*** june typhoon tokyo ***

CICADA@代官山UNIT




 手応えと課題を感じた新体制初ワンマン。

 ワンマンライヴとしては3度目、新生CICADAとしては初のワンマンライヴとなった〈CICADA Oneman show“Absolute”〉を観るべく、急ぎ足で代官山UNITへ。開演時刻より10分ほど遅れてライヴはスタート。この夜は、CICADAがバンドとしてどれほどの成長をしているかとともに、新たに加入したベースの越智俊介の“染まり”具合がいかほどかということが個人的な一つの注目点でもあった。

 2016年11月の『formula』でメジャー・デビューを果たしたCICADAだったが、それから僅か2ヵ月、2017年1月をもってベースの木村朝教が脱退。『formula』リリースパーティとなった渋谷WWW Xでのワンマンライヴでは「この5人で新しい景色を見たい」と高らかに宣言した城戸あき子だったが、年明け早々にその思いは一頓挫。CICADAのサウンドは及川創介の着想やセンスに依るところが大きいが、個人的にはブレイクビーツの連打も厭わない櫃田良輔のドラミングとシンプルだが訥々とファットなボトムを刻む木村のベースがCICADAのブラックネスの源だと考えていたので、漆黒のボトムを掌る木村のベースを失うことにある種のもの寂しさを感じていた。ここで言う寂しさは木村が脱退するという事実よりも、木村が奏でるファットなベースが響かなくなるという意味での寂しさだ。

 その後を受けて加わったのが越智俊介。越智は自身のバンド、North Pandemic Grooveでカナダ・トロントジャズフェスティバルに出演し、先ごろ残念ながら解散した“カラスは真っ白”のベーシストとして活動してきた実力派。CICADAは渋谷WWWでのイヴェント〈CICADA presents.“DETAIL act.5”〉でカラスは真っ白と共演しており、一度そこで耳にはしていたはずだが深い印象は思い出せずにいた。越智がどのような融合を見せるのか、期待と不安が脳裏で交差する最中、一瞥したステージではラップ・セクションからフロアをロックしていくCICADAの姿があった。いかばかりか緊張と自信の狭間にあるような表情の城戸の一挙手一投足を追っていくうちに、ヒップホップのクラシカルなビート上でアグレッシヴに言葉が走る「スタイン」へと移行。“スタイルにこだわる理由がある”と言い放つこの曲のフレーズよろしく、越智という新たな素材を手に入れた新生CICADAがどのようなスタイルで進化を重ねようとしているかに力点を置いて、新生CICADAと対峙した。



 『BED ROOM』で見せた、青い海の底へ深くゆっくりと落ちていくような美しく浮遊感漂うミニマルでアンビエントなムードや、無骨ながらも妖しさを匂わせるような音色は鳴りを潜め、どちらかと言えばこれまであまり手を入れずにいた音と音の合間に彩色を施し、ポップネスを高めた印象。以前は時折ダイレクトに猥雑性を披露した城戸も、そのポップネスに即したように歌唱中も笑顔が溢れることが多かった。おそらくそれらは及川のアレンジとともに新加入した越智のファンキーなベースとの融合がもたらした効果の一つで、スラップベースも駆使したファットなアプローチと跳ねる弦が生み出す音の濃淡が、カラフルでよりポップな音像に程よく繋がっていったのだと思う。

 例えるなら、木村期のボトムは素描的アプローチ。一見淡々としながらも音の明暗をダイレクトに伝達することで音数が少なくてもインパクトを残すことに成功していた。飾り気がない裸の音だからこそ、櫃田が繰り出す緩急が連続するドラミングとの相性も良かった。それに後押しされた城戸のヴォーカルも生々しい恍惚を覗かせるなど、“剥き出しのエロス”が感じられたといっていい。
 一方、越智加入後は、黒いボトムに厚さと濃淡というより立体的なベースラインとなり、及川がさまざまに手を施しやすいようなカンバスとしての機能を帯びた印象。色彩豊かな水彩画を演出するのに相応しいという感じか。素描の無骨さから少しずつ色を施していく明度的なアプローチでバンドの音楽的振幅を形作っていた旧体制に対して、音の彩度の濃淡でサウンドの奥行きを構築していくような新体制。ともに長短あるが、発展性を求めるのであれば、後者が今のCICADAには合っていると判断したのだろう。



 もちろん功罪もあって、色鮮やかなポップネスで音色を飾ることが出来る反面、いたずらに色付けしていけば核となる音がぼやけ、トータルバランスを崩してしまう可能性もある。過度の装飾でそれぞれの良さを潰してしまえば、消化不良にもなりかねない。それゆえ及川のアレンジワークはこれまで以上に精度を求められるし、及川以外のメンバーの音楽的嗜好(特に若林ともによるメロディ)との比率が、新生CICADAが黄金比を得るカギとなるかもしれない。

 それらを踏まえると、今回披露された新曲2曲(「party out」と曲名不明)の質も見えてくる。本音を言えば、新しいサウンドを構築しようとする意図は伝わるものの、まだ確固たるインパクトは与えられていない。「stand alone」のようなダイナミズムで心を奪っていくのでもなければ、「one」のような胸を騒がせるおうなメロディとグルーヴで迫るまでもいかず、「No border」よろしくヒップホップとジャジィなマナーで痛快なグルーヴを放つでもない、はたまた「閃光」のような情感に訴えるメッセージ性の長けたポップネスに昇華しているとまでも言えない。と、こう書き連ねていくと質の高くない楽曲にも思われるかもしれないが、そうではなく、あくまでもアウトプットの仕方や完成度の話だ。そのあたりをどう詰めていくかが今後の課題となるのではないかと思う。 



 全体的には、リズムセクションに乗るメロディや装飾音など上モノに対するアプローチを強化し、電子シンセ的な役割を担う若林との相性も向上してより洗練されたサウンドへと進化。アレンジの引き出しをやや多用し過ぎのきらいもあるが、それは(素描的アプローチを好んでいた自身の)音楽的趣向の問題でもある。本編終盤の(いつもイントロの胸騒ぎを誘発するようなイントロには心持っていかれる)「one」以降、「Colorful」「stand alone」などへの流れはオーディエンスの心を焚き付けるのに充分なパフォーマンス。アンコール開けの「ふたつひとつ」は自信と余裕に満ちてグッドグルーヴを生んでいたし、彼らと共に歩んでいくだろう堅い決意が綴られた「YES」は沁みるだけでなく悩みで歩みを止めていた人たちを喚起するほどの訴求力を持っていた。

 ただ、やや穿った意見を述べるとすると、個性に溢れながらもそれに多分に寄り掛からず、新たなチャレンジを継続する進取性とともに良質なグルーヴを生み出しているにも関わらず、メジャー・デビュー後のシーンでの浸透性が高くはないということか。この日のフロアもそれなりにオーディエンスで埋まってはいたが、正直まだ集客としては物足りない。彼らの楽曲や彼ら自身の知名度をどのように拡散していくか(それは楽曲性によるフックとしても、戦略的アピールという意味でも)、バンドとしての核を揺るがさずにいかに変化させられるかが(城戸の言う)「今よりもっと大きな景色」を見るためには肝要なのだろう。

 (若林の作曲スピードが大いに関わるらしいが)今年はアルバムをリリースすることが目標とのこと。越智という新たな武器を手に入れた彼らがどのようなケミストリーを発するのか。引き続き、彼らへの耳目の感度を高めていきたいと思う。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 スタイン
02 No border
03 INFLUX
04 Naughty boy
05 party out(NEW SONG)
06 back to
07 FLAVOR
08 夜明けの街
09 Reloop
10 INTERLUDE~BAND SECTION~
11 閃光
12 one
13 ポートレート
14 Colorful
15 stand alone(blue)
16 UNTITLED(NEW SONG)
≪ENCORE≫
17 ふたつひとつ
18 YES

<MEMBER>
CICADA are:
城戸あき子(vo)
越智俊介 a.k.a オチザファンク(b)
櫃田良輔(ds)
及川創介(key)
若林とも(key,g)


◇◇◇

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・2015/01/25 Mixed Up@代官山LOOP
・2015/03/16 CICADA『BED ROOM』
・2015/11/04 CICADA@WWW
・2016/01/08 CICADA@代官山LOOP
・2016/02/19 CICADA@LOOP ANNEX
・2016/05/05 CICADA『Loud Colors』
・2016/05/26 CICADA@渋谷CLUB QUATTRO
・2016/07/15 CICADA@渋谷WWW
・2016/11/21 CICADA『formula』
・2016/11/25 CICADA@WWW X

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