長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

宮部みゆき著【おまえさん上・下】

2017-05-26 08:29:42 | 本と雑誌

まず初めに、宮部氏の小説は昨今、実に話が長くなっているのが顕著に表れている。
私のような速読のできない者としては、こつこつじっくりと読むため、読了に非常に時間を要する。
この「おまえさん」にしても上下とも五百頁を超え、計千頁を超えるので、まる二週間読了に時間を費やした(ずっと本を読んでいるわけではないが)。
この作品は、「ぼんくら」「日暮し」に続く、”ぼんくら”同心・井筒平四郎のシリーズ第3弾である。
三日前の朝まだき、転がっていた亡骸から染み出した血と脂が、未だ消えずに残っている。
消しても消しても消えないでいたのである。
それをお徳が手下のおさんとおもとを引き連れ、消しにかかる場面から始まる。
さてそれはさておき、痒み止め薬「王疹膏」を売り出し中の瓶屋の主人、新兵衛が斬り殺された。
本所深川の”ぼんくら”同心・井筒平四郎は、将来を期待される同心・間島信之輔(残念ながら醜男)と調べに乗り出す。
その斬り口は、お徳らが人像を消そうとしていた、身元不明の亡骸と同じだった。
それを見抜いたのは、信之輔の大叔父にあたる本宮源右衛門であった。
源右衛門は「遺恨じゃな」と断言した。
両者をつなぐ、隠され続けた二十年前の罪。さらなる亡骸…。
瓶屋に遺された美しすぎる母娘は事件の鍵を握るのか。
二十年前から続く因縁は、思わぬかたちで今に繋がり、人を誤らせていく。
男は男の嘘をつき、女は女の道をゆく。
こんがらがった人間関係を”ぼんくら”同心・井筒平四郎の甥っ子、美少年の弓之助は解き明かせるのか。
真犯人が判明した後、さらに深く切ない謎が待つ。
男は男で、女は女で、それでも男女で生きていく。
事件の真相が語られた後に「残り柿」「転び神」「磯の鮑」「犬おどし」の四つの短編で明かされる、さらに深く切ない男女の真実。
断ち切らない因縁が、さらなる悲劇を呼び寄せる。
謎解きは終わっても、恋心は終わらない。
愉快な仲間たちを存分に使い、前代未聞の構成で著者は挑む。
出会えてよかった?知らなきゃよかった?
何が正しいかとか、何が正しくないかは、誰も語れない…。