俳句日記/高橋信之

高橋信之(愛媛大学名誉教授・俳句雑誌「花冠」創刊者)

花冠2月号掲載作品

2009-12-20 16:47:48 | 花冠掲載の俳句

はつ冬の空
高橋信之
 
せきれいの一啼き二啼きして去りぬ
はつ冬の空の青さの眼に眩し
 鶴見川散策六句
一人行けば土手に吹かるる荻若し
土手下の冬草青し午後の陽に
小春ぽかぽか土手下の親子の会話
師走晴れて川のすべてを明らかに
川上へ風のかたちに薄枯れ
冬川の湾曲したり速き流れよ
編集のパソコン画面の師走の白さ
年逝くに鉛筆の確かさを握る

花冠1月号掲載作品

2009-12-20 16:44:22 | 花冠掲載の俳句

花野の上を
高橋信之

暮れ際のみな美しき十三夜
水色の鉛筆握る十三夜
軒低き家並みの上の後の月
秋の日の大地の白し踏み歩く
野菜畑ひろびろ秋蝶のよろこびに
街へ街へと高圧線が花野の上を
一斉にほうれん草の芽がみどり
 横浜・日吉本町
角曲れば天高き一筋の街
冬に入る夕べきらきら葉の雨滴
立冬の乾きて白き大都会

花冠12月号作品10句/2009年

2009-10-15 10:51:42 | 花冠掲載の俳句
吾もその中に
高橋信之

白萩の遠くの空の青を恋う
秋雲の形を変えること速し
枯れ進む時の流れの真っ只中に
十月の空暗ければ川暗し
吾もその中に秋の大地の静かなる
鳥啼いて落葉降り来て足りている
幹あらわに太し秋天に立つ
山水の流れの澄んで沿い歩く
こころよく澄んで池へと水流る
残る虫谷深ければ深く鳴く

花冠7月号掲載の作品と後記

2009-04-07 15:11:39 | 花冠掲載の俳句
はるかな空よ
       高橋信之

 横浜四季の森公園七句
藤房のふくらみを入れ空の青
藤房を垂らして昼餉の刻となる
はるかな空よ藤房のうす紫に
空があり水があり黄菖蒲の黄に
新緑の中へ木道まっすぐに
たんぽぽの絮球形に発つを待つ
草若葉と静かな刻をともに居る
 城ヶ島二句
黒揚羽を真昼の磯に見失う
青芒立つその向こうの空と海
 横浜動物園ズーラシア
アカシアの甘き匂いの流れに会う



★今月号は、古田敬二さんの特集としました。
敬二さんは、ネット上の俳句掲示板を開設し
て間も無くの平成十年一月に私達の俳句仲間
となっていただき、ネットからの入会者では、
最古参の同人です。日本で生まれた俳句とア
メリカで生まれたパソコンやネットは、お互
いに相容れないところがあって、パソコンや
ネットでの俳句は、長続きはしないであろう
し、パソコンやネットでの俳句は、育たない
であろうと思っていましたが、予想に反して
の成果が挙がりました。その例が敬二さんの
俳句です。日常の精進を忘れなければ、この
世に不可能といったことは、殆ど無いものだ
と思い、嬉しくなってきます。敬二さんの俳
句をお楽しみください。
★雑誌編集やネット制作管理を一人でするよ
うになって何かと負担が軽くなり、空いた時
間を遠出の吟行に正子先生と二人で出かけま
す。近くの日吉駅からは、三浦半島の三崎口
へ、一駅の乗り換えで一時間二十分です。白
秋歌碑のある城ヶ島までは、二時間ほどです。
城ヶ島では、美味しいひじきと天草を買って
帰りました。横浜は、首都圏といっても里山
が残され、そこへは地下鉄などがあり、俳句
吟行を楽しむことが出来ます。都心へは、乗
り換え無しの地下鉄が何本かあり、東京駅へ
は、片道五十分ほどなので、便利です。誌友
の皆さまも戸外での嘱目吟をお楽しみくださ
い。              (信之)

花冠6月号掲載の作品と後記

2009-04-06 15:15:39 | 花冠掲載の俳句
桜しべ降る
          高橋信之

花咲いて子ら喜びの歓声挙ぐ
軽くあり重くありさくら風に揺れ
 愛代句集『花の昼』出版記念会
花の昼大きな空がわが頭上
 回想
花らんまんの中より吾子の旅立てり
高きより降るもの多し桜しべ降る
花あしび花垂れて日を透かせいる
柿若葉きらきら白きみどりを弾き
子を抱きてつつじの咲ける坂上る
青空透かし欅若葉の拡がれり
この山に風吹き抜けて竹の秋


後記

★今日は四月十八日で、花冠の編集を終え、
後記を書いていますが、この頃には、花冠の
原稿を印刷所に送ることにしています。花冠
は、水煙を引き継ぎましたので、水煙三百号
と花冠六号をあわせると随分沢山の仕事をし
たことになります。句誌編集は、飽きること
の無い仕事で、私の好きな仕事の一つです。
蜜柑の花咲く初夏となれば、松山での編集を
懐かしく思い出します。少し開けた書斎の窓
から流れ来る花蜜柑の香に疲れを忘れます。
★今月の秀句は、巻頭の陽炎抄十句ですが、
これらの句の選について、正子先生が「選後
に」の文中で書かれていることに「私の場合
は、実際の句に触れて、常に、あたらしい発
見や価値が流動的に加わってきます。」とい
う文があります。虚子は「選は創作」と言い
ましたが、俳句や詩は、作者の手を離れ、読
者の手に渡れば、あたらしい命が吹き込まれ、
作品は、独自な道を歩んで成長します。自分
が生み、育てた子ども達の成長と同じで、作
者の手を離れた作品は、世の人々に受け入れ
られ、その人達によって大きく育てられるの
です。嬉しいことです。
★「一句鑑賞」は、月刊俳句界四月号の「花
冠広告」の中にある七句についての鑑賞で、
ネット句会での毎日の精進の結果が出ていま
す。それぞれの持ち味があって、短いが、と
ても充実したものです。毎号の連載となりま
すので、楽しみにしてください。
★川名ますみさんの「書評のページ」も毎号
の連載です。ますみさんは、長い病床生活を
続けられていますが、力のある俳句、力のあ
る文を書かれます。読み応えがあるのは、書
き手の内面の力によるもので、こちらが励ま
されます。良質の文学は、読み手に励ましを
与えてくれます。
★私の「句集の序」を載せていただきました
が、序文執筆のことをその末尾に書きました
ので、お読みいただければ、幸いです。句集
序文も四十冊の多くを数えることになり、一
区切りと致します。私の文学にとってのいい
勉強となりました。
★今月も「こどもの俳句」を掲載しています
が、六月六日(土)に全国こども俳句協会の
総会を横浜の神奈川近代文学館で開催いたし
ます。花冠同人の多くのご参加をお待ちして
います。こども俳句は、大人の私達にとって
のいい勉強になります。芭蕉の「俳諧は三尺
の童にさせよ」が思い起こされます。
★散策のいい季節になりました。戸外での嘱
目が楽しみです。月々の「花冠作品」や日々
のネット句会へのご投句をお待ちしています。
ご健吟を。           (信之)

花冠5月号掲載10句

2009-04-05 14:20:36 | 花冠掲載の俳句
たらの芽
          高橋信之

立春の雲の動きを暁に
立春という一日の過ぎ去れり
浅春の空のしずかな拡がりよ
今年またたらの芽を見るこの山に
桜花芽散りばめ天のあおあおと
競い合って桜花芽の空へ空へ
どの枝も芽をつけていて空を指す
欅大樹の堅き芽の散らばって空に
芽吹くのがもうすぐ先で樹に勢い
花ミモザゆさゆさ揺れて車庫覆う

花冠4月号掲載10句

2009-04-04 14:18:52 | 花冠掲載の俳句
梅咲くに
          高橋信之

 
冬木の濃き影を踏むその確かさを
束ねられ水仙強き香を放つ
寒禽を鳴かせて山の樹々しんと
椿の葉のてらてら今日の晴れの丘
枯木を透かし見る富士の峯白し
 横浜・日吉本町三丁目
梅咲くに程よき風の吾にも吹く
 横浜・大倉山梅林
梅咲いて生きものの棲む池明るし
梅林の水の動きを見て飽かず
梅散って一枚ずつが地に平ら
白梅の散って日の中風の中

花冠3月号掲載10句

2009-02-08 17:39:28 | 花冠掲載の俳句
池の喜びに

鴨が来て鵜が来て池の喜びに
冬至近し太陽が低きを回り
鎌倉の冬の鳶に狙われし
枯葉踏む枯葉の道に安らぐ日
竹林の底に冬天の底に居る
竹林を出て春浅き泉の音
鎌倉にはやばや椿咲き居るを
活けられて椿の花も葉もいきいき
丸があり四角あり餅の親しさよ
正月の嬉しさと緊張を吾も

花冠2月号掲載10句

2009-01-15 14:26:15 | 花冠掲載の俳句
椿咲く日よ
          高橋信之

紙飛行機と小鳥が飛んで秋高し
 横浜市中央図書館
風吹き過ぎそれから降ってくる黄葉
 横浜徳生公園
水鳥の池にひろびろ天の青
冬天の輝きがわが歩く頭上に
 鎌倉・報国寺三句
黄葉降る地に着くまでをきらきらと
犇きて竹生え冬天のゆらぎ
竹林の底に冬天の底に居る
水仙の花咲くまでを葉のあおあお
椿咲く日よ過去ありありと
活けられて椿の花のところ得し

花冠創刊号掲載10句

2008-12-15 14:24:18 | 花冠掲載の俳句
この秋に
          高橋信之

 日吉本町
暁けてゆく時の速さと鰯雲
立葵白をいくつもほがらかに
芋の葉の大きな揺れのいく枚も
昇りゆく位置の確かさ盆の月
銃持ちし少年の日の八月よ
 水煙三百号記念大会
秋朝日昇らせ今日のお祝いに
横浜に心弾むも空澄む日
 鶴見川
日の匂いして土手の草枯れはじむ
 東京丸の内・出光美術館
この秋に光り合う磁器外つ国より
 皇居の濠
磁器見し眼に外はからりと秋晴れに