*** june typhoon tokyo ***

AFRO PARKER『Wonder Hour』


 “反骨”をスタイリッシュにアウトプットした、アフロパ流エンタメ佳作。
 
 “O.K.O.D.”(=オシャカッコオモシロドープ)な音楽を奏でる2人のラッパーと5人の楽器隊。SNSのプロフィールによれば、それが2021年現在でのキャッチフレーズらしい。ファンからは“アフロパ”の愛称で親しまれている7人組バンド、AFRO PARKERの4thアルバムは、オシャレかつクールでユニークに溢れた、まさに“O.K.O.D.”を体現するような佳作となった。

 4thアルバムではあるが、2019年の前作『Which date suits best?』が7曲入りゆえ、フル・アルバムとしては3作目になるか。2016年の2ndアルバム『LIFE』に収録された「いいちこ」のCMをオマージュしたようなスキット「Your Yosa, Our Yosa」にあった“生音だから良さがある”というフレーズよろしく“生音ヒップホップバンド”を自称していた彼ら。当時は、大学時代を共にした腐れ縁仲間たちがこじゃれたヒップホップを披露しながらも、そこかしこにワシャワシャとした学生ノリが零れてしまう……といったような人懐っこさが魅力の一つでもあったが、フル・アルバムとしては5年の時を経た本作『Wonder Hour』では、漆黒の闇とヴィヴィッドな赤いタイトルロゴという対照的な彩りが目を惹くジャケット・アートワークが示唆するように、ドープや生々しさをクール&スタイリッシュに描き上げている。

 だからといって、従来の雑多で楽しい音楽遊戯感覚を失ってしまったのかといえば、それは否。オシャレとはいえ、言葉で表わすなら、洒脱や瀟洒というよりも“シャレオツ”というニュアンスが近いか。斜に構えるとか、全体をエレガンスで飾るといったような気はさらさらなく、あくまでも彼らの根底にある“サラリーマンの悲喜こもごもの日常”を飾らずに吐露するというコンセプトにブレがないゆえ、敷居は高くないが、かと言ってラフに寄せることもないという絶妙な塩梅を生んでいる。


 それは、確固たるテーマに沿ったアルバム制作にも表われている。オープナーの「After Five Rapper II ~SHACHIKU CAPRICCIO~」はタイトルからも分かるように、2ndアルバム『LIFE』の「After Five Rapper ~SHACHIKU REQUIEM~」で描かれた下っ端サラリーマンの続編。8年目を迎えて新人から脱するも、今度は上司と部下の板挟みに苦悩する“忠犬”と化した中堅社員の哀しき人生を、ユーモラスにフロウしている。前作よりもミステリアスなムードで展開するも、終盤からアウトロへの流れは前作を踏襲して、一筋縄ではいかない“社畜”の嘆きを問うている。

 もう一つのテーマとしてあるのが、アルバムの帯にも書かれていた“逃げろ”だろうか。日常の疲弊から解放されるために、7人の仲間が車に同乗。“さよなら日常ツアー”と題して出発するも、次第に霧が立ち込める視界不良の場所を走ることになって……という深夜のドライヴツアーの始終を、「10:18pm」「1:57am」「2:06am」「5:24am」そしてラストの「Wonder Hour」のスキットを駆使し、ストーリーとして成立させていく。

 瑞々しい鍵盤と温もりある音たちをバックにストーリーテラー風に展開する「In Tears」や、tofubeats的な軽快さも窺えるヴァースから抜けのいいスペーシーなフックへ移行する「Wheels Up」、日常に忙殺されながらも安堵する瞬間に希望を見出す心境をハートウォームな音鳴りで綴った終盤の「H.A.N.D」あたりは、そこかしこにアクセントを加えながらも大筋で初期からのアフロパ・サウンドを踏襲。その一方で、アフロパとして音楽的振幅の広がりを感じさせる楽曲群も(ちなみに、これまで『Lift Off』では「A.F.R.P.」、『LIFE』では「H.E.R.O.」、『Which date suits best?』では「Q.O.L. Airport」とアルバム毎に“.(ドット)”を用いた曲名が必ず入っていたが、本作も「H.A.N.D」がラインナップされ、その傾向は継続されている模様)。


 ミュージック・ソウルチャイルド『ラヴアンミュージック』『オンマイレイディオ』期の“エイ、エイ”と合いの手を入れるネオソウルや、チキチキ鳴るビートを敷くティンバランドあたりのR&B/ヒップホップ・トラックを想起させる、本作リード曲「Flowing Stories」では、ヴォーカル・エフェクトを駆使したエレクトロニックR&Bな要素にアプローチ。繊細で哀切が漂うluluのヴォーカルをフィーチャーした「Plastic Summer」では、黄昏や夏の終わりの寂寥をモノクロームの映像で描出したような作風に。諭吉佳作/menを客演に迎えた「Lucid Dream」では、優しい肌当たりのファンシーな声色で泳ぐように舞う諭吉佳作/menのヴォーカルに寄り添うがごとく、前面に出過ぎず、しかしながら印象を与える過不足ないジャジィな演奏とMC2名の力みを削いだラップを融合させ、オルタナティヴなソウル/ポップスを構築している。

 さらに、スリリングなコードやブレイクビーツ的な要素を用いて、焦燥やヒリヒリした空気を漂わせるアブストラクトな音像が中毒性を孕む「Klein Bottle」、YONA YONA WEEKENDERSのフロントマンの磯野くんを迎え、Nulbarich、WONK、SIRUP、Vaundyあたりに親和性を感じるナイーヴで官能的な夜行性トラックの「Night Heron」と、これまでに見せなかった音楽性でAFRO PARKERの新境地を発露させている。

 ただ、間違えてはいけないのは、客演が持つ世界観や作風に影響を受け、AFRO PAKERを“変化”させた……のではないということ。もちろん、それらを吸収し、咀嚼することで創出した新境地ではあるが、あくまでも音楽的な振幅を拡充した“進化”“深化”ということだ。元来メンバーは腕の立つ技巧を持ち、ヒップホップやブラック・ミュージックを生音で鳴らしてきており、その資質や素地は十二分に備えていた。それが客演という“触媒”によって強いケミストリーを起こした……というのが、近いところかもしれない。


 ロバート・グラスパー・エクスペリメントの『ブラック・レディオ』シリーズをはじめ、ブラック・ミュージックとジャズを融合させる動きが起こって久しいが(奇しくも『ブラック・レディオ』の冒頭曲は、AFRO PARKERの1stアルバム名と同様に「リフト・オフ」だったりもする)、AFRO PARKERもある意味異なるジャンルの楽曲をミックスさせる趣向を持ち得ているといえる。

 とはいえ、彼らが特異なのは、さまざまな要素の音楽を凝縮させる傍らで、“社畜”やそのジャンルを邁進する正統派アーティストたちへの反骨精神をエンターテインメントとしてアウトプットしていることか。本作では殊に仄かにnujabes色も感じるジャジィ・ヒップホップなども垣間見えるなか、弥之助とWAKATHUGという個性豊かな2MCがそれぞれ押し引きを意識したフロウを披露してオリジナリティの濃度を高めているが、それ以上に、トラックやアレンジを操る鍵盤のBOY GENIUSのセンスやバランス感覚によって、上質なレヴェルへ昇華させている。これまでのAFRO PARKERのアルバムのなかでも、BOY GENIUSの才華が最も感じられるアルバムといえるのではないだろうか。


◇◇◇

■AFRO PARKER『Wonder Hour』
(2021/04/07)
PDCR-018 / para de casa 

01 After Five Rapper II ~SHACHIKU CAPRICCIO~
02 In Tears
03 10:18pm
04 Wheels Up
05 Flowing Stories
06 1:57am
07 Plastic Summer feat. lulu
08 Lucid Dream feat. 諭吉佳作/men
09 2:06am
10 Klein Bottle
11 Night Heron feat. 磯野くん(YONA YONA WEEKENDERS)
12 5:24am
13 H.A.N.D
14 Wonder Hour


◇◇◇









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【AFRO PARKERに関する記事】
・2014/06/07 Mixed Up@代官山LOOP
・2015/06/06 Mixed Up@代官山LOOP
・2016/11/13 Let's Groove@六本木VARIT
・2017/04/22 Parade!@六本木Varit.
・2019/12/21 AFRO PARKER @表参道 WALL&WALL
・2021/05/21 AFRO PARKER『Wonder Hour』(本記事)




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