*** june typhoon tokyo ***

CICADA@WWW


 ライヴバンドとして多彩な進化を得た5人が、ようやく掴んだ心身一体。

 ヒップホップやR&B、トリップホップやエレクトロニカといった要素を有機的に融合させた新たなJ-POPのスタイルを提示して好事家の耳を離さない東京発の5人組バンド、CICADA(シケイダ)。2016年11月にユニバーサルからアルバム『formula』でメジャーへ進出。2017年4月より現編成となり、代官山UNITでのワンマンを成功させたCICADAは、確かにネクストステップへと舵を切っていた。当初、2017年は飛躍の年との意気込みも高かったが、ライヴで公言したCDリリースはないままに終え、やや不完全燃焼気味だった2017年。その思いをぶつけるように、2018年2月に自主企画〈DETAIL〉第6弾で彼らは自由に泳ぎ回れるステージに帰って来た。

 今回の自主企画公演〈~CICADA presents.DETAIL act.6~〉は、2016年7月に行なわれた前回の〈DETAIL〉第5弾(その時の記事はこちら→「CICADA@渋谷WWW」)と同様に渋谷WWWが舞台。奇しくも、ベースの越智俊介が“オチ・ザ・ファンク”として参加していたカラスは真っ白との対バン以来だから、時は流れた。個人的にCICADAを観るのは、2017年4月のレーベル〈para de casa〉と「六本木Varit.」によるコラボレーション・パーティ〈para de casa 4th anniv × Roppongi Varit 1st anniv party!!!〉(その時の記事はこちら→「Parade!@六本木Varit.」)以来となる。

 まず、目に付いたのが、バンドの立ち位置が変化していたこと。以前は上手(客席から見て右側)に陣取っていたキーボードの及川が下手へ移り、左から及川、若林とキーボードが並ぶ感じに。及川のポジションだった上手前列にはドラムの櫃田が坐し、若林と櫃田の間にベースの越智という布陣だ。この配置となってしばらく経つようなのだが、昨年4月に彼らを観て以来久しぶりだった自分にとっては新鮮な光景で、特にドラムの櫃田の鳴らす音にに注目しているところもあり、嬉しい変化に直面出来た。



 昨年12月に配信リリースされた「Harvest」や“New Sound of CICADA”を標榜する「No Border」を皮切りに、“この歌を歌う時は嘘をつかないよう心に決めている”と城戸が語った「YES」から櫃田のドラムンベースが高品位で炸裂する「stand alone」、麗しいメロディが魅力の初期の人気曲「Naughty Boy」が連綿と続く展開、さらには、刻みの速いアルペジオがループするなかでメランコリックな薫りを醸したメロディが沁みる新曲などを繰り出していく。
 序盤は越智のベースがやや大人しい気もしたが、ステージが熱を帯びていくのと同時に彼のボトムにも印象強い“跳ね”が顔を出す。ミニマルセットを組んで活動している城戸と及川の呼吸は抜群で、あまり目立たないながらも時折ニヤリと笑みをこぼす若林の耳を惹く鍵盤、とにかく正直にドラムに向かい手練を発揮していた櫃田はよい意味での“抜け”がより感じられるようになるなど、各々スキルはもちろんのこと、彼らが生み出すグルーヴネスにいっそう表情豊かな彩りが加わっていた。

 特にヴォーカルの城戸の熱量の高さには、並々ならぬ思いが感じられた。これまでのステージでも“私たちにしか出来ない音楽がある。付いてきてください”と連呼し、高みへ駆けあがる意志を人一倍露わにしてきた彼女だが、昨年はリリースがないなどその言葉を裏付ける活動が思いの外達成出来なかった。それが彼女が言う“もやもやした”感情となって表われ、やや気持ちの勇み足となっていた部分もあったかと思う。バンドとしても、当初は音を詰め込み過ぎない“引き”の美学のなかで彼らの音楽的メッセージをいかに増強していくかということがテーマだったと思うが、熱量や気迫はあっても、その音と心情のバランスがピタッとハマるところまでには到達することなく1年を終えてしまったのかもしれない。



 次こそはそれらを払拭するという強固な意志はアンコールの「one」、そしてそのアンサーソングとも言うべき「you」の2曲で結実。城戸は気迫だけでなく表現力の抑揚をコントロールしながら、ア・カペラ風に聴かせるパートも含めて自身が磨いてきたヴォーカルワークを披露すると、やや穿った見方をするとこれまでに時折垣間見られた及川のキーボードが先導するバンド・スタイルという図式から、個々の音の独創性を過不足なくシンクロさせた有機的な“ライヴバンド”へと飛躍していた。図らずも、この日、平昌オリンピックのフィギアスケートSPで羽生結弦が驚異的な復活劇で首位に躍り出たが、ポテンシャルを抱えながらも存分に羽根を広げられずに苦心を強いられていたバンドがようやく高く飛び立てる姿へと進化したように思えた感覚は、その羽生のストーリーと多少なりとも重なって見えた気がした。

 気持ちが先走らずに、真の意味で地に足をつけ、高く飛躍出来るフォームを形成した彼ら。「YES」の詞にあるように“あとはただ飛ぶだけでいい”時がこの2018年には訪れる……そんな確固たる予感が脳裏を過ぎったステージだった。

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<MEMBER>
城戸あき子(vo)
若林とも(g,key)
及川創介(key)
越智俊介(b)
櫃田良輔(ds)


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【CICADA presents.“DETAIL”】
・〈CICADA presents.“DETAIL act.1”〉2016/01/08 CICADA@代官山LOOP with Seiho, Hisashi Saito
・〈CICADA presents.“DETAIL act.2”〉2016/02/19 CICADA@LOOP ANNEX with おかもとえみ 
・〈CICADA presents.“DETAIL act.3”〉2016/03/18 CICADA@代官山LOOP with Sawagi 
・〈CICADA presents.“DETAIL act.4”〉2016/04/17 CICADA@代官山LOOP with ORLAND
・〈CICADA presents.“DETAIL act.5”〉2016/07/15 CICADA@渋谷WWW  with カラスは真っ白

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【CICADA関連の記事】
・2015/01/25 Mixed Up@代官山LOOP
・2015/03/16 CICADA『BED ROOM』
・2015/11/04 CICADA@WWW
・2016/01/08 CICADA@代官山LOOP
・2016/02/19 CICADA@LOOP ANNEX
・2016/05/05 CICADA『Loud Colors』
・2016/05/26 CICADA@渋谷CLUB QUATTRO
・2016/07/15 CICADA@渋谷WWW
・2016/11/21 CICADA『formula』
・2016/11/25 CICADA@WWW X
・2017/04/20 CICADA@代官山UNIT
・2017/04/22 Parade!@六本木Varit.

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 対バンに迎えられたのが、踊Foot Works(オドフット・ワークス)。Fanamo'(b,cho)、Tondenhey(g)、Pecori(vo,rap)、サンバルカン(DJ)による4人組ヒップホップ・バンドで、この日は初見。現行ヒップホップ・シーンのトレンド、ジャズやエレクトロなどを程よいセンスでチョイスしたスタイリッシュでホットなサウンドが特色。Pecoriは歌もフロウもするという歌モノラッパーで、時々見せるおどけた表情などからはタイラー・ザ・クリエイターも頭に浮かぶ。歌モノラッパーという点も含めて、チャンス・ザ・ラッパーあたりの影響を受けているのかもしれない。Tondenheyのギター・ソロなどでロックを響かせる時もあるが、下地はグルーヴを重視したジャジィ・ヒップホップ・マナーで、適度な“緩さ”もあるあたりは、韻シストらしいアティテュードも感じた。

 この日は対バンで“迎えられた”ということもあったのか、意外とガツガツとフロアをロックするという姿は見せなかったが、元来そういうスタンスなのかも。圧倒的な“巻き込み”で自分たちに耳目を向かせるというよりは、身体を揺らさせながら音で惹きつけることを主としている、見た目以上に“大人”で音楽的センスに長けたグループだ。偏り過ぎないファンクネスと押しつけがましくなくとも耳に残るクールかつ刺激溢れる楽曲は、WONKあたりのアーバンなサウンド好きにもアピール出来そうで、本格的なブレイクも近いかもしれない。

 ステージワークにはさらなる経験も欲しいところだが、今後押さえておきたいグループの一つだと思う。



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