木村国際税務研究所
□問題の所在
http://www16.ocn.ne.jp/~zeek3333/internetkazei.html
米国のインターネット通販大手「アマゾン・コム」(本社米国シアトル)の関連会社、アマゾン・コム・インターナショナル・セールス社(本社米国シアトル)が、東京国税局(外国法人部門)の税務調査を受け、日本国内の事業をめぐり、2005年(平成17年)12月までの3年間について、140億円前後の追徴課税処分を受けていたことが共同通信の記事(2009/07/05)でわかりました。
アマゾン側は法人所得決定処分を不服として異議申し立てを行い、審理に先立ち、日米租税条約による米国歳入庁と2国間協議を申請したというものです。
1.インターネット・クラウド社会とは(グーグル課税)
情報社会(IT)が社会に及ぼす影響を考えるうえで絶対におさえておかなければならないことがあります。インテル創業者、ゴートン・ムーアが1965年に提唱した「ムーアの法則」です。IT産業は40年たった今もこのムーアの法則に相変わらず支配され続けており、これから先もかなり長い間、支配され続けるだろうということです。(『ウエブ進化論―本当の大変化はこれから始まる』(梅田望夫 ちくま新書 2006)
ムーアの法則とは、「半導体性能が1年半で2倍のスピードで増加することからその値段が劇的に下がっていく」、いわゆるチープ革命を指しています。
第一次インターネットバブルの崩壊の時代(2000年春)には何も変化が行らなかったように見えましたが、情報が氾濫し、玉石混交だったネット社会の中から秀逸な情報をみつける検索技術(WEB検索)、あるいは万人のニーズは万様なので、そのニーズに合った情報をコンピュータの力で提供する技法(ネットサーフィン)なども開発されてきましを
た。
これは本屋の店先に陳列されているものの中から目的物を探すという現実社会から、インターネットの検索を通じて、世界本屋(そこには数百万冊が用意されている)から書籍をダウンロードするという行動に変化していくことを示しています。印刷業、著作業、出版社、流通業、テナント、交通システムそしてコンピュータ産業自身も整理淘汰されていくわけです。
複雑系経済学の研究家、ブライアン・アーサーという人がおります。その人が言うには(1)われわれが想像もしなかった完全に新しい産業が勃興する。(2)IT技術革新は18世紀の産業革命をしのぐ強烈な革新であるということです。
情報ハイフエイ構想が内外で叫ばれています。「ITインフラ」といわれる現象です。ITインフラは光ファイバーの普及で情報の伝達スピードを飛躍的に速くし、だれにでも届くように末端をチープに提供するというものですが、実際にはITインフラばかりが拡大したのではなく、「Iインフラ」が飛躍的に拡大しているのです。Iインフラとは情報そのものの生産、加工、抽出を行う「情報発電所」の建設です。その情報発電所は今までは、私たちのパソコン上にも存在し、細々と発電していたのですが、今ではITインフラの向こう側、クラウドの世界に存在するようになったのです。それがクラウド社会と称するものです。
具体的に見てみましょう。
世界的IT企業といわれるグーグル社は実はIT企業ではなく、I企業だったのです。グーグル社は先進コンピュータソフトウエアメーカー(たとえばマイクロソフト社)や世界規模情報小売業(たとえばアマゾンン、楽天)などのビジネスモデルを展開するIT企業を超えて、情報そのものを生産・加工・抽出する技術を開発していきます。シリコンバレーにある巨大な施設で数万台の小型コンピュータを使い、情報の超集中、超分散を繰り返しているのです。
2.Amazon課税
Amazon.com創設者・CEO ジェフ・ベゾス
1995年、アメリカ・シアトルで現CEO のジェフ・ベゾスがAmazonを設立し、当時黎明期にあったインターネットでの物品販売をいち早く開始しました。現在ではアメリカのほか、カナダ、イギリス、日本、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、中国の9ヵ国に開設しています。全世界での売り上げは、合計481億ドル(2011年)を超え、インターネット通販のグローバルカンパニーとして多くのお客様に支持されています。Amazon では「Day One」という言葉がよく使われます。そこには毎日が常に新しい1日であるという意識を持ち、新しいことに挑戦していこうという精神が込められています。Amazon は、これからも世界中の皆様にご利用いただけるよう、常に「Day One」の精神で新しいことにチャレンジしていきます。
アメリカ、カナダ、イギリス、日本、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、中国、インド、ブラジルの世界11ヵ国に展開中です。
日本では、Amazon.co.jpは現在、東京、札幌カスタマーセンター、仙台カスタマーセンターのほか、市川、八千代、川越、常滑、堺、大東などのFC(フルフィルメントセンターの略、倉庫および配送センター機能)を拠点にビジネスを展開しています。 (2013年2月1日現在)
PE課税―国際インターネット事業者の場合
世界の本屋、アマゾンンは米国法人です。いわゆるITビジネスモデルは米国で開発しました。「地球上で一番早く、クライアントに本を届ける」がモットーです。日本へは書籍を流通させる倉庫(デイストリ ビューション・センター)を作り、日本法人の配送業者に運営させます。書籍を内外の本屋から仕入(輸入)れて消費者に売却し、手数料を取る現地問屋(これは本屋さんでも卸売業でもありません)も作りました。メンテナンス・返品・クレーム処理などに対応する日本法人に委託します。
そして、肝心のアマゾンの日本支店みたいな拠点はこの国に置かないことにします。電子社会では、ヒト・モノ・カネを投資国に投入しなくても、消費者と本を売る者との契約は通信(インターネット・サーバー)を経由して商売ができるからです。むろん、情報収集や宣伝広告、系列社員訓練などは日本で行われますが、それらは「補助的業務」とみられ、日本で所得が発生する事業行為ではありません。物流倉庫にしてもアマゾンの本店のため、本の品ぞろいをすることは本店事業を補完する「内部取引」とみられ、内部取引から「国内源泉所得」は発生しません。
こういう風にビジネスモデルを構築する結果、日本ではアマゾンの尻尾(日本で儲かった利益)が見えないステルス(Stealth)なPE「恒久的施設ゼロ作戦」構想が完成しました。
□アマゾンの世界展開―機能集中と機能分散
アマゾン・コム社の2008年度の年次報告書などによると、課税された関連会社は「アマゾンドットコム・インターナショナル・セールス」(本社・米シアトル・外国法人)で、同社は販売問屋業務を「アマゾン・ジャパン」(日本法人・東京都渋谷区)に、物流業務を「アマゾンジャパン・ロジスティク」(日本法人(千葉県市川市)に委託し、それぞれ手数料を払っていますが、顧客(消費者)との販売契約や商品仕入契約はセールス社と直接行なっており、日本では支店等(PE)をおいて営業活動をしていないとされています。
3.IT・クラウド社会の国際課税の在り方
(1)電子商取引の発展と税制とのかかわり
テキスト ボックス: 経済取引への影響テキスト ボックス: 税の側面テキスト ボックス: 流れ
出所:『電子取引と国際税制』(国際課税京都フォーラム世話人会代表 金子宏・立命館大学社会システム研究所所長・中村雅秀編・清文社 2002)資料4.「電子商取引:課税の基本的枠組」(平成10年10月OECD租税委員会報告書)24p.
インターネット社会、クラウド社会、超クラウド社会と進展していく今日、各国が独自の租税制度・徴収制度・調査執行をしていた時代はおわりました。サイバーな社会の反対側、われわれが住む現実の社会にも変革の波が押し寄せているのです。もっとも、国際課税の場面では、20世紀的発想の国際協調という意味合いのOECDの取り組みがありました。そこでは二国間の租税条約、あるいは多国間の租税協定や徴収共助などのツールを利用して「二重課税の調整」、「自国民の権益保護」、「相互に税の特典の供与」、「相互情報交換」、「特定の徴収共助」、「共同研究」など時局に対応した各改定・創設は行われてはいました。最近では、タックスヘイブン対策、あるいは世界IT企業への課税攻勢として多くの宣言がなされているのは皆さんの知るところです。
ところで国際課税とはなんでしょうか?今までは「国境を超える二国間の取引」のことを指していたのですが、今では「国境および相手国を意識しない超空間での取引」も含まれることになりました。
(a)国際課税の原点―進出企業の利得に法人所税を課税する場合
進出企業の利得に課税する法人所得税法は納税者である「事業体を認識」し、「その事業が国内で行われているか」、あるいは「国内で発生している所得に実質的に関連しているか」によります。
前者(PE+国内源泉所得)は日本はじめOECD各国が採用している「PEなければ課税せず」の元となる考え方です(日本はこれを「総合主義型」といい、OECD諸国はPEに帰属したものだけに課税するので「帰属主義型」といいます)。後者の考え方は、「実質関連原則」といわれPEの有無で判断するのではなく、「国内で儲かっていて、それが国内にあるなんらかの組織体(固定的施設)と名目的でなく実際に(effectively)、結びつける関連性(connectivity)があれば(強行的に所得をその施設に配分して)連邦税を課す」というもので米国でのみ採用されています。→帰属主義型とは区別されています。→日本はこの考え方で課税することはできません。
①事業体の認識
事業体を認識されたくない多国籍企業はそれをクリアすべく「ハイブリッドな事業体」を地球上にばらまくようになりました。
超空間取引では、ITインフラを駆使して地球上の有利な地点(たとえばタックスヘイブン所在のSPC)のサーバー拠点から取引(売買)を発信します。製品(情報)の製造(加工)はアイルランドの現地子会社へ、ノウハウのグループ間提供サービスはバミューダSPCへ、決済・運用などの金融取引はオランダBVへ、アジア流通はシンガポールPLCへというグループ企業の分散が進むサプライチェーン構想・・といった業種が2000年ごろから出現し始めました。そして本来のビジネスモデルを開発したオリジネーターは姿を隠していきます。課税されてはたまりませんから。
②事業の展開場所
「PEなければ課税せず」型の税制の下では、物理的ツール(ヒト・モノ・カネ)を使う事業が進出国内で展開(carry,ずっと保持していく)されていなければなりません。そしてIT産業の中枢、サーバー(記憶装置)の所在地はPEと認定されます。→WEB運用者やポータルサイト、プロバイダーは今のところ、(代理人)PEとはなりません。
国境を越えて事業活動、投資活動を行う場合に相手国にどのような事業体、拠点を置くか、税の節減を考えた場合の「拠点づくり」が租税戦略(タックスプラン)の中心課題でした。
多様な事業体(Diversified Entity)の中からその国で有利(所得に課税されず、あるいは本国送金に課税されない)な法的組織を選び、もっとも効率的な拠点をその国に置く(あるいは置かない)ことが拠点づくりだったのです。
○多様な事業体(DE)の例
日本における拠点(外国→日本)
米国における拠点(日本→米国)
内国法人(外資系・合同会社)
Corporation(会社)、LLC、LPS
外国法人(支店・店舗・代理店・問屋)
branch(支店)、Joint-Venture(共同事業)、連絡事務所、代理店
外国の任意組合に準ずる組織経由
パススルーを選択したパートナーシップ
外国の匿名組合に準ずる組織経由
ペイスルー型投資スキーム
外国の信託投資ファンド経由
信託財団(パススルー証券、ペイスルー証券)
非居住者預金(JOM)経由事業者(金融取引業者など)
IBF(オフショア勘定)経由事業者
連絡事務所(リエゾン・研究所・専用倉庫、補助的業務)
連絡事務所
IT企業のサーバーの所在地
不明
(b)国際課税の原点―消費税を課税する場合
日本の消費税法で云えば、国内において譲渡した製品、貨物、サービスは課税事業者が消費者から受領して国へ払うことが義務付けられ、その一方、国内で仕入れた製品貨物・サービスの消費税を購入先へ支払うものと規定されています。モノ・サービスの輸入については、引取り時内国消費税を払い、輸出では免税となります。また、国外における譲渡・役務の提供は不課税となります。電子的コンテンツをインターネット経由で外国からダウンロードした場合にもサービスを輸入して提供を受けていることになるので引取り時課税が適用される余地はありますが、実際に通関はしておらず、国際郵便局も経由していないため把握できません。→対価が1万円以下の輸入郵便物(サービス)は関税施行令で関税を含め消費税が免除されています。
5.「国境、相手国政府を意識しない超空間での取引」への課税
ところが、物理的拠点を必要としないIT・クラウド社会が出現すると「拠点課税」の基礎が揺るぎ始めます。モノ・サービスの契約・提供・アフターサービスはインターネットを経由して地球上の最も有利な場所でコントロールする、消費者国へは物理的拠点を置かない、BtoC取引(ビジネス2コンシューマー)が可能となったためです。課税される国に物理的拠点を置かない「ゼロPF作戦」が展開されていきます。
超空間取引はどうなっているのでしょうか。実は超空間取引に対する国際課税のルールといったものは法制化されていません。しかし、IT企業が特にアメリカのIT企業がインフラを駆使して好き勝手な場所から商売を始めだすと消費者国の政府がおかしさを感じ始めます。企業ビジネスの利益の根源(源泉)はキャッシュフロー(課税ベース)が流出(浸食)した消費者国にあるという考え方です。OECD参加国は、初めは、おそるおそる「ITサーバーのある場所」に電子プロダクツの利益を課税するといっていたのですがそれでは追いつかなくなり、最近ではフランスのサルコジ元大統領が取引高に着目した販売税構想をぶち上げ、ドイツはキャッシュフローに代替されるプログラムの流量を高速道路を利用する運転手からのゲートインカム(通行税)構想を述べるなどしています。
IT企業側は相手国政府に捕捉されない宇宙空間からステルスPE機を使い、消費者国の超空間の戦場で政府軍と交戦状態にある?といったところでしょうか。
(a)ゼロPE作戦(ステルスPE)
2009年7月、「本社機能の一部(日米租税条約で定める恒久的施設にあたるもの)が日本にある」として東京国税局から140億円前後の追徴課税処分されたことが報じられました。アマゾンン側は「米国に納税している」と主張し日本とアメリカとの2国間協議を申請。アマゾンンジャパンも「課税は不適切」とし、日本での納税義務は無いという立場でした。 2010年9月、日米当局協議の結果、日本の国税庁の主張は退けられ、国税庁は銀行供託金の大部分を解放しました。つまり国税側が負けたのです。
(b) 機能の分散とアウトソーシング
新聞記事を読んでみて、アマゾン・ジャパンの日本語サイトから日本の書籍を注文しても、カードの支払いは外貨(米ドル)で外国法人名にされています。メンテナンスについても一考されています。WEBから指示された電話先(たぶん、国内の電話番号)でオペレーターは出ますが、居場所は特定されません。簡単な会話の後、オペレーターは故障品を、「後日お送りするEメールに記載されている住所へお送りください」とのことです。その送り先は国内のどこかですが「修理センター」となっており、特定の会社名はありません。「私たちは地球上で一番早くサービスを実行します。」の文字。
(c)ゼロPE作戦
PE認定すると、対日本売上から対応する経費を控除することになります。海の向こうの経費(今回の場合は、膨大なシステム構築等の費用のうち、日本対応分)はなかなか認められないので、勢い売上にマージン率(60%)をかけた金額が所得として認定される傾向にあり、その点が、移転価格課税に比べて厳しい課税につながります。
今回の場合、販売事業がインターネット経由ということなので、OECD等の議論に基づけば、国内に注文受け付けのサーバーがあり、それをPEに認定するというのが普通ですが、アマゾンほどの会社が、そんな「へま」をしないと思われます。インターネットによる販売業(電子商、B2B)で、注文を受ける企業の店舗・事業所・ヒトが国内になければ、商品の譲渡契約の相手先(セールス社)のサーバーに到達した瞬間に、サーバーの実在場所の国に課税権が生じると考えられています。→法律により規定されているものではありません。PEの認定のための便法です。→サーバーの所在場所にPEを認定するのであれば、この場合は多分、国外のどこかにあるので課税はできません。
そこで、新聞記事のように、「委託された問屋法人が実質的に支店機能を果たしていた」と認定したようです。
(d)代理人PE
この「実質的に」と云う言葉を課税の根拠(課税要件)にすることはできないので、多分「実質的に」は、現地問屋をセールス社の日本代理人PEに認定したのではないでしょうか。そこで代理人PEとは何を言うのかが大事になります。
現地問屋(内国法人)の株主がアマゾン本社であったとしてもそれはグループ企業の一員であるというだけで、その本人事業の代理をしていることにはなりません。代理人の認定にはルールがあって、とても複雑な構成になっています。
先ず、日本についてですが、「常習代理人」が代理人PEとされ、「独立代理人」はPEとされません。
たとえば、通信衛星事業をやっている国際通信社(外国法人)が、日本の企業からの通信を通信衛星が日本上空を通過している間に受信し、他の外国に転送する商売をしています。国際通信社の日本現地子会社に、通信サービスの受託契約書を作らせ(日本で作成し)、サービス・フィーも日本の銀行で受け取ったとします。その場合でも、『日本現地子会社は、親会社のため、「注文取得」代理業(問屋業は注文取得業といえます)をしているのであって、国際通信社の通信サービスを代行しているわけではありません。すなわち親会社の「業務」を本人に代わって代理営業する日本PEではありません』と突っぱねることは可能です。→問題は「課税すべき企業の利得がなにからできているのか」(国内源泉所得の特定)、「そのPEはその所得の帰属者か」(OECD型租税条約国)、が特定できないために起こります。→米国との間では「実質関連原則」がからみもっと複雑になります。→日本の租税条約優先主義や米国の内国法優先の考え方など。
○「常習代理人」
法人税法施行令186条1項は「常習代理人」の規定を置き、「外国法人のために契約を締結する権限(その日本企業が有し)、かつ、これを常習的に行使(するとき)米国親会社との間に、代理人PEが成立する」としています。そして、法人税基本通達(20-2-6)は「常習性」がある代理人はPEとなり、「常習的でない単発の権限行使」は代理人PEにはならないとしています。常習代理人から除かれる例示としてIATA(国際航空運送協会)の傘下にある互いの航空会社のために互いに相手方のため運送の契約を顧客との間で締結する権限を行使している状況は「常習的に行使していることにならない」としています。→そのほか、総合商社が外国企業のため総代理店を引き受け、特定商品を輸入する場合や不特定多数のため、輸入を代行する問屋業なども「常習的に行使していない」とされます。→したがって、国内では、常習的とは「継続・反復して特定の者のために契約権を行使する場合」をいうものと考えられます。一方、租税条約では、常習代理人に似た「従属代理人」という概念があります。「もっぱら又は主として一つの外国法人のために、常習的に、その事業に関し契約を締結するための「注文の取得、協議その他の行為のうち、重要な部分をする者」を従属代理人とし、代理人PEとするというものです。→この場合、租税条約によっては「従属代理人」(専属代理)の反対側「独立代理人」(商社・問屋)の概念を定義しているものもあります。独立代理人は本人から「経営上の独立」、「経済上の独立」テストを受け、それをクリアした場合に独立代理人とされます。・・・というのが西洋流の考え方です。
○大成損害保険会社事件(米国租税裁判所)
米国租税裁判所「大成損害保険会社事件」:①本人から法律的にも経済上も独立している場合、独立代理人となる。②本人に代わって第三者が代理業務を行う場合に比べて、その代理人の場合は異常性(通常の方法以外の方法)が認められ、「本人性」が強いので従属代理人になる。③形式的に契約締結権限が結ばれており、事実としても本人のための代理権を行使している場合、専属的であり、従属代理人となる。→一応OECDのコメンタリーと同じ判定。→我が国でも租税条約の締結がある国との課税交渉では、この独立代理人(その国でPE課税されない)の意義・実態について争われます。→平成20年度改正で法人税法にとりこまれています。
(e) 棚卸資産の譲渡契約
外国法人課税の上で、事業の所得(一号所得、物品・サービスの譲渡等による所得)が国内源泉所得に該当するためには、「譲渡に係る重要な契約(商談)が国内において事業を行う者(の社員)との間で締結されたか(合意に達したか)」にあります。これは対面型(ヒトとヒト)の契約を前提にしていますが、インターネット上の売買の商談は人を介して成立するのではなく、カタログを見て指定された電話先に買い申し込みをやっているようなものです。ヒトの意思を介する契約の場合は片一方が「ヒト」、もう一方が「機械」ということで成立していますが、どちら側にもヒトがいないケース、例えば株式のプログラム売買、どちらもプログラムが判断して株式の売り買いを行い、売買契約書はバックオフィスに翌日届くなんていうケースでは、売買契約の場所及び意思決定を重視する現状の外国法人課税税制はワークしていません。
株式売却益は、どの国で注文があり、どの国で売却したか、あるいはその国のトレーダー(ディーラー)が仕入れから売り上げまで関与したか、などのファクターで課税する移転価格的課税手法が外国法人日本支店に適用されています。
実務上は、株式の仕入地に資金コストを負わせ、売却地にキャッシュインさせますが、利益の配分は、投資会社の本店がある国で、グローバルブックをつけていて、各国のディーラー人件費の割合とか、資金負担の割合とかで世界拠点に割り振る「グローバル・トレーデング」手法をとっています。→譲渡損益の配分ファクターには様々な理論があって、移転価格課税、外法課税でもめる要素でありますが、大抵、本国に有利にシステムが組まれています。
○サーバーはPEか?
OECDの電子商取引(電子出版)の課税ルールの「PEの認定」については、業者がサーバーにアプロードしたことにより貯蔵され、消費者がインターネット上で「ワンクリック」して購入意思を示し、それがサーバーに達してサーバーから消費者の末端にダウンロードされた時点で契約が終了するという過程(誰も見たものはいませんが)から、サーバーのある場所で課税するという理論構成をとっています。ですから、頭のいいIT企業は、サーバーをタックスヘイブンにおいて、そこで契約が成立したと考えることにしているのです。
○ドメインヘイブン
「.tv」というドメインがあります。ツバルはオセアニアにある国家で、海抜が最高でも5mと低いため、海面が上昇したり地盤沈下がおこったりすれば、国の存在そのものが脅かれることになります。それで「.tv」という魅力的なドメイン(インターネット、サーバーの所在地国を示すアドレス:世界のドメイン:http://www.bio.nagoya-.ac.jp/~SugashimaMBL/harada/1237_toplevel.html)を世界に提供して、資金調達しています。つまり、インターネット・サーバーの避難地、タックスヘイブンだということです。→さすがにアメリカはこのような租税回避を許していないようですが日本ではどうなんでしょうか?→もし楽天が電子商売だけ別にしてツバルに引っ越してしまったら?津波対策もしっかりして・・・。このようにヒト・モノ・カネを物的場所を介さないサイバー空間の事業を今迄のように「PE」の事実認定と「PEなければ課税せず」の原則で課税を律していこうとする法制はそろそろ曲がり角に来ているといえそうです。http://atlas.cdx.jp/nations/oceania/image/ftuvalu.gif(ツバル国旗、ツバルはトップレベルドメインとして割り振られた “.tv” を米国カリフォルニア州のdotTV社に5000万ドルで売却。この売却益を元に、2000年に国連加盟を果たした。)
6. 移転価格課税との関係
資本系列50%以上の国外関連者間(外国親会社vs日本現地法人)の取引で、物流業務や問屋、バックオフィス業務の取り分が独立企業間価格(ALP)に比べ小さいというだけであれば、コミショネア問題(問屋としての業務サービスに対するコミッション料率はいくらが適正なALPであるか)として移転価格課税することになります。しかし、日本PEが存在しなければ国外関連者間取引がみつかりません。仮にセールス社の日本拠点が存在すると仮定すると、セールス社本店とセールス社日本支店の利益配分は、移転価格税制ではなく、外法課税のルールで利益(480)を分配することができます。→しかし、480が全部、セールス社の利益としてIRSに申告されているとは思われません。アマゾン社の世界戦略では想像ですが、バミューダ知財会社、オランダBV、アマゾン・グループの総本山(アマゾン・コム?)にも分散されているのではないでしょうか?
7.外国法人課税の制度(法人税)
法人税法第3編138条以下は外国法人の「法人税の課税標準と税率」、「所得税の源泉徴収の有無」、「確定申告義務」などが書かれています。
(1)内国法人と外国法人の違い
内国法人は内外の法律に基づいて設立した法人で「日本に本店の住所を定めて登記所に登録した」法人。
外国法人は内外の法律に基づいて設立した法人で外国に本店の住所地があり、「日本に支店の住所を定めて登記所に登録した」法人。
(2)外国法人の納税義務
内国法人は無制限納税義務者として「全世界の所得」に対して法人税の納税義務があります(法法4①)が、外国法人は制限納税義務者として、「国内源泉所得」に係る所得のみ法人税の納税義務があります(法法4②)。外国法人の課税概念は図1のとおりです。
図1
(3)恒久的施設
外国法人の日本における活動拠点を「恒久的施設(PE)」といいます。次の三種類に区分され、恒久的施設のない外国法人を四号外国法人といいます。
○ 恒久的施設の区分
一号該当外国法人
「支店PE」
国内に支店、工場その他事業を行う一定の場所で政令[1]で定めるものを有する外国法人
二号該当外国法人
「建設PE」
国内において建設、据付、組み立てその他の作業又はその作業の指揮監督の役務提供(「建設作業等」)を一年を超えて行う外国法人(前号に該当するものを除く。)
三号該当外国法人
「代理PE」
国内に自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で政令[2]で定めるもの(「代理人等」)を置く外国法人(第一号に該当する外国法人を除く。)
四号該当外国法人
「日本にPEなし」
前三号に掲げる外国法人以外の外国法人
(4)国内源泉所得
国内源泉所得は次の所得(対価)をいいます(法法138条各号)。
外国法人に課される法人税の課税標準及び法人の所得税の課税標準となる「国内源泉所得」はその種類により「源泉地決定ルール」や課税方法が異なるため、11の種類(一号から十一号)に分類されています。具体的には「事業所得」や「国内にある資産の所得」あるいは「不動産譲渡」・「不動産貸付」・「利子所得」・「配当所得」・「貸付利子」・「使用料」・「保険金」・「金融商品類似分配」・「賞金」・「匿名組合分配金」などです。各種所得の「ソース・ルール」はそれぞれ異なります。
○ 国内源泉所得
事業所得(一号所得)
国内において行う事業[3]の所得
国内にある資産の所得(一号所得)
国内にある資産の運用、保有[4]若しくは譲渡による所得[5](次号から11号までの所得に該当しないもの)[6]
その他国内に源泉がある所得(法令178所得)
その他その源泉が国内にある所得として政令で定めるもの[7]
人的役務提供事業所得(二号所得)
国内において行う人的役務の提供事業に係る対価[8]
不動産等の貸付対価(三号対価)
国内にある不動産等の貸付の対価
預金・社債等の利子の対価(四号対価)
内国法人の発行する債券利子等に係るもの
株式の配当等の対価(五号対価)
内国法人から受ける配当等に係るもの
貸付金等の利子等の対価(六号対価)
国内において業務を行う者に対する貸付利子で当該業務に係るもの[9]
工業所有権等の使用料等の対価(七号対価)
国内において業務を行う者から受ける工業所有権等に係る使用料等で当該業務に係るもの[10]
広告宣伝のための賞金の対価(八号対価)
国内における事業の広告宣伝等に係る賞金[11]
生命保険等の年金等の対価(九号対価)
国内にある営業所等を通じて契約した生命保険等の年金[12]
金融商品の給付補てん金、利息又は差益の対価(十号対価)
国内にある営業所等を通じて契約した金融類似商品等に係る給付補てん金、利息、又は差益
匿名組合契約等の利益分配の対価(十一号対価)
国内において事業を行う者に対する出資につき匿名組合契約等に基づいて受ける利益の分配[13]
(5)外国法人に係る法人税の課税標準
恒久的施設ごとの課税標準
外国法人に係る法人税の課税標準は「恒久的施設(PE)」の区分ごとに「国内源泉所得」に係る所得(対価)の金額が異なります。
各恒久的施設(PE)の法人税が課税される国内源泉所得の範囲は以下のように規定されています。
○ 恒久的施設と法人税が課される国内源泉所得との関係
一号PE
全ての国内源泉所得に法人税が課税されます。
二号PE
138条一号~三号の国内源泉所得のすべてと同四号~十一号の国内源泉所得のうち、建設PEに帰せられるものに対し法人税が課税されます。
三号PE
138条一号~三号の国内源泉所得のすべてと同四号~十一号の国内源泉所得のうち、代理PEに帰せられるものに対し法人税が課税されます。
PEのない外国法人
次のイ」とロ)に法人税が課されます。
イ)138条一号の国内にある資産の運用・保有、不動産の譲渡所得その他政令で定めるもの
ロ)138条二号~三号
○法人税基本通達の課税表
外国法人に対する法人税及び源泉徴収に係る所得税の課税関係の概要
(6)本支店間内部取引
日本側から外国へ投資、貸し付けなどを行うことをアウトバウンド(日本⇒外国)投資といいます。その反対に、外国から日本へ投資、貸し付けなどを行うことをインバウンド(外国⇒日本)投資といいます。右矢印: アウントバウンド
木村国際税務研究所
右矢印: インバウンド投資
ところが、内国法人(本店)と内国法人(外国支店)との金銭の受送金、サービスの提供などは内部取引(上の図の点線矢印)であるため、「取引」に入りません。このところが重要です。会計科目上は本店送金とか支店送金とか言われ、損益科目は発生しないのです。これには理由があります。法人税の課税所得は一法人の会計単位であらわされ、本支店勘定取引は決算の際、互いに消去されることから来ています。
□無形資産の移転・使用料と移転価格
□所得相応性基準
米国では、1986年に無形資産取引に対する特別ルールである所得相応性基準というユニークな基準を導入し、当該問題に本格的に取り組んでいる。
そこで、本研究では、この所得相応性基準について、まる1法令上の位置づけ、まる2無形資産取引形態別適用方法、まる3判例における取り扱い、まる4実務上の適用状況と課題という観点から分析を行った上で、同基準を日本に導入することの意義について考察することを目的とする。『[1]米国租税法上の無形資産の評価の実情と日本に対する示唆― 所得相応性基準の分析を中心として ―』http://www.nta.go.jp/ntc/kenkyu/ronsou/49/asakawa/hajimeni.htm
8.消費税問題
○フロムロシア・ウイズゴールドフィンガー
ロシアは金(ゴールド)の委託販売を日本の商社(問屋)や流通業者(乙仲・配送・倉庫)に委託し、それぞれ手数料を払っていますが、販売業者(神田の丸丸貴金属)とロシアの契約は商社(問屋)に任せており、商品仕入契約は商社(問屋)とロシアが直接行っており、日本では支店等をおいて営業活動をしていないとされています。→じゃ~、商社はロシアのエージェントってわけにはいかないのか?KGBみたいな・・。そうです。商社が代理人かどうかは結構、議論されており、商社の業態は通常、多数の外国法人のため、日本総代理店などを務めており、それは問屋業である、一の外国法人のため「専属的」「常習的」「従属的」に代理をしていないので代理人PEとはならない・・と結論されています。→つまりロシア(公団)に法人税をかけられない。日本商社に法人税はかけられますが商社は手数料(一兆円×0.25%?=25億円)しか取っていない。ロシアの金の生産コストはたぶん1000円/グラム。それが日本では3000円/グラムで売れるので一兆円の仕入れで三兆円の売上、二兆円はもうかるハズ→これが申告されない!えらいこっちゃ→外国法人部門がんばってよ!→税務署:「でも象の尻尾捕まえて全体ゾウなんてネ、法律変えてくださいヨ、たとえばツウインビー課税とか」「流通、決済金額に薄く、投資額にも薄く・・なんて具合に」
□ IT企業と消費税課税
消費税についての本件の課税関係について考えてみます。通常、有形物の輸入商品は輸入業者である者(アマゾン・ロジステック社)が輸入貨物の引取り時、引取り消費税を支払っています。とこ ろが、電子ブック、音楽、映像、パソコン応用ソフトなどの無形のコンテンツは、貨物(有形物)の輸入という概念がないため、消費税を課税するチャンスを失います。つまり、内国消費税は免税となるのですが、アマゾン社などと競合する国内のコンテンツ販売会社はそれでは勝負になりません。
輸入貨物
輸入貨物
電子情報のダウンロード購入(国内業者)
電子情報のダウンロード購入(外国業者
消費場所
日本国内
日本国内
日本国内
消費税の課税先
通関時、引取業者
販売時、国内業者
無税
□外国企業に消費税を課すことが出来ないのは何故か
日本では、消費税は国内での取引が課税の対象となり、国外で行われる取引は課税の対象ではない。サービス提供企業が国内にあり、かつ、国内にあるデータ配信拠点から、音楽や電子書籍、パソコンのソフトウェアなどを配信しているのであれば国内取引として課税される。しかし、外国企業が、海外にデータ配信拠点を設置してサービスを提供する場合には、国外取引とみなされ課税を行うことが出来ない。
そのため、外国企業は消費税を設定せずに、より安く商品価格を設定することも可能となる。
例えば、1,000円の電子書籍を販売する場合、紀伊国屋書店などの国内の電子書籍ストアでは、消費税込みで1,050円で販売する。しかし、日本のAmazonでは、Kindle版の電子書籍を消費税を抜いて1,000円で販売している。これは、「Amazon.co.jp」というサイトがAmazon.com Int’l Sales, Inc.およびAmazon Services International, Incという海外企業による運用であり、課税対象とはならないためである。
これでは国内企業はたまったものではない。楽天は電子書籍に参入する際に、Koboというカナダの子会社による販売とし、データ配信用のサーバもカナダに置く方法をとった。Googleのインターネット広告も同様に、サービス提供企業と、配信拠点を海外に置いているため、外国企業との取引とみなされる。
□サーバーを国外に持っていけば消費税は課税されないか→No.
10.政府の対策
□グローバル企業への国際的な課税への取り組み
このような状態を打開するため、国際的な枠組み作りが始まっている。経済協力開発機構(OECD)は、電子商取引への課税強化などを明記した行動計画を、7月19日に発表。この行動計画には、インターネット上の電子商取引に限らず、なるべく税金が安い国に拠点を置くことで節税を行なっているグローバル企業の「課税逃れ」を防ぐための内容も盛り込まれた。7月20日に開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも、OECDの課税ルールの抜本的見直し案を支持している。
EUでは付加価値税(VAT)を導入し、EU外からのデータ配信にも、サービス提供企業が所在する国ではなく、消費者がいる国において課税されるルールを採用している。EU外の事業者が、EU内の消費者に対してサービスを提供する場合は、EU内に事業所等を設立するかEU加盟国のいずれかの国に事業者として登録し、その国に消費税を一括納付するという仕組みとなっている。
日本においては、今後、政府の税制調査会において、グローバル企業へのインターネットでのデータ配信に対する課税について議論すると報じられている。
ITmediaの記事によると、ICT総研の分析では、電子書籍の市場規模は、12年度の729億円から13年度は1010億円に成長すると予測される。また、電通の調査によると、インターネット広告についても、日本の市場だけでも2012年度は8,680億円となり、13年には1兆円突破も視野に入っているという。
今後ますます伸びると期待される分野だけに、課税が出来ないのは問題であるとも考えられる。日本でも付加価値税などの仕組みを導入するべきではないだろうか。たとえ消費者が負担するものであっても・・。
11.日本支店を活用する租税回避
日本にPEを置かないで税を逃れるケースとは反対に、日本でヒト、店舗などのPE活動がないのにわざわざ「ペーパーPE」を置いて悪さを働く者もいる。
(1)では、次の場合はどうなりますか?
Q:アメリカ、デラウエア州法務局に日本法人(A社)が株主となって登記したLLC(B社)の日本支店登記を日本の登記所に申請して認められた場合は、米国法人(B社)の日本支店と認められますか。
A:デラウエアでLLCとして登記が認められ、日本でもその認証によって、外国法人の日本支店となります。⇒ただし、そのLLCが日本の税務調査でLLP(組合みたいなもの)と認定される場合はB社の日本支店はA社そのもの(すなわち同一の内国法人)とみなされます。
(2)では、次の場合はどうなりますか?
Q:アメリカ企業(C社)が日本に有限会社(D社)を設立しており、その資産負債をアメリカ企業の日本支店(C社の日本支店)へ営業譲渡した場合のキャピタル・ゲイン・ロスの課税はどうなりますか。
A:日本には平成13年度から組織再編税制が導入されています。百%の親子会社(いずれも内国法人)間の株式譲渡・資産評価はある一定条件がととのえば、株式・資産の譲渡が簿価で行われたものとして、譲渡損益を認識しません。D社株式の売買・資産譲渡先が外国子会社の日本支店である場合もある一定の条件の下にキャピタル・ゲイン・ロスを認識しないことができます。
外国法人の日本支店と認められて登記