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清志郎の手紙

2013-05-05 10:48:00 | ノンジャンル
「選挙特集『忌野清志郎から湯川れい子さんへの手紙』」 
2012年12月16日(日) No.536

http://blog.goo.ne.jp/bluehearts_10_11/e/bff293cc0cca2f43c1022d9ed38205aa

文庫版あとがき

2006年7月にね喉の不調を感じ新宿の大きな病院に行くと、
喉頭ガン診断された。
手術をしガンを摘出、声は失われると宣告された。
セーテンのヘキレキというやつであった。
ずいぶん大きく出たもんだなと思った。
ガンと言えば死の病、重病ではないか。俺は死ぬのかもしれない。
そうでなくても、もう歌えないんだと思った。
喉の調子が悪いだけで、身体も気持ちもたいしてヘタってない、
こんなに元気なのに、ガンという病気はなんという恐ろしい病気かと思った。

がんセンターという病院に廻され、手術を望まないのであれば他の
治療法もあるいうことで、なかなかヘビーな治療の計画が立てられたのである。
どうやら半年は入院生活、抗がん剤に放射線治療、その後リハビリが
半年から一年、胃に穴を開け流動食、唾液腺は消滅し再生は不可能
(唾液が出ないという事は1曲か2曲しか歌えない、)
(2、3時間のステージなどとても無理だという事だ)
などなど、現代医学はひとのからだを機械のようにとらえている。
計画どおりに治療をしないと、やがてガンは全身に転移し手の施しようが
なくなり、年明けには死んでしまうというのだ。

俺はその真面目そうな若い医者の話を聞きながら、どうやってトンズラ
しようかと考えていた。ある程度治ったら逃げ出してやろうと思った。
このまま医者のいう事を聞いていたら本当の病人にされてしまう気がしたのだ。
もちろん本当の病人だったのかもしれないが、自分では自分が病人だという
自覚はもてなかった。

俺は逃げ出してやる、こんな所に1年半もいてたまるもんか、俺は病気から
逃げ出してやる。
現代医学の治療法から、医学の常識からトンズラしてやる。
冗談じゃねえ、俺を誰だと思ってやがるんだ。
俺を捕まえられる奴なんか何処にも居ない。と強くそう思った。

そうして2週間ほどの入院生活が続き、医者の説得をかわし、代替医療
(民間療法)へと治療法を変えたのだ。現代医学におさらばだ。
いろいろな民間療法の先生に俺は「ガンではない」と言われた。
現代医学では、わからない病気は何でもガンにされてしまうのだそうだ。
とてもいい気分だった。心がかるくなった。思っていた通りじゃないか。
俺がガンだったら本当のガンの人に失礼だと思っていたんだ。

この話を信じる人も信じない人もいるだろう。
しかしガンが全身に転移してガリガリに痩せて痛みの中で死んでいくと
医者に言われた俺が、こうして鼻歌まじりで「瀕死の双六問屋」の文庫化
に向けて2回目のあとがきを書いているという事実。
友人のライブに飛び入りし、何曲も歌っているという事実。
自転車で走り回ってるという事実。
死んでいないと言う事実。

「瀕死の双六問屋」の物語は俺が唯一(絵本以外で)というくらい、
まじめに(ゴーストライターやインタビュー起こしではなく)自分で書いたものだ。
たいして話題にはならなかったが、とても気に入ってる1冊である。
文庫本として復活するとはゴキゲンなことだ。
俺の再生、完全復活の先駆けのようで、幸先のよい出来事だと思う。

たくさんの、勇気を与えてくれた皆さんに感謝します。

                   
                    忌野清志郎 2007年7月