*** june typhoon tokyo ***

CICADA『Loud Colors』


 近年注目しているバンド、CICADAが2016年4月にEPをリリース。前年2月のフル・アルバム『BED ROOM』、11月の7インチ『stand alone』を経ての本作では、彼らの次のステップへの強い意志と新たな野心や冒険も満ちた高い次元での成長過程が窺える。

 拙ブログではこれまでCICADAの作品やライヴについても多少なりともエントリーしてきたが、この5月に初となるワンマンライヴを控えるタイミングで、新作EPについて触れておこうと思う。

 ちなみに、拙ブログでのCICADAに関するエントリー(記事)は次のとおり。気になる方は参照してもらいたい(言及が特に少ない記事を除く)。

・2015/01/25 Mixed Up@代官山LOOP
・2015/03/16 CICADA『BED ROOM』
・2015/11/04 CICADA@WWW
・2016/01/08 CICADA@代官山LOOP
・2016/02/19 CICADA@LOOP ANNEX

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 とうとう本音を出してきたか、と煽りを含めて語ってもよさそうな作品が、彼ら初のワンマンライヴを目前とした2016年4月に産み落とされた。前年の1stアルバム『BED ROOM』では“R&B~ネオソウル然としたコード感”や“重厚さを排除したエレクトロニカやジャズなどの要素を前面に押し出したラウンジ/カフェ路線の曲風が中心”という作風を軸に据えて、根城にする東京・渋谷のムードに副うアーバンなポップというイメージが強かった。
 だが、上述のイメージはあくまで表層的なもので、ラップや肉欲的な音像を繰り出す彼らのライヴを観賞すれば分かるように、実体はかなり野心に満ち、有機的なエモーションが渦巻く音楽性を包含している。

 そのライヴの導火線としても欠かせない、ラップを叩き込みながらも彼らが持つミニマルな音を下敷きにする「No border」をはじめ、彼らの次なるステージへの決意を示した「YES」まで、5曲収録のEPながらも彼らが潜在的に有する濃密な“コク”が凝縮された一枚と言える。
 
 メンバー同士の電話のやり取りを導入した「No border」は、及川創介が持つヒップホップ・センスがそこかしこに表われたジャズ・ヒップホップ調に最近いっそう艶やかさと力強さのメリハリが際立った城戸あき子のヴォーカルが絶妙にフィットしたフロア・キラー。城戸が詞を手掛け、櫃田良輔が作り出す人力ブレイクビーツと幻想的なエレクトロを融合させた、彼らの真骨頂をさらに高精度にしたような「FLAVOR」、若林ともと及川による都会的なリリックとポップなメロディセンスとをレイヤーのように重ねた「閃光」と前半3曲においても、これまでのCICADAだけでは語れない急激な成長が見て取れる。

 それ以上に肝となるのは、どちらも若林が詞曲を手掛けた後半の2曲「up to you」と「YES」か。“この背に羽が無いからって 空に憧れちゃいけないの?”のフレーズにもあるように、彼らの次へのステップへと駆け上がる強い意志を“僕の夢”と男性的な一人称で描きながらもどこか中性的なアンニュイさも持った「YES」には、単に彼らの意志を歌に込めただけではない、楽曲としても進化に満ちた一曲。原点とも言えるミニマル・サウンドという幹を持ちながらも、ムードに流されないメロディとアンサンブル、さらにはおそらく及川による着想をメンバー全員の意志としてアクセントに付加したと思われるヴォイスチェンジ加工した“We don't stop”のバック・コーラスなど、静かながらも内に秘めた野心の熱がジワジワと肌身に伝わってくる展開は、ややもすると個々の才能に頼りがちになりそうなスタイルを“チームCICADA”として昇華したところに価値がある。彼らがライヴでこの曲の思い入れ具合を語るのも頷ける一曲だ。

 そして、個人的に一押しなのが「up to you」。メランコリックなメロディラインと伏し目がちながらも“流れに屈したくない”という感情の芽生えを綴った詞世界が、都会的な洗練性を持ち情感を揺るがすセンシティヴなR&Bとなって結実。近年のジャズ・アンビエント/エレクトロニックR&Bのスタイルとも言えるが、この緊密なグルーヴを構築出来ることこそが彼らの進化の証だろう。ロバート・グラスパー・エクスペリメント、もっと言えばマーク・コレンバーグ・マナーの櫃田のドラミングや、陰に隠れがちながらもこのバンドに“漆黒”をもたらしている木村朝教の低音でファットなベースが前作よりも厚い陰影を刻んでいることも、彼らの楽曲性の振幅を広げている要因の一つだ。

 次のステップへ進みたいと気が逸ると自分たちの個性や持ち味を失いがちだが、ネクストステージを目指すためにバンドの原点を見直したというCICADA。作品としてのステップは成功と言っていいだろう。後はどのようにライヴで具現化するかだ。同バンド初のワンマンライヴ(2016年5月26日、東京・渋谷CLUB QUATTRO)を楽しみに待ちながら、いま一度この作品をじっくりと味わいたいと思う。



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■『Loud Colors』(PDCR-007)2016年04月13日リリース

01 No Border
02 FLAVOR
03 閃光
04 up to you
05 YES


CICADA are:
城戸あき子(vo)
櫃田良輔(ds)
若林とも(g & key)
木村朝教(b)
及川創介(key)


















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