覚えてた？

■覚えてた？

「久しぶり」
そう言われて　心の中で指を折る
いつのまにか　薄くなっていた記憶で
閉じかけていた扉を開ける
もらった言葉も　積み上げた日々の重さも
扉の先には見つからない
そうやって　時間をなだめて
もう一度　目を上げる
「変わらないね」
そう？　でももう同じ靴ははいてない
笑い声も　まるで誰かの持ち物みたい
それでもやっぱり変わってない？

薄紅色のレースが途切れて　浮かび上がる景色
誰もいない校庭　ゆがんで見える校舎
たたずむ私のそばにいた　ショートヘアの女の子
名前も声も覚えていないけど
「つまんないね」
それだけ　浮かび上がって消えた
ペンでは書けない不思議な毎日
見たことのない　薄汚いカタマリ
「つまんないね」
そう、つまんなかったね
あのとき　いっしょに
まぶしい空を見上げた？

「元気そう」
笑った顔には覚えがないけど
声は少しよみがえる
立ち尽くす日はあっても
ちゃんと先に進む時間の魔法
わかってきた無力と　あきらめない矛盾
「つまんない？」
問いかけた私に　笑って首をふる
記憶のきれっぱしの捨てられそうな一瞬
「覚えてたんだね」
無臭の懐かしい気配が鮮やかになって
あなたは雑踏に消えていった