*** june typhoon tokyo ***

Craig David@TSUTAYA O-EAST




 “TS5”で培ったフレシキブルと進化の結晶を見た、刺激的な90分。

 2000年のデビュー・シングル「フィル・ミー・イン」およびデビュー・アルバム『ボーン・トゥ・ドゥ・イット』が全英1位となったのを皮切りに世界中でブレイクし、19歳で一躍時の人となった“2ステップの貴公子”“キング・オブ・2ステップ”ことクレイグ・デイヴィッド。その8年ぶりの来日公演が一夜限定で開催されると聞きつけ、週明けの夜の渋谷へと馳せ参じた。
 8年ぶりというと、おそらく新木場STUDIO COAST公演以来ということか。残念ながらその公演は行けなかったので、自身の生クレイグ・デイヴィッド体験となると、2009年に幕張メッセで開催された〈Springroove〉ぶり、単独では2006年のZEPP TOKYO公演以来となろうか。
 
 今回の公演は〈TS5〉と呼ばれるDJセットによるステージ。以前はバンドを引き連れてきたことを考えると、特に『ボーン・トゥ・ドゥ・イット』あたりで彼を知った初期のファンは、もしかしたらやや寂しいと思うかもしれない。だが、一度マイアミへ移ってややシーンからの注目が遠ざかった時を経て、再びイギリスへ戻った後に復活を遂げた転機になったのがこの〈TS5〉によるパフォーマンス。その後にはイビザでのプールパーティを成功させ、“イビザ史上最も成功したプール・パーティ”と言わしめたDJアクトがどのようなものか興味と不安が交錯するなか、〈クレイグ・デイヴィッド プレゼンツ TS5〉の開演の時を今や遅しと待ちわびていた。当日券が若干出たものの超満員のソールドアウトで開演前からフロアに熱気が漲り、知らずのうちに汗ばむこと数十分。初期作で耳を惹かれた40代以上と、カムバックに成功した全英1位作『フォロイング・マイ・イントゥイション』以降にケイトラナダやシガラ、ブロンドといったプロデューサー陣、あるいはジョナス・ブルー、バスティル、ハードウェル、シガーラといったDJ、EDM人脈との繋がりからファンへと行きついた20~30代世代とが混在するなか、定刻より約10分ほど遅れて主役が登場。冒頭からア・カペラで聴かせると、一斉に歓喜の声が沸き起こった。

 大きく“TS5”と書かれたDJテーブルに、これまた“TS5”と書かれたラップトップとCDJが置かれるのみの簡素なステージ。だが、DJテーブルに張り付くのではなく、こちらが予想した以上にステージの前方で観客とハイタッチを重ねながら所狭しと左右に動き回る。元来、デビュー前はDJでならしていたから、どちらかといえば彼のルーツといえるスタイル。それゆえ、DJテーブル上での手捌きもソツがなく、豊富な経験を重ねたDJプレイを披露しながら、初期からのR&B/ソウル・ラヴァーには馴染みのスウィートかつ浸透力のあるヴォーカルを繰り出していく。挨拶代わりにア・カペラでフロアを一つ沸かしたところで、「リワインド」や「フィル・ミー・イン」を出し惜しみなく投下。通常のライヴだと、単曲を歌い終わればその楽曲を再びやることはあまりないが、DJスタイルらしく楽曲のマッシュアップやサンプリングを有効に駆使して、単なるDJオケによる歌唱に留めない“ライヴ感”を重視したアクトだから、「リワインド」や「フィル・ミー・イン」のキラーフレーズが何度も行き交う。そもそも「リワインド」やラストで歌った「16」などは、その楽曲自体に彼のヒット曲のフレーズを盛り込んでいるから、そのキラーフレーズがサブリミナルのような効果も発揮して、シームレスに次曲へ移る展開力にも一役買っていた。

 UKガラージや2ステップという彼の代名詞的なビートを走らせるなか、インプロヴィゼーション風に高速フロウを弾丸のごとく放って観客のヴォルテージを高めると、90年代のヒット曲を中心にプレイ、カヴァーした流れでオリジナル曲へ展開させるというR&B/ソウル、ヒップホップリスナー垂涎のアイテムで昇天させる企て。ホイットニー・ヒューストン「イッツ・ノット・ライト・バット・イッツ・オーケー」という好物を撒いた流れからの「ワン・モア・タイム」、ジャスティン・ビーバー「ラヴ・ユアセルフ」を抜群の歌唱力によるテンダネスなカヴァーを経て、TLC「ノー・スクラブス」、イヴ「フーズ・ザット・ガール?」、ドクター・ドレ「スティル・ドレ」のビートを走らせたまま自身の「ウォーキング・アウェイ」へ繋げる構成は、その選曲のセンスもさることながら、しっかりと自身の歌としてカヴァーしきってしまう懐深く融通性の利いたヴォーカルが為せる業。その後もハウス・オブ・ペイン「ジャンプ・アラウンド」でフロアにジャンプの大波を起こしたかと思えば、ショーン・ポール「ギミ・ザ・ライト」というカリブ・テイストのパッションを注入して熱気と恍惚の濃度を高め、自身の「マジック」へと落とし込む。文字通り彼の手練なDJスキルと圧倒的な訴求力のある歌唱が“マジック”な空間を創り出していく。

 ダンス/クラブ・ミュージックのファン層にはリアーナをフィーチャーしたDJキャレド「ワイルド・ソーツ」をスターダスト「ミュージック・サウンズ・ベター・ウィズ・ユー」を敷いたトラックでカヴァーするという技巧も駆使したほか、ジョナス・ブルー共作による南国要素溢れる「ハートライン」からエイメリーのエネルギッシュなダンサー「1・シング」を絡ませてからのゴールドリンク客演の「リヴ・イン・ザ・モーメント」、そして「エイント・ギヴィング・アップ」と天に突き抜けるような爽快と壮大のフィーリングを醸し出す演出で、コンテンポラリーなエレクトロニック・ダンス・ミュージック・シーンでの存在感もしっかりとアピール。“2ステップの貴公子”などの古臭い看板だけではない、ヴェテランゆえの間口の広さや寛容性に現役ならではの進化を、DJテクニックと一聴してオーディエンスを虜にするヴォーカルワークで具現化させていった。

 さらに、フロアの声のトーンを一段と高まらせたのが、クレイグ・デイヴィッドの代名詞の一つでもあろう超高速フロウ。ヒップホップのそれとはまた違った、UKガラージや2ステップからグライムも包含したクラブ・シーンを出自とする彼だからこそのマシンガンフロウで、スリルと興奮を凝縮させたパワフルなパフォーマンスは、まさに圧巻という言葉しか見当たらないほど。そのマシンガンフロウは、もう一つの彼の顔である情趣溢れるグルーヴィな歌唱が心を打つ「ライズ&フォール」や「7デイズ」といった名ミディアムを挟んで、ラストの「16」でも爆発。「16」のラストのフレーズを歌い終え“サンキュー”という言葉で、“光陰矢の如し”と表現出来そうな90分のステージを締めくくった。

 旧知のファンにとっては、たとえば「オール・ザ・ウェイ」「ヒドゥン・アシェンダ」「ホット・スタッフ(レッツ・ダンス)」「インソムニア」などは歌われず、オールタイム・ヒッツとまではいかなかったように思えるかもしれないが、90'sクラシックスなどの楽曲と自身の楽曲をマッシュアップさせながら、R&Bからレゲエ、ダンス、エレクトロニックまでを俯瞰するクラブユースな演出で自身の楽曲にフレッシュな色彩で装飾していくのが〈TS5〉スタイルなのだとしたら、今のクレイグ・デイヴィッドを披露するという意味では十分。DJセットながらも、多くのエナジーと恍惚を呼び覚ますのは、やはりDJの腕、歌唱力それぞれだけではなく、そのどちらも高水準で行なえるスキルがあればこそ。もはやDJセットという言葉で示すのが憚られるようなダイナミックなパフォーマンスを直に体感し、終演後も心身に熱い脈が宿っていた……そんな感覚が襲うなかで、興奮の瞬間を思い返しながら、夜の渋谷を後にしたのだった。

◇◇◇

<SET LIST>
INTRODUCTION(sing by a cappella)
Re Rewind(The Crowd Say Bo Selecta)
Fill Me In
UK Garage/2step act
It's Not Right but It's Okay(Original by Whitney Houston)
One More Time
Love Yourself(Original by Justine Bieber)
No Scrubs(Original by TLC)
Who's That Girl?(Original by EVE)
Still Dre(Original by Dr. Dre)
Walking Away
Jump Around(Original by House Of Pain)
Gimme The Light(Original by Sean Paul)
Magic
What's Your Flava?
Heartline
1 Thing(Original by Amerie)
Live in the Moment
Music Sounds Better With You(Original by Stardust)
Wild Thoughts(Original by DJ Khaled feat. Rihanna, Bryson Tiller)
When The Bassline Drops(Original by Craig David x Big Narstie)
Temperature(Original by Sean Paul)
Moombah(Original by Silvio Ecomo & Chuckie)
Ain't Giving Up
Free Style act
Show Me Love(Original by Robin S)
Rather Be(Original by Clean Bandit feat. Jess Glynne)
Nothing Like This
Rise & Fall
Bodak Yellow(Original by Cardi B)
Pony(Original by Ginuwine)
I Know You
7 Days
16

※ Perhaps not perfect list

<MEMBER>
Craig David(vo,DJ)

◇◇◇


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