東京でカラヴァッジョ 日記

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「ボテロ展 ふくよかな魔法」(Bunkamuraザ・ミュージアム)

2022年05月05日 | 展覧会(現代美術)
ボテロ展 ふくよかな魔法
2022年4月29日〜7月3日
Bunkamuraザ・ミュージアム
 
 南米コロンビア出身の現役の美術家、フェルディナンド・ボテロ(1932〜)の個展。
 
 日本国内では26年ぶりの開催だという。
 確認すると、1996年のことで、東京では、今は無き新宿の三越美術館での開催であった。
 初めて私がボテロ作品を見たのもその三越美術館の個展。
 
 次が、私の現時点での最後の海外旅行先で遭遇した野外彫刻展。
 15年ほど前、イタリア・ミラノの王宮付近に並んでいた巨大な彫刻群。
 
 以上の2回の鑑賞で、どんな作品を見たかは記憶にないが、老若男女すべての人物、すべての動物のみならず、すべての静物も、ふくよか、豊満で、ユーモラスで楽しい、との印象が残っている。
 
 今回は3回目となる久々のボテロ鑑賞。
 今年90歳となる作家本人の監修のもと、初期から近年まで、油彩を主に水彩・素描など70点が出品される本展。
 
 実物は、その大きな画面も相まって、画像で見る以上に、ユーモラスで楽しい。
 
 加えて、出品作の多くが26年前の個展以降に制作されていることもあるのだろうか、ユーモラスで楽しいだけではない、ボテロ作品の別の面も認識する。
 
 
【本展の構成】
1章   初期作品
2章   静物
3章   信仰の世界
4-1章 ラテンアメリカの世界
4-2章 ドローイングと水彩
5章   サーカス
6章   変容する名画
 
 
1章 初期作品
 
 1949年制作の1点と1959-61年制作の3点。
 後者3点の人物像は、既にふくよかで豊満。
 この作風で何を表現するのか、どこまでできるのか、探究しているような感が強い。
 
 会場内解説によると、1961年に、ニューヨーク近代美術館が1959年制作の一枚の絵を購入したおかげで、ボテロは商業的成功を収めることとなったという。
 
 その作品《12歳のモナ・リザ》(本展非出品) は、1963年にメトロポリタン美術館でレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》が展覧されたとき、(同じ美術館ではないが)ニューヨーク近代美術館のエントランス・ホールに展示されたことで、一夜にして、ボテロの名前がニューヨーク中に知れ渡ったとのこと。学芸員渾身の一発だったのだろうか。
 
〈参考:本展非出品〉
ボテロ《12歳のモナ・リザ》
1959年、ニューヨーク近代美術館
 
 
 
2章 静物
 
 1970〜2008年制作の、丸々とした静物画10点。
 いずれの作品も、ユーモラスで楽しい。
 
 最初に展示の《パイナップル》は、よくあるテーブル上の果物をメインとする静物画で、ハエたちが飛んでいて、フォークまで丸々としていて、楽しい。
 最後に展示の《洋梨》は、大きな画面いっぱいに丸々とした洋梨1個が存在感を示すが、中から虫がひょうきんな表情を覗かせている。
 この2点が本章でのお気に入りだが、2点とも1970年代の制作と、どうやらその時代の作品が私の好みらしい。
 
 
 
3章 信仰の世界
 
 1992〜2015年制作の、丸々としたキリスト、丸々とした聖母マリア、丸々とした聖女たち、丸々とした天使、そして丸々とした高位聖職者たち9点。
 いずれの丸々さも、ユーモラス・楽しいではなく、皮肉の色に染められている感。
 どうやら作家は、キリスト教会組織に好意を持っていないようだ。
 
 
 
4-1章 ラテンアメリカの世界
 
 1987〜2016年制作の、丸々としたラテンアメリカの人々17点。
 庶民の生活のちょっとした楽しみ、生活の労苦、人生の悲劇などが描かれ、ユーモラス・楽しいというよりも、ちょっと哀しい。
 《寡婦》は、台所で小さな子供たちに囲まれながら涙をこぼす女性、母子とも丸々とした像だが、苦しい生活を連想させられる。
 《バルコニーから落ちる女性》は、なにかヤバいことに関わってしまったのだろう、始末され、ただいま落下中、ということのようだ。
 《泣く女》は、小さい画面だが、これを他展示作品と同様の大画面にしたら、その泣き顔を直視できないかもしれない。
 私的に悩ましい作品が、丸々とした《大統領》《大統領と閣僚たち》で、通常だと政治家に対する皮肉だろうと想像するも、3章の作品ほど強く感じない。というかニュートラルな感もする。
 
 
 
4-2章 ドローイングと水彩
 
 2019年制作の、丸々とした人物を描くドローイング9点。
 庶民の生活のちょっとした楽しみを表す。
 
 
 
5章 サーカス
 
 2006〜08年制作の、丸々としたサーカス団員や動物を描いた8点。
 《サーカスの女と子ども》は、丸々とした後ろ姿の女性と、その肩越しにこちらのほうに顔を覗かせる子ども、生活の労苦を感じさせられる。
 
 
 
6章 変容する名画
 
 1984〜2020年制作の、西洋美術史上の巨匠たちの作品に描かれた人物たちを丸々とした姿に変容させた作品13点。
 画家の狙いはどこにあるかはともかく、素直に楽しい。
 
 最初のコーナーに5点。
 ベラスケスの丸々とした美少女マルガリータ王女と、「ラス・メニーナス」の宮廷道化師マリア・バルボラの2点。
 クラーナハのホロフェルネスの頭部を持つ丸々としたユディト。
 ゴヤの丸々とした貴族の婦人像。
 ヴィジェ・ルブランの丸々としたマリー・アントワネット。
 特にゴヤとルブラン作品は、若く美しい女性像を描いているはずなのに、いずれも丸々とした姿にするのみならず、年齢を重ねさせ、猜疑心が浮かぶ表情に変容させており、オリジナルのモデルを実物どおりに描いていたらこうだったかもと思わせる。
 
 次かつ最後のコーナーの8点は、撮影可能なので、別記事で画像とともに記すこととする。


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