞠を連れていこうかと言ったら
あなた一人でいらっしゃいと言われた。
だから、シンは呼ばれた時間に一人で
家まで飛んできた。
居間に入ると、いつもは書斎に籠っている
親父が珍しくソファに座っていた。
正直、シンも息が詰まりそうに緊張した。
あれを、言い出すつもりだ。
案の定シュウは口を開いた。開いたが。

「折角って?」

シンは居間の端にある飾り棚に手を添えるようにして
ふらつく体を支えていた。
一度口を開けるとアゴごと外れてしまいそうで
最低限の単語を発音したあときつめに口を閉じた。

「や。だから。何だ。部屋は貸すほどあるし。」

シュウはシンを見ている振りをして見ていない。
巧みに目線を外している。

「貸したら?」

シンは少し呆れて、逆に落ち着きを取り戻した。
そりゃ、今さら『お前たちと一緒に暮らしたいんだ』
なんて言われたらシンは卒倒するだろう。

「借り手なんかつくと思うか?」

「だいたいいくらで貸すつもりなんだよ。」

「ん。一泊35000円といったところか。」

「ホテルか!!」

いつものリズムが戻ってきた。
シンはこれで同居の話もうやむやになるだろうと
あとはだめ押しでバーバラに断りを入れようと
ホッとしながら頭を巡らせていた。

「息子と一緒に暮らしたいと思って何が悪い?!」

少しキレ気味にシュウが叫ぶ。

「一緒に暮らして、俺たちに何をさせようって
言うんだよ!!ふざけるな!」

「は?」

シュウはかなり間抜けな顔で動きを止めた。

「何か企んでるんだろう!!」

怒るシンをボケッとして見つめている。

「何とか言ったらどうだ!」

「じゃあ、何を企んでると思ってるんだ?」

シュウも問う。
企んでるんだろう!と言われても
企むネタが今のシュウには思い当たらなかった。

「あんたがただ、一緒に暮らそうとか
言い出すわけないじゃないか!
よく確認もしないで美月を襲わせたり
子どもを堕ろせと暴言を吐いたり
俺は全部忘れて許している訳じゃないし
これから、どういうきっかけで何をされるか
安心出来ないって言ってるんだ!!」

「うわあ。やっぱり根に持ってる。」

「馬鹿だろう?地下牢に閉じ込められたのだって
忘れてないし、その良いことも悪いこともない
異常なまでの行動力だって危険だと思ってるよっ!」

息子にけちょんけちょんに言われて
シュウはうなだれて唸る。

「言っておくが、鞠は俺なんか足元に及ばないくらい
口が達者だぞ。ユリも泣かされた。」

「ユリが?」

「あいつはアホだから鞠を馬鹿にしたんだ。
ぎたんぎたんにされた。」

シュウは声をたてて笑う。

「鞠さんらしい!」

「親父だってあいつを馬鹿にしたことをすれば
何を言われるかわからないぞ。」

「いやそんなつもりはないが」

「あいつ口以外は攻撃力0だけど
その分凄まじいぞ?すごく頭いいからな。
女の癖に理攻めで来るんだ。
感情を原動力にした論理の展開は無敵だぞ?」

鞠は一番敵に回したくない
そして、一番可愛い女なのだ。
そんなところに惚れた。
自分にはない強さがある。
輝くものを持っているのだ。

「俺みたいに、いいように出来ると思うなよ!」




シンは親父を乗り越えようと思った。
もう二度と親父の思うようにはならない。
そのために縁も切った。
家を出た。

なのに。
シンは親子をやめることが出来なかったのだ。



「なあに。なんかあたしが鬼嫁みたいじゃない?」

いつのまにか、鞠がシンの横に立っていた。
シンは腰が抜けて、その場に座り込んでしまった。

「鞠さん。」

シュウも鞠の登場に呆気にとられている。
背中で翼がビキビキと震えている。
この翼の出方は、ちょっとチビっちゃったと
同義の少しばかり恥ずかしい粗相に値する。

「あら?私、バーバラさんに呼ばれたんだけど。」

鞠はキョロキョロとバーバラを探す。

「鞠。聞いてたの?」

シンは気まずいような嬉しいような
複雑な顔をして言った。

「あたしがユリちゃんを泣かしたって。」

もう人聞きの悪いこと言わないでよね
あたしはもうユリちゃんとLINEくらいしてるし
彼女だってあたしを義姉と思ってくれてるんだから!

シンは横目でシュウを見た。

そしてシュウもシンを見る。

なるほどな。

だろう?

二人同時に肩を揺らして笑い出した。

「もう。何なの?似た者親子ね。」

「に、似てる?!」

シンは真っ赤になりほっぺたを膨らませる。

「何て言うのかしら。空気がね。醸すものが。」

鞠はシンに寄り添う。

「顔は全く似ていないのに、物腰とか
立ち居振舞いとか。話を始めるときの
息のつき方がそっくりなの。」

とても嬉しそうに微笑んだ。

「あれ?鞠お姉ちゃん!いらっしゃい!」

ショーンがパタパタと可愛らしい羽ばたきで
居間に入ってきた。

「ショーンくん!」

二人はひしと抱き合う。
ショーンは勢い余って鞠の胸に挟まる。

「お姉ちゃん!」

「ショーンくん、くすぐったいわ。」

「もう、ショーンったら。鞠さんが大好きね。」

バーバラがワゴンで珈琲と紅茶を運んできた。

「鞠お姉ちゃん、とってもいい匂い。」

ショーンが鞠の胸で頬擦りをする。
なんとも微笑ましい光景だが、そんな中
一人だけ面白くなさそうな顔の男がいた。

「ショーン。お茶の時間だぞ。」

シンはなるべくやさしく、ショーンをつまみ上げた。

「あ。お兄ちゃん。」

ショーンは正気に帰ったようにシンを見上げた。

「鞠お姉ちゃんのおっぱいはお兄ちゃんのだったね。
ごめんなさい。」

こんなふうに子どもに謝られると
自分がたいそう大人気なく感じる。

「いや。いいよ。今のうちはね。
鞠のおっぱいはお腹の赤ちゃんが生まれてきたら
その子のものになる。」

「ぼく、お兄ちゃんになるんだね!」

厳密にいうと叔父さんなのだが。

「そうだな。多分、妹だな。
かわいがってやってくれ。」

ショーンは、はしゃいでみんなの回りを
飛び回った。