*** june typhoon tokyo ***

白いパレット『夢の中で会えたら』


 無垢な絵皿から生まれる、発想力と若さという色彩から描き出される音の粒たち。

 何の汚れもない、まだ始まっていないという例えでよく使われる言葉に“白いキャンバス”というのがあるが、これから語る対象はキャンバスでなく“パレット”をユニット名に冠した二人組。音楽専門学校を卒業し、ピアノの指導も行なっているYuka(佑香/赤津佑香)と、元Especiaのミア・ナシメントやSOLEILのサポート、加納エミリバンドなどでドラム/パーカッションを務めるManaka(真成香/田辺真成香)によるピアノ&ドラム・インスト・ユニット“白いパレット”だ。
 2019年春に始動し、同年6月には初ワンマンライヴを開催。以来、北参道ストロボカフェなどを中心にライヴを重ね、同年8月に「Spark」、2020年3月に「夢の中で会えたら」と2枚のシングルをリリースしている。

 個人的にミア・ナシメントや加納エミリのバックバンドでのManakaのドラミングを観て、一度ユニットとしての演奏を観てみたいと思っていたが、残念ながら予定が上手く噛み合わず。ライヴに行けないまま、コロナウィルス禍による自粛要請期に突入してしまったが、その状況を鑑みて、通常はライヴ会場でしか手に入らないシングルやグッズが購入可能な通販サイトをManakaが開設。それを機に2ndシングル「夢の中で会えたら」を手に入れられたこともあって、僅かばかりの感想を拙ブログにエントリーしようと思った次第だ。

 さて、その全3曲が収められた2ndシングル「夢の中で会えたら」のオープナーは、タイトル曲「夢の中で会えたら」。冒頭こそタイトルよろしくドリーミーな導入ではあるが、すぐに脳裏に飛び込んでくるのは、鮮やかで流麗な音の雫たち。緑の中を瑞々しくもいきいきと流れていくような、美しくも逞しく水を這わせる清流の生命力とも言おうか。微睡みとは好対照の、ヴィヴィッドな鍵盤と鮮やかさの輪郭を際立たせるドラムが水泡のように折り重なる展開が魅力だ。

 続く「UNnatural」は、低音で響く鍵盤と秒針を刻む風のドラムが何か胸騒ぎを呼び起こすような、ほんのりとミステリアスなテイストを抱かせるディテクティヴなサウンド。中盤で刻まれるシンバル音が次第に大きくなるなか、滑り込むように鍵盤が走り出し、ドラマティックな終盤へと向かう展開は、さながら刑事ドラマのクライマックスのようでスリリングだ。

 ラストの「Twilight」は、文字通りの黄昏時の空を映し出した風の、煌めきと安らぎが寄り添うテンダーな曲調。夕陽と夜の帳とが次第に溶け合うマジックアワーの光景とでもいえそうだ。終盤へと向かうところで、ミニー・リパートン「ラヴィン・ユー」の一節をほのかに想起させるような旋律も見え隠れするなど、二人のピュアな優しさや愛情を曲に込めたラヴ・ソングなのかもしれない。

 3曲とも比較的明澄な音色ゆえ、アクという部分を求める趣向には物足りなさを感じるかもしれない。ただ、まだ2作目というのと、おそらく音源とライヴ演奏では(即興なども入れたりと)異なるだろうから、これらの楽曲がどのようなアレンジメントで変化していくのかという過程を観てからでも遅くはないはずだ。それにしても、どの曲にも言えるのが、活力溢れる鮮烈なリズムと流麗なメロディのバランスの妙だ。時に洗練に偏り過ぎるとかえって怠惰や屈託を抱いたりする向きもあろうが、そこは清々しいまでの発露と若手ならではの柔軟性によって生み出される歯切れの良さでカヴァー。寧ろ、貪欲さもチラリと見せて、小綺麗なだけにはまとまらないという意思も感じた。YukaとManakaとの絡みも、これからより幅広く発揮されていくだろう。

 手元のパレットに置かれた音という名の絵具の数は、まだほんの僅か。これからどのような色を混ぜ合わせて、曲に濃淡を施していくのか。その彩色ならぬ音色のグラデーションを数多く生み出しながら、ハッとするような美しさや発想力が発露される瞬間にも期待したい。

◇◇◇

■白いパレット / 夢の中で会えたら(2020/3/28)

1 夢の中で会えたら
2 UNnatural
3 Twilight


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