おもひで。

30年前のオートキャンプブームの時。

隣りのサイトの老夫婦が渋かったなぁ。

レオーネのセダン（決してツーリングワゴンではなく）を横付けして見るからに年季の入った小川のテントを流れるような速さで設営し、木製のロッキングチェアを二脚だしたら、使い込まれたカセットコンロでコーヒーを沸かし、あとはもう何もせず婆さんと穏やかに談笑しつつのんびりとパイプを燻らせる。　あらゆる道具が素晴らしく旧式で使い込まれていて、無駄なものは何もない。ウットリ見惚れるほどの老練のキャンパーだった。

翌朝目が覚めたらもうサイトは跡形も無かった。　そのもうひとつ隣りの男女4人組は朝から唸りを上げるコールマンの2バーナーで新品のダッチオーブンをひっくり返して大騒ぎ。　

あの頃から憑物が落ちたようにキャンプをしなくなったな。

じーっと見惚れていたら目があってしまい、無意識に会釈をしたら、穏やかな微笑を浮かべてゆっくりと頭を下げる。

振り返ってあらゆる道具が無造作に溢れる我がサイトを恥じる。

その頃を境にキャンプから離れて行ったように思う。