チハルだより

絵本・童話作家 北川チハル WEBSITE

お二人様

2010-08-07 | エッセイ


 東京の出版社、あかね書房の編集さんから、私のサイトにメールが届いたのは、昨年二月半ばのことでした。幼年童話のご依頼です。とても嬉しかったのに…不安も拭えませんでした。
 私は絵本のテキストや幼年童話の原稿を書く仕事がとてもとても大好きです。お声がかかれば、中学年以上対象の短編なども書いています。この中で、自分自身、どんなものが書けるのか、一番予測できないのが幼年童話。「こういうものを書きたいナ」と思っても、「どういうものが、できるのか」は、書いてみないと分かりません。いつもラストが見えないままに書きだします。このさきに、どんなラストが待っているのカナ?と、ワクワクしながら書いて、書いて、「あれれ、まいごになっちゃった!」を繰り返しているのです。
 こんなとき、ふしぎな気持ちを味わいます。(もうダメ完成しない)(この原稿とまだまだ向き合える)…困却と歓喜のお二人様が心の中で二人三脚するような…。
 この感じ、大好きな本を手にしたときと似ています。先を読みたい。でも、読むと終わっちゃうから読みたくない…好きすぎて読了できない本が何年も、私の机の上でうたた寝ばかりしています。
 本当に好きなことは終わりにしたくないの、というこのワガママ病、年々ひどくなるのでしょうか、最近は、書きたいものを自ら書き出すことさえノンビリになってきて…〆切を守っているのがふしぎです。いえ、幼年童話に関しては、各社の担当編集さんお揃いで、病を見抜いておられるのかも…。〆切はいつもあいまいで、「できれば来年までに」「書けたらいつでも送ってね」なんてありがたいお言葉に助けられているのでした。
 こんな私にメールをくださった編集さんのご期待に応えられるものかしらと思いつつ、数週間後、高槻のカフェでお会いしました。
 私は持病をうまく説明できなくて、でもふしぎなことに、編集さんはやっぱり〆切をおっしゃらず…。私はすっかりホッとして、口も軽くなったのでした。
「私ね、こういうの書きたいナって思ってて、ずっと書いていないのが三本あるんですけど……編集さんだったら、どれを一番お読みになりたいですか?」
 そうして、編集さんがお答えになったものを書きあげたのが、この春に出版された『おねえちゃんってふしぎだな』(竹中マユミ絵)。憧れのお姉ちゃんのすごいところやふしぎなところを見つけちゃう妹のおはなしです。
 これを書きあげるまでに、私は何度もまいごになって、そのたびに、あの例の、お二人様がやってきて…このうえなく楽しい時間をすごさせてもらったのでした。持病…バンザイ?


■京都新聞 2010年7月27日 丹波版 口丹随想


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