*** june typhoon tokyo ***

CICADA@渋谷CLUB QUATTRO


 “We gotta go, We don't stop”

 ダブルアンコールの拍手に促され、ヴォーカルの城戸あき子が独りでステージに姿を現す。「ダブルアンコールありがとう。嬉しいけれど、アンコールの〈YES〉で私たちはやり切ったので、本当にもう曲が残ってないんです」そう告げるとフロアから再び大きな喝采が巻き起こった。

 最後の曲が「YES」になるというのは、ほぼ間違いなく分かっていた。自分たちの次なる道程への決意表明だと以前から述べてきた5人の想いが込められた楽曲。初のワンマンライヴを自ら“集大成”と位置付けた彼らにとっては、掲げた夢を実現するために一度「YES」に描かれた意志をしっかりとした形で刻み付ける必要があった。その時こそが2016年5月26日、渋谷CLUB QUATTROでのCICADA初のワンマンライヴ〈CICADA One man show"Absolute"〉だったのだ。

 アンコールの「YES」の直前、城戸が2016年冬の2ndアルバムを携えてのメジャー・デビューを発表。歓喜に沸くオーディエンス。そして、城戸は瞳に涙を浮かべながらこう続けた。「これから辛いこともあるかもしれない。でも、覚悟を決めた。この5人で、1人も欠けることなく上のステージへ駆けあがっていく」「悩み続けた日もあったけど、ヴォーカリストとして一番になることに決めました」と。
 メジャー・デビューは彼らが求める夢を果たすための大きな援軍となる。一方で、自らの音楽性と求められるものとの乖離に苦悩する日々への始まりにもなる危うさも持ち合わせている。セールスや汎用性を理由にスタイルや作風を替えられた事例は後を絶たない。特に日本の音楽シーンで“黒さ”を持った音楽が定着していないのは、メジャー・メーカー/レーベルの旧態から脱することが出来ない(しかしながら強い力を持つ)一部の人間が実際に音を奏で伝えるアーティストや楽曲、音楽性、さらにはその向こう側にあるリスナーたちへの敬意や愛情が不足していることに起因するといってもいい。当初はR&Bやソウルを謳って煽っても、気づくと宣伝や広告の道具の一つであるかのように味のないポップスへと移行していく(それが受け入れられる最良のものだと勘違いしている)。ポップスを歌うことが悪では決してないが、意志を伴わない“キャッチー”への変貌は、その一つの賞味期限が切れた時には圧倒的な凋落が待ち構えている。自らの音楽性を剥ぎ取られ、帰る場所が分からないまま“終わってしまう”……悲しくもメジャーにはそういった功罪が付きまとう。
 だから、城戸は「この5人で、1人も欠けることなく」と強調したのだろう。CICADAの未来は一蓮托生、それはたとえ誰であれ揺るがせることは出来ないのだと。この5人でなければ決して描けないという強烈な意志がその眼に、その表情に、その声に滲み溢れていた。



 さて、その“集大成”として挑んだステージは、言葉どおりにこの約4年間の成長を窺わせる驚きがいくつもあった。ライヴ観賞としては2016年2月の〈CICADA presents“DETAIL”act.2〉以来だったゆえ、その間に既に変わっていたのかもしれないが、これまでは城戸が赤のトップス、それ以外のメンバーは白のスウェットパーカーというパブリックイメージに近いものがあったのだが、この日のステージではメンバーそれぞれが個性を持った衣装に。アーバン、スタイリッシュ、クールなジャジー・ポップ……これまでメディアが言い表わしてきた“定型句”に反するがごとく、一人一人の個性を打ち出してきたと感じたのは気のせいだろうか。CICADAには“蝉”という意味があるが(そこから名前をとったかどうかは分からないが)、その変態(メタモルフォーゼ)と同様の過程を眼前にしているのではないかと。

 音源から彼らのライヴをイメージしていた観客は、その楽曲の変貌ぶりに驚いたはずだ。「Naughty Boy」をはじめ比較的タイトな印象がないミディアムな曲も大幅なアレンジ・チェンジによってドラマティックなライヴ・ユースなものに。中盤の「夜明けの街」あたりでようやく原曲に近いオーガニックなムードも訪れたが、直後の「door」や新曲「drop」で再びストイックなサウンドへ引き戻されていく。特に「フリーウェイ」でのヘヴィでオルタナティヴなグルーヴは、妖しげな赤紫のライトの効果もあって、彼らの一筋縄ではいかない変幻性を垣間見たような気がした。
 そして、ほとんど切れ目がないステージ構成も彼らの魅力。ラップ・パートや漆黒のベースやドラムによるボトムからの導入など、曲を演奏するというよりも彼らの音楽空間“CICADAワールド”を体感させるというようなステージングは、彼らでしか創り得ないものでもある。
 さらにはちょっとした“遊び”も。おそらく及川創介のアイディアによるところが大きいだろうが、他の楽曲のフレーズを時にサンプリング的に時に上モノとして冒頭や曲間のブリッジに加えたりという“仕掛け”をそこかしこに配置。曲単位で聴かせるのではなく、あくまでもCICADAのステージの全ての楽曲やパフォーマンスに一貫性を持たせることを念頭に置いたアレンジメントをしていたのではないか。城戸も曲間のコーラスでEspecia「アビス」を想わせるフレーズを歌うなど、そのフィーリングはメンバー各自に確かに根付いていた。

 観客とのコール&レスポンスが場をいっそう高める「Colorful」へと辿り着く頃になると、メンバーの表情にも明白な変化が。あまり表情を出さない若林トモ、冷静に淡々とした顔立ちでボトムを弾き続ける木村朝教、高速人力ドラミングを繰り出すために(どこか山本“KID”徳郁のような…笑)険しい表情でドラムセットに向かっていた櫃田良輔、それぞれが満ち足りた表情で歌う姿があった。その光景に感化されたのか、いつもはくだけた感じの及川も時折遠くの一点を見つめて鍵盤を弾き語るなど、開演直後まで散見された“意気込み”が今この場所で心地良いグルーヴを生み、観客と共にグッド・ヴァイブスに揺られている“充足”に移っているように見えた。そして、城戸も序盤の楽しげな歌唱から艶やかさ、はたまた芯の強さや細やかな機微を表出したりと、今まで以上に心に宿るあらゆる感情を露わにしたようなヴォーカルやラップを繰り出していく。バンドとしての成長の瞬間が眼前で描かれている現実に触れ、興奮のギアがさらに上がったことに気付くのに僅かな時間も要らなかったくらいだ。

 新たな道のりへのスタートとしては上々のステージ。欲を言えば、次へのステップを宣言するなら新曲をより終盤に配置するといった構成や、楽曲と結び付けようとするあまりにやや気負ってしまった城戸のMCなどに改善の余地もあろうだろう。序盤は彼らの決意があまりに強く、やや硬さも見られた。付いてきて欲しい、いや、次なる高みへ連れていく。それだけのステイタスが自分たちにはあると言い放ち、有言実行しなければならないというプレッシャーもあっただろう。

 とはいえ、快楽を浴びながら成長を感じられる充足の空間に、余計なケチは不要か。彼らの音楽は誤魔化しやまやかしは皆無。技術的な向上は必須だが、その音楽性には自信を持っていい。足りないのは知名度。そのウィークポイントを如何に攻略するか。彼らの言葉を信じて、今後の動向を見守っていきたい。



◇◇◇

<SET LIST>
※順不同、後日追補予定

INTRODUCTION
No border
ふたつひとつ
Naughty Boy
Eclectic
月明かりの部屋で
君の街へ
back to
FLAVOR
閃光
New Song
New Song
夜明けの街
door
Drop(New Song)
熱帯魚
雨模様
フリーウェイ
Colorful
stand alone

≪ENCORE≫
YES

<MEMBER>
CICADA are:
城戸あき子(vo)
櫃田良輔(ds)
若林とも(g & key)
木村朝教(b)
及川創介(key)

◇◇◇

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