国際税務研究ブログ

こんにちわ、TOKYO在住の税理士、木村俊治と申します。国際税務のことについてアレコレ書いています。木村国際税務研究所も

契約と源泉徴収・ストック・オプション

2007-12-08 16:39:49 | 国際税務問題

第5章 契約と源泉徴収

§1 契約と源泉徴収

 契約と源泉徴収 

契約とは、源泉徴収の対象となる取引について、具体的に所得給付の発生原因並びにその対価の支払効果を規定するものであり、本稿の問題意識もそこにある。

  契約を律する私法は国によって異なる。その国の租税の立法政策もそれぞれ異なる。しかし、必ずしも、その契約が成立した国に課税権があるのではない。契約自治の原則から契約当事者は自由に、モノ、金銭(投資)、役務(サービス)、情報等の給付を行い、金銭、役務、情報等により債務弁済(交換、相殺を含む)するので相手方に所得が発生するのであるが、その給付地、支払地は自由に設定できる。しかし、立法者としては、勝手に源泉地を変更することは許されないから公法(強行法規)として、源泉地を定め、支払地を特定する。

 譲渡契約と源泉徴収

 一般に譲渡というときは、対価を伴う有償譲渡と対価を伴わない無償譲渡に分かれる。前者は売買、交換、終身定期金の契約を含み、後者は贈与契約の法理に従う。

「譲渡」とは、権利・財産・法律上の地位(所有権者)をそのまま(真正)、甲から乙に移転する財産権移転契約である。

このほか、担保目的のため、権利・債権を移転するものを譲渡担保契約という。源泉徴収すべき対価の支払者が、もともとは居住者からの借入れであるものを、その居住者が外国法人等にその債権を譲渡担保することにより、その債権が譲渡され、非居住者から金銭を借受けることになったものか否かについて争いがある。

 税法上の譲渡所得の対象となる「譲渡」に借地権の設定契約を含めることにも争いがある《源泉徴収すべき非居住者への土地の譲渡対価となるか否か》。

 相殺と源泉徴収

同質の互いに対する債権を相殺しようとする契約(民505512

 両者にとって相互に債権の減少、債務の減少効果があるから源泉徴収すべき対価の 支払に当たる。

  交換契約と源泉徴収

  一般に財貨と財貨を交換することをいうが金銭の交換(両替、商法)は含まない。債務と債務の交換(いわゆるデット・スワップ)も交換であるが金銭の交換は含まない。民法では物々交換を売買の一種類(不動産の交換などを売買の一種類として捉える。)と想定しており、現在では、その取引に関する特別法や国際慣習法が適用されるので、民法(民586)の重要性は薄れているといえよう。

 貿易によるバーター取引はその典型である。宇宙通信関係情報の相互無償使用契約(いわゆるクロス・ライセンス契約)は、当事者無償認識の観点から、対価の支払にあたらないのではないかとの論争がある。

 値引・割引と源泉徴収

相殺に似て異なるものに値引、割引等がある。

  値引は会計的には売上代金の修正であり、割引は売掛金未収金等の債権額が確定した後、債権者の片務的意思により債権を減額する行為である。

値引額は債権の減額とはみていないのに対し、割引は債権を相殺する前の割引部分の債権が存在している。そこに源泉課税の余地が生じる。相殺前の債権の消滅原因が相殺適上にある債務の減少によるから、その債務の減ずる行為が支払にあたるとするもの。ところが、相殺前の債権が存在していたかどうかの事実認定は厄介である。例えば、支払うべき技術のロイヤルティ の額が一旦、確定したが、その後、その技術になんらかの欠陥があって、損害賠償交渉があり、結果的にロイヤルティの減額(ロイヤルティ率の引き下げ)があったとしよう。この減額は支払うべきロイヤルティ と損害賠償債権との相殺か、ロイヤルティの値引き(評価替え)か。当初のロイヤルティ 算定根拠が明らかでないときは立証が難しい損害賠償額が明示的でない場合は対象技術の瑕疵によるロイヤルティの修正(すなわち値引き)と判断する余地が残る。

 損害賠償すべき事実が当事者において明らかでなく、ロイヤルティ 料率が引下げられた場合は損害賠償金額との相殺を税務当局が主張するのは困難である源泉徴収制度は移転価格的な価格比較による適正な時価の算定手法を適用できないから価格改定(値引き)か他の原因による相殺かは事実認定によることになり、結論としては改定契約書の文面に拘束される。

 契約金額減額に伴う源泉所得税の還付

  A内国法人はB米国法人から製造過程に使用する特許の専用実施権を得て当該技術を使用した製品の製造価格の6%をラニング・ロイヤルティとし、契約頭金(イニシャル・ペイメント)として200万ドルを支払うこととした。

2年後、その製品をB社が米国で販売したところ、消費者から欠陥商品として製造物責任問題が起り、A社にも飛び火する懸念がでてきたため、A社とB社協議の上、イニシャル・ペイメント50万ドルの減額とラニング・ロイヤルティ 料率を6%から3%に下げることでA社から損害賠償を請求しないことで専用実施契約を改定した。

A社は既に200万ドルについて10%の源泉所得税を納付済みから今回の減額分50万ドルについて還付請求が可能か。

 A説(因果関係説) 損害賠償金として入金すべき金額をロイヤルティの減額(イニシャル・ラニング)と相殺していると説。対価の修正ではないので源泉所得税は還付しない。

 B説(過誤納説) 単純に過去におけるイニシャル・ペイメントの修正減額であるとする説。源泉所得税は還付する。

 ネット手取契約と源泉徴収

  国際契約においては、源泉国における諸税に言及することが普通である。しかし、その記述方法というと、実に様々であり、特に源泉所得税の源泉国での徴収は納税義務者(通常、外国法人)の意思に関係なく、支払と同時に自動的に納税義務が成立し、強制的に徴収されることが多い。受益者は「その国の法律によらず支払者の認識だけで勝手に所得税が徴収されないために正当な源泉国税法による源泉徴収はその額を支払者が期日までに政府に納付し、納税した証明を遅滞なく受領者に送付すること」を条件に明確に規定しておくべきであるが、多くの契約は消費税印紙税受領者の事業所得に係る法人税の代理納付地方税関税などは明記されているが源泉所得税については読み取り難いか、全く意識していない契約が多い(源泉徴収税は第一次的には国ではなく、源泉徴収義務者となる契約の相手方が徴収しているのであり、そこに課税判断が誤りがあっても国に対し請求権はない。特に、税目を指定せず「税金」としか記述がない場合の現地税金には源泉徴税は含まれているのかどうか明確でない。私的契約において源泉所得税を支払者が負担するという契約も可能である。ただし、原則としてその文言「源泉所得税の支払者負担」が明記されている場合に限られるようである。源泉所得税を支払者が負担すること契約の支払い方をネット・ペイメント方式(手取り契約)という。

 契約における「税金」の位置づけ

)受取者の受取る金銭は手取りベースで100%であるとする契約(ネット手取契約)

All payments provided for under this Agreement shall be net payments. ” この英文は取引の一方の受取人が、他方の支払者の居住地国の税金・賦課金にとらわれず、純額で100%の支払を受けることを約しているが、正確にすべての「税金」を支払人の負担とする場合は以下ロ)によるべきである。

)すべての税及び賦課金をも支払者が負担する契約

All taxes and any other charges levied against this Agreement or with respect to any and all payments “Made hereunder shall be borne by .“

あるいは所得の受取者がいかなる国の「Tax」・「Charge」をも負担したくない場合はネットであることを強調し、以下ハ)のように契約すべきである。

)いかなる国の税も諸経費をも含めて支払者が負担する契約

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